272話
本日一話です
「ところでこのズボンは」
「シャツと同じですね」
「・・・それ以外には?」
「??特には何も」
かなしい
「うーし。やるかーコロちゃん」
「ワンワン!!」
尻尾を振り回して、今にもこちらに飛び掛かってきそうなコロちゃんを前にする。
内心、全力で動くってこういうことかいと思いつつ、準備運動を進めていく。
新しい装備・・・元々俺用に作られていたものを新人向けに変えて、俺が使っても問題ないのかを確かめる。
そのためには、可能なことならダンジョンで戦った方がいいのだが、一々行ってデータ撮るのも面倒だ。そこで、親父に指定されて連れてきていたコロちゃんと戦うことになった。
なんでフミとじゃダメなのかと思わんでもないけど、ちゃんと理由があるらしい。
「『魔刃』?」
「そうだ。今回の装備は、防刃性能が高い」
「まぁ・・・打撃防ぐならそもそも服は向いてないだろ」
「そうだな。それこそ、防護服とか、もっと鎧っぽいのが好ましいが・・・」
「動きにくいわな。慣れてないし。身体能力は高いけど、それでちゃんと動けるかは別だろう」
「そういうことだ」
まぁ実際のところ、今回の装備の大事なところは破けにくいところだ。
ダンジョンで俺の服がダメになる時って大体転がって破ける時だし。
逆にそれ以外の要因って、大体食らった魔法のせいなんだけど。あれはそもそも食らったらダメな範囲なんだけど。
炎系とか服燃えるし。雷も一緒だな。
だから、ダンジョン内で重要なのは破けないことだ。刃物を使うやつもいるし、噛みついてきたり爪で引っかいてきたりってのもあるし。
なんだかんだ破ける系の攻撃はいっぱいある。
・・・まぁ本当は機動隊とかが使ってる防護装備とかがいいんだけど、あれって高いからなぁ。
俺個人が使うなら問題なさそうなんだけど、これから先増えていくであろう冒険者すべてに渡すのは無理だろう。
だからこそ今回新しく装備を作っている面もあるらしいんだが。ダンジョンで手に入ったものなら安価・・・俺ががんばれば安いからな。
そろそろ集中しよう。
コロちゃんも、既に姿勢を低く構えている。
コロちゃんの戦闘方法は単純。高速で敵に近づいて魔刃で切る。これだけだ。
うちの子達は魔法組はその魔法の中でいろいろ試行錯誤しているから手札は多いが、コロちゃんとねっさんの二匹の攻撃方法は基本的に一つしかない。
だからこそ、それが脅威で対処が難しいのだが。
開始のタイミングは、こちらにゆだねられている。
故に、初手だけは俺が取れる。まぁ魔法の使用は控えなきゃいけないけど。施設壊すわけいかないし。
「・・・」
「・・・」
お互いににらみ合う様な形になる。
緊張感が高まる。
ガラスの向うでは、一人の青年と狼がにらみ合っている。
お互いに、異常なまでに集中しているのがガラス越しに伝わる。
同じ空間にいないにも関わらず、緊張してくる。
彼らのデータを取るために、この部屋はあらゆる角度をモニタリングできるようになっている。
だからだろうか、このモニタールームにいる人間すべてが、彼らの緊張感に当てられている。
そして、戦闘は唐突に始まった。
恭輔とコロちゃん。両者が同時に動いた。
「同時!?」
「いや、恭輔の方が早かった」
単純に、コロちゃんが恭輔の動きを見てから動いた速度が速すぎたのだ。
その速度は圧倒的だ。恭輔とコロちゃんの中心点からやや恭輔側に近いところでぶつかり合った。
コロちゃんは魔刃を一瞬だけ発生させて切りつけたのに対し、恭輔は手に作った剣で受け止める。
本来、コロちゃんの魔刃を受け止めるだけの硬度を持つ武器を一瞬で生み出すのは無理なのだが、それを『真化』で補った上に『硬質化』で剣を硬化させた。
地味に、自分以外の物を硬化をすることが出来なかった恭輔だが、ここに来て可能になった。
コロちゃんが消える。次の瞬間には恭輔の後ろにいた。
それを恭輔も分かっている。振り返ることなく跳んで回避。恭輔のいた空間を刃が通り過ぎる。
宙返りで空中でコロちゃんを捉え、剣を振るおうとしたが、そこにコロちゃんはいない。
跳んで動きの取れない恭輔に向かって、回転しながら突っ込んできていた。
「当たる!」
「いや、これは・・・」
恭輔は、コロちゃんがいなくなったことを確認するや否や剣を手放し、コロちゃんが向かってきている方向に腕をクロスさせる。
そのまま腕でコロちゃんを体ごと受け止める。空中で踏ん張りがきかず、そのまま後方に押される。
その間、魔刃が恭輔の腕を切るはずだった。
地面に脚がついた途端に、コロちゃんが恭輔から弾き飛ばされる。腕で恭輔がコロちゃんを押したのだ。
魔刃で切られたはずの腕で。
「ふぃー」
「・・・ワフ?」
「ん?問題ないよ。まったく切れてない」
『硬質化』が服に使えるようになったのは運がよかった。
正直、今まで意識して使ったことはなかったのだが。戦闘開始前に出来ると思ったのだ。
俺がコロちゃんと戦うのは、初めてではない。訓練と称して軽く戦ったことはいっぱいあるし。今も時々やっている。
だが、本気で戦うのはこれが初めてだ。
だから、俺も結構うれしいのだろう。それが、『真化』の効果を引き上げている。
装備全てを硬化させたのだ。
そうでなければ、コロちゃんの回転切り(ニホリ命名)を受け止めるのはできない。
ぶっちゃけマジで腕切り落とされるかと。
それだけマジなのだ。コロちゃんが。
腕を軽く振るって調子を確かめる。回転している関係上、刃が何回も腕に当たることになる。
勢いがついている分、衝撃がすごい。腕が軽くしびれている。
「・・・ダメじゃねこれ」
「ワフ?」
「いや、剣持てない」
軽く握ることはできるが、コロちゃんを受け止めることはできないだろう。
「・・・終了!」
「ワン!」
「おーよしよし」
近寄ってきたコロちゃんを撫でる撫でる。執拗に撫でる。
頭から始まってお腹を撫でて、コロちゃんがごろんと横になったら力を込めてわしわしする。
『いや、ここで触れ合わないでくれ』
「あ、もう無理なんで」
『服は大丈夫か?』
「まぁね。ただ、やっぱり『硬質化』込みじゃないと腕ごと切られるよこれ」
『大丈夫なのか?』
「大丈夫大丈夫。服が切れたの確認して発動させたから。腕は問題ない」
コロちゃんの『魔刃』は、実のところ服を切っていた。
最初の一振りが当たったその瞬間、服が少し切れた。それを見て、二撃目が来る前に『硬質化』で受け止めた。
一瞬の出来事だ。コンマ一秒にも満たない時間。恭輔はそれを見て、行動に移した。
「はぁ、それにしても。魔法抜きだとこうなるのか」
「ワフ?」
「いや、近接戦だとやっぱり圧倒的に弱いなぁと」
魔法抜きとはいうが、正確には遠距離攻撃を使用してないのだが。
「んー・・・なんかスキル増えないかなぁ」
「ワン」
「ええーでもそれはそれでしょー」
『いや、だから。終わったんだからこっち来てくれないか』
「はーい」
「ワフ」
「はいこれ。直してね」
「うわぁー本当にほとんど切れてなーい」
「・・・すさまじいですね。普通の服でも構わないって本当だったんですね」
「いやぁ。ないよりあった方がいいと思いますけどね」
防御力って意味なら確かに問題ないんだけど、どうしても攻撃以外の環境で被害を受けるからな。
特に森とかだと木の枝とかに引っかかって傷になったり、体温の低下とか防げなかったり。ちゃんとした物は着た方がいい。
俺はポヨネもいるからその辺無視できるけど。
着ていた装備を渡す。貰ってってもいいとは言われたが、ちょっと破いちゃったから修復して後日受け取る形になる。
まぁ親父が持ってくるんだろうけど。
「ワフ」
「うい。帰っか」
「お。もうご帰宅侍?」
「ご帰宅侍・・・何故侍」
「なんとなく」
うーん。この人あれなんだな。日によってエキセントリックさが違うんだね。




