339話
「え、もう動画撮ったほうがいいの?」
「何もすぐじゃなくていいんだが。録画した日と見せる日はできるだけ間隔を空けたい」
「何故に」
「今でも十分強いからな。後、出来るだけその時の実力は誤魔化したい」
「ああー」
俺の実力は既に高い。
故に、どのタイミングで撮っても相手に危険だと思わせることは可能だ。
ならば、録画時と視聴時の期間は空いていた方がいい。その空いた期間で、どれほど実力を上げられたか、そこを考えさせることを目的にしているらしい。
よって、可能ならば早いうちに撮りたいとのこと。
ならばさっそく行こうじゃないか。どうせ新しい方のダンジョンなんて弱いしすぐ下に行ける構造してるから問題ない。
なんなら、練習がてら新人達を行かせてもいいんじゃないだろうか。
58層・・・ここは岩と荒原が広がる空間。
障害物と言える物は岩くらいなもので、そのほかには何もない。階層的には、結構ありふれた感じの環境だ。
モンスターだけは、まったくありふれていないけど。
「ギャァァァァァァァァ!!!!!」
「マジうっさい・・・」
メッチャ恐竜。めっちゃティラノ・・・そう、ここのモンスターは恐竜、ティラノサウルスだ。
ちなみに色は赤い。なんかゲームに出てきそうな感じ。
実際に
「ガァ!!」
「あぶね!?」
火も吹いてくる。半ばドラゴンみたいなもんだぞこれ。飛ばないだけマシと思うべきだろうか。
俺がティラノサウルスに持っているイメージ。
肉食で凶暴。顎の力や尾の一撃などはさぞ強力だろうと言った感じのイメージを持っている。
目の前にいるこいつは、そのイメージに大体合っている。
親父と俺があれといったモンスター。58層にうじゃうじゃいるのがこいつらだ。
見た目も、実際の実力もインパクト抜群。
これ以上に人を威圧できるモンスターは、他にはドラゴンのやつくらいではなかろうか。
奴はちょいと事情があって挑めないのだが。
吐き出させた火を跳び越える。炎を越えた先で見えたのは、ティラノが宙返りを行い尾を当てようとスイングしている光景。
「ッ!?」
すぐさま土の足場を作り出し、そこを踏み台にさらに跳躍。
足場にした土は、次の瞬間には尾の一撃で砕かれる。
だが距離は詰められた。このまま接近して懐に潜り込む。
だが、ティラノは馬鹿ではない。むしろ今まで戦ってきたモンスターの中では抜群に頭がいい方だろう。
既に着地を終えていたティラノ。近づいてきた俺に対して、一度跳びあがり地面に向かって火を放つ。
そうすることで、広い範囲に炎が拡散して近づけなくなる・・・本来ならば。
「悪いけど、飛べんのよ俺」
「ガ!?」
「そこまで時間かけてられないんでね!!」
最初に飛行しなかったのはこれの為だ。
一度見せた動きにはそれに対応させた攻撃で迎撃をしてくるのがこいつだ。
故に、飛行するなら止めを刺す時にする必要がある。
飛行して炎を回避。後に蔓をティラノの首元まで伸ばす。先には鉄の杭が付いている。
それがティラノの目に突き刺さる。その瞬間に一気に蔓を短くする。
そうすることで、飛行するより早く近づけるのだ。
目を潰され、暴れるティラノの頭の上に乗り、生み出した大剣で一気に首を落とす。
「ギャ!?」
「・・・はぁ。めっちゃ頭使うなこいつ」
能力差を見た場合、俺とティラノでは圧倒的な差がある。
もちろん俺が上だ。それなのにこいつの相手は疲れる。なにせ俺の動きに対応できる動きをしてくるから。
そういったモンスターは他にもいたが、そういう連中は大体人型なのだ。40層ボスの鎧武者が最近だとそうだな。
人型の場合は、人型であるが故の弱点や可動域の限界。それに、相手の手札との相性があるのでまだいいのだ。
このティラノ。1匹でも厄介だ。ブレスは範囲はともかく威力と速度はなかなかの物がある。それを地面に当てて拡散させるなんて頭のいい事も今回はやってきた。
それは前回もやってきたけど、サマーソルトキックみたいな形で尾を振ってくるのは始めただった。
「ハァー・・・まぁ1体だったからまだいいか」
「「「ガァァァァァァ!!!」」」
「・・・フラグだったかぁ」
それでも負けることはないんですけどね。
前では恭輔が迫ってきたティラノの首をねじ切っている。
ティラノを倒すにあたって、もっとも簡単な方法が首を落とすなのだ。
全身が強靭な鱗に覆われ、体の大きさから生半可な攻撃では全く効かないやつらを首以外を攻撃して倒すのは至難の業と言えるかもしれない。
「う」
「えぇ?コロちゃんでもあれくらいできるで?」
「うー」
恭輔は『真化』込みの身体能力と言え、あのサイズの恐竜の首をねじ切るってどうやってんだと思う。
コロちゃんの場合は魔刃で一刀両断だろうからまた別の話だ。
今、カルちゃんが手に持っているカメラには恭輔の戦闘が録画されている。だから私たちがいくら話してても声が動画に入ることはない。
とは言っても、あのカメラで縦横無尽に、それこそ空中すら自在に舞う恭輔の動きをどこまで撮れるのかわからないが。
てか、フミはなんてことないみたいにいうけど普通じゃ無いからね!
「いやいや。よう恭輔の手元見てみ」
「う?・・・」
恭輔の手元?・・・注視してみると、緑の何かが見える。
あれは蔓か?
「せや。まったく使い道のない『植物魔法』やけど、これだけは使えるんよな」
「う?」
「いやまぁ・・・ティラノに使えるようになったんわ最近やけど」
だろうと思った。最近進化したとか言ってたし。
だが首をねじ切れる理屈はわかった。首に蔓を巻いて、その蔓を一気に締め上げているのか。
それに、蔓も何か仕掛けがあるのだろう。恭輔の視界を借りて見ると、なんか妙に刺々しい。植物の変化はまだ自在じゃなかったはずだけど。どうにかしたんでしょ。
ところで、時々視界に入るやわらかい尻尾が微妙に邪魔なんだけど?
「う」
「クゥ・・・」
「うー」
「クゥ!」
ふーちゃんが私の頭の上に乗って不貞腐れている。何故って?
ティラノに炎が一切効かなかったからだよ。相手の鱗が炎に強いのだろう。全く効かないのだ。
当たっても弾かれて終わりになってしまうため、この階層ではふーちゃんは全く活躍できない。そのせいで、不貞腐れているわけだ。
「クー。クー。クー」
「うう!!」
ええい何のいやがらせだふーちゃん!
ぷらーんぷらーんと尻尾を私の目の前に垂らすな!
恭輔じゃないんだから別にそれでもふったりしないんだぞ私は!!
「ほれほれ、ふーちゃんこっちおいで」
「クゥ♪」
「もう。一回活躍出来へんからってあんまニホリに迷惑かけちゃあかんで?」
「クゥ?」
「ええ?まぁ『変化』をもっと使えれば攻撃もできるんやけど・・・ふーちゃんそういう方面の変化なれとらんやん」
「クゥ~・・・」
サボるからいけないのだ。
ふーちゃんが『変化』できるのは自分から練習したマフラーとしっぽを増やのと大きくなるやつくらい。
人型は禁止・・・というか、人型の含めた他の変化はやっても恭輔に対して構ってもらえないのわかってるから練習してないのだ。
そのせいで今活躍できなくてもしらないよーだ。
「帰ったら練習しよな?」
「・・・クゥ」
「ほな・・・」
「・・・う?」
「え?いや、なんかあったらうち動くから抱えてられんし」
「・・・うー」
「クゥ♪」
恭輔の次に好きな頭だよ♪って言われても大してうれしくなーい。
・・・あれ?こういう時に暇だーって暴れる代表のすらっぴはどこに?
「こっちです」
「う?・・・う!?」
「ぴ!ぴ!ぴ!」(グポポポポポポ
「・・・うー!!!!」
そこにはティラノをまるっと1匹飲み込んで消化中のすらっぴが・・・しかも普段絶対ならない大きさにまでなって食べてる・・・
ってそこじゃない。何勝手に食べてんだあの食いしん坊!!!
もうちょっとでお昼だって言ったじゃん!!
「ちょ、ニホリちゃん!?落ち着いて落ち着いて!!」
「うー!!」
「???ぴ?」
「う!!」
ポヨネが止めなければ、すらっぴに飛び蹴りしてたと思う。




