391話
「ガウ」
「おん?」
「・・・」(グイグイ
「おおう?」
フィニちゃんの魔石訓練は後日となった。
まぁ手元にちょうどいい魔石がなかったって話なんですけど。
だからその為の魔石を取りに行こうかと思い軽く準備をしていたところ、ハクコちゃんに袖を引っ張られた。
そこまで大きな魔石は必要ないだろうと、浅い階層でいいかと思っていたから、俺だけで行こうかと思っていたんだが。
「ダンジョン行きたいと?」
「ガウ」
運動したいそうです。
うーむ。まぁハクコちゃんも子供なんだが体は出来上がっている。
既に大人の虎と比べても変わらない大きさなのだ。ユニちゃんと同じ年くらいかな?
だから戦わせてもいいんだけど・・・
正直、ちょっと悩む。
ハクコちゃんはうちの子中で最も訳ありの子だ。
だから何だってことはないんだけど、俺の気持ちの問題でな?
さてどうしますか。
「・・・軽くだよ?」
「ガウ!」
つぶらな瞳だ事。
ハクコちゃんは期待以上の戦闘力を見せた。
俺が勝手に念動力と呼んでいる能力も強力。身体能力も非常に高い。
1層2層なら問題ないだろうと思ってはいたが、なんと10層までノンストップで進み続けることが出来た。
疲れた様子も見られない。これは想像以上だ。
少しだけの予定が、ガッツリになっているな。
うーん。これは良くなかったか。
これだけ動けるってことは、普段は結構運動不足になっていたはずだ。
コロちゃん達がやってる追いかけっこには混じっていたから十分だと思っていたが、もっと必要だな。
今日連れてきてよかったな。
ここまで無傷・・・よし
「まだいける?」
「グゥ」
余裕そうだ。途中でオークの肉食べてたけど許そう。
このまま、狂化オーガに行ってみようと思う。
10層ごとのボスで、今までとは比べ物にならない強敵だが、恐らく勝てる。
万が一があっても、今の俺ならカバーできるだろう。
ハクコちゃんもやる気満々だ。
牙むき出しで唸っている。まだ扉の前なんですけど?
まぁ待たせてもあれか。扉を開けて、中に進んでいく。
ここも割と久々に来るな。
最近はもっと魔石回収も下の階層のみに絞っているから、本当に久々だ。
奥から狂化オーガが入ってくる。数は2体・・・2体?
「うん?なんでだ?」
「グルルルル」
「「■■■■■■■■」」
おかしい。
最近来てなかったから、仕様でも変わったか?
ボスの個体数が変動する場合は、ボス部屋に入った人数で変わる。
だが狂化オーガに関してはそれはなかったはずだ。
もっと多い人数で入った時もあるが、その時も1匹だけだ。
何故今回に限って2体?
「・・・俺達の合計戦力?」
あり得る話だ。だが、確認のしようがない。
恐らく俺の能力が一定以上になっているから2体なのだろうが下げることが出来ない以上確信を得られない。
上げるのは『真化』があるから結構上まで行けるが、それだと今まで条件を満たしていなかったことになる。
それだとあまりにも条件がキツすぎる。
70後半でも余裕が持てると言われている俺のステータスでそれだと、他の人間だとほぼ無理な条件だ。
満たしたところで難易度上がるだけだからそれでいいのか?
いやでも何かあるかもしれんしなぁ・・・
狂化オーガもハクコちゃんもまだ動いていない。
ハクコちゃんは自分より数が多いことを警戒して、狂化オーガは・・・俺を警戒している?敵意はあるが向かって来ない?
ん?こいつらは狂化オーガじゃない?
目をよく見る。
狂化オーガの目は白濁していて、そこに理性など全く感じない。
だがこのオーガの目にはしっかりとした理性がある。
・・・まさかのフミ達の同類か?
「ガァァァ!!」
「ちょ、ハクコちゃん!?」
「「■■■■」」
ハクコちゃんがしびれを切らして走り出した。
それに合わせて、謎のオーガ達も動き出す。その動きは明らかに狂化オーガより速い。
やばいな。こいつらやっぱり狂化オーガじゃない。
ハクコちゃんの念動力は、基本的には見えない力。
だから敵を攻撃しても、俺からはどんな風に攻撃しているかは、後からじゃないとわからない。
だが、今回の攻撃は見えた。念動力が一部に集中し、空間が歪んでいる。
それは、大きな爪の形になり、高速で振るわれた。
だが謎のオーガはそれを回避した。
見えてこそいたが、明らかに自分たちより速い攻撃を躱したのだ。
爪と爪の間をすり抜ける形で避けたから、一瞬ハクコちゃんが外したか、偶然のどちらかと思ったが違う。
明らかに目で追って回避している。振るわれ続ける念動力の爪を何度も回避し続けている。
「なんだこいつら」
「■■■■!!」
「魔法まで!?」
「ガウ!!」
なんと、謎のオーガは手から炎の球を撃ってきた。
ハクコちゃんはそれを横に飛びのいて回避したが、俺は驚きでそれどころではない。
当たったところで大して効かないくらいの威力しかなかったが。
明らかに、10層ボスのレベルを超えている。20のワイバーンに近い実力だ。
これはまずいか?
全く想定していない状況だ。これはマズイ。
一瞬でケリをつけようと魔力を高めるが、それはハクコちゃんに止められた。
「ガウ!」
「はい?手出すなと?」
「グルルル」
「・・・」
「・・・」
「・・・はぁ。危なかったら終わらせるからな」
「ガウ!!」
やる気・・・というか、殺る気だわ。
何かがあるのか、ハクコちゃんから感じる威圧感が高まっていく。
白い体に、黒い線が浮かび上がってくる。それは紋様の様な線だ。
それにつれて、明らかにハクコちゃんの魔力が上がっている・・・なんだこれは。
俺はこれを知っている。
これは・・・『昇華』だ。
大きく息を吸い込むハクコちゃん・・・ッマズイ!?
すぐさま耳を塞ぐ。
「グガァァァァァァァァ!!!!!」
とんでもない咆哮だ。
塞がなければ俺の耳がイカレていた。
謎のオーガ達は直にその咆哮を聞いてしまったからだろう、耳を押さえている、抑えた手からは血が流れている。
鼓膜が破れたようだ。それに、立ち上がることすら難しいようで、ふらついている。
『昇華』は俺の『真化』の前段階のスキルだ。
だから効果も知っている。能力の上昇というシンプルでこれ以上強力なスキルはないというほどの物だ。
今ハクコちゃんは何をした?
ただ大きな声で吠えたって話じゃないぞ。明らかに何かしらの補正が掛かっている。
それだけじゃない。さらに見た目が変化している。牙はより長く。そして体の周りには煙のような何かが漂ってきている。
『昇華』だけじゃない?
煙は先ほどの念動力の爪の様に、徐々に形が定まっていく。
それは、体を覆う鎧のようだ。
尾に付いた煙の鎧が、オーガに向かって伸びていく。
先端が鋭くとがったそれは、あっさりとオーガの首を貫通。
そしてそのまま反転。続いて腕を貫いた。
「「■■■■」」
「ガッフ」
最終的に、体中を貫かれて謎オーガは倒れた。
死体が消えて、宝箱が出てきたところで、ハクコちゃんも元に戻った。
「ガウ!」
「・・・何今の」
尻尾を振ってこちらに駆け寄ってくる。褒めてほしいようだ。
とりあえず顔とか首の下とかと撫でておく。
今ハクコちゃんに起きた変化。
『昇華』だけじゃ説明がつかない。『昇華』はあくまでも能力の強化のみで、あんな風に肉体に変化は起きない。
俺の知っている範囲で、見た目の肉体に変化が起きるのは『変化』のみだ。
俺は『真化』で能力がある一定ラインを超えると人間じゃなくなるが、それだって見た目は変わらない。
つまり、ハクコちゃんは自前で何かしらの変化が起きるスキルを持っていると言うことになる。
『昇華』は確定、念動力を操るスキルも恐らく持っている。
・・・テイムするべきだな。
他の子達と状況が違いすぎる。
「『テイム』」
「ガウ?」
急いで帰ろう。カードを見なければ。
ハクコちゃん Lv50
『念動』『昇華』『神威』『天啓』『咆哮』
「・・・なんだこれ」
「ガウガウゥ」
「あーよしよし・・・」
急いで帰り、俺の部屋にあるカードを見る。
スキルの保有数も驚きだが、なんだこのスキルは。名前からしてやばい。
『神威』に『天啓』だ?
言葉の意味だけ見ても格が違うスキルだ。効果は全く分からないが。
『念動』『昇華』『咆哮』・・・このあたりは予想通り。
・・・なんだこの違和感は、隠されてる?いや、俺が見れてない?
足りてない。ハクコちゃんの状態を見るのに今の俺では足りない?なんでそう思う?
いや・・・見れるが、見ようとしてない?
だったら
「ダメよ。それはダメ」
「ッ!?」
「うーん。本当にあなたは・・・ああいや。今回はあなたは関係ないわね」
「・・・何用ですかね女神様」
「わかってるんじゃないの?」
「・・・グルルル」
「大丈夫よ。あなたと彼に・・・いいえ。あなたの家族には何もしないのだわ」
「・・・」
ハクコちゃんが警戒している?
慣れない存在が目の前にいるから?
違う、ハクコちゃんは何かを感じ取っている?俺が感じ取れないこの女神の何かを?
俺にはわからない理由は・・・
「もう!」
「・・・え?」
頭をはたかれた。まったく反応できなかった。
いや、見えてなかった?今何をしていた?
「才能ありなのも考え物ねぇ。ただでさえ色々すっ飛ばしてるのに」
「・・・これなんだ」
「・・・そうね。少しだけ教えてあげるのだわ」
スキルと、それに伴う変化について
女神が言うその言葉は、嫌に遠く聞こえた。
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