293話
昼一。夜一話です
「ほら。見てください精霊狼君たちです」
「うわぁ・・・え、なんかすっごく強そうなんですけど」
「そら40台ですから」
「・・・私たち、まだ30入れてないんですよね」
「がんばとしか・・・」
まぁ止まるよねそりゃ・・・そういえば、30層のボスって結局俺たち知らないな。
でも勝てるでしょ。三崎さんとこに虎ちゃんいるから。
「そこなんですね」
「そらもう。ねぇ」
「ガゥ」
「おーよしよし」
「・・・ぱっとみ襲われているようにしか見えない」
虎に抱き着いてるって言うか、虎に抱きかかえられてるみたいな感じですからね今の俺。
まぁそのまま押し倒されるなんてことはないから安全・・・そもそも人の事噛まないからいい子よこの子。
触ります?藤岡さん。
「いや、大丈夫です・・・よく生活できるわね・・・慣れかしら」
「あ、あははははは・・・」
「グワァ」
「むむ。そういうことならこうだ!」
生意気にも俺を押し倒して顔を舐めたいようなので、逆に押し倒して(ゆっくり丁寧に)抱き着いて首元を嗅ぎながらお腹を撫でる。
くすぐったそうに体をよじるが、まぁ抑えてるのが俺なので逆転はない。そのまま諦めたのか、ぐりぐりと俺に顔を押し付ける。
「おほー」
「猫みたいに」
「実際猫です」
「違います虎です」
「あ、あははは・・・」
さっきから三崎さんが愛想笑いしかできてないけど何かあったのだろうか。
こんなにも虎ちゃんはかわいいというのに。
「そこじゃないと思いますけど」
「そうっすかね?」
「ニャ」
「ニャって言ってる」
「猫ですから」
「虎です」
久しぶりに会った藤岡さんはなんか頭が固くなっている気がするぞ?
新人たちの試験でいっぱいいっぱいなのだろう。虎ちゃん、癒してあげなさい。
「ニャ?」
「いえ、大丈夫です・・・」
「くる」
「バン君・・・どうしましょう。恭輔君が壊れてしまいました」
「くる」
その通りだバン君。俺は通常運転だ。
さて、今更だが藤岡さんたちと話している場所は研究所。
まぁこの二人と話す場所なんてここくらいなものなのだけれど。
そこで話すのは、新人冒険者募集と審査の話と、この虎ちゃんの話。
審査の話は順調ですくらいで特に重要なことはなかった。問題は虎ちゃんの方。
虎ちゃんが三崎さんの家に行くことが決まったのは、タイミング悪く忙しい時期だった。
そのため、虎ちゃんはダンジョンに潜れていない。そもそもお世話を教える時間もなかった。それでも基本的なことは紙にまとめて送ったから不便はなかったと思うけど。行き当たりばったりにしてしまったのは正直申し訳なかった。俺ももうちょい気にかけられれば良かったのだが。
「この様子なら問題なさそうですね」
「あーはい。ものすごくいい子なので」
「騒がない。暴れない。母さんに育てられただけあって見事に野生を忘れてますよね」
「本当にその通りで」
それでもその身体能力何かは一般人からしたら警戒すべきものなのだけれど、そこは三崎さん。まったく問題ない。
でも戦えるのかと言われると、これも割と問題ない。そのあたりはふーちゃんで確認済みだ。言い聞かせれば最初は拙いが、徐々に戦えるようになる。
「だから猫なんですよ藤岡さん」
「ええ・・・」
「くるる?」
「グニャ」
「くる~」
「それでいいのみーちゃん・・・?」
ここで虎ちゃんの名前初登場。みーちゃんです。
ちなみに今は、まぁ猫でもいいよねとか言ってた。バン君はいいの?から、そっか~
話しながらも体勢を変えつつ虎ちゃん・・・みーちゃんを堪能して、満足したら三崎さんに渡す。
「はい。お返しします」
「そんな風に渡されても・・・」
猫みたいに腋に手を入れてぶらーんとしたんだがダメなようだ。
仕方ないから降ろしてそのまま歩かせる。
とことこと三崎さんの元まで歩いていき、膝に顔を押し付ける。
「キュー」
「・・・帰ったら同じことしてっていってるんですけど」
「してあげてください」
「えぇ・・・」
「バンくーん」
「くる?」
「カモン」
「??・・・くる」
「ああ、多分行ったら」
「くる?・・・る」
「よし捕まえた・・・聞いたぞ。爪切り嫌がる悪い子」
「!?!?くるるる!!!」
「逃がさん。切りまぁす!!」
「くるー!」
「・・・みーちゃん。今日のご飯は何がいい?」
「ニャ」
「スルーなんですね」
「私の言うことを聞かないバン君が悪いんです」
「なるほど。かなり染まってますね」
「え?」
「くるー!?」
ふははははははは!大人しく爪を切られるがよい!!
「すっきりしたぜ・・・」
「くるー・・・」
意気消沈のバン君を連れて研究所内を散策。三崎さんと藤岡さんはみーちゃんについて二人話始めたので抜けてきた。
パーティの動きとか言われても俺わからんしな。
研究所のちょうど真ん中にある庭。研究員たちの休憩の場所になっているが、今はそういう時間ではないので人はいない。
いるとしたら、お昼休みの時間を逃した人だけだろう。
「つまり誰もいないというわけ・・・じゃないな」
「くる?」
「・・・んぐ!?・・・お疲れ様です!!」
「ああ、お疲れ様です天都さん」
「カァ」
「クロンちゃんもお久」
「くる?」
「三崎さんと俺の後輩にあたる人と、そのペット」
「カァ」
「くる~」
庭には天都さんとクロンちゃんがいた。
どうもお昼の時間を逃したらしい。何かの検査でもやってたかな?
「クロンちゃんの健康チェックです。一応ってことで」
「なるほど。俺もすらっぴとかが来たばっかりの時とかはよく受けましたね」
「最近は受けてないんですか?」
「自前で出来るので」
ポヨネが。
頭の上にバン君。飛んできたクロンちゃんを腕に乗せて二匹を挨拶させる。
とりあえず第一印象は大丈夫そうだな。
「妹さんは元気ですか?」
「ええ。それはもう元気で・・・」
「ああ、有り余っていると」
「はい。転校して初日に友達連れてきましたよ・・・」
「すげぇなおい」
クロンちゃんを拾ってきて飼うとかいう俺みたいなことしてるのに友達作るのも上手いのかやべぇ。
いや、まぁ若い子・・・小学生ってそんなもんか?
あ、雪ちゃん全然友達いないや・・・
「悲しい事実」
「くる」
「カァ?」
「え、えっと。何か学校にいやな思い出が・・・?」
「いえ、特に何もないだけで」
「それはそれで・・・」
イベントごとは大体さぼってたよ。上手いことな。




