217話
夜分です
昨日は結局、まったくご飯を食べないで一日寝てしまっていたようだ。
気がついたら日付が変わっている。
俺が目を覚ますと同時に、フミも起きたようだ。
「・・・恭輔」
「・・・フミ」
フミは、ゆっくりとだが離れようとした。
だから、逆に抱きしめる。
「離れるな」
「・・・恭輔」
「昨日の事は、あの人型に聞いた。大丈夫だよ。お前のせいじゃない」
「・・・でも」
「傍にいたら危ない?」
「・・・うん」
「ふざけんな。死んでも離さないぞ」
強く、より強く抱きしめる。
確かにフミの思うことも分かる。
なにせ、フミに対しては『昇華』も効果が出せない。俺の心が、フミと戦うことを拒否する。
だから、フミが俺に害意を持っても抵抗できないだろう。
「それでも、絶対に近くにいてほしい」
「・・・」
「むしろ、本当は俺から離れなきゃいけないんだ」
「どうして?」
「・・・昨日のお前は、『昇華』の影響を受けてたそうだ」
「・・・え?」
「俺の『昇華』の副作用・・・覚えてるな?」
「・・・感情の不安定化」
「そうだ。それが、お前にも、いや、お前たち全員に影響が出るらしい」
「聞いたんわそれ?」
「ああ、他にもおかしなやつにも会ったよ」
俺がいると、フミは同じことで何度も悩むことになる。
俺から離れれば、『昇華』の影響を受けなくなる。
「でもな、嫌なんだよ・・・」
「・・・」
「お前が・・・苦しむのがわかってるのに。お前がいなくなるのは嫌なんだよ・・・」
「恭輔・・・」
どうしようもない・・・本当に、どうしようもない。
「フミ・・・」
「・・・ん。あ、んん」
お互いに、求めあうかのようにキスをする。
そうすることで、フミの心が伝わってくる。
フミも、離れたくないのだ。でも、俺を危ない目にあわせたくない。そういう気持ちもある。
自分がこれ以上恭輔を傷つけてしまわないうちに、どこか遠くへ・・・
「フミ」
「恭輔?」
「絶対に、離れるな。どこにも行くな」
「・・・ええの?」
「構わない。何があっても、お前を嫌いになんかならないし。これ以上、お前に俺を傷つけさせない」
「・・・」
「俺は、お前が好きだ。いいな?」
「・・・はい」
フミを、再び抱きしめる。
俺は、もっと強くならなきゃいけない。
「おはyブホ!?」
「恭輔!?」
部屋から出た瞬間。コロちゃんがいたので挨拶した腹に突進された。
今完全に『高速移動』込みだったよね?
「クゥン・・・」
「え?ごめんなさい?」
「・・・あ、恭輔多分」
「ああ、コロちゃんにも影響出てたのか・・・」
フミだけじゃなかったか。すでにコロちゃんにも『昇華』の影響が出てる。
だからといって、どうしようもないんだけど。
「大丈夫だってコロちゃん。昨日のはお前のせいじゃないよ」
「クゥン」(スリスリ
「昨日のコロちゃん。むっちゃおこやったからな~」
「しゃべり方とかいつの時代って感じだったわ」
「・・・ワフ?」
「うん。なんかこう・・・映画に出てきそうな感じだった」
黙れ小僧とか言いそうな感じ。
「ああ、あれも狼やったっけ?」
「まぁ流石にコロちゃんよりは大きいけど」
「・・・ワン?」
「仲直り?うん。ちゃんとしたよ」
「もう大丈夫やで~」
「・・・ワン!」
「ふふ。ありがとな」
「・・・うん?」
最後の一言だけ聞こえなかった。
何を言っていたのだろうか。フミもお礼を言っていたが。
「あ、そうだ。ニホリにご飯食べたいって・・・」
「う!」
「おお!?」
「ええ!?」
「ワン」
「う」
「ワン!」
「う~」
何故か天井付近に浮いて待機していたニホリ。
タイミングを見計らってたって何?何のタイミング?
「お茶目?」
「らしい」
「うーうー?」
「え?ああ、仲直りはしたけど・・・?」
「うー!」
仲直りしたか聞くだけ聞いてワーって一階に戻っていった。
・・・え、なんだったの?
「・・・とりあえず、俺たちも降りるか」
「せやな」
「ワン」
今日のニホリは不思議ちゃんだな・・・
「おhおぼ!?」
「恭輔!?」
「ワン!?」
デジャブである。
「ぴぴ!?」
「き!?」
「クゥ!?」
「ちゅちゅ!?」
「るる!?」
「にゃ!?」
「・・・愛されてるのか俺?」
「むっちゃ愛されとる」
皆大丈夫!?って聞いてきてくれているのだ。愛されてるんだろうな。
それ以上に突進止めてって感じだったけど。
庭の方には、しーちゃんとユニちゃん。
こちらを見つめているが、大丈夫そうなのを確認したら小屋に戻っていった。
二匹とも、心配させてしまったようだ。
「ってあれ?こういう時に一番最初に抱き着いてくるロラちゃんは?」
「ここよ~」
「」(オハヨ
「ああ、母さんもいたのか。おはよう」
「おはよう恭輔。うん、大丈夫みたいね」
「まぁね。いろいろあったよ」
本当にね。
「ああ、親父は?」
「宗助さん?お仕事行ったわよ~」
「マジか。話したいことあったんだけどな」
今回のことは、俺とフミの喧嘩・・・俺が悪いんだけど。
言い方を変えれば、スキルとダンジョンについていろいろ学べたと見ることもできる。
あまり考えたくはないがな。今はフミのことだけで頭いっぱいだし。
「・・・まぁ言うのは今度でもいいと思うわよ?」
「うん?」
「だって、今の恭輔はフミさんの事だけで頭いっぱいでしょ?」
「・・・わかる?」
「もちろんよ~。だって、お母さんだもの」
母は強しというが・・・
「勝てんなぁ・・・」
「ふふふ。まだまだね~」
「その通りで」
「うー!」
「あら、出来たのね」
「おう、ちょっと食べてくるわ」
「昨日何も食べてないんだから、ゆっくりね」
「わかってるよ」
「うーうー!」
「恭輔ー!」
「あーはいはい。今行く」




