表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『神の代柱』  作者: リンリ
序章
3/5

だから少女は笑みを浮かべる

 人の骨が潰れるその感触のまま、レイリは外へと歩み出した。

 酒場も兼ねたギルドのむっとした雰囲気や、昼間の糞暑い炎天下とは反対に、外の空気はひんやりと冷たかった。


 この世界は暦にまで神様だのがのさばってくる。

 まず基準は日の長さで、どんどんとそれが伸び行く期間は『陽』、減っていくのが『陰』と『年』が二分され、更にそれを四大属性である火、水、土、風に光と闇を加えて区分した『月』がある。

 その月を分けるのが『週』だ。陽たる七神、陰たる七神にはそれぞれ対応する同じ武器を扱う神がいて、それがあるから持つ武器で示す『週の曜日』は七つ。

 その上一日ずつ雷、時空、無が入れ替わるので大体一年は2×6×7×3で262。

 これとは別に『審判の期間』が陽と陰の隙間に五十ずつ挟まるので、一年は262+50×2で362日である。


 長いものだなんて、未だ16しか年を重ねていないレイリは考えるけれど。


 笑えるのはここからだ。

 これを当てはめたときに、最も太陽が長く大地を照らすその日は『陽』の『光』の『剣』、そして『雷』がそろう『天空神』ユフィリウスの日、反対に『陰』の『闇』の『剣』、『時空』がそろうその日は夜が最も長い『地母神』ガレリアの日。 


 ちなみに今日は陽期光月盾週の雷の日。

私に宿った『コイツ』の対局に当たる日だ。

 毎年のこの日は必ず、こいつらがやってくる。

 まるで忘れるなとでも言うように。


 全く徹底しすぎじゃないか。

 これだから協会の奴らは信用できないんだ。


 乾いた笑みを浮かべレイリはそう言って振り返った。




「なあ、あんたらもそう思わない?

 …………あぁすまない、思わないか。

 じゃなけりゃ『司教』共の狗なんてやらないよね、ごめんごめん」 

 

 全くアホな男共だ。アレだけ殺気を漏れ出させておいて奇襲がバレないとでも思っているのか。

 そもそも疑問には思わないのか。標的が都合良く路地に入ることに。

 全く以て愚か。どうせ頭の固い『司教』サマたちはレイリの捕獲代をケチったのだろう。


 そんな簡単に捕まらないことなんて、分かってる筈だろうに。


 ダンダンと足音を控えもせず、『三流』共は下品た笑みで襲いかかってくる。

 嫌悪感を込めつつレイリは─────


「一人」


 手に忍ばせた、血がこびりついた汚いナイフを投擲する。寸分違わず軽装備の男の眼を刳りぬき脳まで通過したそれは、いつの刺客の物だったか。

 呻き声も上げずに倒れ込んだ男の腕から、レイリは彼の得物を奪い取った。

 

「…………へぇ、両刀のククリ刀。手入れは悪いけど、珍しい」


 独特の形をした薄い刃。凸凹としたまともに研がれもしていないそれはなるほど、ハンデには丁度いい。

 怖じ気づいたような残りを睥睨してから、レイリは突然片手の一本をグイと放る。弧を描いたそれは目の前の男達から軌道を大きく逸らし…………路地上へと飛び上がる。


「《接続》」


 ザクリ。

 妙な音。

 行きと同じように大きな弧を描いて帰ってきたそれの刃には、黒々とした液体が払拭している。軽く左手でそれを受け取ったレイリはバカにした笑みを浮かべ、そのまま踏み込んで大剣使いの首を刈り取る。

 酒場にいたのは七人。一人はギルド内で足を潰し、“三人”はやったから残りは三人。

 探知で引っかかるのも三人だ。


「バカだなぁ、奇襲役が奇襲を警戒しなくてどうするの」


 縛り付けられ動けなくなった的を真っ二つにすることは容易い。最もそれだって武器で弾くだとか色々対処法はあるのだから、あくまでも警告のつもりだったけれど。

 まあ、やってしまった物は仕方ない。レイリは切り替えの出来る女の子なのだ。


 タンと踏み込み一撃目。長剣の使い方も忘れたような男の腕で受け止められる。

 長剣を握りしめた腕がクルクルと空高く舞った。


「あ、うぁぁぁぁぁあ!」

「うるさい」


 飛ばされてきた矢。意識はそのまま目線だけを後ろへ向けると、恐慌状態に陥った男が手元の矢を片っ端から射ていた。

 アホだ。

 そう断じることでレイリは思考を停止し、二撃目で剣士のうなじを切り裂いた。

 珍しく正確に飛んできた矢をスレスレで交わしバックステップ。バク転。

 三撃目。袈裟懸けに弓矢男を軽めに切る。驚く程に汚いドロドロしたそれは、噴水のように噴き出しあふれ出た。レイリは喉笛を優しいとでも思える手つきで貫き、戦闘終了。

 返り血すら、一つもなし。


 しゃがみ込んで動けない一番若い少年に、レイリは歩み寄る。


「ひぃっ!ごべんな、さい、赦ひてェ………!」

「あんたは殺さないよ、屑。運が良かったね、攻撃意思の無いのがもう一人でもいたら、あんたには確実に死んで貰ってたけど」



 師匠は言った。


「 協会の連中から追っ手が来たなら、一人は無傷で生かして帰せ。

 それが出来るのが実力の差で、狸爺共への意趣返しにもなるんだぞ?

 全く以て痛快だろーが 」


 師匠の教えにはレイリが納得できない物もある。そういう教えは大体、レイリは守っていなかった。

 それを知りながら咎めなかったのも師匠で、それでも尚レイリに知識を注ぎ続けるのも師匠だった。


 まあ反対に、酷く共感できる物もあったけれど。

 この教えはその内の一つだ。


 キレーな真っ白い神殿の中、血を見たことも無いような爺共が、自分を拉致するために荒事を計画する。

 そこへ心をボロボロに折られた一人だけが返されたとしたら、それはどうなるだろう。

 神殿の汚点を晒さぬようにと口封じに殺されるか、中に取り込まれるか。

 どちらにせよ、その内また次はどうするかと考え始め、己の利点のみを主張しながら、今回と同じように渋った金で傭兵を雇う。


 ………想像するだけで笑えてくるじゃないか。


 とは言えこの位の年頃の男は女に対し、妙な逆恨みをすることが多い。面倒なことになることも多いから、殺しておきたかったけれど。

 そんな“面倒なことの回避”よりかは、レイリは痛快を選んでしまう『冒険野郎』だ。


 多少の傲慢は仕方ない。

 だって私は、とんでもない理不尽を『仕方ない』と肯定させられているんだから。


 レイリは手に持つククリ刀を、少年の顔ギリギリ当たらぬよう投擲する。ザクリと刺さったそれを確認すると、少年が失神しているのが分かった。

 

「ふん」


 レイリは踵を返し、今度こそ寝倉へとかえるのだった。

 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ