ドラゴン退治!
ジリリリリリリッ!
目覚まし時計がけたたましく鳴っている。
心底起きたくないが、そういうわけもいかない。今日は仕事だ。
朝食を適当に済ませ、今日の仕事の準備に取り掛かる。
今日の仕事、それは・・・
「やっほー!ドラゴン退治の準備はできたかな?」
勢いよくドアを開けて入ってきて、帽子を被った女性は言った。
まだ準備中だった俺は
「いや、まだだ。リデル」
とだけ言った。
そう、今日の仕事はドラゴン退治。それもただのドラゴンではない。
そのドラゴンは鉱物を食べて育つため皮膚が硬く、ランドドラゴンと呼ばれている。
ランドドラゴンを倒すための道具を揃えるのに必要なのが魔法使い。
そのため、魔法使いのリデルが俺の家にやってきたというわけだ。
リデル・クイーン。
彼女は上級魔法使いの一族のクイーン家に生まれ、かなり腕の立つ魔法使い。
俺の仕事に必要な道具を揃えてくれるいわば相棒的存在だ。
「さっさと終わらせたいから、早く必要な道具をリクエストしてちょうだい」
などとリデルが急かしてくるので、ゆっくりする暇がない。
俺は
「リストを書いておいた。これの通り頼む」
と言って、テーブルの上に置いてある紙を指さした。
「はいよー。うん、よし。さっそく儀式を始めなきゃね」
そういって、リストを読んだリデルは数十発の銃の弾を取り出した。
「えー、まずは魔法弾から」
彼女がそういうと、部屋がぼわーっとした淡い光に包まれる。
その光はだんだん収縮して、弾の中に吸い込まれていく。
そうやって数十発の弾に魔法をかける。
「よし、終わり。化学弾はすでに出来ているから、これで全部よ」
魔法をかけ終わるや否や、リデルはそう言った。
「すまんな、いつも」
「そういうときはありがとうって言うべきだって何回も言ってるでしょ?」
「そうだな、ありがとう」
そう会話した後、リデルを見送った俺は、家を後にした。
依頼があった村に向かっている道中、俺が持った感想は「荒れ果てている」だった。
本来なら畑があるべき場所が、荒らされている。
これを誰がやったか明白だった。そう、ランドドラゴンだ。
「よくぞ来てくださいました」
村長に迎え入れられ入った村の中も、寂れていた。
「ご存知の通り、ランドドラゴンは皮膚が硬く、並みの兵士では太刀打ちできないのです」
と村長は言った。まあ、その通りだろう。
「このままではこの村が滅亡してしまいます。どうかお助けください」
と村長は涙ながらに訴えてきた。俺はこういうときに何て言葉をかければ良いかわからず、
「わかりました」
とだけ言って、その場を後にした。
ランドドラゴンは並みの兵士では太刀打ちできない。
村長はそう言った。では、俺は何者なのか。
その答えは、銃士である。
兵士の剣では致命傷にはならないが、魔法の銃で攻撃すれば致命傷を負わせることができる。
それには理由がある。
まず、先ほどリデルに準備してもらった銃の弾には大きく分けて3種類ある。
それは魔法弾、化学弾、素材弾の3つだ。
魔法弾は弾に属性を付けたもので、火・水・地・風・雷の5種類がある。
化学弾は化学で作られたもので、粘着弾や閃光弾がそれに当たる。
素材弾はモンスターを素材に使った弾で、魔法弾や化学弾と組み合わせることで威力を発揮する。
今回、メインに使うのは、地属性の魔法弾とドラゴンの素材弾を組み合わせた混成弾である。
すなわち、ランドドラゴンの皮膚と同じ属性のため、硬さでは負けていない。
その弾をドラゴンの弱点に打ち込めばいいわけだ。
まあ、そんな簡単にいく話ではないが・・・。
覚悟を決めていくしかない。
そんなことを考えながらドラゴンを探していると、遠くの方で雄たけび声が聞こえてきた。
きっと、ランドドラゴンの鳴き声だろう。
俺は鳴き声がした方向へ歩いた。
ランドドラゴンは、盛り上がった岩の上にいた。
こちらには気づいていないようだ。
さっそく俺は、スナイパーライフルを取り出し、弾を込めて構えた。
ドクン、ドクン、ドクン。
俺の心臓の音が聞こえる。
なにせ、これを外したらランドドラゴンとやりあわなければならなくなる。
狙うのは、皮膚が比較的柔らかい腹だ。
動きを止めたら撃つ。
ドラゴンを討つ。
ドクン、ドクン、ドクン。
「よし、今だ」
バンという音と同時に、弾が発射する。
当たれ、当たれ、当たれ・・・。
しかし、その思いも虚しく、弾はぎりぎりのところで避けられた。
まずい、ドラゴンが攻撃を仕掛けてくる。
そう思った矢先、ドラゴンはこちらに向かって火を吐いてきた。
落ち着け、落ち着け。この時のために他にも混成弾を持ってきている。
俺はそう小さくつぶやくと、水属性の魔法弾とスライムの素材弾の混成弾を銃にセットし、火に向かって撃った。
水とスライムは相性が良い。予想通り、ドラゴンの火を鎮火することに成功した。
「リデルに感謝だな」
しかし、安堵している場合ではない。次の手を考えなければ。
「動きを止めて撃つしかないか」
俺はそう考えた。ドラゴンの動きを止める方法はあるのだが、弾を外したときのリスクを考えて使えなかった。
が、今はそんなことをいっている場合ではない。何が何でもこの弾を当てなくては。
粘着の化学弾とスライムの素材弾の混成弾。これは強力な粘着力を誇る弾で、1発しか持ってきていない。
今度こそ外すわけにはいかない。
ドクン、ドクン、ドクン。
ドラゴンの動きが曲線から直線になった。
「今だ!」
再び、バンという音と共に弾が発射された。
「当たれ!」
ベチャッという音がこちらの方にも聞こえてきた。
粘着混成弾は当たったのだ。
よし、と心のなかで快哉を叫んだ。
そして、地とドラゴンの混成弾をランドドラゴンの腹に向かって撃ちつけた。
「ありがとうございました。何といって感謝を申し上げればよいのかわかりません」
村長は、また涙ながらにそう言った。これで、この村も復興できるだろう。
俺は村長から礼を貰い、村を後にした。
ランドドラゴンから貴重な素材を採取できたことだし、今日は良い日だ。
「帰りにリデルに土産でも買って帰るか」
そう思いながら俺は帰路についた。