13話
「ここらで一旦休みますか」
「・・・そのほうがよさそうですね」
「「「・・・・・・」」」
今は、三層のボス広場にいる。ゴブリンは倒し終わっているので敵が来ない、ちょっとした休憩スペースになっている。藤岡さん以外はクタクタみたいなので、休憩の準備は手伝うか。軽く水飲んだりするくらいだけど。
念のための警戒で、コロちゃんに警戒はしてもらっている。俺とかがやるより、よっぽど正確にできるからな。ねっさんかバトちゃんがいれば、そっちに任せるんだけど。そもそも、自衛隊の人に存在自体伝えてないので今はいない。
「体力ねぇな。姉ちゃん」
「無茶・・・言わないでよ」
「うちの訓練より、速く走ってここまで来ましたから。私も、付いていくので精一杯でしたよ」
「その割に、藤岡さんは余裕ありそうですけど?」
「伊達に彼女達より長くいませんから」
つまり、姉ちゃんたちがダメなのか。出世できないぞ。
「私、これでも同期だと成績トップなんだけど・・・」
「でも、最低でもこれくらい楽にこなさないとこっからきついぜ?
敵はこの先の連中のほうが強いし」
「わかってるわよぉ」
「ならいいけど。あ、丸山さんと三崎さんはつらかったら言ってくださいね」
二人も少し落ち着いたのか、元気にとはいかないが、大丈夫と返事を返す余裕は出てきたようだ。
「なんで二人には優しいのよぉ」
「姉ちゃんと、今日初対面の人なら、そら対応も変わりますわ」
「ムキー!!」
大門の人なんだから、そのうち慣れるでしょ。俺は慣れたよ。
「てか、レベルアップすれば勝手にスタミナつくしな」
「そこなんですけど、いいですか?」
「はい、どうぞ」
「私たちも、モンスターは倒してますのでレベルアップはしているのですが、そこまで何かが上がった感じがしなくってですね」
「ああ、それ。多分でいいなら答えられますけど」
「お願いします」
藤岡さんはどうも、俺と皆さんの差について考えていたようだ。
まぁ、常に鍛えているはずの自衛隊員が、まったく追いつけないスピードで走りながら敵と戦闘をこなし、息が全く上がらない俺がおかしいんだろうけど。
「これ、一応。そちらの上司の方には話したんですけど」
前置きをしておきながら、レベルアップでの身体能力の上昇についての、俺の考えを伝える。
「なるほど。経験ですか」
「元々の俺の身体能力は、姉ちゃんと比べたらかなり低いです。その分、動けば動くほど上がるみたいで」
「ちゃんと戦いの経験をしないといけない、と」
「そうじゃないっすけど」
「??」
この人、なんか仕草がかわいいな。
おっと、そうじゃない。
とりあえず、動くのなら何でもいい。例えばレベルが上がるまでに重りをつけて走っていたとか。そういう負担が必要なのだ。
「うーん、なんというか。筋トレと同じですね。負担が多ければ筋肉付きやすいですよね。そんな感じです」
「わかったようなわからないような」
「自分はわかりますね。走り回って敵を倒したら素早くなる」
「単純に言うと、そんな感じですね」
筋肉量とか、スタミナとか、いろいろ説明できない部分は多々あるけど。
実際、今の俺は、かなり力持ちになっている。人を三人くらいなら余裕で持てるし。なのに、筋肉があるかと言われたら違う。見た目は変わらない。文化部男子高校生な体型だ。俺は帰宅部だけど。
「まあ、詳しくはそちらで調べてください」
「そうですね。そろそろ動きましょうか」
「「「了解しました」」」
「コロちゃーん。行くよー」
「ワフ」
毛づくろいはあとでやってやるから。
そういや、魔法について聞かれなかったけど。誰かが魔法を持ってるのかな?親父が、自衛隊の誰かがスクロール使ったって言ってたし。
「ここが、四層の扉ですか」
「どこも広くて困るわ。俺が入ってたところより広いとは」
「え、そうなの?」
「そうそう。大体、倍かな?結構違う。敵は変わらないし。景色も同じだけど、広さは絶対こっちのほうが広い」
山にあるやつは、たいして調べてないから本当はわからないけど、ここより広いってことはないだろう。そもそも、入口のサイズが違うのだ。ここが一番広い。大体、大人10人位ならすっぽり入れる。山のは5人、うちのが2人がギリかな。
うちのダンジョンよりは広いから、あながち間違いでもないだろうし。
「じゃあ、ここハイゴブリンですけど。行きます?」
「出来たら行ってほしいんですけど。大丈夫なんですか?」
「何がです?」
「私たちは何もしなくても」
「大丈夫っすよ。むしろ手を出されて、敵がそっちに向かったら困りますし」
「ですが・・・」
「藤岡さんは、魔法使えるみたいですけど、たぶん今は効きませんよ」
「・・・気づいてたんですね」
「ごまかさないんですか?」
「大門さんから、あなたのことは聞いてましたので。決して隠し事ができないと」
そんなこと言ってたのか姉ちゃん。
俺が、魔法持ちを藤岡さんだと判断した理由は、階級と能力・・・も、あるにはあるが、そこが本命じゃない。何度か敵を撃ち漏らしたふりをした時。ほかの三人は銃を構えようと動いたが、藤岡さんはそのまま別の行動をとろうとしていた。まるで銃がなくても戦えるかのように。
「見られてたとは思いませんでしたけど」
「これでも、大門なんでね。気になった人は見ちゃうんですよ」
集中力と、他人の度肝を抜くことに関して右に出る者はいない、と自負している大門一家なんでね。それくらい見破らなきゃ。
「流石ですね。でも、少し言い方がよくないですよ?」
「はい?」
「恭輔、今のセリフ。ほとんど告白だからね?」
「え?」
「気になった人を、目で追っちゃう男子高校生みたいでした」
「俺もそんな時あったなぁ」
「・・・違いますよ?」
「ふふふ、わかってますよ」
「本当ですかね!?」
「さぁ、行きましょう?恭輔君の活躍も見たいですし」
「ええ、ガンガン行きましょう!!」
「わかってねぇな、あんた達!!!」
そんなこんなで、フロアボスのハイゴブリン戦。広場に入るとすぐに、いつも通りに道はなくなり敵が出てくる。
ハイゴブリンは五体、こちらの数と同数だが、あまり関係ない。
「こ、これがハイゴブリン・・・」
「流石にこれは・・・」
「ゲームだと、そこまでなここまでなイメージなかったんだけどな」
2メートルに届くかどうかといった筋骨隆々の巨体。通常のゴブリンと比べて大きいし、先ず筋肉がすごい。
もし殴られたら、ひとたまりもないだろう。かすっただけで気絶しそうだ。これで銃も効果がないなら、戦いたいとは思わないだろう。
「では銃を拝借」
「!?いつの間に!!」
「皆さんにやらせたら、もしかしてがあるでしょう?俺が試した方が安全ですよ」
89式小銃。触るのは初めてだけど、使い方はわかる。
「あんた!撃てるの!!」
「当然!友人にミリオタもいるもんでね!!!」
言い切ると同時に引き金を引く。二十発ほどの弾倉を使い切る。一瞬で撃ち終わるんだけど。ばらまくことはせず、一体に集中して当てる。身体能力の高さで、無理やり固定すればなんとかできる。
「ま、そりゃ効かないわな」
「そんな!」
「これくらいは想定内でしょうに。コボルトでも効きが悪いなら、こんなもんですよ」
実際のところ、コボルトが弱いわけではない。足はゴブリンより速く、毛皮も硬い。
しかし、ハイゴブリンに比べたら話にならないだろう。
速さこそ劣るが、それ以外では圧倒しているのだ。特に、筋力と耐久力は比べ物にならない。相対的に見て、足が速いだけのコボルトを、ハイゴブリンとは比べられないのだ。
まぁ、実験も終わったところでさっさと倒しますか・・・?
「ヴゥゥゥゥ。ワン!!」
「え、何!?やるって?譲れっていった?」
今更ハイゴブリンでいいんだろうか。正直、今のコロちゃんの相手にならないんだけどな。
「ワン」
「いい加減に体動かしたいと。わかったわかった。行ってこい」
「ワフー」
機嫌のいい時にしかでない声と共に、コロちゃんがハイゴブリンに歩いて向かう。俺と、コロちゃんの会話を聞いていた姉ちゃんは止めようとしたのか、手が変なところで止まっている。
「ちょっと!恭輔!」
「大丈夫だって。コロちゃん強いし」
「それでも万が一があるじゃない!。魔法ならすぐでしょう!?」
「私も反対です。可能なら魔法で近づかれる前に仕留めましょう」
家族で、本人もかわいがっている姉ちゃんはともかく、藤岡さんも、コロちゃんに戦わせるのは反対らしい。言葉には出さないが、他の二人もそんな顔してる。
それはいいんだけど
「本人?本犬の希望だしなー」
「それでもよ!!」
「なんでそんな焦って・・・」
コロちゃんの実力なら、こいつら程度楽勝・・・?
「姉ちゃんたち、親父から聞いてないのか?」
「何をよ!!」
「いや、俺とコロちゃんだと、コロちゃんのほうが強いんだけど」
もちろん、魔法込みで戦っても負ける自信がある。
「え?」
「そもそも」
話している間に、コロちゃんはハイゴブリンの目の前に。犬が一匹のこのこ歩いた来たと、なめ腐ってるのがわかる。銃で撃たれたやつなんて笑ってないか?
「コロちゃんが一番レベルが高い」
ハイゴブリンがこぶしを振りかぶり、コロちゃんを殴りつけようとした瞬間。
「なっ!」
「えぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
「うっそだろ!?」
「コロちゃん!?」
ハイゴブリン五体が、全員バラバラにされた。コロちゃんが何をしたか、何がおこったか。何もわからず、ハイゴブリンは死んでいったことだろう。
『高速移動』と『魔刃』の組み合わせだな。しかも、今回は爪だけじゃなく、全身に魔刃を展開して切り刻んだらしい。もはや細切れの領域じゃね?
「ワン」
「はいー、お疲れさん。張りきったな」
「ワンワン!!」
「姉ちゃんにいい所見せたかった?ならもっと早く言えよ」
じゃあ、そこで呆然としている姉ちゃんに甘えてきなさい。なめまくるのを許可しよう。
ネタバレになるのかわからんですが、この小説、基本的に一回きりの出番ってキャラがそこそこいます。
そして後になればなるほどペット枠は増える。僕の趣味です。出してほしい動物とかいたら是非感想ままで。検討します。




