19話
「燃やして倒すと何も残らない。それ以外ならこれが残るわけですか・・・」
「木材欲しい所は喜びそうですね」
「検査次第ですがね」
トレントの木材は俺が吹き飛ばした敵が落とした物らしい。コロちゃんが拾ってきてくれたみたいだ。相変わらず速すぎてよくわからないな。
今はまだ、一層にいる。木のあるところに近づかなければ敵は反応もしないらしく、入り口近くで休んでいる。俺はともかくふーちゃんと藤岡さんが疲れてる。
まだ魔法の限界使用に慣れてないようだ。
「それでも、ここまで疲れるとは思いませんでした」
「キュー」
「なれるもんでもないですけど、限界まで使った方が伸びはいいはずですから」
「恭輔君がいないとできませんよ・・・」
使ったら即戻るを繰り返せれば最初はそれでいいんですけどね。
「そういや、藤岡さん。今レベルいくつ?」
「今は22ですね」
「意外と低いですね」
「低いんですか!?間違いなくうちじゃあトップレベルなんですけど・・・」
「ふーちゃん以外は余裕で越えてますし」
「ああ・・・」
そのふーちゃんも近いうちに越えられそうだけど、言わないでおこう。俺もトレントで29まで来てる。ふーちゃんは・・・15か。
あと七レベ分なら本当に近いうちに行けるな。
「恭輔さん」
「はい?」
「お聞きします。この階層は今までのダンジョンと比べるとどうですか」
「・・・うーん」
ちょっと難しい。
「そもそも環境違うんで何とも言えないっすけど。敵の強さで言うならこっちがはるかに上です」
「やはり・・・」
「今までのダンジョンと比べるなら10階層クラスに相当します」
「待ってください」
「はい」
「10階層に行ってるんですか・・・?」
「・・・あ。やべ」
「・・・聞かなかったことにします」
「あざーっす」
ついうっかり口を滑らせてしまった。うっかりうっかり。
「ま、まぁ、ともかく。ここのトレントは絶対に最初に来る場所じゃない」
「そうですよね・・・」
「ただし、遠距離攻撃があるなら別です。火炎放射器とかあれば」
「・・・大丈夫ですかね」
「魔法の火は大丈夫だったですけど、物理現象の火はどうなるかわかりませんからね。
そういう意味でもここのトレントはいろいろ試せると思いますよ」
「なるほど確かに。動かない敵なら的ですからね」
「そういうことです」
まぁ、効きが悪いとか、レベルが上がらないとかあるだろうけど、藤岡さんもその辺は考えてるだろう。俺がわざわざ伝える必要もないか。
そういえば・・・
「なんで今回は姉ちゃんがいないんですか?」
「ああ、それは・・・」
なんと、姉ちゃんもスキルを取ったらしい。『衝撃波』というスキルらしい。内容は秘密だそうだ。なんか衝撃を飛ばすスキルだろうけど、どこまで使えるか。一回見てみたいな。
まぁ、そのスキルを持った影響で、他の隊員と一緒に回っているらしい。
「どうやって姉ちゃんにスキルが回ってきたんですか?」
「その時の運ですね。ボスを倒したときの宝箱で入ってたらその班でじゃんけんしてます」
「じゃんけん?」
「現状、誰が獲るのがいいのかわからないんですよ。ならいっそ。ということでして」
「適当だなぁ」
うちはスキルスクロールを開いたらまず希望者を聞く。いなかったら内容次第では俺。俺がダメそうなら強制的に他の子にあげてる。
「考えられてるんですね」
「ていうか俺しか人間いませんですし」
「コロちゃん達ですからね」
「ワン!」「キュー」
コロちゃんはその場に座ってる。ふーちゃんは俺のお膝の上で丸くなっている。
藤岡さんは触りたいのか、時々手を伸ばしたり、目線がちらちら見てたりしている。
言えば即触らせてあげるのに何を躊躇しているのか。
この場合、女性相手に俺が気を利かせるべきなのか。どうなのか。
「・・・触ります?」
「キュ?」
「いいんですか!」
「どうぞ」
「キュー」
「あ、ありがとうございます!!」
軽く抱きかかえて藤岡さんの膝の上に置く。ふーちゃんも嫌じゃないらしい、抵抗することなく動かされ、そのまま丸くなる。相変わらずマイペース。狐の人見知りはどこに消えた。
「うわぁ。モフモフだぁ」
「クゥ」
「・・・・・・」
この人姉ちゃんより年上なんだよな?。今の様子は明らかにもっと若い。というかかわいらしい感じの女性だ。普段は凛としているというか、穏やかな感じ?。
ちなみに姉ちゃんはがさつなので、そういった感じではない。
でも今の藤岡さん、どっかで見たことあるんだよなぁ。
「ワン」
「どうしたコロちゃん。なでてほしいか?」
「(フルフル)」
「あら、違うの?ならどうした?」
「ワンワン!!」
「ああ、一応ダンジョン内だから用がないなら出ようってか。その通りだわ」
ちょっと敵が来ないからって緩みすぎてたな。藤岡さん戻して帰ろうか。
「藤岡さーん。帰りましょー」
「え?あ、ああ。そうですね。帰りましょうか・・・」
「ふーちゃんは帰っても遊べますから後でですね」
「い、いや。違いますよ?決してまだ膝にのせてたいとかそういうわけじゃないですからね?」
「はいはい。わかってます。わかってます」
この人あれだ。プライベートでは可愛い物集めてるけど、人前では違うキャラ維持するタイプだ。これがギャップ萌えか・・・。
「うぃーす。戻ったどー」
「お帰りー。はい。提出物は?」
「も~く~ざ~い~」
「・・・木材?」
「トレントいたわ」
「マジかよ。検査するわ」
別にこの妙に乗りの軽い兄ちゃんは昔からの知り合いとかいうわけじゃないが、ダンジョン関係の親父の部下で妙に波長とノリと趣味があう人だ。
なお、興味対象に発情してるのかってくらい情熱的に研究するのでその時はキモイらしい。普段は気の良い兄ちゃんだ。年下の俺にため口でOKと許してくれるくらいにはノリがいい。
「すいません、こちらもお願いします」
「はいはいーい。藤岡隊長さんもお疲れでーす」
「いえ、ほとんど恭輔君が倒しましたから」
「いぇい」
「探索できそうな感じ?」
「絶対無理」
俺が全力で魔法使って半分も倒せなかっただろう。森はもっと奥まで広がっていた。
敵の強さは確かに10階層クラスだが、ダンジョン自体の難易度はもっと上に違いない。
そもそもなんでこの時期に現れたんだ?
その辺は大人の考えることか。
「この後はなんかあるんです?」
「恭輔君は何もないですね。私はこの後は報告ですが」
「それならこの辺でなんとなく時間つぶしてますよ。ふーちゃんの事もありますし」
「あ、ありがとうございます///」
今にも気を抜けばふーちゃんはあなたの懐に飛び込もうとしてますよ。よほど気に入ったのか。それとも自分を撫でたいのがわかっている上でのサービスか。
ちなみに、
動物は人間の考えていることを本当に察知することがあるので気を付けよう。病院に連れていく時とかは抵抗されるしな。そういう時は全く別の行動をしておくといいぞ。病院の準備は見えないところで。ケースに入れるときはただのお出かけ風に。
よく考えてみると、所沢駅の近くにダンジョンが現れたので、周囲の店は閉まっている。
「それに気づくのがもっと早ければ・・・」
「ワフ」
それでも、マックとかはやっている。電車は運行してるし、所沢で働いている人たちもちらほら降りているから飲食店が全滅してるとまずいしな。コンビニとか全部やってるし。それでも古本屋とかはやってないけど。
「ほんと、どうするか。公園とか行ってみる?」
たしか、近くに大きな公園があったはずだ。ふーちゃんは抱えて、俺とコロちゃんがゆっくり走れば5キロくらいなら20分で着くだろう。全力だと・・・どうだろうか。
「でもあんまり遠出して藤岡さんに悪いしなぁ。あと、あんまり速く走ると目立つしな」
「ワン?」
「世間的にはあんまりダンジョンの情報出てないし。超人的な動きはしたくないんだよ」
無茶苦茶目立つだろうな。・・・別に車より早いわけじゃないし行けるか?
「やめとくか、おとなしく周囲の散歩にしましょう」
「ワン!」「キュー!」
「え、ふーちゃん歩かないの?ダメだよ。ほとんど俺が抱えて移動してたじゃん。運動不足は許しません」
「クゥ~」
「ダメです。後で藤岡さんに抱えてもらいなさい」
動物の運動不足は本当に危ないからな。人間ですらよくないのに、動物たちはもっと健康によくないんだぞ。肥満どころの騒ぎじゃないからな。
皆は適度にペットを運動させような!




