216話
昼一話夜一話です。
こういう描写は難しい
『昇華』の影響。
それがフミにまで及んでいたのは俺にとっては衝撃の事実だった。
そしてこのまま使い続ければ、他の子にも影響が出る。
「マジか・・・」
「こちらの想像を超えている」
「・・・何がだ?」
「成長率」
「!!」
「『昇華』の本質は、能力の上昇ではない」
「・・・俺自体になにかしらの補正をかけ続ける物・・・?」
「肯定。あなたは、今も『昇華』の効果を受け続けている」
「効果は俺が成長するものすべてか?」
「肯定。技術も、身体能力も、全てに上昇補正を掛ける」
「じゃあ・・・能力を上昇させてない状態でも『昇華』は発動している?」
「肯定」
「・・・使用を控えて、みんなへの影響を出さないことは?」
「不可能」
「・・・どうしようもないんだな」
「否定」
「・・・はい?」
今はどうしようもないからあきらめろ的な流れではないのかと小一時間問い詰めたい。
「『昇華』の影響は、いずれ意味がなくなる」
「・・・あ、慣れるのか」
「そして、『昇華』は進化する」
「なっ!?」
「本来の『昇華』ではないが、間違いなく進化する」
本来の『昇華』?
確か、所持しているスキルが一段階上のスキルに進化するスキル・・・だったよな?
「だが、『昇華』は使用したら消えるんだろ?だったら進化まで待つなんてできないんじゃ」
「『昇華』は所持しているだけで経験値を得るスキル。故に、使用タイミングを遅れせればいずれは進化する」
なるほど、スキルスクロールを使用して『昇華』を一度取得。
『妖怪化』のように、使用すると勝手に効果が発動するものだと思っていたのだが、違うようだ。
使用タイミングをこちら側で考えられ、持っているだけで進化までするのなら『昇華』を先の物にすることは可能だろう。
「あなたの場合、『昇華』は消えずに使い続けられる。近いうちに進化するはず」
「はずって・・・お前わかんないのか?ダンジョンなんだろ?」
「肯定」
「だったら、スキルのことだったら全部わかるんじゃ」
「否定。スキルは私の管轄ではない」
「・・・は?」
いまこいつ、衝撃の事実を言わなかったか?
「ほ、他にも、お前と同じ存在がいるのか?」
「否定」
「ん?いない・・・お前の上位個体がいる?」
「肯定」
「最っ悪だ・・・」
このダンジョンの上位個体。
そいつがスキルを作り出したってことか?
なんなら、このダンジョンを名乗る人型自体を生み出した存在って可能性が高い?
「勘弁してくれよ」
「何を」
「これ以上、ややこしくなっても困るっての」
「疑問があるなら答える」
「・・・なんで今日はこんなに親切なの?」
「あなたにつぶれられると困る」
「・・・ああ、なんか俺に用があったんだっけ?50層まで行けって」
「肯定。そのために、そこの個体『フミ』もいてもらわねばマズイと判断した」
「なるほどね・・・」
だから、止めに来てくれたのか。フミが俺を殺してしまわないように。
逆に、俺が自力で助かっても、自分のしたことを理解したフミがさっきみたいに取り乱し、最悪自殺なんてしたものなら。
俺は、間違いなく使えなくなる。
「すまん。ありがとう」
「礼は不要。こちらの都合」
「それでもだ。ありがとう」
「・・・受け取る」
少し、返事に詰まった。
恐らく、さっき言ったことはこいつ自信にも適応させるはずだ。
ダンジョンは生まれて間もない。
きっと、こいつ自身もそういうことなんだろう。
「もう一ついいか?」
「構わない」
「お前を生み出した存在・・・俺に何かしたか?」
「・・・それは・・・っ!?」
「なぁ!?」
ダンジョンの人型が何かを応えようとしたその瞬間。
今までと比べ物にならない魔力・・・いや、違う。存在がデカすぎるんだ。
気配から判断できる強さも、肌で感じる威圧感も、何もかもが桁違い。
目の前にいるダンジョンの人型が小さく感じるほど。
初めてフミに出会った時だってここまでじゃなかった。
「な・・・なんだこれ・・・」
「・・・なぜここに」
「だってぇ。ダンジョンちゃん。それはまだ言っちゃだめよって言ったじゃないの~」
「・・・聞いてない」
「あら?どうだったっけ~」
デカい・・・圧倒的なまでに。
ダンジョンを始めて見た時、勝てる気がしないとは思った。
だけど、今現れたこいつは、そういう次元じゃない。見ただけで、戦う気すらなくすレベル。
だけど・・・
「なんでその露出度・・・?」
「あら?」
「・・・もとからこんなん」
「マジか・・・」
胸元が露出・・・北半球っていうの?それが丸見え。全身を白い服に身を包み、蒼の髪は透き通るようだ。
「すごいわね~。お話できるくらいになってるのね~」
「・・・あまり」
「わかっているわ。今はまだ会うはずじゃないものね。でも・・・」
「・・・」
「とっさに彼女をかばえる余裕があるのなら、すでに基準は越えているわね~」
「『昇華』が変化している。何かした?」
「うん?元々あなたに渡した『昇華』はこれであってるわよ?」
「何故」
「だって、普通のを渡しても意味ないもの~」
「・・・理解」
その露出の多い女性が現れた瞬間。とっさにフミを俺の後ろに移動させた。
それをしたからと言って、フミを守り切れるとは思わないが、しないわけにはいかなかった。
「ふふふ。あなたの疑問は、ちゃんと答えてあげるわ。50層でね」
「・・・」
「待ってる」
「・・・一つだけいいか?」
「どうぞ」
「・・さっきの質問だけど、それについて答えちゃいけないって、それ俺に何かしてるんだよな?」
空気が固まった。
ダンジョンの方は、何食わぬ顔というか、状況が理解できてない顔だ。
しかし、蒼い髪の女性の方は、表情こそそのままだが、冷や汗すごい。
「な、なんのことかしら~」
「いや、俺に何をしたならともかく、何かしたのか?って質問だぞ?」
「そ、そうね~」
「つまり、それを止めるって事は、何かしたんでしょ?」
「・・・あら~?」
別に何かの内容まで聞いた覚えはないんだがなぁ・・・」
「ほら、だからこいつも答えようとしたんじゃないの?」
「肯定」
「ダンジョンちゃん!?」
「私は、内容について口止めはされたが、何かをされたかについては言われていない」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
ま、間抜けが見つかってしまった・・・なんかすごそうな登場だったのに間抜けが判明してしまったぁ・・・
「これ、親?」
「それにあたる」
「マジか」
「マジ」
「うわぁ・・・」
「・・・おさらば!!」
「あ」
「あ」
ダンジョンを巻き込んで、蒼いの女性は消えていった。
感じていた気配は、今はもう何も残っていない。
「・・・ハァ・・・ハァ・・・」
だが、相手がいくら抜けている存在だったとは言え、格が違う存在であることは間違いがない。
目の前にいるだけで、相応に体力を消耗した。
「ふ、フフフ。よくもまぁ。・・・喋れたもんだ」
正直、自分でもよくあんなこと言えたなと思う。
殺されるってことは、相手の態度から見てもないと思ったが、それでも厳しかった。
「・・・そうだ。フミ」
フミははまだ寝ていた。あれだけの存在が近くにいて、よくもまぁ寝てられたなと思うが。まぁ仕方ないか。
何かしてフミに気配を察知させないようにしたってことはありえる。
「フミ・・・フミ」
俺も寝よう。
少し・・・疲れた。




