338話
休みの日なのに早起きしなきゃいけないとは・・・
ワイバーンが空を舞う。禄に空も飛べない下等な生き物を見下しながら。
奴らは己を見上げるばかりだ。自分の敵ではない。このまま、炎を出焼き殺してしまおう。
そう思ったのだろう、ワイバーンがブレスを吐くために地上に少し近づいた瞬間。
「鉄器流星」
灰色の空がワイバーンを押しつぶした。
「・・・んー言葉にするとまぁ若干威力上がる?かも」
「弱すぎて確かめようもないなっとるやんか」
「でも空を飛んでるモンスターで強いのってあそこ以外だとここくらいしかいないからな」
「まぁそれはそうやけど・・・それにしても、今の槍以外も混じとったけど?」
「なんか言葉の響きに持ってかれたかも」
20層ボスであるワイバーン。
それに対して名前を付けた魔法の試し打ち。
実際に名前を呼ぶことで何が変わるかの一応の実験というわけだ。
まぁ結果は見ての通り、一撃必殺だ。
今使った鉄器流星。最後に名前を決めた魔法だ。
本来は鉄の槍を作る魔法。アイアンランスを敵モンスターの上に大量に作り出してそれらが一斉に降ってくるって魔法だ。
ニホリが漢字じゃダメなの?っていうから確かに漢字でいいなって感じに名前が決まった。
それに響きはかっこいいからなこれ。
なんか鉄器っていう広いくくりの名前になったからか、槍以外も一斉に作っちゃったんだけど。
「名前つけるとそういう利点はあるのか?」
「そうなんやろ。その名前の魔法なら、叫ぶとそれが絶対に出るいうんはええんやないの?一々イメージするのは本当はあかんのやし」
「俺みたいに戦闘中でも作れるくらいに練習すれば別だけどってことか」
「そやな。それに、本来は槍だけやろ?他の混じったっちゅうことは、恭輔のイメージが名前に引っ張られたいうことやんか」
「そうだな」
「自分で何種類もの武器を作り出したときとどっちが楽やった?」
「今回の方かな。そもそもそんな経験ほとんどないけど」
実際戦う時には作る武器は1種類。それ以外は必要ないからな。
槍を撃ちだすなりなんなり、複数種類の武器を作る必要がまったくない。
だが、名前に無意識で引っ張られて複数種類の何かが出てくるのはいいかもな。
名前言うのやめちゃったけど、使ってみてもいいかもしれない。
「ほな。次の魔法やけど・・・どうする?」
「まぁ名前付きはもういいかな。大体効果の程はわかったし。『草魔法』・・・いや、『植物魔法』を試したい」
別に俺の魔法が進化したわけではなく、『真化』の効果で上位の魔法になっているだけだ。今までは『真化』状態でも『草魔法』のままだったが、最近になって変化した。
出来ることはかなり多くなっている。もちろん今までに出来たことの質の向上は当然としてある。
最大のポイントは何といっても木が生やせることだろう。
「まさか俺の知ってる木が全部生やせるとは」
「庭が果樹園みたくなってもうたからな・・・」
「コロちゃんに頼んで刈り取らないとな・・・」
家に庭で、大したことないでしょと思って使ったら大変なことになったよ・・・
うちに庭には元から木がそこそこ植わっていた。これは野鳥が巣をつくらないかなーと母さんが植えた物だ。
それの付近に全力でやったらどうなるかと思い試したところ、何十本も一気に生えてくるもんだからものすごく焦った。
なんとか俺の身長くらいで生長は止めたのだが、何故かその生えた木のほとんどが果物の木だったという。
多分生やす前にリンゴ食べてたからだろうけど。
その後にちゃんと松の木とか欅とか一通り試した。
結果、全部出来たというわけだ。知らない木・・・正確には俺が見たことない木に関してはできなかった。
知識不足のせいか、見たことがないというのでダメなのか。そこらへんはわからないけど。
まぁそんなわけで、実のところ木を生やす以外はできていないのだ。
「とは言うものの、何をするか」
「うーん・・・蔓とかは前と変わらんしなぁ」
「マジで使い道に困るこれ」
試す以前の問題でもありそうだが。
大体だ、植物でどう戦えというのだって気分でもある。
実際は蔓をまとめた物で相手を拘束したり、鞭みたいに使ったりとそういう使いかたは可能だ。
だけどそれ以外の使い道が思いつかない。今はまだ俺の想像通りの植物を作り出すことは出来ないから、めっちゃ固い木とかそういうのは出せない。
そもそもそういうの作れるのかすら今はまだわからんと来た。
「あれ、試すことないのかこれ」
「・・・せやね」
折角フミと2人で20層まで来たが、本当に名前を付けた魔法の実践得で終わりそうだ。それでは少し寂しいな。せっかく来たのだから、もう少し何かしたいところだが。
「とはいってもな・・・」
「んー・・・あ、そや。ちょいよ1個試してもらいたいんやけど」
「うん?」
「やるのは外なんやけど・・・ええ?」
「構わんぞ」
何を思いついたのやら。
ダンジョンから出て、大量に生えてしまった木のところへ。
そこにはピッちゃんを始めとしてスズメなどの野鳥達が新しく増えた木の周りを嬉しそうに飛び回っている。
「るる~」
「ただいまー。何してんの?」
「るる!」
「巣作り?季節じゃなくね?」
「るー」
「あー別荘・・・ってなんでだ」
鳥に別荘の概念があるのか・・・?
とか思ってたらピッちゃんの話だったようだ。
本拠は俺の部屋にあるおもちゃの家。それ以外にも、もう一つ欲しいということらしい。
なんでも、あの家も居心地はいいけど、やっぱりもっと自然に囲まれた場所がいいとのこと。
周囲を一緒に飛んでる鳥たちはなんとなくだそうだ。
「まぁ・・・いいか。んで?俺は何すればいいんだ?」
「あのな?恭輔の魔法・・・土もそうやったけど細かい操作って結構できるやろ?」
「まぁそういう風に練習してたし」
「土を鉄に変えるんて、『土魔法』の時から出来たわけやないやろ」
「ないな。あれは一段階進化してから」
「やったら、多分やけど『植物魔法』でも変わったことができるんと思うんよ」
「うん?」
「例えば、植物の生長を早めたりとかな」
「おおー」
「るるー」
なるほど一理ある。土を鉄に変えるのは、まぁ普通ではない。陰陽師の五行思想的には相性いいわけだし問題なさそうだけど。
それでも、科学的にはありえない話だ。
ならば、『植物魔法』は植物の生長に影響を与えられるかもしれない。
「物は試しに一発!!」
「おお!」
「る!」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・??」
「る?」
「いや・・・どうやってやるんだ?」
「」(ズル
「るる~」
生長を早くするってどんなイメージだよと言いたくなる。
土を鉄の変える・・・最近はそのまま直接鉄を作り出してるんだけどさ。その時のイメージは土をものすごく圧縮するイメージ。
硬度をひたすら上げていくと変わっていく感じだ。
だけど、植物の生長って何。どんなイメージ。
「そこで躓くんか・・・」
「いやだってな・・・」
「る?」
「蔓?あれはなんかこう・・・にょろって感じ」
「・・・る?」
「そういえば皆感覚派やったやんかうちら・・・」
「る~?」
「すらっぴに聞いてみ。ぴゅって感じ!って言われるで」
「るるー・・・」
「えぇ・・・生長・・・生長?」
上に高く伸ばすって感じならできるけどそれって生長じゃないしな。
んー?木を生やしたときのイメージでいいのか?だったら苗を植えてから大きくなるまでのイメージを持って、それを加速する感じだったけど・・・
「ちょ!?恭輔ストップ!!」
「るる!!」
「ん?おお!?」
気がついたら俺の周りが植物だらけに。木だけではなく、雑草まで長くなってしまった。
俺がどんなイメージを持つべきかを考えていたからだろうな。それが無意識で魔法に乗ってしまったか。
「・・・これでいいのか?」
「え?・・・あ、雑草伸びとるやんか」
「成功で・・・いいのかこれ」
「まぁ伸びとるし。出来とる判定でええやろ」
「ならいいか・・・つまりだ」
「・・・何する気や?」
「いや、果物量産できるかなって」
「るる!」
「はいはい。リンゴ優先ね」
のびろ~のびろ~高く伸びろ~・・・・・・・・
「・・・るる」
「あんま甘くないな」
「生る果物のイメージしっかりしとらんからやろ」
「奥深いなぁ『植物魔法』・・・」
だけどこれ結局戦闘には使えないわ。




