1話
この話に関しては活動報告にちょっと書いてあります。
2020/09/23
感想でご指摘をいただきた点で現在使われてない設定が書いてありましたので修正しました。
ことの始まりはダンジョンがまだ世間に知られていないころまで遡る。
「このクソ暑い時期に倉庫整理とは・・・」
8月のはじめ。たまには手伝えとの親からのありがたい文言とともに任された仕事にしり込みしていた。
なんせ最後に整理したのは去年の春とのことだったのでどうなっているか、考えたくもない。
まぁどうせバイトはそんなにシフト入ってないし、今日は暇だからいいんだけどさ。
「それにしても久々に見るな」
倉庫の中にはキャンプ道具、庭を整える道具、バーベキュー用のトングやら炭やらいろいろ入ってた。
「アウトドア用品多すぎだろ」
アウトドア派の人間が多い家系なのでこうなるのも必然なのだろうが、俺使ってないしな。俺だけインドアなのだ。
自分たちで使うんだから自分たちで整理くらいやってほしいが、親にその辺を期待するのは無駄だろう。掃除苦手だし。おかげで我が家の掃除は俺と姉とで当番制である。その姉がいないので俺にお鉢が回ってくるのは当然か。・・・出かければよかったな。
「それにしたって適当にぶち込みやがったな。・・・せめてテントは袋に入れてくれませんかねぇ」
本当に適当だなこれ。一回しまってたけど袋から出たのか、テント本体が転がっており、しまうための袋が見当たらない。
「無駄に広いんだから、ある程度同じジャンルの物はまとめておいてほしいよ」
しかもめんどうなことに袋が周囲に見当たらない。奥の方か?
「いやさすがにそれは・・・いや、あったな」
少し周囲の物が邪魔で進みにくいが何とか一番奥にたどり着けた。なんで袋だけここにあるんだ。
「なんか久々に倉庫入ったからなぁ。狭くなった感じ。成長期か・・・あれ?」
袋を拾うまで床を見ていたので今の今まで気が付かなかったが、なにか土の壁のようなものがある。
倉庫の天井ギリギリの高さのある壁で上に行くと丸くなっているようだ。
じゃあ壁じゃないか。なんだこれ?
「ついに土の塊でも持ち帰る習慣でも生まれたか?さすがにないか」
何故かその周囲には何もなかったのでぐるっと周囲を回ってみる。高さは3メートルくらい、幅は5メートルほどだろうか。そのサイズの土の塊が家の倉庫にあるだけで理解できないがさらに問題があった。
「・・・どう見ても、なんか穴空いてるよな」
倉庫の入り口の反対側に位置する場所に人一人が入れる穴が開いていた。中は暗くて見えないがどうも下に向かって穴が開いているようだ。
「・・・ものすごいでかいモグラでも住み着いたか?」
モグラって害獣扱いでいいのだろうか。家の倉庫に穴開けるのなら問答無用で害獣だが。
・・・それ以前に畑荒らすから普通に害獣だわ
「とりあえず、入るか?いやでもな、普通こんな怪しい物あったらいきなりは入らないよな。気になるけどな」
うちの一家はアウトドア派が多いと言ったがそもそも職業からしてアウトドアだ。
親父は動物の学者、これだけ聞くとインドアみたいだがバリバリのアウトドア。フィールドワークに出かけまくり研究室なんて飾りみたいなもんだ。
母さんも同じ学者。やってることは親父と一緒なので説明省略。二人ともその業界では名のしれた学者らしい。
姉はなんと驚きの自衛隊所属だ。なんでも頭がよくないからできることをやっているそうだが知った時は驚いた。親二人はなんか気にしてなさそうだったが。
なぜこんな話をいきなりしたのかというと、姉は親の行動力を、俺は探求心を色濃く受け継いでしまったということを言いたかった。
つまり、いきなり家の倉庫にわけのわからん土でできた穴があった場合。常識とかいろいろあると思うが気になるので。
「持ってくのは懐中電灯と何がいるかな。でかいモグラいたら追い出さないといけないし、・・・なんでピッケルがここに。いや持ってくけど」
うだうだ言ったがとりあえず突撃することにした。いくらインドアの俺と言えど、敷地内にできた意味わからん穴、しかも常識的に考えてそこまで重労働にならなさそうな探索なら行くに決まっている。
探求心も満たせるしいいことしかないな。
「恭輔いっきまーす」
懐中電灯で照らしながら進んでいく。下に続いているのは当たっていたが階段状になっているのは想定外だった。
モグラじゃなさそうだが、そうなるとどうやってできたんだこれ。親父が掘ったか?
十段ほど降りると平坦な道になった。昔つれてってもらった洞窟にそっくりだ。
「いや、なんでこんなものが」
しかもなんかほの暗く光っている。懐中電灯無しでは少し暗いがなくても問題なさそうだ。
しかし、何か光っている物質があるわけではない。洞窟全体が光っているのだ。非科学的にもほどがあるぞ。
少し、歩くと分かれ道があった。なんか、どうなっているんだ?
自然現象でできたものじゃないのはわかってた。なら動物か親父かの二択だがそれもなさそうだ。
とりあえずどこかで聞いた、右の法則で右の道を選択。1分もしないうちに曲がり角、今度は左に曲がるとそこになんかいた。
「・・・俺は夢でも見ているのだろうか」
道のど真ん中に存在するのは何かしらの緑色の水の塊。水まんじゅうみたいだし、懐中電灯で照らせば中心部分に何か石のような物が存在している。
あと動いてね?プルプルと振動してる上に、這いずってるのか移動もしている。
「あれか、スライム的な・・・」
もはや俺のキャパシティを超えている。・・・一回帰るか。そうしよう
「そうと決まれば退却退却・・・スゥー」
どうも目の前で長々と考えていたのがいけなかったのか。見られている気がする。スライム的な存在に目なんかないと思うのだが、こちらを見ている気がする。その証拠にこっちに向かって動いている。
動きはおっそいので簡単に逃げられるだろうが、もうちょい見ていこうか。なんて考えている時に、羽が羽ばたく音が聞こえた。
「キィー!」
「は!?コウモリかあれ!?」
オオコウモリと呼ばれる日本で見ることのできる大きいコウモリでサイズは大体20cm。
俺の目の前にいるコウモリは30cmほどか?少し大きいくらいなので個体差と言えばそれで終わる程度なんだが。
明らかに牙がでかい。コウモリは肉食なので大きくてもおかしくはないが限度がある。
そしてなによりおかしい点がある。コウモリは基本的に何もしなければ人間を襲わない。
それなのにこいつは明らかに俺に向かってきている!!
「あっぶね!」
「キキィー!」
避けられて悔しいのか声を出すコウモリ。空中でとどまり再びこちらを見ている。
「食料にでも見えるのか?」
野生動物がやたらめったら襲い掛かってくる場合、腹が減っている場合と縄張りを侵された場合。
コウモリは単体で縄張りを形成しないので単体でこっちに向かってくるこいつは腹が減っているのだろう。
ちなみにこの間スライムはまだゆっくりこっちに向かってきている。本当に遅いな。
「キィ!」
「だぁ!考え事の途中だろうが」
「ギ!?」
人が考えている途中に向かってきたコウモリを一度回避して掴む。口と牙の大きさから前からはつかめないので後ろから両手で鷲掴みにする。
30cmもあるコウモリなので両手でも抑えるので精いっぱいだが無理くり押さえつける。
相手が疲れたのか、一瞬動きが弱まったのでその隙に羽を抑える。
それでなんとか動きを抑えられた。
あとスライムはようやく俺の足元まで来た。ここまでくると可愛く見えてきたな。
「ハァハァ。なんとかなったか」
「ぴぃー」
「しゃべった!?」
コウモリをやっとの思いで押さえつけた俺に話しかけてきたのかなんなのか、スライムが声をだした。いや、鳴いた?のか・・・?
「なんか、ここまでわけわからないといっそすがすがしいな。考えることが無駄だと言われているようだ」
「ぴぃー」
「そうか。お前もそう思うか」
「ぴぃー」
なんで俺はスライムと会話しているのだろうか。当時の俺はどんな精神状態だったのか。あとから考えても分からん。
それより、コウモリは襲ってきたがこのスライムは何もしてこない。近寄ってきただけで会話?ができる。
あとコウモリ抑え続けるの疲れた。地味に抵抗されるし。
「ぴぃー」
「あ、触ると冷たいのね。ぬるぬるする」
いきなりコウモリを抑えている手ごとスライムが上に載ってきた。びっくりしてコウモリから手を放してしまったので、まずい!っとおもったが。
スライムに包まれたコウモリは動いてはいるものの水に包まれて動きにくいのだろう。もがいているように見える。
スライムはコウモリを取り込んで?何をしているのか。体内?に炭酸の泡のようなものがでてきている。
「スライムの定番攻撃だと消化とかか?食べてるのか?」
「ぴぃー」
消化が遅いのか全く変化がない。コウモリもまだあがいてるし、スライムは泡が出ている以外に変化なし。
・・・これコウモリの窒息のほうが速いのでは?
あ、動かなくなった。
その時。
ポーンという音とともに頭の中に声が聞こえてきた。
『ダンジョン内で初めて敵を討伐しました。冒険者カードが送られます。
ダンジョン内のモンスターと初めて友好を交わしました。『テイム』のスキルが送られます。
世界で初めてダンジョンでの活動を確認しました。スキルスクロールが送られます。
冒険者、恭輔さんのレベルが上がりました』
「・・・・・・・・・・・」
「ぴ?」
「・・・・・えぇ」
この時俺の頭は理解することをやめた。
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