21話
15階層、ストーンゴーレム。16階層、グール。17階層、スケルトン。18階層、リッチ。19階層、リザードマン。
各階層のボスたちだ。もちろん階層内にはボス以外の敵がもう一種類ずついる。火の玉、仮称はウィスプ。ピクシー、サラマンダー、大蜘蛛。これらはボスには関係ないが、十分強い、あるいは厄介な敵であったことは間違いない。
魔法が効かない奴、体を消し飛ばさないと倒しきれないやつ、物理攻撃無効なやつ。様々なパターンの敵がいた。何があってもいいように過剰にレベル上げをおこなっているので苦戦はするものの、危ない事にはならなかった。
俺がダンジョン探索に注力している間、世間は大きく動いていた。
魔石の件だ。なんと、日本が魔石の魔力をエネルギーとして使うことに成功したのだ。俺が握ってもただ魔力があることと増幅機能しかわからなかった。
どうも、魔力を持たない人間。スキルで魔法を持っていない人間が触れることで魔力を認識できるようになるらしい。
多くの魔力を持つ生物は元々、魔力を持っているのでわからなかっただけらしい。その魔力をゴーレムの砂や石と組み合わせ、回路の形にする。その状態で電気を流すと電気が増幅するのだ。
さらには、火に魔石を入れると火力が上がり、長時間燃えることも判明。一番小さい物で一時間近く燃えるらしい。
これらは魔石の魔力がなくなると止まる現象のようだ。俺も使い切った石を握ったが、何も感じることはできなかった。
どうも魔石には複数の機能が備わっているらしい。魔力の貯蔵、そして増幅機能。これらを用いた発電方法の研究が今もっとも注目されている研究テーマらしい。
これを受けて世界全体で一気にダンジョンブームが起きた。正確にはダンジョンに一般企業が入れるようにできるように国に訴えかける会社が一気に増えた。
そしてもう一つ。冒険者カードを持っていない人間が魔石に触れても魔力を認識できるようになるだけだが、カード持ちの人間が触るとわずかだが肉体に変化が起きる。物理的に何か生えてくるとかではないのだが、母さんの場合は肌が綺麗になった。
・・・いや、別にふざけてない。一度、18階層で宝箱から出てきたテニスボールサイズの魔石を握ってもらったらそうなったのだ。その魔石は魔力が空になったが。
まぁ、ダンジョンものによくあるパターンだろ。俺には大して関係ないかと思っていた。
魔石は集めているがそれはあくまで研究用。歩合制でいい額貰ってるし、人体に影響があるのがわかったところでラノベみたいなことは起きないだろうと思っていた。
思ってたんだよ!?
『本日のニュースをお伝えします。本日もダンジョン産の魔石を求めて多くの人々が国会議事堂の前に集まっています。
中継をつないでみましょう。現場の・・・』
「・・・こうなるのかぁ」
ニュースはここ三日ほど同じ内容ばかり繰り返している。
俺の想像は大きく外れた。魔石の効果は美肌だけじゃなかったらしい。風邪を引いていたカード持ちの研究員が魔石を握った際、風邪が治ったのだ。
その後、詳しく調べたところ、カードを持った人間が魔石に触れると健康状態がよくなるらしい。程度は知らないが、魔石のサイズ次第では不治の病も治るとか治らないとか。
そんな話がなぜか世間に漏れた。
その結果、連日ダンジョンに入りたい多くの人々が権力者の元に集ることになったのだ。もはやデモである。
これを解決するならダンジョンに入るのを許可するか、魔石を大量に手に入れて流通させるかのどちらかだろう。
一応言っておくが後者は無理だ。
魔石はモンスターを倒せば出てくるわけじゃない。ボスを倒した際の宝箱でしか確認できていない。ボスは各層で一日一回。俺でも一日に開けられる宝箱は最大19個。その中に大体魔石は入っているが数はバラバラだし、最悪入っていない。最大で10個ほどだ。
これでは流通は無理だ。自衛隊が物量作戦で押せばいいのかもしれないがそれだって効率はよくない。
なら欲しがっている人間が自分で取りに行けばいいのだが、それも政府は許可しないだろう。正確には出来なくもないがしたくない、だ。
確かに一層や二層は特に何もやっていないでも成人男性くらいの身体能力があれば問題ないだろう。
だが。それ以降は絶対無理だ。あなたは道端でアオダイショウなどの蛇を見かけたとき、殺せますか?答えは武器があれば可能だろう。その武器はどこで手に入れる?銃なんて日本じゃ基本的に手に入らない。エアガンを改造すればと思うかもしれないが、その程度で勝てる相手じゃない。例でアオダイショウをあげたが、ダンジョンの蛇はそれらより強いのだ。
結果、効果が実感できるほどの魔石を手に入れようとすればするほど、人は死んでいくだろう。
それは国として許可できない。
そもそも、ちゃんと効果が見てわかるレベルの魔石を手に入れるのは、7階層以降の魔石じゃないとダメだ。どっちにしろ銃があっても意味がない。
時間をかければ行くことも可能だろう。どれくらい時間がかかるかわからないが。
スキルがあれば短縮できるが、スキルスクロールは貴重なのだ。ダンジョン発生からそろそろ二か月たつが、自衛隊のスキル持ちはまだ五人だけなのだ。しかも一人一つづつだ。
俺たちは世界初報酬とか、最初のネズミ五分とかで一気に増やせたが、それはできない。
つまるところ、今の現状を解決することは不可能。何にしろ時間がかかるのだ。
そこで、一計を案じたわけじゃないが、少なくとも危険なことを伝えるために作戦が今日実行される。
・・・正直、今でも俺は反対なんだが。
「初めまして!『マーリル・メープル』の彩香でーす!」
「同じく、芽衣です。よろしくお願いします」
「ああ、はい。よろしく・・・」
本当になんでこうなったんだ・・・。
前にも話した俺の推しアイドルユニット『マーリル・メープル』。
そのアイドルがなぜか今、俺の目の前にいる。
ダンジョンが危険と何も知らない一般人にわからせるための作戦。それは、テレビ番組でダンジョンを特集することだった。
なんでそうなったんだおい、とは俺もおもったよ。親父も口がふさがらなくなってたし。
わかる点もある。ようするにわかりやすく多くの人にダンジョンに伝えるためにマスコミを利用するのはわかる。
だったら俺が潜って映像を撮って来ればいいだけだ。なのになぜアイドル同行?これがわからない。
偉い人曰く、今世間で人気が出ている二人を使うことでネットの住民を味方につけたいらしい。
まぁ、二人がマジで怖がっている所を見ればそういうオタクはいい感じにダンジョン危険説を広めてくれるだろう。いまいち信用性には欠ける話だがそういうことらしい。
「本当になんでこうなった・・・」
「?どうかしたんですか?」
「いや、何でもないっす・・・」
問題大有りだよ。
カメラクルーは一人だけ。アイドル二人、人員こそ最低限だが、こちらもすらっぴ達はいないのだ。正直守り切れるか怪しい。コロちゃんと言えど、限界はあるのだ。幸いなのはふーちゃんがすでに14階層までなら一匹で戦えることだろうか。
10層までだったら不測の事態がない限り、どうにかできるはずだ。
「そろそろ始まりますので準備をお願いします」
「了解です。行きましょうか」
その不測の事態が来なきゃいいんだけどなぁ。
『はい、どうも~。いつもあなたの隣にいるアイドル!『マーリル・メープル』の彩香でーす!』
『芽衣です』
『芽衣ちゃん固いよ~』
『彩香も普段そんな挨拶しないじゃない』
『ダンジョン仕様なんだよ!』
元気で明るい女の子らしい女の子。同級生にいたらうれしいアイドルが彩香ちゃん。
クールな知的キャラ。だけど時々出る女の子らしさが人気の芽衣ちゃん。
二人について語るときりがないのでここでは割愛。
とりあえず、二人は今、カメラの前でオープニングを撮っている。今は土曜の昼12時。なんと生放送だ。
ほんとこれ考えたやつは頭湧いてる。
『なんと今日は、今話題のダンジョンに入ることになりました!!』
『もちろん私たちだけでは入りませんよ。ボディガードの方がいらっしゃいます』
『こちらの方でーす』
『ドウモ』
現在の俺の格好はフードを深くかぶり、サングラスをかけている。さらに口元を覆うマスクも着けて完全装備。
絶対に顔がばれないようになっている。さらに話し方も変え、できるだけ口数すくない感じにすることで俺の印象を消す。
じゃないとテレビなんて出れないわ。ばれたら大変なことになる。
「なんてお呼びしたらいいですか?」
「・・・ナンデモイイ」
「じゃあナンさんって呼びますね!」
「彩香?今のは名前を言ったわけじゃないのよ?」
「ソレデイイ」
「わーい!!」
「・・・いいんですか?」
「ナンデモイイ」
名前なんて本名以外なら何でもいい。ばれないことが肝心なのだ。




