284話
昼一話夜一話です
人型の来客があってから、しばらく経った。
ダンジョン攻略は順調に進み、50までもうすぐってところまで来た。
だけど、ちょいと問題が。ニホリだ。あの日以降、ニホリがどこかおかしい。何をするにしても上の空っていうか。何か別の事を考えているような感じなのだ。
コロちゃん達も、ニホリの様子がおかしいのに気がついている。
だけど、ニホリがそれを誰にも相談しない。俺にも聞いてこないのだ。てか、俺に話しかける回数が明らかに減っている。
避けられているのだ。
「うー・・・」
洗濯物をたたんでいるニホリ。だけど、その表情は暗い。
前まではもっと楽しそうにしてたのに・・・家事がいやになった・・・ってわけじゃなさそうだな。むしろ前より家事はするようになったし。
「あれは、別のことに集中することで忘れようとしとるだけやろなぁ」
「フミ」
「何かあったん?ニホリがあんなんなるって」
「実は・・・」
フミに、ダンジョンの人型が来た時の話をする。
人型が、ニホリのお菓子を気に入ったこと。恐らく、新しいダンジョンが発生すること。
そして、ニホリについての疑問を聞いたこと。
「答えは貰わなかったけどな。知らないってさ」
「・・・それかぁ」
「うん?」
「いや、原因わかったんやけど・・・いや、でもどうなんやろうか」
「何かわかったのか?」
「うーん・・・ちょいと考えてもええ?」
「え、いやまぁ。ありがたいけど」
「すぐ答えだすわ・・・いや、でも今更やし・・・」
小声で独り言を言いながらフミは二階に上がっていった。
何かに気がついたようだが。
「・・・う?」
「ニホリ」
俺がリビングの真ん中で立っているのがおかしかったからか。ニホリが何してるの?って声をかけてきた。
その顔は、まだ暗い。俺に話しかけるのが怖い?違うな。なんだこれ。ニホリが何を考えているかわからない?
「うーうー」
「あ、ああ。ごめん」
俺が立っている場所が邪魔だったみたいだ。道を開けるとすぐに行ってしまった。
「・・・ワフ」
「コロちゃん。ニホリどうよ」
「ワン」(フルフル
俺がいなければ大丈夫かとも思ったが、そうでもないようだ。
むしろ悪化したらしい。その日はずっと働いていたらしい。一瞬も休むことなくだ。
「本当にどうしたんだニホリ・・・」
「ワフ?」
「わかんないんだ。ニホリの方からシャットアウトされてる感じ」
ニホリは、俺の魔力を吸収することで活動している。
その影響か、お互いの考えていることが少しだけ伝わる。とは言ってもそこまで便利な物じゃない。
完全に伝わるわけじゃないし。そもそも伝わる内容だってバラバラだ。
それが、ここ最近は一切伝わらなくなった。意識すれば、その日の献立リクエストくらい出来るようになったのに、それが出来なくなっている。
「悩んでるなら、教えてほしいんだけどな・・・」
「ワフ・・・」
正直、ニホリはみんなとは違う。
フミはまぁ・・・嫁さんだし。コロちゃん達はペットで仲間。
ニホリも仲間だけど、ペットじゃない。フミに近い家族って感じだ。妹か、娘か。
まぁニホリは最初俺の事をパパって呼んでくれてたけど、最近は名前で呼んでるし。
まぁ別にそこはいいんだけど。
「家族なのになぁ」
「ワン」
「だから言えないって?まぁそれはわかってるけどさぁ」
でもフミは気がついたみたいだし・・・
「・・・無理やり聞いた方がいいかな」
「ワン」
「わかってるよ。それは最後にする」
でも・・・見てられなくなったらするかな。
そして、また数日たった。その間、ダンジョン攻略は止めた。
ニホリがあの調子だと、危ないしな。あと俺も集中できないし。
フミは、あの後ニホリと何か二人っきりで話をしたようだ。でも、ニホリの調子は変わらない。
悪化こそしなくなったが、何も変わっていない。
今も、洗濯物を畳んでいる途中でぼーっとしている。
そしてそれを、俺はまた見てるだけ。何が原因でニホリがこうなったか、見当もつかない。
「・・・うー」
「ニホリ・・・」
悪化してないと言ったが、少し正しくない。家事に集中することは増えたし、俺に話しかける回数が減ったのも変わってない。
それに、考え込むことは増えた。
「なんでだ・・・なんで」
「うん。聞いたんわうちやけど、こうなるんか」
「フミ」
「ごめん。うちからは言えんし、どうしようもないわ」
「それは前にも聞いたよ・・・やっぱり俺のことだな」
「まぁ・・・うん」
数日俺も無駄に考えていたわけではない。明らかに、俺に対しての態度が変わっている。
他の子に対しては、自分が悩んでいるから態度が変わったように見えているだけだ。
「何かしちゃったか俺・・・あの質問がダメだったか?」
「・・・」
俺が気がつくべき問題だと思っているから、フミは何も言わない。
または。ニホリから俺に直接話すべき内容なのだろう。
ニホリは、今悩んで苦しんでいる。だったら、それに気がつくのは俺の役目なんだ。
だけど、全く見当がつかない。
「わっかんねぇ」
ニホリは、少しづつだが、再び洗濯物を畳み始めた。
だけど、その動きはぎこちない。何かに耐えるように、震えている。
そして・・・泣き出してしまった。
「ッ!すまん。何かあったら頼んだ!」
フミに一言かけて、ニホリの元に向かう。
後ろでフミが何か言ってる気もするが、それどころじゃない。
今は、ニホリの近くにいなきゃ。
この時、久しぶりにニホリの声を聴いた気がした。




