146話
昼一話です。
初手は、宣言通りこちらから。
コロちゃんが『魔刃』を全身に展開しながらフミに突っ込む。
「ガァァァァ!!!」
「あら危ないわ」
フミはどこからか取り出した扇でコロちゃんの体ごと後ろに受け流す。
受け流されたコロちゃん。だけど止まらない。受け流されることはわかっていたような動きで追撃に入るが。
「そうはさせんわな!?」」
「やらせねぇよ」
コロちゃんに攻撃しようとしてたフミを土の槍が下から襲う。
コロちゃんが突っ込んだ時点で発動してたのだ。だが、それは宙に跳ぶことで避けられる。槍が出る前に魔力の反応をよまれた。
だけどこの隙にコロちゃんが再度攻撃。空中のフミは身動きできないはずがもう一度空中を踏みしめて跳んだ。
コロちゃんはフミのいた空間を通り抜けるだけで終わってしまった。
「ざーんねん」
「ガゥア!」
「まだまだ当たらnおっと」
「クソ」
再び土の槍が下からフミを攻撃するがダメだった。どうしても、溜めが必要になって魔法だと魔力を感じられて攻撃の前に避けられる。
「魔法は基本あたらんで?」
「そうみたいだな・・・」
だからと言って、俺が近接攻撃を仕掛けても意味がない。コロちゃんの速度で当たらないのだから俺の攻撃では無理だ。
よほど大きな隙が無い限り当たることはない。そもそも、コロちゃんの攻撃だって受け流す必要はないのだろうが。
このまま攻めてても意味がないな。
「コロちゃん。上げられる?」
「ワン!」
「おお?まだいけるんか?」
「当然。行くぞ」
その瞬間に、溜め無しで放たれた槍がフミに向かって撃たれた。
「はいぃ!?」
「ワン!」
「おお!?」
コロちゃんも、今までの速度より何倍も速い速度で距離を詰めてフミに切りかかる。
今までと違い、予備動作なしの攻撃がはフミに当たることはなかったが、明らかに反応が遅れていた。
「ちょ、なんや今の!?」
「さぁって。なんでしょうね!!」
「ガウン!!」
「ああもう!」
今までは多くても3本だった槍が今回は20本。コロちゃんも『魔刃』を爪にして展開。他の部位には刃は見られないが、なぜかコロちゃんの体の色が深い青色になっている。
『魔刃』を体から生えているように纏うのではなく、本当の意味で纏うようにして展開した。
体のとこに触れても切れる状態だ。
サメ肌がイメージしやすいだろう。あれをより凶悪に、より攻撃的にしたものだ。
空気を切り裂き、抵抗が大幅に減ることによって速度は上昇する。
フミは俺の撃ちだした魔法とコロちゃんの高速移動による攻撃の迎撃を両方行っている。
拳で槍を壊し、扇で魔刃を受け止める。最初の攻防では片腕しか使ってなかったが、今は両腕を使わせている。
「もっと行くぞ!!」
「クッ。ちょーしにのるなや!!」
フミが大きく腕を振るう。それだけで、突風が吹き荒れる。コロちゃんは大振りの動きを見た時点で離脱しているので影響はない。
俺は元々遠くにいたので問題ないが・・・
「ふぃー。マジでなんなん?今の魔法」
「それより、今ので全く攻撃入れられてないのへこむなぁ」
「クゥン」
キメラだったら軽く50体は倒せるくらいの魔力を使ったんだけど・・・
本来の魔法は別に溜めはいらない。ただ、溜めがない魔法は威力が低い。溜めた分だけ威力は上がる。
俺が溜めてから魔法を使う理由は、そうでないとフミに全くダメージが入らないからだ。俺がフミにダメージを与えるために使ってる魔法は、一発撃つのに1秒要らない。
これは、ダメージを与えるとはいうが、ギリギリかすり傷になるかならないかくらいのダメージだ。
意味はないが、今はこれでいい。これ以下の攻撃ではもはや戦いにならない。
フミが驚いたのは、俺が溜め無しで前と全く同じ威力の魔法を使ったからだ。
この仕組みは簡単だ。一気に大量の魔力を消費することで無理やり同じ威力にしているだけなのだ。
だけど、この方法は欠点がある。
溜めの時間を短縮するのに、多くの魔力を消費すること。
溜めとは、魔力の量を込めるのではなく、丁寧に織り込んでいくといった方がいいだろう。
丁寧にこれをおこなわないと、使用する魔力のいくらかは無駄になってしまう。
これを大量に魔力を使うことで無理やり解消して同じ威力にしてるだけだ。
次に、この方法は体に負担がかかる。
魔法を使うのに、使っている魔力は自分の中にある魔力だ。
この魔力は、自分の意思で動かせるが、体の中にあるものだ。体の中で急に動かしたらどうなるか。
「・・・結構気持ち悪いなこれ」
「・・・ワン」
「大丈夫だ」
体の中で勝手に何かが動いている感じだ。気持ち悪くなる。今はまだそこまで長い事使ってないからこれだけだが、おそらく、使い続けたらまずいことになるだろう。
感覚的に、俺の第六感がダメだと言っている。
「・・・乱用は無理みたいやね」
「はは。わかるか?」
「中の魔力が無茶苦茶になっとる。どっか痛いんちゃうか?」
「そこまで軟じゃないんでね。まだ大丈夫さ」
「そっかー・・・でも、無茶するなら終わらせなあかんなぁ」
「は。コロちゃん下がれ!!」
「ワh」
「はい遅い~」
フミが一瞬消え、コロちゃんの目の前にいた。
『魔刃』を展開する暇もないまま、コロちゃんの口を軽くつかまれた。
「コロちゃん脱落~」
「・・・クゥン」(ショボン
「・・・いや、今のは仕方ないさ」
俺が反応できたのは、魔力の感知をしてたからだ。集中して見てなかったら間違いなく気がつけなかった。
「コロちゃんは魔力不足があかんね~。せめて戦闘中はずっとあれ維持せんと」
「まぁ今後の課題だな。コロちゃんありがと。皆のとこ行っててくれ」
「・・・ワン!」
「おう!」
離脱の時に、『魔刃』を解除してたのはやっぱりそれか。もともと魔力の伸びがよくないコロちゃんだ。
全身に『魔刃』を使っていたらすぐに魔力がなくなるのだろう。
「それで?コロちゃんはなしてあんな動きができたん?」
「・・・それ、今聞く?」
「ええやん。コロちゃん倒したご褒美ちゅうことで」
「・・・あれは」
自分の体に『魔刃』の服を着ているような感じだ。これにより、移動時には空気を切り裂きながら進む。
これにより、自分の周りの空間に空きができる。これにより抵抗が極端に減った。
「なーるほどなぁ。そらコロちゃんにしか出来へんわな」
「魔刃の切れ味、自身の速度の両方がないとできないからな」
「それでも、全く予備動作がないのはわからんけど」
「あれは簡単だぞ」
「お?」
「コロちゃん、縮地を覚えただけだから」
「・・・はい?」
正確には、「滑り足」なんだっけ?
距離を縮める、仙人とかが使うやつじゃない。ようするに、武術の足さばきと思ってくれればいい。
「なんなんコロちゃん」
「俺が聞きたいわ」
予備動作をほとんど見せずに一歩踏み込む。そのせいで最初の行動を見逃すのだ。
だから、コロちゃんが速く見えた。
「ちなみに、俺もできるよ」
「ほーう。みんないろいろやっとんやなぁ」
「だから、とりあえず食らっとけ」
「おほーお!?」
速度重視の一発。これは避けられることはわかってた。
だから、回避先の地面を上に持ち上げた。フミも流石にどうにも出来ずに地面ごと空中に持ってかれる。
そして
「あらまぁ」
「ぶったたく」
巨大な岩の手がフミを挟み込む。確実に挟んだが、これだと一瞬しか止められない。そもそもの強度不足で壊される。
事実、岩はすぐに砕かれてフミが出てくる。まだフミは空中にいる。
だけど、俺はすでにフミの視界にはいない。
「よっと・・・あら?」
周囲に誰もいない。遠くにニホリ達が見えるだけで、肝心の恭輔がいない。魔力も感知できない。
地面も先ほど空中に上げられた部分のみがえぐれている。
どこにいると、一歩足を出した瞬間にフミは違和感に気がついた。
「??空洞・・・!?」
その時点で、足がつかまれていた。
地面から出てきた恭輔の手によって。
「なぁ!?いつの間に!?」
「打ち上げたときだよ!!」
空中にフミを放り投げたのは意識を逸らすため、岩の手で挟んだのは視界を防ぐため。
その両方をおこなってから、地面に穴をあける。この穴はすぐに埋めて、フミの着地地点の下まで土を操作して一気に近づく。
あとはフミが下りてきて隙を待つだけだった。
そのまま地面にフミを引きずり込む。脚の半ばまで埋めたところで俺が完全に地面から出てくる。
ここまですれば俺でも殴れる。
「これで!!」
「・・・まぁ十分やろ」
「っっつ!?」
殴る前に、フミが地面から出てきた。身動ぎもできないくらいに魔法で固めた地面の拘束を一瞬で破られた。
そして、俺のこぶしに合わせて扇が振るわれる。
直前に『硬質化』を使ったにも関わらず、すさまじい衝撃だった。
今の時点で、腕が使い物にならなくなったが・・・どちらにせよ、意味のないことだった。
「ほい、おしまい」
「・・・参った」
吹き飛んだ俺の後ろにフミがいた。
俺の首元に扇を突き付けていたのだ。
俺を吹き飛ばし、その上で俺を追い越したのか。近くを通ったはずなのに、気配も負えなかった。
「・・・完敗じゃね?」
「いやぁ思ったより受けさせられたで?」
「それでもこれじゃな」
「むしろ、今の恭輔たちに一撃もろたらうちがへこむわ」
「・・・これからに期待・・・てか?」
「ふふふ。待っとるで」
対フミ戦・・・一回目、完全敗北と。
「じゃあ!いつデート行こか!」
「後ででもいいだろそれ・・・」
クタクタになったダンジョン内でする話じゃないでしょ・・・




