18話
ふーちゃん初実践から一週間。
俺は学校にいけていない。
ある意味当然なのだろうが、ふーちゃんに関しての研究のため、俺が働いているからだ。
その間、コロちゃんも動いているのでいいのだが、他三匹が暇そうなので、五階層までなら自由に行動していいよと許可した。
流石に下に行き過ぎるのも危ないかもしれないしな。
そんなこんなで一週間。
ようやく終わりの目途がついた。ふーちゃんの素の能力でもコウモリ、ネズミは大丈夫。そこから下はレベルアップ、スキルの獲得が必要。しつけのできた動物ならダンジョン内で活動できるだろう。
さあこれから学校・・・と思ったが。
「なんで今度は所沢なんだぁ!!!!」
所沢にいた。
埼玉県所沢市。東京に近い位置にある。所沢駅は西武線が通っているので個人的に行きやすい。
そんな所沢駅にダンジョンが出来た。
文字通り、夜が明けた時にいきなり現れたのだ。駅の真下に現れたダンジョンは周囲の建物を飲み込みんで出現した。
ダンジョン内の状況を確認するため、俺が来ているのだ。周囲の確保は自衛隊の部隊がやってくれてる。
「じゃあ、とりあえず入ってくればいいんだな」
「ええ、一層を偵察した隊員によると今までの物とはまるで違うようなんです」
「りょーかい。藤岡さん」
新宿ダンジョンで一緒に潜った藤岡さん。あの時では唯一のスキル持ちだった人だ。久しぶりに会ったが、この期間にかなり強くなっているようだ。
「藤岡さんも行く感じ?」
「ええ。いくら何でも、一般人のあなたを一人で行かせるわけにはいかないですから」
「今更ですけどね」
本当に今更だな!潜りまくってるし、研究とか言って潜らされてるし、お金貰ってるし。
「ほぼ社会人ですよ。学校行けてないし」
「それは、本当にごめんなさいね?」
本当にね!
「じゃあ行きましょうか」
「ワン!」「キュー!」
「・・・可愛いお供ですね」
「桃太郎もびっくりなメンバーですけど」
後は猿と雉だな。・・・サルは無理かなぁ。
「・・・マジかぁ」
所沢ダンジョンの一層。そこは今までのダンジョンの十層以降の風景と同じだった。平原が広がっていたのだ。
「自分で見ても信じられません。ダンジョンの中がこうなっているなんて・・・」
「太陽もあるからなぁ。どうなってんだか」
「偵察隊はここを確認して、戻ってきています」
「正解でしょ。どうなってるか見当もつかない」
そもそも敵が一緒なのかすらわからねぇ。オーガなのかゴーレムなのか。12層で見た火の玉か。
「コロちゃん、敵がどこにいるかわかる?」
「・・・ワン?」
「ダメ?わからないのか?」
「ワン」
「匂いがない?じゃあ火の玉系か?」
「火の玉?」
「あー。前に一回見たんすよ。物理攻撃が効かないやつ」
あいつは完全に初見殺しだった。そのフロアは夜の森になっていたのだが、敵のにおい無し、視界状況も悪い。不意打ちで魔法をうってくるやつだ。俺が魔法の発動の前兆を感じてなければ誰かしらやられてたかもしれないほどには危険だった。二回目以降は感覚をつかんだので全員で感知できるようになったが。
「そ、そんな敵が・・・」
「一応魔法なしでどうにかできる手段はあるんだけど、効率悪いし、数が用意できないんだよ」
「それでもあるんですね」
「俺がやると本当にその場しのぎにしかならないけど」
魔法を発動する時に持つと魔法の威力が上がるあの石。あれに魔力を流すと石が魔力を帯びる。それを木の棒の先に付けて殴る。『精密操作』を取ったからか、魔力を魔法なしで動かせるようになったのだ。そのおかげで作れるある種の魔法武器なのだ。
しかし、欠点が多すぎる。まず、すぐ壊れる。木の棒に石くっつけただけだからしょうがない。次に何回か殴ると魔力がなくなる。込めた分が数回の攻撃で使い切ってしまうのだ。現状では戦力にできない。
「そんなものが・・・」
「そもそも作れるの俺だけだから。意味なんてほとんどないよ」
「保険でもあるだけで違いますよ。後でいくつか作っていただけますか?」
「いいですよ。・・・ていうか俺が新しい敵知ってるのも聞かないんですね」
「うちで決まったことです。あまり干渉しないこと。好きにやってもらった方が成果が出ると」
「ありがたいことだねぇ」
「それだけ、今のダンジョンを自由に動ける人が少ないということでもあります」
人手不足、ていうか戦力不足か。俺だってどこまで深いかわからないダンジョンの十数階層しか潜れていないのに一番だ。一月と考えると速いのかもしれないが、俺以外にいないのはそういうことだろう。
「そういや、一般人には公開しないんですか?結構うるさい連中いるでしょう」
「今のところ、する予定はありません。そもそも危険です。何か得る物があれば別ですが・・・」
「藤岡さん的には賛成?反対?」
「今は反対です。今ダンジョンに入りたいと言っている人は魔法やスキルといったファンタジーに夢を見ている人たちです。
そんな人たちが来たら多くの犠牲者が出ます。それは許容できません」
「もし、ダンジョン内で資源が手に入ったら?」
「・・・それでも反対です。危険な環境での作業になることに違いはありません」
炭鉱夫みたいだな。事故や不衛生な環境。多くの人が死んでいった。
確かに、見ようによってはダンジョンも変わらない。気を抜けば死ぬ環境。先に進めばより危険なモンスター、危険な環境に出会うだろう。もしそこに貴重な資源があったら?金銀財宝があったら。向かう人は絶えることはないだろう。そうして死んでいく。
「気を付ければいいって問題じゃないですからねぇ」
「それでも決まったのなら従うしかないんですけどね」
「まぁ、そうなんですけどね」
もし、もし誰かがあのゴーレムの砂に気づいたら。恐らく一気に世界は変わるだろう。魔法によって性質の変わる素材。それがあの砂の正体であった。
火の魔法なら燃料に、土なら硬くなりコンクリートのように。そうして変化したものは今のところ、元に戻る様子がないのだ。最低でも燃料としての価値が出てきた。これだけでも十分な価値がある。
13階層でこれなのだ。奥に行けばもっといろいろあるだろう。魔力の込められる石も使い方はもっとあるだろう。
さらにこのダンジョンだ。新しい敵が来ればその分新しい素材が手に入る。
間違いなく、ダンジョンは近いうちに一般人も潜るようになるだろう。
今はそれを考えるときじゃないんだけどな。
こうして、二人と二匹でダンジョンを進む。平原の中を歩いているので、ダンジョンという感じがあまりしない。
しかし、唐突に見えた森によりその意識は変えられる。
「!?ワン!!」
「ああ、わかってる」
「きゅ?」
「どうかしましたか?」
前方の森。ぱっと見はただの森だ。
しかし、コロちゃんは音で、俺は魔力の動きで違和感を察知した。ふーちゃんはまだレベルが低いため気づかないのだろう。動物の耳や鼻をだますほどの隠密性。藤岡さんじゃ気づかないだろう。
「この木。生きてます」
「・・・。植物は生きていますけど?」
「そうじゃなくて。ええっと、たぶんこれが敵です」
「これが?」
そう。全く分からないのだ。俺も何かいるのはわかるのだが、どの木が敵なのか全く分からない。一度認識したからか、敵意は感じるが数多くあるどの木なのか見当もつかない。
「コロちゃん?」
「(フルフル)」
「無理か。しょうがない」
「あの、恭輔君?」
「ふーちゃん。焼き払え」
「クォーン!!」
「え、待って」
藤岡さんが止めた理由はちゃんとはわからないが、おそらく酸素だろう。
周りが草原とはいえ、ダンジョン内部。つまりは室内なのだ。その状況で火を使えば呼吸ができなくなると。
俺はこれについては大丈夫だと思っている。そもそも俺たちの使う魔法は物理現象に何一つ縛られていない。
俺の土魔法は何もない空間に魔力を使い土を生み出す。ふーちゃんの火魔法も酸素を燃やさず魔力を燃やして燃える。小さい火だが、ふーちゃんの初回の探索では影響はなかった。
藤岡さんも、火魔法だから知ってると思うけど。あんまり使ってないのかな?
「「「「「グォォォォォォォ」」」」」
「結構いたな」
「これは・・・!」
トレントってやつだろう。わかりやすく言うと木の化け物。普通に木に擬態して目標が近づいたら攻撃。隠密性能は先も説明した通りだ。こいつも初見殺しだろう。ただ問題はそこじゃない。
「コロちゃん。構えとけ」
「ワン」
「クゥ?」
「いや、ふーちゃんはよくやったよ。ただレベル差かな。まだ倒せてない」
燃えている、間違いなく燃えているのだが倒せていない。火の勢いは徐々に弱まっている。なのに燃え尽きているわけではないのだ。弱点なのは間違いないのだろうが、魔法に対する耐性が高いのだろう。
「藤岡さんってふーちゃんと同じ火魔法だっけ?」
「え、ええ。そうですが。あまりふーちゃんと威力は変わらないかと・・・」
「構いませんよ。俺と同時に魔法を使ってください。ふーちゃんももう一度」
「わかりました」「クゥ!」
藤岡さんとふーちゃんはファイアーボール。俺は貫通性ではなく、根元からへし折るために破壊力を高めた魔法。石柱砲を使う。
これはただただでかい石柱を召喚して撃ちだす魔法だ。感覚的にはアースジャベリンの貫通性をなくし、でかくしたものだ。
「クォォン!!」
「ファイアーボール!」
「石柱砲展開。一斉掃射ぁ!!」
本来は魔法を多く出す時は連続使用しかない。
これも『精密操作』のおかげなのだろう。一度に複数の魔法を使うことができるようになったのだ。
今は一度に五回分の魔法を同時に使える。細かい魔力操作ができるようになったからだろう。練習すればもっと増やせるだろう。
ファイアーボールに当たったトレントは再び燃え始める。一度燃えた影響からか、最初に当たったトレントは力尽きるように倒れていく。しかし、奥にいるトレントには初めて当たったのでまだ健在だ。
そこに、俺の魔法がぶつかる。長さ5メートル。太さ2メートル。トラックサイズの石の塊がトラック以上の速度で突っ込んでくるのだ。手前にいたトレントだけでなく、奥にいたトレントを多く巻き込みながら進んでいく。
しかし
「これでもちょっと減らせただけか」
「いや。私的にはあんな魔法あるなら私たち要らなかったんじゃないかなと思うんですが」
「クゥン」
「あ、いや。最初に燃えてた方が折りやすいですし。必要でしたよ?」
「本当ですか?」
使ってくれていっぱい倒せたのは本当ですから(震え声
実際、俺が吹っ飛ばしたトレントが燃えていたので奥にいたやつにも燃え移っている。
それでも数が減っていない気がする。
「ふーちゃんのレベルが上がってるから倒せてはいるけど。数が多すぎて進めませんね」
「迂回は・・・だめそうですね」
見渡す限り先は森なんで無理でしょうね。これを突破するのはキツイか?
「ワン!」
「おお、コロちゃんどうした・・・?」
「・・・」
「クゥ・・・」
コロちゃんが何もしゃべらないなぁ。とか思ってたらどこかに行っていたようだ。何か持ってきた。木材?に見えるがこれはどこから・・・
いや、トレントの素材か。
いつ倒したの?




