だから少女は糸を垂らす
始めなので連続で
冷やかし。その中をグイグイと歩く。
なんてことは無い、只の日常茶飯事だ。
幾枚もの魔獣の皮を張られ作られたコートのポケットに手を突っ込み、レイリは口笛を小さく鳴らした。
受付の女性の明らかな嫌悪の表情も気にせず、レイリは叩き付けるように依頼票を座面へと置く。次いで時空鞄から三頭の巨大な鹿を取り出した。
次いでそれらを吐き出したとは思えぬ程小さなそれを再び懐へと戻し、彼女は端的に要求を口にする。
「終わり。報酬は?」
「…………任務達成につく前払いとして60,000ディリーです。今日も金貨の現金で?」
「勿論」
「かしこまりました。素材の売却より払われた額は後日の支払いとさせて頂きます」
レイリは何も言わずに頷く。この受付は“知っている”女だ。
レイリの足下を見て、素材の代金を引き抜いた結果受付が、ギルドが、この陰の国々でも弱小であった『宵闇』の、廃墟に過ぎない都市がどうなったのか。
受け取った金貨を乱暴に革袋に突っ込む。微かに覗いたそれの中にはぎっしりと輝く金貨が詰まっており、まだ登録したばかりの青年らが悔しそうに舌打ちをする。
しかし何の感情も無い目をレイリが向けると、彼らは慌てたように手元の粗末なパンを食らい出した。
まるで豚のようだ。
思想だけが肥え太って、誰かに摂取されることなど思いもしない奴らだ。
今度はレイリが舌打ちすれば、リーダー格の男の顔が青ざめる。それを見てレイリはクルリと踵を返し、パンパンと自分の頬を叩いた。
いけないいけない、こんな些末なことに感情を出すなど。
小汚い床をこれまた小汚いブーツで歩く。途中わざとらしくはみ出た足を渾身の力で踏み付けた。
「がぁッ!」
男に殺意を込めた一瞥を見舞う。それだけで彼は失神し、ポタポタと肥溜めを垂らした。ひいっと小さく仲間達が悲鳴を上げる。
これだから床が汚くなる、ゴミ共め。
内心で悪態をつきながら一応は男の顔を確認した。この間、陽の国の都市から来たばかりの男。確かランクは………レイリの一つ下の『白銀』だった。
どうせ甘ちゃんばかりの都市の『白銀』ぽっちで陰の廃墟に降りてくるような自意識過剰野郎だ、実力など無いにも等しい。現に大の男が数人がかりで、未だ『黄金』にすら上がれていないのだし。
レイリはそうブツブツと零す。
そして彼らの瞳に明らかな殺意が湧いたのを見て、内心でほくそ笑んだ。
毎年下らないそれに付き合っているのだから、多少の憂さ晴らし位かねて貰おう。だってレイリは我が儘なのだ。