29話
「え、『テイム』とったの三崎さんなの?」
「はい。ほ、本日はよろしくお願いします!」
「知り合いでよかったと思うべきか。新鮮味がないというべきか」
「う?」
「前に会ったことあるんだよ。挨拶しなさい」
「うー!」
「あ、えっと。よろしくお願いします?」
「うー!」
「よくできたなぁ」
ちゃんとできたら褒める。育児の基本だ。ダメなことはちゃんと言うこと。初めて行く場所では常に視界に入れておくこと。
「この子は・・・」
「テイムの事と込みで説明するんで後回しっす」
「はぁ」
「諦めなさい。恭輔君はこういう子ですから」
「あと、その敬語やめてもいいっすよ」
「えっと・・・」
「好きにしていいですよ?彼はどちらでもいいと思ってるでしょうし」
「強制はしないっすよ」
敬語じゃなきゃ話しづらいって人もいるしな。そういう人に無理やり敬語やめろって言うのはダメだ。人間関係にもいい事がない。
「それで、何でしたっけ。『テイム』の何がわからないと」
「テイムが失敗してしまうんです。どのモンスターにも」
「どれも?俺は一発で全部成功してますよ?」
「何か違いがあるんでしょうか?」
正直、知識って面じゃ大いにあると思うけど、なんか違いそう。
ニホリに聞けば一発でわかるんだろうけど、あんまり頼るのはよくないし。マジで答えが出ないときに聴くか。
「う?」
「みんなと遊ばせてもいいですか?」
「ええ、この付近は事情を知っている人しかいないから大丈夫ですよ」
「いえい。遊んでていいぞー」
「う!」「ぴ!」「ワン!」
一番に駆け出して行った二匹と一体。続いて残りの子たちも声をあげながら広場にダッシュしていった。
てかよくこんな広い所作れましたね。明らかに何かしらの建物潰してるよね。
おっといけない。思考がそれた。
「三崎さんはどんな感じでスキルを使ってます?」
「どんなかんじというと・・・」
「え、ああ。じゃあ何考えて使ってます?」
「何も考えてません・・・」
「は?」
「すいません!すいません!!」
「いや別に謝られなくても。なんか前回と違うような」
「恭輔君が出てたあの番組を見たんですよ」
「なるほど。ごめんなさい」
恐怖が自衛隊の人にもくるとは。
あの時のおれどんな感じだったんだ。いや、家に録画はあるけど見たくないんだよ。なんで己の醜態をわざわざ見なきゃならんのだ。
でも見た方がいいんだろうか・・・。
「と、とりあえず。テイムするとこを見させてもらえませんか?」
「はいぃ・・・・」
「やべぇ、大丈夫かこれ」
「『テイム』」
「・・・何も起きませんね」
「ダメでした」
「ダメだった時って、どうなるんです?」
「テイムに失敗しましたと聞こえてきます」
「発動はしてるのか・・・」
とりあえず、三人プラスうちの子たちで一層へ。ニホリ以外は周囲の警戒と称して殲滅してもらってる。
三崎さんはとりあえず、物理的に距離をとれば大丈夫みたいなので2メートルくらい離れている。間に藤岡さん。
「俺もやるか。『テイム』」
『テイムが失敗しました』
「あれ?俺もダメだった」
「もしかして、このダンジョンではだめなんでしょうか」
「そうかもしれないですね。移動した方がいいでしょうか」
「どうなんでしょ」
「う!」
「うお。どうした」
ニホリに頭を叩かれた。どうにも怒っているようだが。何かしたか?
「う!」
「もっと優しくしないとだめ?」
「優しく?」
「どういうことなんでしょう」
今のテイムと、俺が今までやったテイムの違いを考えてみよう。
今まではすらっぴは餌付けしたらついてきた。バトちゃんは親父にビビってた。ねっさんは俺が可愛いと思って。コロちゃんは元々家族だし。ふーちゃんは家族になる子だったから・・・。
「あ、そういうことか」
「わかったんですか?」
「わかった。だから16層まで行きましょう」
「え?」
「なんでそうなったのかしら・・・」
「いや、たぶん絶対成功するんで」
「うー?」
「増やすぞ~。女の子だぞ~」
「うー!」
うちの構成だと女の子の方が多いけど。すらっぴは不明だけど。コロちゃんふーちゃんは雌。ねっさんバトちゃんは不明。
・・・いや、多いっていうか男俺だけ?
でもすらっぴとバトちゃんは男っぽいんだけど。正確には男の子。幼稚園くらいの精神年齢。
「こんなにあっさり16層に来るなんて・・・」
「今皆さんってどこまで来てます?」
「10層で止まってます。狂化オーガに勝てる保証がないので」
「そのためにもここでテイムしましょうか。多分ここの子たちが何体かいれば勝てるでしょうし」
「ここは何が出るんですか?」
「グールとピクシーです。グールは人肉食べる方ではなく、オカルト的なグールです」
「ぞ、ゾンビですか?」
「藤岡さんゾンビ嫌い?」
「好きな人ってそんなに多くいないと思いますよ」
「まぁ、ゾンビじゃないですし。てか見た目は人間ですし」
「はい?」
「あ、来ましたよってコロちゃん早い」
「ワン?」
「ダメじゃないけど、うーん。まぁいいか。次も任せた」
「ワン!」
藤岡さんたちに一回見せておこうかと思ったけど、そのうち来るだそうしいいか。てか今日中に見そうだし。
グールの見た目は人間を化け物寄りにした感じだろうか。
そもそも、グールは人間を食らう伝承の残る怪物で、人に紛れることができる。
ハイエナを装ったりと、結構多芸な怪物だ。宗教的にもなんかあった気がする。
だが、戦闘が激化すると、文字通り化けの皮がはがれる。クトゥルフよりな感じだな。調べて画像見た方が速いぞ。
耐久力こそオーガやゴーレムより柔いが、速さは上だ。爪の鋭さから行って、殺傷能力も高いだろう。
ここまで話してなんだが、モンスターの名前は俺が仮称でつけたものがそのまま採用されているだけなので、本当の名前は知らない。テイムすればわかるけど、ピンとこないのでしない。
それでもコロちゃんよりずっと遅いし、コロちゃんのほうがよっぽど殺傷力高いんだが。
「さてさて、肝心のピクシーを探しますか~」
「余裕ですね・・・」
「何回も来てますし。ここ、夜ってだけで、そんなに条件悪くないですし」
夜だから視界は昼より悪いけど、そもそも遮蔽物ないし。あんまりデメリットないんだよな。むしろコロちゃんが無双する。
・・・常にだな。
「グールも鼻が聞くみたいで、俺より先にこっちを見つけるんですよねぇ」
「それ大変じゃ?」
「いや、そうでもないっすよ。明るくするなら方法ありますし」
ふーちゃんに頼んで周囲を照らしてもらえばいい。鬼火みたいに漂うから不気味だけど。
さて、今探しているピクシーだが、ある特徴がある。重要でもないが、若干光ってるのだ。
だから、夜のこの層だとよく見える・・・はずなんだけど見えない。近づかないとわからない。
しかも、俺たちが近づかないと攻撃してこないので大体奇襲される。しかも、一撃加えて逃げるのだ。
妖精はいたずら好きというが、そういうのは求めてない。
「なので、見つける手段はすらっぴだよりです」
「ぴ!」
「すらっぴちゃんは魔力が見えるんでしたね」
「そうです。姿が見えずとも、魔力は追えるので。さぁ、すらっぴちゃん。ピクシーはいずこに!」
「ぴ?」
「え、すぐそこ?・・・あ、本当だ」
「何もいないように見えるけど・・・」
「俺も注意すれば魔力見えますし。三匹か。ちょうどいいかな?」
「う!」
「よし、行くか。逃がさないように、壁で囲って・・・」
地面から土の壁を作り、ピクシーのいる位置に箱を作る。
これで逃げないだろう。
ピクシーのサイズは手のひらサイズ。ちっさい、上にすばしっこい。その上、魔法を使う。イメージ通りだけど、厄介なことこの上ない。倒すのは非常に面倒な敵だ。
それに、こいつらは追いつめられるともっと厄介なことになる。今回みたいに閉じ込めると・・・
「あの、恭輔君」
「なんすか」
「あの子たち、泣いてないですか?」
「泣いてますよ。ええ」
そう、泣き出すのだ。しかも全員が女の子なので、俺の心に刺さる。精神的に死ぬ。だからこの層は出来るだけ来なかったし。ピクシーは不意打ち回避だけで逃げてたんだけど。
久々にやると、非常によくない。俺はいったい何をしているんだ的な良心が俺を殺しに来てる。
「う?」
「お願いしていい?」
「う!」
「はい、お菓子と蜂蜜」
「ここで使うんですね」
「何を買ったのかと思ったら・・・」
「経費だったんでつい」
作戦第一弾。餌付け。以上。
「これが作戦ですか?」
「いや、これは逃げられないようにするための物なので、『テイム』直接は関係ないですよ?」
「じゃあ『テイム』はどうすれば・・・」




