22話
「いやー撮影は強敵でしたね!」
「ワン」
「クゥ」
「あー、はいはい。撫でます撫でます」
撮影の間中、コロちゃん達もばれないようにフード付きの服着たりとかなんやらやってたので大変不機嫌であった。
窮屈なもの着せやがってって感じに。
そのご機嫌取りのために今は望むままになでている所なのだ。
コロちゃんはお腹のあたり、ふーちゃんは首の下。
その部分を撫でられるのが気持ちいいのか、10分くらいずっと撫で続けている。
全然疲れないし、俺も楽しいからいいんだけど。
すらっぴ達は庭で遊んでる。
まぁみんなは昨日遊んでたようなものだし。
一応、危なくないようにすらっぴ達には中の敵を倒してもらったんだが、すごく楽しかったそうだ。
皆のレベル的にも、昨日行った階層は大したことないしな。基本は1層。最大で10層まで行った。
その10層で俺が問題起こしたから、ちょっとまずいことになってるかもしれないけど。
「やっぱり、私たちじゃ来れませんね・・・」
「そうだね~。すっごく強そうだもん」
10層まで来ているが、基本的に敵の姿はない。先に倒してもらってるから、俺たちの前に出てくる敵はほとんどいない。
その結果、アイドル二人が危なくなることはなかったんだが、いまいち危険性を認識できてないのかもしれない。
それは、俺たちがあっさりと敵を倒してしまっているからかもしれないが。
ただ、加減が効かないのだ。明らかに力を出しすぎている。なのに、全く疲労はたまらない。
何かレベルアップの影響なのだろうか?
「ここの階層で終わりなんだっけ?」
「ええ、そのはずですね。・・・ナンさん?」
後ろで二人が何か言っている。
聞こえてはいるが、聞く意味はそんなにないだろう。
重要なのは、ここの危険性を伝えること。だから、中途半端はダメだ。もっと危ない所に。
勘違いした誰かに、俺の探索が邪魔されないように・・・。
「イクゾ」
「え?どこですか?」
「ボス」
「え!危ないって・・・」
「イクゾ」
今の階層まで、ボスには会ってない。
仕組みとしては、コロちゃんに先行してもらい、ボスを倒してもらう。その状態で俺たちが入ればボスは出てこない。
そうすることでボスとは戦わずにここまで来ることができるのだ。
でも、ボス戦を見せたいとかはない。
ただ、危険な場所を、敵を。見せつけるのだ。そうじゃないと、ジャマサレル・・・。
「ここって・・・」
「ボスの扉・・・今回は私たちが先に入るんですか?」
「ハヤクシロ」
「あ、はい・・・」
10層フロアボス、狂化オーガ。
一度死にかけた敵だ。ただ、今なら問題ない。すぐに片が付くはずだ。
それに、あいつなら恐怖を与えるのにちょうどいい。
「ここ・・・なんかこわい・・・」
「体が・・・・・・」
既に、狂化の影響は出ている。
自分が弱ければ弱いほど、体は竦み、震える。そんな雰囲気がこの広場にも出ているのだ。
それは、カメラ越しでも伝わっていた。今までとは明らかに違うその場所。
そこにいる人も、テレビで見ている人も、誰しもが、ここはマズイと本能的に察した。
そして、それは現れた。
「 」
「アレガ、ボス」
「あ、あれが・・・!」
「な、なにあれぇ!」
通常のオーガとは違う体色。白濁した目。なにより、全身からにじみ出る狂気。
こちらを正確に認識していないのにもかかわらず、それが放つオーラにのまれていた。
「カンケイナイガ」
「動けるの・・・?」
「モンダイナイ。マモッテロ」
コロちゃんとふーちゃんは一応その場に残しておく。
戦力的には俺一人でやるべきではないが、今はこれのほうがいい。巻き込みかねない。
「トットトオキロ」
「・・・■■■」
「ジャアコチカライクゾ」
「■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!」
「あ・・・ああ!」
「怖い・・・ダメェ!」
「ウルサイ」
「■■■!?」
狂化オーガが、大きく咆哮を放つ。
しかし、そんなものは今更意味がない。
「ウルサインダヨ・・・」
「ガァ!」
「な、なにあれ・・・」
二人の目には、今までの敵が可愛く見えるほどの存在がいる。
狂化オーガではない。恭輔だ。
今、恭輔の戦闘力は本人の実感通り、跳ね上がっている。
それも通常の何倍も上がっているのだ。その影響で、恭輔からも強者のオーラが出ている。
ただそのオーラは、狂化オーガの放つ狂気に近い。
今、恭輔は狂化オーガにしたことはただ一つ。
近づいて殴った。それだけだ。それだけで、狂化オーガは膝を地につけた。
「ジャア・・・オシマイ」
狂化オーガの周囲を囲むように細い土の槍を出現させる。
それらが一斉にオーガを刺し貫く。その強固な皮膚を、一切の抵抗を許さずに貫通した。
狂化オーガは踊るように貫かれていった。
全身から血が噴き出る。
狂化オーガは、彼にあらがうこともできずに殺された。
一方的に敵を倒す。いや、なぶるように倒す姿は、彼が本当に先ほどと同じ人間なのかを疑うレベルで、狂っているように見えた。
「まぁ、あれで見事にビビられたわけだが・・・」
「ワン」
「クゥ」
「はいはい。次はどこ~」
まぁ気にしない。嫌われたのは俺というより、謎の仮面ナンさん。
確かに、推しアイドルにああも嫌われたらドルオタとして傷つくと思ったのだが、あんまりダメージがないのだ。
それを感じなかったようだが、それ以外に変わったこともないし。案外そこまで好きじゃなかったのか?
「・・・クゥ」
「ん?どうした?」
「ワフ」
「おおう。コロちゃんまで。どうしたのよ」
心配そうにこちらを見ている二匹。俺がどこかに行くと思ったのか。腕に縋り付いている。
「・・・大丈夫だよ。俺は大丈夫」
「・・・クゥ?」
「どこにも行かないよ」
確かに、あのダンジョンで俺は何かが変わってしまったのかもしれない。
でも大丈夫だ。俺は、この子たちからは離れない。可能ならば、ずっと一緒にいたいくらいだからな!




