3話
「そんなわけでお持ち帰りしてみました」
「・・・恭輔」
「はい」
「今ほどお前が息子でよかったと思ったときはないぞ」
「でしょ?」
スライムを持ち帰り、たまたま家にいた両親に見せたところ、いい反応を得られた。予想どおりだ。
母さんはなんかのんびりしてるせいでいまいちわかりにくいが喜んでるのか、あれ?
大門 宗助と大門 美智子
俺の両親で生物学者。アウトドア好きの体力お化け。親父の方は筋骨隆々の大男。これで学者?って体格してる。ボディービルダーの方がらしいと何度思ったか。
母さんは見た目こそ普通だがこっちも体力お化け。筋力こそないが脅威の持久力と集中力で一度熱中するとなかなか戻ってこない。親父がいるから強制的に戻されることも多いけど。
そんな二人だが学者として名が売れているらしくテレビでも何度か見ている。どうもその分野の権威らしい。正直その辺に興味はないのでどうでもいいのだが。二人ともちゃんと子供の世話はするし・・・やや甘めだが。
「なるほど、この子は倉庫の中の洞窟にいたと」
「ぴー」
「あらあら、これも食べる?」
「ぴー!」
「順応性高すぎでしょ」
もうちょっと未知の生物に対しての何かはないのだろうか。
「だって危なくないんでしょ?」
「多分ってだけなんだけど」
「はっはっは。俺の勘が大丈夫と言ってるからだいじょうぶだろう!」
「激しく不安だ」
「ぴ?」
まぁ母さんにバナナをもらって喜んでるっぽい動作ではねてるのみたら警戒心は薄れるけどさ。
よく考えるとこいつ自分と同じくらいの大きさのコウモリ溶かしてるんだけどな。・・・あれは俺が捕まえたせいか。
「こいつの他にコウモリもいるのか」
「ちょっと大きいくらいのコウモリだけど、牙は明らかに普通のよりでかかった」
「実際に本物を見てみないとな。何とも言えんな」
「多分親父なら普通に捕まえられると思うぞ。俺もできたし」
「私は?」
「母さんは筋力ないからなぁ」
「残念」
わかりやすく落ち込みますねお母さま。こらこらスライム君。別に慰めようとしなくていいぞ。すぐ戻るし。
「じゃあさっそく行くか!」
「いきなりですねお父様!?」
「ここがその洞窟か!すごいな光ってるぞ!」
「本当にすぐ来るとは・・・」
「ぴーぴぴぴぴ。ぴー!」
「何言ってるのか全然わかんねぇ」
「ぴ!?」
多分来ちゃったものは仕方ないからあきらめろって言ってるけどわからないことにしておく。
だいたいスライム見せて10分足らずで戻ってくることになるとは。おかしいだろ。なんかもっと準備とかあるでしょ?なんか、こう・・・ほら!
「準備ったってよくわかってないだろう。洞窟ならそれ用の準備はあるが、どう見たって洞窟じゃなさそうだしな」
「正論言われると腹立つな」
「とりあえず進むぞ!恭輔、すらっぴ!」
「ぴー!」
「おー」ハァ
すらっぴというのは母さんがつけた。俺もそれでいいかと思ったらカードにそれで登録されたけど。まぁ本人?本スライムが喜んでるのでいいんだけどさ。
「見ればみるほど不思議な場所だ。何もないのに洞窟全体が光っているのか」
「明るくていいじゃん」
「まぁ俺もこういったことは専門外だしな。少し土を取っていこう」
そういってスコップで掘り始めた。小さいスコップと箱も持ってきていたのか。
「最低限の装備はもってきているぞ」
「なんでそんなもの家にあるんだよ」
「何があってもいいようにな」
「何に備えてるんだこの親父」
災害があってもその箱はいらないだろ。水と食料は備蓄しとくべきだけどな!
「うーむ、やっぱり普通の土じゃないな」
「わからないとか言ってなかったか?」
「少しくらいはわかるさ」
親父曰く、土が硬いらしい。掘れないこともないがある一定より深く掘ろうとすると一気に硬くなるそうだ。
そもそもうちの家の地下にいつの間にかできていた洞窟自体がおかしいんだが。
「よし、こんなもんでいいか。待たせたな」
「ああ、ならちょうどいいや、お望みの奴が来たよ」
「お?」
親父が掘り終わったと同時に前にも聞いた羽音とともに小さく鳴き声が聞こえる。こっちに向かってきているようだが、音が多いか?
「来た!」
「おお、あれがか!」
「ぴー!」
前も見たのと同じコウモリが二匹飛んできた。あちらはすでにこちらを見つけていたようで向かってくる。
一度避けてから捕まえたいけど、親父がいる分道が狭くなっている。直接受け止めるのは嫌だぞ。
「ぴぴぴぴー!!」
「向かってくるとは可愛いやつめ」
「は?」
「キキッ!?」
「グゲ」
向かってくる二匹も驚いたことだろう。すらっぴは体から水の塊を射ちだし、コウモリに当てる。なんか変な声上げてたがかなり勢いが強かったらしい。すごい勢いで壁に激突し動かなくなった。・・・もしかしてこれが魔法か?
ならさっきの声は何かしら呪文らしきものを唱えたことになるんだが。なんて言ったのか聞き取れなかったし後で聞くか。
それより親父の方が衝撃だったんだが。
あの親父、真正面からつかみやがった。一応危険そうな牙を避けるために羽を狙ったみたいだが、普通つかめないだろう!?それに、勢いもかなりついてたから衝撃もかなりあったはずなんだが・・・
流石の筋肉と褒めるべきか、気をつけろ筋肉というべきか。なんでもありか。
「なかなかいきがいいじゃないか!」
「人間に襲い掛かるくらいにはピチピチだわな」
「ぴー!」
「褒めろってか?まぁ帰ったらなんかやるか」
「ぴぴー!」
「うむむむ、こんなコウモリ見たことないな」
「キキキ!」
「とりあえずしまうか」
「キキ!?」
あれに捕まったら逃げられないよな。俺でもつかめたんだし。
「あ、そうだ、すらっぴ。あっちの倒れてるやつ食べていいぞ」
「ぴー!」
その言葉を待っていたのか、ぴょんぴょん跳ねながら壁際のコウモリに向かっていった。
その動きができるなら最初からすれば早いのでは?そういや、コウモリ倒したってことはあいつのレベルも上がってる?
「おお、上がってる上がってる」
「なんだそれは?」
「ああ、これね。なんかコウモリ倒したら出てきた」
「出てきた?」
「出てきた」
とりあえず当時の状況を説明する。
「なるほど、もはやゲームみたいだな」
「それは思った。レベルとかあるし、モンスターを仲間にできたし。ここってダンジョンみたいなんだよな」
「ほう、いいなそれ。とりあえず仮称でダンジョンとでもしておくか」
「いいのかよ」
「どうせうちにしかないだろうしな」
「・・・こういうののお約束って世界中に同じものができるパターン多いけど?」
「・・・マジか?」
「マジです」
「一度戻って確認してみるべきか」
「その方がいいんじゃない?」
「その前にだ・・・」
捕まえたコウモリの入ったかごを取り出し、俺の前に見せるように持っている。
何するんだ?
「仲間にできるんだろう?ならしといてくれないか」
「おとなしくなるとは限らないけど」
「一応だよ一応」
「まぁいいけど。『テイム』」
ポーン
『ビックバットのテイムに成功しました』
「・・・できたっぽい」
「そうか、どれどれ」
そういうと親父はコウモリを外にだした。って!
「危ないわ!」
「おお、本当におとなしくなってるな」
「きー」
なんか弱ってる?というか親父にビビってるな、これ。俺の頭に乗るな。
「きー」
「・・・ああ、わかるわ。あの筋肉怖いよな」
「いきなり息子に罵倒された!?」
「こいつが怖いっていうから。俺も覚えあるし」
深夜の暗闇で出会う筋肉は怖いんだよ。背高いし。
ちなみに親父は193cm、俺は178cmなので15cm差がある。
「ぴー」
「あれ、まだ食べ終わってないのか。ゆっくりでもいいぞ?」
「ぴぴ!」
「きき!」
「・・・共鳴してやがる」
一応君のお仲間をまさに今食べてる途中なんですけど。シュ、シュールだ。
「ききき」
「え、別に仲間じゃないの?そこで会っただけ?・・・左様でございますか」
「よし、いったん帰るぞ!」
「帰るのか?もう何匹か捕まえると思ってたけど」
「それは後でもできるからな。研究もひと段落してるし。暇はあるしな」
「むしろこいつらのせいで忙しくなるんじゃないのか?」
「それはご褒美だな!」
これもワーカーホリックになるのだろうか?
・・・あ、このコウモリ君(仮称)って外出ても大丈夫なのかな。
「親父、コウモリって太陽の下でも大丈夫なのか?」
「お?一応大丈夫だぞ。目が弱いから出たがらないけどな」
「ならどうにかするか・・・最悪倉庫で留守番かな」
「きっ!」
「それはいいけど、ちゃんと面倒見ろよ?観察はお前にもやってもらうから」
「・・・へ、おれもやんの?」
「当然だろう。よくわからないが『テイム』とやらで仲間になっているんだろう?
ならお前に任せた方がいいだろう。人を襲ってくるようだからお前や俺以外には危ないっていうのもあるけどな」
「そういやこいつ一応危険だったな」
「き?」
「ぴ?」
「そろって首?傾げんなよ。首ないだろ」
なんかテイムしてからこいつらの動作から何が伝えたいかわかるようになってる気が・・・
いや、スライムはテイムする前からできてたか?・・・個性かな。
「同じのはたくさんいるようだし、サンプルが欲しかったら取りに来るさ」
「ほう、それは俺も同行?」
「当然だろう」
「デスヨネー」
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