301話
夜
アイアンゴーレムは、上半身が太く下半身が細い。アンバランスな格好だ。
だが、それでも自重で崩れたりってことはないみたいだ。殴ってもそれは変わらない。純粋に体が砕けるだけだ。
魔力で固定されているからだろうか。まぁダンジョン産の金属だ。普通なわけないのは当然なのだが。
「ゴーレムの砂みたいな感じならいいな!!」
「ゴォ!!」
アイアンゴーレムの拳と俺の拳がぶつかり合う。
衝撃が来ると当時に、アイアンゴーレムの腕が破壊される。一撃の重さに耐えられなかったのだ。
その隙を逃さずに、ねっさん達が俺の陰から湧き出る。
ゴーレムの関節?部分にひっつき、俺が離れたのを確認した後、爆発する。
「ちゅちゅ~」
「おっし。おつかれ。すらっぴの方は・・・」
「ぴぴ?」
「はっや」
別に近接戦しなければ俺も同じくらいの早さで勝てるだろうけど。
ただ、アイアンゴーレムはいい相手だ。経験値的な意味で。
鉄という性質上、アホみたいに硬い。俺と『硬質化』ほどではもちろんないんだが、一度試しに親父から預かった試作の剣を当てたら1回で折れたのでやはり普通の鉄より硬いようだ。
本気で殴ると砕いてしまうというのは変わらないが、今まで相手にしてきたモンスターの中で最も硬いと言ってもいいだろう。
だからこそ、強くなるのにはもってこいだ。
すらっぴとねっさんも相性がいいのか。別に俺が手伝わなくても余裕をもって勝てる。
他の子達も勝てなくはないんだが、そっちは結構時間がかかる。
炎だと倒すのに鉄を溶かす温度まで上げないと効果が薄い。雷はそもそも効かない。風もかなり圧縮しないと効果なし。ただし上空に打ち上げて落下で倒すのは可能。
無属性はどの敵にもある程度効くが、どこを攻撃しても効き目が一緒なアイアンゴーレム相手には効果が薄い。
魔刃も切れるが、真っ二つに両断しないと倒しきれないといけない関係上。討伐速度と量でやはりすらっぴとねっさんに負ける。
もちろん、『高速移動』と『魔刃』の両方を最大まで使えばその限りではないが、長い間戦えなくなるのでやらせない。
そうすると、やはり簡単かつすぐに倒せるすらっぴとねっさんがいいのだ。
てか、有利不利でいうなら俺も不利な部類だし。
「鉄に鉄当ててもなぁ」
「ちゅ~」
「まぁ俺の方が硬いんだけどさー」
そうそう。俺の『土魔法』が『真化』で強くなった時の名前。ようやく見たよ。ダンジョン内にカード持ち込まないからな。『真化』はダンジョン内じゃないと使わないし。
ただちょっと予想と違ったっていうか。
『ガイアコントロール』という名前に変わっていたのだ。属性を表すでも、魔法の意味があるでもなくコントロール。
言葉通りなら、俺は地面・・・地球の大事を操ることが出来るようになっているらしいんだが、魔力さえあれば同じことは出来てたしな。
だから、純粋にスキルとしての強さが大幅に上がっただけで出来ることは増えてないと思っている。
まぁそんなわけで、強くはなってるけどそもそも相性よくない。
「それに比べてお前らいいよなー」
「ちゅ?」
「ぴ?」
「いや、そもそも爆発の効かない相手ってほぼいないし。すらっぴは『溶解液』強すぎでしょ」
すらっぴはそもそもうちの子で一番進化してる子だ。そのせいで、本来のサイズはかなり大きい。
1度だけ最大サイズになってもらったが、俺の倍くらいあったかな?それでいて物理攻撃一切無効。
アイアンゴーレムが俺の倍以上だったので、少しすらっぴより大きいのだが、関係ないとばかりに『溶解液』で全身溶かしたり。時には取り込んで食べたり。なんでもありの倒し方だ。
ぶっちゃけ負ける気配がない。
ねっさんも負ける気配はない。そもそも分身たちが前に出るから、本体は一切動かなくていい。
巨体に見合った速度しかでないアイアンゴーレムだ。ねっさん本体に近づく前に分身たちに囲まれて爆発して終わり。
倒すのにそこそこの数が必要なのは必要なのだが。今のねっさんの最大分身数に比べたら微々たるものだ。
負ける気配なし。
そもそも、負けそうなモンスター相手に単独で戦わせたりしないんだけど。
「うーうー」
「拾ってきたで~」
「ありがと~」
中級6層。おそらくここのモンスターたちの強さは最初のダンジョンの40くらいに相当するはずだ。
相性よくてあんまり気にならないが、しーちゃん的にそれくらいらしい。
しーちゃんが一番苦戦するし、ほぼ間違いないだろう。
だけど、所詮40層。ツーマンセルで組ませれば負けることはない。
もちろん、中級だから数はえぐいが。
今は全員が違う位置で戦ってるからか、一度に寄ってくる数は減っている。それでも一回で20以上は確定で来るんだけど。
全部すらっぴの餌になった時もあったよ。えぐいえぐい。
「うお、どっさりだな」
「これ以上は無理やな。出れんくなる」
「まさか出口に引っかかるレベルとは」
「ポヨネ連れてこないとあかんなこれ」
「そうだな。一個上なら、ユニちゃんも戦えそうだし、連れてくるか?」
「ええんとちゃう?もちろん、ポヨネの許可必要やけど」
「完全にユニちゃんの状態管理はポヨネになったな」
「まぁずっと一緒におるしな」
「めぇ~」
「るる~」
「あ、おかえりー。どうだった?」
「めぇ」
「るる」
「あはは~やっぱりお前らは面倒か」
ニホリとフミは二人で各場所のドロップを回収してもらっていた。
元々持っていたバッグはかなり容量の大きい物だから、結構回収できたと思うんだけど、それでもかなりの数が回収できてないみたいだ。
なんなら今もバッグからはみ出てるし。ニホリは浮かして持ってきてるし。
しーちゃんとピッちゃんで組ませてたところは敵が来なくなったのか、帰ってきた。
相性の良くないコンビだったからか、出来れば違う階層で戦いとか愚痴をこぼしている。よほど面倒なんだろうな。
「今度は俺が一人の方がいいかな?
「え、ダメ」
「う」
「めぇ」
「る」
「ぴ」
「ちゅ」
「何故だ・・・」
総出で却下されたんだけど。
「てか、さっきから一体も来ないのはなんでだ?」
「ん?・・・ああ、コロちゃん達が先の方で戦っとるみたいやね」
「おお、そういうことか」
「まぁ残りの子みんなでいるみたいやし。大丈夫やろ」
残りって、それ要するにコロちゃんふーちゃんバトちゃんでしょ?
割り切れないから3匹で組ませたとこじゃん。向かわないと。
「これ以上倒しても回収できないしな・・・」
「ニホリ、もうちょい増やせる?」
「う」
「ヤダって」
「じゃあ帰るか。コロちゃん達迎えに行ってくるわ」
「うーい」
「うーうー」
「ただいまー」
「おかえりー」
「あ、姉ちゃんだ。何故いる」
「いろいろ終わったからね~・・・めっちゃ疲れた」
「お疲れ」
「うー?」
「ニホリちゃーん」
「うぶ」
家に帰ると、姉ちゃんがソファでくたばっていた。
だらしなく腹を出しながら寝ている。Tシャツ一枚だし。だから彼氏できないんだぞ。
姉ちゃんの言ういろいろ終わったってのは、正式に新人冒険者が決定し、それにまつわる色々なことが終了した。っていうことだろう。
まぁこの後に訓練とか始まるから、休むタイミング的には今だろうな。
「いつから?」
「来月よ。引っ越しとかもあるしね」
「ああ、冒険者になったら東京来るのかそういえば」
「そうそう。場所は私たちの住んでるマンションの隣ね。家賃もタダ」
「良い所なの?」
「一人暮らしするには十分じゃない?羨ましいわ~」
そんなことを言っている姉ちゃんだ、いま住んでいるところも一般的にはかなりいい所のはずなんだが。
家賃だって補助出てるんじゃなかったっけ?
「三上さんのに比べたら格が落ちるけどな!」
「あっちは特殊中の特殊じゃない。半分ここの家みたいになってたわよ」
「・・・今度行こうかな」
「迷惑かけんじゃないわよー」
バン君にモグ三兄弟。それにみーちゃん・・・完璧だな。
「何が完璧なのかしら・・・」
「囲まれた時の幸福度やと思いますけど・・・」
「うー・・・」
「あんまり浮気ばっかしてると、コロちゃんに愛想尽かされるわよー」
「はっ!!」
「・・・ワフ」
この時、コロちゃんは思った。
あ、これまた一日中抱っこされるやつだ。しかも逃げられないし・・・まぁいいけど。
「コロちゃーnほぶ!?」
「ワフ!?」
いつものように、コロちゃんに抱きつこうとしたところ、横から黒と茶色の毛玉が突撃してきた。
完全に予想外からの攻撃に、普通に吹き飛ぶ恭輔となにぃ!?と驚くコロちゃん。
突撃してきたのはもちろんロラちゃんとふーちゃん。吹き飛ばした恭輔の顔をなめまくる。
「・・・ワフ?」
「ちゅ~」
「ワン・・・」
「ちゅちゅ」
何故に?
この間抱き着かれてたから今日は僕たちだーって言ってたけど
ああうん。細かい事考えてないだけだよ恭輔
多分後で全員に集合かかるパターンだね知ってた
「うごごごご」
「クゥクゥ」
「」(ムギュ
「何故お前らは俺の横っ腹にめがけて飛んでくるのか・・・」
顔をなめ終わったと思ったら、ふーちゃんは服の中に入り込んでもぞもぞし始めるし。
ロラちゃんは顔に抱き着いてきて呼吸しずらい。
・・・でもよし!!!
「何がや。ご飯出来たで?」
「おぼ?ぼばじゃんぼいべ」
「」(ダッコ
「ぶお」
「クゥ」
顔面に張り付くロラちゃんを剥がして抱っこ。ふーちゃんを服の中から引き出して頭に乗っける。
「よしOK・・・あれ?コロちゃんは?」
「先に行ってるで?恭輔もはよ行こ」
「了解了解・・・姉ちゃんも待たないとは」
「時間かかりそうねって言って先に行ってたで?」
「流石姉上」
慣れているな。
周りがそれなのに待ってくれてるフミはやっぱりいいなぁって思うけどな!!
惚れなおすわ。




