324話
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相馬さんと丸山さんがにらみ合っている。
喧嘩をしているわけではない。お互いに構え、隙を伺っているのだ。
元々自衛隊での姉ちゃんの上司である相馬さん。
ダンジョン探索において、藤岡さんのチームで前衛を任されている丸山さん。
お互いに、近接戦の訓練を自衛隊で積んだ人間だけあって、その構えには隙がない。俺では自分の身体能力でゴリ押さないとどうしようもないと思う。
「実際、どっちが強いの?」
「・・・まぁあれよ」
「大体察するわ」
姉ちゃんが言いにくそーに顔を逸らす。
恐らく、てか自衛隊時代に一回も丸山さんは相馬さんに勝ったことがないのだろう。
同じチームのメンバーに気を使った・・・
「てか、姉ちゃんも勝ったことないな?」
「ほら・・・男の人だから」
「藤岡さんは?」
「・・・2割勝てればって感じでしたね」
「ほら」
「藤岡さんがおかしいのよ!?」
「あ、あははは・・・」
そういう三崎さんはどうだったんだと聞きたいところだけど、その笑いでなんとなくわかるからいいや。
やっぱり、相馬さんは強い人みたいだな。もちろん、今全員とそれぞれに戦ったら流石に勝てるんじゃないだろうか。
ダンジョンで手に入った身体能力は、通常の人間と大きく差をつける。
丸山さんだってリンゴくらいなら片手で余裕で潰せるくらいにはなってるし、なんなら石だって握りつぶせるだろう。
だが、今目の前で丸山さんは攻めあぐねている。それだけ、相馬は強いのだ。
だけど、しびれを切らしたのか、丸山さんが仕掛けた。
一気に距離を詰め、首元を握ろうと手を伸ばす。
相馬さんはそれをわかっていたのか、向かってくる手を横からそらし、そのまま前に脚を差し出す。
差し出された脚が、丸山さんの脚と脚の間に入り込む。そのまま、体ごと当てて姿勢を崩そうとするが。
「ふんっ!!」
「む」
重心をずらされ、踏ん張りが効かないはずの姿勢で耐えて見せた。
体当たりの当たった上半身の力のみで相馬さんのあたりを支えたのだ。
丸山さんと相馬さんは、密着状態で腕の組み合いが始まる。
お互いが有利に立とうと、腕や体を掴もうと腕を伸ばす。
丸山さんの方が積極的に動いているが、すべて相馬さんに流されている。
・・・ん?妙だな。
「丸山さん、手加減してる?」
「あー手加減じゃないけど・・・」
「恐らく、力の加減がわからないんだと思います」
「人間相手のってことで?」
「はい。恭輔君やフミさんと戦う場合は、その辺考えなくていいですからね」
「まぁ二人とも私たちより強いから」
なるほど、だから動きが遅いのか。
人間相手とモンスター相手の差は、主に耐久力と殺してもいいかって点だろう。
丸山さんの力では、既に簡単に人くらいなら殺せるだろう。そういうレベルの身体能力の持ち主。
だが、その手加減ともとれる戦いが、相馬さんが対応できている理由なのだろう。
「あともう一個」
「何?」
「相馬さん、実は何か武器持ってた方が強くない?」
「・・・本当によくわかるわね」
「最近刀の扱いが上手いボスとやりあうこと多いからな」
「ああ、あの鎧武者ね」
そう。どうにも動きがあれに重なる。
鎧武者は連撃を念頭に置いた動きをする。相馬さんも、次の動きを頭に入れながら戦っている。
加減しているとは言え、丸山さんの動きは相当の速度だ。それを全部受け流して、反撃までおこなうのが相馬さんなのだ。
後、構えが丸山さんと少し違うのも理由の一つだ。
何かを手に持つ・・・もっと言えば、刃物を持つ存在だと感じた。
「見てわかるものなんですか?」
「毎日戦ってれば嫌でもわかるようになりますよ」
「毎日あれかー・・・」
「姉ちゃんたちもできると思うけど」
そもそもあれに勝てるようになる段階であいつが発する独特の雰囲気は無視できる。
ギリギリくらいの実力だと、動きを阻害されるかもしれないが。
「カァ!!」
「クッ!」
「お?」
「終わりましたね」
少し目を離した隙に何があったのか。
丸山さんは腕をクロスさせて前に構えた状態で後ろに跳んでいた。
・・・え?負けたの?
「・・・ここまでだな」
「・・・おっす」
「自分に振り回されているな。いきなり全力を出すからだ」
「はぁ・・・返す言葉もねぇ」
「・・・何があったの?」
「えっとね」
お互いの腕が、何度目かの交差をした後。またも丸山さんがしびれを切らして全力動き始めたのだ。
もちろんモンスターを相手にする時のレベルではないが、それでもかなり本気に近い速さになった。
その状態で、懐に無理やり入り込み、先ほどやられたように体当たりをしようと思ったらしい。
だが、相馬さんはさらに上を行く。向かってくる丸山さん相手に自分から向かっていったのだ。それに驚き、動きが鈍る。
速度の鈍った状態での前進を使った攻撃は、相馬さんにとって簡単に対応できるものだったようだ。体ごと後ろに受け流す。
流され、まずいと思ったのだろう。すぐに丸山さんは振り返るが、既に遅かった。相馬さんが一気に近づいてきたからだ。
腕をクロスさせることは出来たが、無茶な姿勢で振り返ったから耐えることが出来ずに一発食らって終了。
「そこで終わった理由は?」
「相馬さん。俺が構えるまで待ってたし・・・」
「流石に腹にくらわすわけいかん」
「なるほど」
てか、相馬さん今の丸山さんの動きに対応できるんすね。
「最初からあの動きだったのなら、無理であったかと」
「そうなんすか?」
「はい。彼が動けることはわかりましたので。目を慣らしました」
「あ、そういうことか」
だったら俺もやってるな。コロちゃんとフミと戦う時はどうしてもそうしないと瞬殺される。
あ、だから最初は受け流すことの方が多かったのか。自分の目を慣らすために。
「一気に近づいたのは、縮地法ですか」
「ご存じでしたか」
「一応似たようなことできますし」
「ちょっと待て」
「何姉ちゃん」
「・・・出来るの?」
「・・・あれ?見せたことなかったっけ?」
「ないわよ!?」
あれ?でもフミと戦う時は・・・ああ、そもそもフミと戦う時は姉ちゃんたちいないし見せたことないわな。
「ほら、こんな感じ」
「うわぁ・・・」
少し離れてから、一瞬で姉ちゃんの前に行く。
俺の筋力で行うから、その速度は相馬さんのそれを越えていると思うのだが・・・
「・・・少し、力が入っていますね」
「ああ、やっぱりこういう方面が本領で?」
「はい。よろしければ少し手ほどきをいたしますが」
「マジっすか!お願いします!!」
いやぁ覚えられそうだったし、便利そうだから覚えたけどさ。正直独学だったらかどうなのかわからなかったのだ。
ここで本職の人に教えてもらえるのは大きい。俺の戦い方的に、武術を1から習ってもうま味ないしな。
歩法だけ教えてもらえるのはいい。
ところで、なんで丸山さんと相馬さんが戦ってたのかなんだが・・・
「これが、近接戦闘のプロフェッショナルの戦いです」
「あの・・・これをするんですか?」
「いえ。あくまでも鍛えればここまでできるようになるという、一つの指標と言うことです」
「上手い事やれば、格上でも戦えるし勝てるってことですから」
「もちろん、これからの鍛錬次第ではありますが」
「な、なるほど・・・」
そう。新人冒険者の教導の一環だったのだ。
人間同士の戦いを見たところで意味がないと思われそうだが、実のところそうでもない。
そもそもダンジョン中で一番最初に苦戦することが予想されるのは人型・・・ゴブリン。もしくはオークだ。ハイゴブリンでも苦戦するだろう。
銃が本格的に効かなくなってくるレベルの人型の敵。こいつらに対しては柔道とかは非常に良く効く。
丸山さんとか、初めのころはそいつら投げてたし。
「ダンジョンの中にいる人型のモンスターに対して、対人戦闘の経験は非常に役に立ちますので、皆さん気を抜かずに訓練を」
「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」
本来なら相馬さんもあちらで藤岡さんの話を聞く側なのだが、まぁ姉ちゃんたちの元上司で、恐らくそれ以外の理由でも戦える人だ。
この科目だけは、相馬さんは教導側に回ることになっている。
それだけ突出した実力の持ち主ということだ。実際、モンスターとの戦闘でも現在一人だけ飛び出ている状態だ。
入る時期が早かったら、あっという間に藤岡さんたちはおろか俺にも追いつけたかもしれない。
「踏み込みの際ですが・・・」
「ああ、そうか。だから無駄に力が必要だったのか・・・」
てか、技術面では俺なんかよりよっぽど上だ。
そもそも自衛隊組の戦闘技術は俺より上なんだけど、それより上なのだ。俺だって鍛錬はしてるんだけど、やっぱり習ってないから荒い。
喧嘩殺法とまではいかないけど、それにかなり近い状態にはなっているだろう。
そこを補えれば・・・
「フミにもワンチャン」
「まだ勝てないの?」
「・・・フミ相手だと本気になれないから・・・」
「ああー」
『真化』の話は姉ちゃんは知らないけど、藤岡さんは知っている。
まぁそれじゃなくたって俺がフミ大好きなのは知ってるだろうから、そういう意味で勘違いしてくれるだろうと思って言ったんだけど。
勝てない理由はそういうことだ。『真化』込みの能力じゃないから、ゴリ押せない。
そうすると、フミの能力を超えられないので技術で勝負しなきゃいけないがそれも足りてない。特に機動力面はやばい。
体感で3割ほど遅くなってるんじゃないかってくらいには動きにくい。力を入れにくい状態が続くって感じならわかるだろうか。
「ところで、なんでたいt・・・相馬さんは恭輔に敬語なんです?」
「ああ、それは気になった」
「妻の命の恩人。その相手に礼儀を尽くすのは当然の事」
「ああ」
「相馬さん、侍の子孫とかなんかですか?」
「武術を継いでいった家系らしいわよ?」
「おっおう」
マジもんだったか。




