317話
昼一話夜一話です
「さて、皆さん。初めてダンジョンに来た感想はどうですか?」
「・・・思ってたより、疲れました」
「でしょうね。今まではあくまでも訓練です。実戦では様々なことに気を付けなければいけない分、集中力を使いますから」
「・・・クゥァ」
「欠伸抑えて抑えて~」
「ワフ」
天都さんが感想言ってんだから。まったく知らないわけじゃないんだからそれくらいは聞いてあげなさいよ。
ダンジョンも1週くらいして、一端休憩。
大体2時間くらい回っていたが、大きな怪我もないみたいだ。まぁかなり疲れてるけど。
今は1層から下に来て3層。本来はもっと時間をかけるべきなんだけど、今日は付き添いがいるから行ったってわけだ。
今は藤岡さんがみんなに感想を聞いているところだ。
コロちゃん達が飽きてるのが問題かなぁ。めっちゃ欠伸しちゃう。
そのたびに空気が緩むのは、俺たちはともかく新人の人には良くないかな。本当はダンジョン内で休憩するなら階層の移動に使う階段かボスを倒した部屋でやるものだし。
俺たちが普通の階層内で出来るのは単純に安全を確保できるからだ。
「では、本日の探索はここまでです。帰るまで気を抜かないように」
「「「「「「はい!!」」」」」」
「ほれ、終わったぞ」
「クゥ?」
「このまま帰るとさ」
「クゥ~」
「えぇ~?」
ふーちゃんはもう少し戦いたいらしい。
まぁ2時間くらいじゃな。確かに普段に比べたらモンスターも弱いし時間も短い。
そら物足りないのもわかるわ。
「でも一人で行くのもなぁ。山だし」
「クゥ?」
「いや、帰りがめんどい」
ダンジョンのワープはどこかのダンジョンで一回でもその階層のワープ部屋に入っていればいつでもどこでも使える。
問題は、このダンジョンがどこにあるかってこと。
元々近所の山で見つけたダンジョンだから、家は近いんだけどうちのにあるのに比べるとねってこと。
わざわざここで戦わなくても、家に帰ってから潜ればいいだけ。
「だから帰ろ?」
「・・・クゥ」
しゃーないと言わんばかりに俺の頭に飛び乗るふーちゃん。
帰ることに賛同してくれたようだ。
俺も荷物・・・小さいバッグだけどそれを持ち、立ち上がろうとしたその時。
「恭輔君」
「はい?」
「まだ少しいいですか?」
「いいですけど」
藤岡さんが話かけてきた。
・・・このタイミングってことは、そういうことかな。
帰るのはもう少し後になりそうだ。
「すいません、今私たちを守りながら勝てるボスってどこの階層が最高ですか?」
「・・・ボスにもよるんで階層で言えないっすけど、確実に守れるのは40っすね」
「・・・40?」
「40です」
まぁその反応も無理はない。
10層おきにボスモンスターは強いのが配置されている。狂化オーガしかり、ワイバーンしかり。
だから40層のボス。鎧武者も強いのだ。俺たちと相性が良いせいでそこまで苦戦はしない。だが、相性の悪い、近接戦しかできなかったりとかそういうことになると苦戦するだろう。
俺たちは魔法による遠距離攻撃と近接攻撃を両方できるから苦戦しない。鎧の耐性を考えると、魔法のみも苦戦するかもしれない。
コロちゃん要る限り関係ない話だけど。
「コロちゃんの訓練相手にしかなってないっすからねぇ」
「あ、あれ相手に訓練ですか・・・」
「んで。それを聞いてくるってことは、戦いを見せたいってことで?」
「はい。今のうちに、可能な限り下のモンスターを見ておいた方がいいと思いまして」
「そうっすか?」
「はい。今日の様子を見て決める気でしたが、あまりにもなれてなさすぎる」
「敵意ですか」
「その通りです」
なるほど、まだ1桁台のモンスターといえど、こちらを殺そうと襲い掛かってくるのは間違いない。
だが、所詮1層付近。そんなところのモンスターを相手に腰が引けすぎているのだ。
時間をかければ慣れていくのだが、そこまで悠長なことも言っていられないのだろう。
だからこそ、もっと下のモンスターを見ることで強制的に慣れさせようと言うのだろう。でも、下手したらつぶれますよねそれ。
「今は、感覚をマヒさせるくらいでいいんです。後から修正は効きますから」
「はぁ~割とスパルタっすね」
「いえいえ。私なりに、彼らなら大丈夫だと思ったからの提案です」
「まぁ、俺はなんでもいいんですよ」
よかったなふーちゃん。戦えそうだぞ?メインはコロちゃんだけど。
40層ボス部屋。
相も変わらずくらい雰囲気がひどい。
ああ、ワープ部屋から来たから特にモンスターとは戦ってないからな?40に跳んで、部屋に戻ればいいだけだし。
すぐに鎧武者は出てくる。数は2体。
・・・2体?
「あれ?増えてね」
「え!?」
「大丈夫なの?」
「まぁ増えたところでって感じ。コロちゃん一体よろしく」
「ワン!!」
「ふーちゃんは俺とね」
「クゥ!」
俺、藤岡さん達、新人12人。計15人。
もしかして、ここのボスって入ってきた人数でボスの出現数が変わるのか?まぁそうじゃなきゃ広い部屋なら人連れて来たもん勝ちになっちゃうか。
少しだけ、全員の様子を見る。
コロちゃんとふーちゃんはいつも通り。まぁ当然だな。
藤岡さんたちは顔が険しくなっている。相手の威圧感から、その強さをある程度見切ったのだろう。松山さんとか苦笑いしてるし。
新人の人たちは、真っ青通り越して白くなってる。相手から向けられる敵意は、今は俺たちに向いているから直接は敵意を受けてはいない。だが、余波だけでも十分大きな影響になっているだろう。
それだけでも、1桁階層のどのモンスターのそれより強く、重い物なのだから。
まぁ、あんまり長い間あのままなのは良くないな。ささっと済まそうか。
「コロちゃん。速攻で」
「ワフ?」
「流石に2体は影響重いからね。俺もすぐに終わらすよ」
「ワン!」
1匹だけだからまぁ行けるっしょとか思ってたけど、2体は良くない。
勝てるし後ろに通すこともないけど、その影響が良くない。慣れてない人が感じていいオーラじゃない。
鎧武者が、その手に刀を構える。
その瞬間、腕が落ちた。
「■」
「ガァァァァァ!!!!」
コロちゃんが切り落とした。それだけだ。
高速で駆け抜け、切り裂く。コロちゃんの姿は既に鎧武者たちの後ろにある。
「えぇ!?」
「また早くなってる!?」
「・・・何回切ったんだ今」
「・・・切った?」
「はい、今通り過ぎた瞬間に何回か・・・でも」
「12回ですね。腕と足切り落として、後は雑に」
「大門殿は、見えているのか?」
「そりゃまぁ。飼い主ですし」
「・・・飼い主関係ないんじゃ」
腕と足で4回。頭を2回。残った胴体を6回。
鎧武者に認識されない速度で切った。腕が落ちたのを鎧武者が確認した瞬間、他の部位も落ち、一体消えていった。
それを残った1体が認識し、コロちゃんの方に振り返ろうとするが
「クゥ?」
「■■■!?」
ふーちゃんの炎で燃やされたために動くことが出来なかった。
鎧に付与されている耐魔法性能の高さから、それで燃え尽きることはないが、時間が経てば経つほど火力の上がっていく炎に徐々に鎧が耐えられなくなってくる。
端の方から崩れてきている。
「んーこのままでも終わるけど」
「クゥ」
「満足?燃やしたかっただけかよ。じゃあ潰していい?」
「クゥ~」
どうにも戦い足りないって言うよりは燃やしたりないって感じだったみたいだな。
そう言うことなら終わらせてしまおう。
ふむ。どうせなら派手な魔法で終わらそうか。
腕に鉄を纏わせていく。鋭利に、強靭に、力強く撃ちだせるように。先端部分に返しを作るのも忘れない。
「槍ってか、銛かな?」
「・・・もしかして」
「頭下げといてな姉ちゃん!!」
先端部が射出される。
燃やされ、身動きが取れない鎧武者にそれを避けることはできない。なすすべもなく突き刺さる。
返しがついているから、俺から引っ張っても抜けることはない。
そのまま引っ張り、壁や地面にに叩きつけながら引きすり回す。
「ハッハッハッハッハッハ!!!!」
「ちょ!?」
「恭輔危ないでしょ!!」
「頭下げといてッて言ったでしょ!!」
長いままだと皆を巻き込みかねないから、ある程度短くする。
俺の魔法で作った鉄だから、伸縮自在。ある程度ならしならせることもできる。鉄の棒というより、鎖の先に穂先がついているイメージが近い。
何度も何度も叩きつける。その衝撃で、鎧より先に地面が砕かれていく。
頃合いを見計らって、勢いを殺さないようなタイミングで腕から離す。
すさまじい衝撃音をたてながら、鎧武者は壁に叩きつけられる。鎧はボロボロ、既に瀕死だが、きっちりとどめは刺さなければ。
「上からドーン!!」
鎧武者の頭上に、鉄の大玉を出現させて落とす。
全快の状態なら回避か抵抗もできたであろうが、既に死にかけの体では不可能。
あっさりと大玉に潰され、宝箱が出現した。
「はいおしまい!」
「クゥ~」
「ワフ」
「お疲れー」




