320話
夜分です
「そういや、なんでピッちゃんもおるん?」
「何か用があるんだってさ」
まぁ用ってか、勉強?
「お?」
「もう一匹精霊を増やせそうなんだと」
「おお!」
「うー」
「るる!」
ここで動物たちの様子を見て、新しい精霊の形の元にするのだとのこと。
ふーりんちゃんが猫だから、ネコ科で攻めるのかと思ったが、まだ全然決まってないらしい。まぁそれでもうちにいない種類から選ぶってことらしい。
そうなると、狼、コウモリ、ネズミ、馬、羊、猫はなし。
まぁ動物園にもそうそういないぞって面子がいるから、あんまり縛りにはなってないけど。
狼犬親子を一端先生に預けておいて、全員で動物園を回る。コロちゃんには狼犬たちと一緒にいてもらってるけど。
相も変わらず、人のいない時間を狙ってきているのでお客さんは誰もいない。まぁ土日祝日とかは結構いる。
まずはピッちゃんの希望で強そうな動物をとのことだったので・・・
「この子です」
「・・・る?」
「・・・強いん?」
「何?知らんのか。めっちゃ強いぞ」
「ブー」
そうです。カバさんです。
まぁフミも疑問に思っているようだが、カバは強いのだ。
まず、顎の力が1トン。この時点で大体の動物より強い。そして、体皮の固さ。データ上の話だが、サメでも歯が立たないとかなんとか。
「な?強いでしょ?」
「る~」
「う!」
「・・・」
「・・・う?」
「ああいや、この子呑気だから」
「はぁ・・・でも、この体やと遅いんやないの?」
「まぁ速度はそれなりってところかな。それでも瞬発力はそこそこあるし、精霊の参考にするならいいと思うけど」
「るー・・・」
さて、次に行こう。
次に向かうのはこれまたピッちゃんの希望に沿った子。
強いって意味より、有名でそういうイメージが強いって感じかな。
「ガァ」
「おっす。久しぶり」
「うーうー」
「お、この子は知っとる」
「るる!」
ライオンと言えば、強そうな動物で結構名前が上がる子なんじゃないだろうか。
まぁ実際のところライオンという種族が強いかと言われると微妙だ。
「え?そうなん?」
「る?」
「まず、こいつらの雄は狩りをしない」
メスに任せるのだ。オスは基本的に待ってるだけ。
そもそもライオンに限らないのだが、野生の動物たちの狩りの成功率は低い。
下手したら数十匹狙って1匹獲れるかどうかってところだ。
「これはここ数年有名な話だな」
「へぇー。でもそれやと食うのに困るやんか」
「そのために群れてるんだよ」
群れ・・・つまり数が増えれば狩りの成功率も高くなる。
成功率が高くなればなるほど、食べられる量も増える。1匹のみでは生きていけないのだ。
それに相手が同数で群れている場合は手を出さない。はぐれるのを待って、ダメなら違うところに行く。
「まぁこれはどの動物にも言えっからライオンの話ではないか」
「じゃあなんでライオンは強くないん?」
「単純に、もっと身体能力の高い動物は多くいるんだよ。さっきのカバだったり」
カバとかワニの子とかの方がよっぽど強いと思うぞ個人的には。
顎の力ってのはそれだけ強さを単純に示せるし。なにより・・・
「ダンジョンのこと考えると、一撃で倒せるくらいの何かを持ってる方がいいでしょ?」
「ああー。そういう意味やったんか」
「うー」
「るる?」
「精霊の元にするってことは、それだけ元の動物に引っ張られるってことだろ?そうなると、ただのライオンだとちとインパクト弱いでしょ」
「る~」
「ガゥ」
「お前の事は言ってないよ。例外君じゃんか」
「え?」
「こいつは普通に1匹で猪かみ殺すからな」
「・・・話とちゃうんやけど」
「まぁ例外なんだわこいつ」
懐かしいなぁ。俺が襲われてたのを颯爽と駆けつけてかみ殺すんだもの。相手の牙とか、明らかに危険なのにも関わらずかっこよかったなぁ。
「コロちゃんが来る前に話だけどな」
「はぁ・・・てか、恭輔が襲われるって方が驚きなんやけど」
「あの時は俺が悪かったんだよ。出産したばっかりで気がたってた子の縄張りに入っちゃったから」
実の所、こいつ、元からこの動物園にいたわけではない。
親父に連れられて行った別の動物園にいたのだ。そこで、近くの山に俺が勝手に入り込み、見事迷子に。
それを探すために、動物園全体が俺の捜索に。その中で、匂いを辿って俺のところまでまっすぐ来てくれたのがこいつ。
「命の恩人・・・恩ライオンなのだよ」
「いやめっちゃ重要な話やった」
「・・・うーうー」(ペコリ
「るる」(ペコリ
「ガウ」
フルフルと前足を振って気にすんなとイケメンな対応を見せる。
まぁライオンってだけだといまいちかもしれないが、こいつを元にするんならいいかもな。
では次に行きます。
次はピッちゃんの希望に沿いつつ俺の要望にも応えてくれる感じの子。
「・・・」
「サイや」
「う」
「るる」
「違う」
別に大砲サイの事を引っ張ってここに連れて来た訳ではない。
そもそもサイ自体普通に強いのは知ってるだろ。
「そらまぁ・・・知っとるけど」
「うー?」
「それは俺たちの基準で考えるからだろ」
大砲サイって近づいた時に弱くね?とニホリは言うが、まぁあれはそうだったってだけ。
普通のサイにはまず近づこうと思わないだろう。
だがそれは、能力のほとんどを大砲に費やしているからだ。本来のサイはむしろ接近して攻撃するのは自殺行為なのだ。
平均体長でも4メートルほど、体重も2トンに及ぶ。そして皮膚は動物の中で最硬と言われている。
「まぁ確かに、あのサイよりこっちの方が硬そうやな」
「俺たちで見ちゃうと脆いんだけど、それでも自然界最硬は見過ごせないでしょ」
「一理あるわ」
「るる」
まぁただ、視力が良くないのがなぁ。ダンジョンで接近戦する上で、視力の有無は重要だ。
あくまで精霊の元にするだけだから、気にしなくてもいいのかもしれないけど、最初はできる限り完璧に再現しないと後から変化させるのに苦労してしまう。
ピッちゃんが長所を残したうえで短所を消せたらいいんだけど・・・それをすると、元のイメージがぶれるからな。
そのせいでふーりんちゃんの鳴き声は最初おかしなことになってたんだけど。いや、今もなってる時あるな。
「そこは努力してもろて」
「る!」
「・・・うーうー」
「・・・」
「ああ、こいつ声ちっちゃいんだよ」
「ここの子ら個性的なの多いんか?」
その通りだよ。
その後も、虎だったり、ワニだったり、ゴリラとかいろいろ見て回った。
ピッちゃんはちゃんと全員を食い入るように見つめていた。見て言った中から、ピンときた子を元に精霊を生み出してくれるだろう。
俺的には、俺とコロちゃん以外の敵を止められる子が増えてくれるといいんだけど。
そのためにサイを見せたわけだし。ゴリラもいいね。まぁピッちゃん次第だからな。気長に待つか。
「じゃあ預からせていただきます」
「お願いしますね恭輔君」
「はいっす。ほれ、挨拶」
「「「「「「ワン!」」」」」」
「ワン!!」
「もう言うこと聞かせとるやんか」
「まぁ群れのリーダーって扱いだしな」
挨拶くらいちゃんとさせないとね。




