232話
昼一話夜一話です。
ポヨネが新たにペットになり、はや一週間。。
この一週間、俺は俺で『昇華』の不調が治らなかったり。
ポヨネが引き続きユニちゃんの面倒を見てくれたり、ヨミさんがポヨネとのおしとやかさの差に愕然としたしたりとなんか色々あった。
まぁ自分の分身のはずなのに元ねっさんが入っているとは言え何この差はって感じだったけど。
まぁ引き続きグダグダ・・・はしたいんだけど。いい加減『昇華』をどうにかしないとマズイ。
あと、これはヨミさんに言われたことなんだが。
「弱くなってる?」
「はい。ロックリザードに苦戦したんですよね」
「不本意ながら」
「それ、おかしいんですよ」
「うん?」
「恭輔さんのレベルなら苦戦とかしないはずなんですけど」
「ああ~」
それに関しては実は俺も思ってた。
なんかレベルに対して俺の戦力が低いと言うか。
「多分『昇華』に慣れすぎて、恭輔さん自身が動きが鈍くなってるんです」
「スペックが下がったから動きのコツを忘れてるんだろう?」
「そうですね。それで、その後まともに戦ってない」
「うっ」
「お姉さまとか、ニホリちゃんとかに止められてるんでしょうけど。やらないと戻りませんよ?」
と、そんな会話がポヨネ歓迎会の時に言われた。
確かに、マジの戦闘はあのロックリザード以降やってない。やろうとすると皆に止められるし、先に倒しちゃう。
なんかむっちゃ過保護になられてる。
親父に言ったことは間違いなかった。このままだと、フミも参戦して俺に戦闘させないってことになりそう。
だが、ダンジョンで戦うのはみんなに止められる。
なので久々にあれをやります。
22層へ移動して・・・
「ばっちこーい!」
「ええ~ホンマにやるん~?」
フミとの模擬戦。なんだかんだ色々あってやれてなかったが、俺の能力を安全に戻すにはちょうどいいだろう。
「調整利かなさそうで嫌なんやけど・・・」
「前は出来てたんだからいけるっしょ」
それに『硬質化』だけはちゃんと使い続けてたんだ。そこそこ戻ってるはずだ。
いつ使ってたか?まぁ使うだけなら日常で問題ないしな。むしろ常にスキルを使用し続ける集中力のいい訓練になったよ。
「・・・まぁ、なら大丈夫・・・やと思うけど」
「まぁまぁ。最悪ポヨネもいるし」
「え、私。本体に比べたら性能落ちてるんですけど」
「それは知ってるど、出来ることはそこまで変わらないでしょ?」
「まぁ数だけは」
結界の補助効果だったら多少下がってもいい感じになる。
「なるほど、みんなが止める理由がわかりました」
「え」
「恭輔さん、無茶しそうな目してますよ」
「マジか」
「マジやで」
「マジです」
無茶しそうな目ってなんだ。
「だからやめへん?」
「・・・やめたって進まないからな。やるぞ」
「うへぇ」
「ああ、意地でも意思を変えない目だ・・・」
俺そんなに目に出るのか?
フミとの模擬戦は、大体俺が最初に攻撃する。
ハンデってのもあるけど、そうじゃないと防戦一方で攻撃できないし。
まぁ防御の訓練の時はフミに攻撃してもらうんだけど。
今回は、攻撃も防御も総合的にやる。戦闘に必要な物をより高い質で取り戻す。
『昇華』が使えなくなって性能が下がったってのもあるが、おそらくそれ以上の問題があるともヨミさんに言われたしな。
・・・まぁ、その内容も分かっている。
「・・・行くぞ」
「はぁ・・・ええで」
初手は土の槍で牽制。威力を犠牲に速度を重視する。
槍は一瞬でフミまでたどり着くが、それは手を払うだけで割られる。
その隙に、別の魔法の準備が終わる。
「お?」
「こいつも食らっとけ!」
槍ではそもそもの耐久力が足りてない。ならばもっと硬いもので。
細い槍から大きい物へ。
槍から石柱に
「ちょぉ!?」
「まだ行くぞ!」
石柱と言っても、ただ土を圧縮しただけ、硬度の程はやはり前ほど高くない。
だから、少し工夫した。
「言うてこれくらいなら・・・なぁ!?」
フミが殴って柱を砕こうとした瞬間、手が柱の上で滑った。
正確には殴ろうとしたのに芯を捉えられなかった。
「回っとる!?」
「そら普通には撃たないさ!!」
柱全体が回転してるのだ。そのせいで当たるが衝撃を逸らされる。
フミには関係なかったが。
「この!!」
殴ってダメなら蹴り砕く。足は腕の三倍の力があるとかなんとか。
衝撃を流されても関係なしと言わんばかりにフミの倍くらいある太さの柱があっさり砕かれる。
「だけど近づいたぞ!」
「クッ!ホンマよわなっとるんか恭輔!」
俺は確かに弱くなっているが、それでも最後にフミと戦った時に比べたら基本的なスペックは上がっている。
それに最初にロックリザードと戦った時に比べたら魔法の発動速度も魔法自体の質も大分もとに戻っている。
だから、魔法だけなら結構いける。
だが近接戦はそうもいかない。想像より体が動いていないのがわかる。
フェイントを混ぜて攻撃してもそのフェイントを見て対応されてる。
殴れば流され、近くで魔法を使えば前兆を見られて先に潰される。
フミが積極的に攻撃してこないのが大きいな。
「ほ~れ」
「クッソ!」
フミの軽い攻撃すら俺は受け流すのに苦労する。
しっぽの大振りを体全体を使っていなす。完全に受け流せず、体勢が崩れたところをフミがさらに追撃。
それを大きく飛びのいて無理やり回避する。
距離が離れたところでさらにフミの追撃。
「距離とってええんか?」
「おおう!!!」
自分の目の前に魔力の高まり。魔法の発動前兆だ。
「ふっとべ!」
「するかよ!!」
目の前で発火。かなり高火力だ。
それを無理やり即発動で壁を作って防ぐ。
「守ってばっかじゃ勝てへんで~」
「イキられてんのむかつくな!!」
始めるまであんだけ渋ってたのに始まったらこれだよ!
クソマジで一矢報いてやる。
とは言うものの、現時点でわかったが、近づくと押し負ける。
あまり攻撃しないとは言ったが、甘い動きをしたら咎めるようにフミは攻撃してくる。
でも今の近づかないとダメージ入れるのも難しい。
だったら前にもやったあれで!
「おら!」
「お」
フミの周囲に石柱を展開。硬度は大きく下げて、数を優先する。回転もしてない。
「ほれ」
それらはフミに近づく前に砕かれる。しっぽを振り回すことで発生する衝撃で全部砕かれた。
だが俺はその一瞬の隙が欲しかった。
地面から手が生えて、フミの両足を掴み沈めた。
「っっ!!これ」
「そういうこと」
大分前の模擬戦でもやった地中での高速移動。それと地面の高速を組み合わせた物。
地中での高速移動は魔法で埋まり、埋まったところから魔法で土を動かしてフミまで移動する。
この間に、移動は全部魔法でやっているので身体能力に依存せずに動ける。
石柱の迎撃、足を埋められたことで出来た時間に接近。
チャージを終わらせる。
「この距離なら、防げないだろ!!」
「・・・あはぁ」
腕に制作した土の杭。
フミに当たる寸前で杭が発射され、フミを貫こうと突き進む・・・はずだった。
杭は、当たる前に砕かれた。
「んっふ」
「!?!?」
フミはその姿勢のまま杭を砕いて俺も攻撃してきた。
砕かれるところから俺に拳が当たるまでの瞬間がギリギリ目で追えたので『硬質化』は間に合ったが・・・
「グッ!」
「あらぁ?今の止めるんか。ホンマ弱く成っとるんか?」
「っっっ!!ハッ!・・・らしい・・・な」
杭を着けていた腕とは逆の腕でギリギリ防げた。
だが一撃防げただけで次は無理だ。一回で腕が痺れている。
「ふふふ。なぁ。ちょいとお話ええか?」
「はぁ・・・はぁ・・・何」
「うちな?今の恭輔が戦うんわ・・・やっぱり賛成できなかったんよ」
「・・・弱くなったから?」
「というよりはな恭輔、『昇華』を出さんように変に手加減しながら戦っとたやろ」
だから嫌だったんよ。フミは俺の目をまっすぐ見てそう言った。
俺が弱くなった理由。
それは俺がそもそも本気で戦えなくなったから。
手加減・・・というより、心の何かがストッパーになって本気が出せない。
「その状態で戦うなんて、うちらがいてもなんかあるかもしれへん。それは危険すぎるわ」
「まぁな」
「でも、ちょっとうちの認識が間違っとったんよ」
「あん?」
「恭輔、そもそも強く成っとるんやもん。驚いたわ」
「・・・そらどうも」
様子がおかしい。俺に話しかけるというよりは、自分自身に言い聞かせている?
「恭輔は、もっと強くなりたいんよな?」
「ああ」
「そこは即答するんやね」
「まぁ・・・そうだと。だって俺がダンジョンに潜っている理由は」
「恭輔が気になったから。まぁ興味本位やな」
「そうだな」
結局はそうなのだ。俺がダンジョンに潜る理由は、どこまで行っても変わらない。
あのダンジョンの人型たちが50層で待っているかどうかは関係ない。
「・・・きっと恭輔の先は、もっと強いモンスターがいっぱいおる」
「だろうな」
「でも、やっぱりうちは恭輔に危ない目にあってほしくないんよ」
「・・・」
「こう言うても、恭輔止まってくれへんのやろ?」
「・・・ああ。何より」
「わかっとる。うちらの為や。そうじゃなきゃ、恭輔はうちらを抱えられない、やろ?」
「・・・我ながら情けないがな」
「そんなことないわ。十分、恭輔は十分よぉやっとる」
そうは言うが、ダンジョンがなければ俺はただの学生だっただろう。
フミと出会うことも、すらっぴに餌付けすることもなかった。コロちゃんと一緒に、だらだら一日を過ごしていただろう。
「それやのに、恭輔はまだ足りん言うやん?」
「ああ。まだ足りない」
「・・・やから、嫌やけど、すっごく嫌やけど。うち、ちょい本気出すわ」
「それは・・・」
「ちょっとだけ、ちょっとだけ鬼やるわ」
「・・・フミ?」
「せやから恭輔?」
死なんといてな?
その瞬間、俺は吹き飛ばされた。




