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異世界で美容整形医はじめました  作者: ハツセノアキラ
こうして僕は国王に認められた
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2-021 続けて本命が来てくれたようで



 全然いらない求婚をブリンダージから受けて、流石に僕も呆けてしまった。

 それが狙いだったら、本当にこいつはすごい商人だと思う。

 片目を(つむ)って答えを促す当たり、相当の自信家だから、単純にオレ様系なだけだろうけど……


 というか、王子はどうしたの!?

 王子居なかったら、ここに来た意味ないんだけど!


「その辺にしておけ。そのお姉さんは僕が頂く」


 そんな言葉と共に、また扉が開いて別の人が入ってきた!

 いや、もう良いです、求婚とかお腹いっぱいです。


 辟易(へきえき)しながら、言葉の主をぼんやりと眺める。


 僕のことを「お姉さん」と呼ぶのは、年端のいかない少年のようだった。

 断定できないのは、その顔のほとんどが仮面に覆われていたからだ。

 体付きは華奢な方で、中性的で分かりづらい。

 その力のある声と服装から、男性だと判断するほかなかった。

 そして、その服装はブリンダージより更に高級そうな仕立て。

 ブリンダージより気品に溢れるその所作(しょさ)


 これは、もしかしたら、第三王子では!?


 やった、この人の求婚なら願ってもない。

 その申し出なら喜んで受けるよ!


 って、なんで男の求婚を喜んで受けようとしてるんだ、僕は……

 余計な災難が続いたので、かなり疲れているようだ。


「お姉様、嬉しいからって……今さら、表情を取り繕われても遅いですよ」


 いや、違うんですミレルさん!

 決してやましい気持ちがあったわけじゃ……って、よりおかしな方向に進んでるじゃん!

 なんで浮気がばれた旦那が、嫁さんに言い訳してるみたいになってんの!?

 相手は男なのに!!


「ふふっ! 僕の勝ちのようだな、ブリンダージ」


「殿下と勝負して勝てるわけが御座いません」


 無邪気に喜びを表している推定第三王子と、言葉の割には悔しそうにしているブリンダージ。

 ブリンダージが殿下と呼んだことからも、彼が第三王子なのはほぼ間違いなさそうだ。


「その呼び方はここではやめろと言っているだろう……」


「はっ……申し訳ございません」


 貴族というのは年齢に関係なく、上下関係が厳しいな。

 中性的な少年(実は王子)に、偉そうにされてるイケメン貴族……そんな2人に突然求婚されるとか、どんな乙女ゲーだこれは。

 いやいや、ここで腐女子妄想をするなら、きっと、この2人が付き合ってることになるに違いない。

 むしろそうであってくれれば、僕の安全は確保できるんだけどなー……


「突然失礼した。ここでは名が明かせぬ怪しい者だが、場所を変えて話をさせてもらえないだろうか? その姿を店の奥からこっそり(うかが)った瞬間から、僕の心は爆発せん勢いだ。貴女が妖しい幻惑魔法を使う魔法使いでないなら、この気持ちは一目惚れというものだ。一度だけでも構わないので、昼食でも一緒にどうだろうか?」


 いえ、妖しい幻術を使っている魔法使いなので結構です……と条件反射的に断りたくなるのは、仕方がないとして。

 よくもまあ、自分を怪しい者と名乗り、こっそり覗いていたと言いながら、ぐいぐい押してくるものだ。

 まさか自分が断られるとは思っていないのか、鋼のメンタルの持ち主なのか。

 頑丈なメンタルというよりは、柔らかくて切れなさそうなメンタルなので、こんにゃくメンタルと言った方が良さそう。

 こんにゃくは伝説の刀でも切れないらしいし。


 さて、つい逃避したくてぐだぐだ余計なことを考えたけど、残念なことにこんなチャンスを逃す手は無い。


「ちょうど良い時間ですし、喜んでご一緒させて頂きます」


 上手く笑えたと思いたい。

 ミレルが横でニコニコしているから、きっと大丈夫なんだと思う。


「ただ、連れの問題が片付いてませんので、それが片付いてからでも宜しいですか?」


 そのままの笑顔を保って、僕は交渉を続けた。

 このタイミングは、魔法剣のクレームに対してもチャンスだからね。


 案の定、推定第三王子が仮面の下からブリンダージに睨みをきかせると、あっさりと代金の返却と破損した魔法剣の引き取りが決まった。

 頭取(とうどり)よりも地位が高いってことは、スポンサーってことになるのかな?

 ともかく、これでシシイへの償いも問題ないだろう。

 これで、後の話がしやすくなる。


「まず、申し出を受けて頂きありがとうございます」


 推定第三王子が進めるために、礼から話を続けた。

 地位も高く優位にいるから、もっと強引に話を進めるかと思ったけど、意外にフェミニストで好感が持てる。

 いや、それだけ、プロポーズを受けてもらいたいから、心象を良くしようと必死なのか。


「場所を用意させますので、しばらく奥でお待ち下さい」


 推定王子にこんな歓待を受けるとか……美人って得だな。

 僕はそんなに口説きたい相手なのか?

 僕自身は鏡を見ても、化粧はしているけど、ようやく馴染んできた自分の顔があるって思うだけだからな……

 ミレルの方が圧倒的に可愛いのに。


 そんなことを思っていると、ブリンダージに店の奥の豪華な個室へ案内された。

 恐らく、上客用の商談スペースなのだろう。

 というか、ブリンダージ……頭取が下働きみたいで良いのか……?

 推定第三王子が相手なら仕方がないのかな……


「恐らく、第三王子の客になったので、それなりの身分の人が案内する方が、貴族的には良いのだと思います」


 ミレルが耳打ちしてくれた。

 コンセルトさんから、貴族レッスンを受けたときに聞いたらしい。

 僕も聞いたはずだけど、全部は覚えていられなかったか……いや、もちろん、男性としての振る舞いは覚えてるよ……今は役に立たないけど。

 嫁さんに頼りっきりなのは情けない……けど、特殊な状況なので、余計な矜持(プライド)など持たずに、素直にサポートしてもらおう。

 頼りになる嫁さんに感謝だね。


「お二人はお帰り頂いて結構ですが……?」


 ついてきていたシシイとイノに向けて、ブリンダージが不思議そうに尋ねた。

 シシイが彼に言われて初めて気付いたようで、恥ずかしそうにしている。

 イノはただ単に、シシイについてきただけなんだろう。


「や……そうだな! この店まで一緒に来たものだからついな。わたしらは──」


 シシイが皆まで言い終わる前に、僕は彼女の言葉を制した。

 シシイは不思議そうに首を傾げて僕を見ているけど、それは置いておいて、僕はスヴェトラーナに持ってもらっていたカバンを漁る。

 取り出したるは、金色に輝く丸い金属。

 つまり金貨だ。

 その金貨を20枚ほど机に積んだ。


「王都にいる間の護衛をお二人に頼みたいのですが、引き受けてくださいますか?」


「そりゃ、受けることは出来るが……ツェツィはあれだけ護衛に適した能力なんだ、充分だろう? あまりムダな金は使わない方が良いぜ」


 僕の懐事情を慮ってくれているのか、それともお金の価値を分かってないお嬢様とみているのかは分からないけど、お金になりそうだからってほいほいと依頼を受けないところに、好感が持てる。

 楽な仕事だと思ったなら、ラッキーだと思って受ける人も多いだろうに。


「神出鬼没な悪魔憑きが頻出してる状況では、王都の中とは言え安全と言えません。そんな状況なら、強い護衛は多いに越したことがないでしょう?」


「確かにそうだけどよ……」


 ん? やけに渋るな……今の理由で充分だと思ったのに。


「今、他の仕事を受けていらっしゃるとか、予約が入っているとかでしょうか? それなら、諦めますが……」


「いや、そうじゃねぇんだ。そろそろ王都を()とうと思ってたからな……」


 王都を出るって……もしかして……


「シエナ村に行かれるのですか?」


「なっ! なんでそう思うんだ……?」


 図星だったようだ。

 理想のオークであるイノを見つけたから、そろそろシエナ村に帰ろうとしていたのか。

 シシイの性格なら、シエナ村に住むという村長の約束も守ろうとするだろうし、尚のこと早く帰ろうと思っていたのかも。

 だったら尚のこと、雇わないと。

 帰ってもボグダンは居ないのだから、がっかりさせちゃう。


「ボグダンさんの話をしたときに、探している風に思いましたので。ボグダンさんなら、今はシエナ村に居ませんよ?」


「そうなのか?」


「はい。わたしが出会ったときに、しばらく医院を空ける予定だったからちょうど良かった、と言われましたので」


「そうなのか……」


 少し残念そうに俯いたシシイだったが、すぐに気を取り直して顔を上げた。


「教えてくれてありがとうな。それなら、嬢ちゃんの護衛を引き受けるよ」


 快く承諾してくれた。

 これまた、色々と嘘を吐いているのが心苦しいけど……ここで見送って待ちぼうけをさせるよりは、幾らか罪が軽くなったと思いたい。


「ただし、危険な場所へ行くような護衛ではないんだ。あまり高い額を出すな。そんなんじゃ、他のヤツからたかられるぞ」


 全く、優しいなシシイは。

 僕のことを、世間知らずのお嬢様と見てる方が正解なようだ。

 この世界の常識を知らない、という部分は合ってるけどね。

 むしろ、僕の世界の知らなさが、会う人全てにお嬢様感を与えてると、ポジティブに考えるべきか。


「肝に銘じておきます」


 だからこそ、シシイの忠告は素直に聞き入れなきゃ、(ばち)が当たるね。


 ところで、こういうときの罰って、普通は神様が当ててくるんだよね?

 僕の知ってる神様は、罰なんか当てそうにないけど。

 むしろ自分が罰に当たりに行きそうな……


 かわりに、神様と同類である白鶴の予想は、当たりまくりだけど。

 まさか王子が一目で求婚してくるとは……

 仕組まれてないよね?

 干渉はしないって言ってたし。


 うん、いまはすごくどうでも良いことだけど。


「足りなかったら後で要求するし、多かったら返す」


 シシイそう言って、僕が机に積んだ金貨から、6枚ほど受け取って、その内の1枚をイノに渡し、5枚を自分の財布に入れた。

 イノが少し残念そうな表情でシシイと会話を始めたけど、すぐにシシイに怒られてしてしまった。

 シシイ曰く、楽して儲けるな、だって。

 でも、労働に見合わなかった場合は、必ず請求しろ。

 余分はもらってはダメだけど、足りない部分は絶対に納得するな、それを分かるようになれ、って。

 つくづく、シシイはプロであり、正しいなって思う。


「ということで、2人も同席させてもらいます」


 と答えて、全員椅子に座った。


「分かりました」


 ブリンダージはいたって真面目な顔で、了承の意を返し、部屋の奥にある扉をノックした。

 不満げでも訝しげでもなく。

 客が商店に関係のないことをする分は、自分の領分でないとわきまえている。

 先行した噂で、あまり印象は良くなかったんだけど……

 やっぱり、ブリンダージはしっかり商売人なだけなようだ。

 商売の仕方として、好きになれない部分はあるかもひれないけど、生き残るためならやむない世界なのかもしれない。


 少しだけ間が開いて、外から扉が開かれ、ブリンダージは外と少しだけ話をすると、すぐに扉を締めてこちらに向き直った。


「すぐにお茶をお持ちしますので、そのままお待ちください」


 ブリンダージは営業スマイルで一礼すると、扉の近くの椅子に腰掛けた。

 しかし、こいつも大変だな……

 求婚したと思ったら、推定第三王子に(かす)め取られて、その相手をさせられているとは。

 僕だったら、顔を合わせるのも恥ずかしい気持ちになってる気がする。


「心遣い感謝します。しかしながら、最終的に、あなたがあのお方の申し出を、了承するとも限らないわけですし。その時はまた、狙わせて頂きます」


 そう言って、ブリンダージはきらりっと眩しい笑顔を僕に向けた。

 その笑顔、まるでアイドルだな……いやらしい感じがしないから、僕の背筋も反応しない。

 これって、女の子ならときめいているかも? 僕にはその辺良く分からないけども。

 とにかく(したた)かなヤツだ。

 そのぐらい強くなくては、こんな高級店のトップは務まらないのかもしれないね。


「もちろん、この話はあのお方には内緒ですよ」


 茶目っ気たっぷりに補足するブリンダージ。

 見事なギャップだ。

 本気なのか本気でないのか、計りかねるところがあるけど、女性に変装している限りは、こいつは紳士的に接してくれそうだ。

 男って分かったらブチ切れられそうで、そっちの意味で悪寒が走るよ。


 さて、待ってる間に少しだけ、王都で情報を得るためにやっておいた方が良いことを、護衛達にお願いしておこう。


「早速ですが、シシイさんとツェツィには、この後と別行動であるところに行ってもらいます。こちらの護衛には、イノさんだけ残ってもらいます」


「さっきと言ってることが……」


 不服そうに眉を(ひそ)めるシシイ。

 無理もない。

 危険だから雇われたはずなのに、いきなり別行動を言われるとか。

 でも、実はそのために雇ったので、もっともらしい理由をつけて動いてもらわないと。


「少し情報を得てきてもらった方が、安全に過ごせますので、そのために必要なことなのです。それに、この後わたしが行くところは、きっと他より安全な場所でしょうから」


「それもそうか……まあ、明確な危険が無い限り、雇い主のやり方に文句はつけないけどよ」


 とりあえず納得してくれたようだ。

 そして、どこに行ってもらうかというと……


「まず、プラホヴァ家の屋敷に行って、伝言を伝えてもらいたいのです」


 プラホヴァ家の屋敷と言う単語に、ブリンダージが少し反応したけど、とりあえずスルーして話を続ける。


「シシイさん、場所は分かりますか?」


「プラホヴァの領主か? 何度か、領と屋敷を移動するときの護衛を引き受けたことがあるから、分かるぞ」


 頼もしい限りだ。

 正直、コンセルトさんに場所を聞いたけど、行ったこともない街の中の話をされても、しっくりこなかったので、説明できる気がしていなかったのだ。


「それは助かります。今から手紙を書くので、それを渡して下さい。それともう一つ、この街の教会に行ってもらいたいのですが……」


「そっちは目立つので、初めて来たヤツでも分かるところだ」


 僕が言い淀んだ理由をシシイは理解して、すぐに答えてくれた。

 尚のこと頼もしいね。


「シシイさんに頼りっぱなしで申し訳ないですが、そちらにもツェツィを連れて行ってください。こちらも用件は手紙にまとめます」


「わかりました!」


「簡単なことだから気にするな」


 スヴェトラーナが元気よく、シシイは言葉通り何でも無い風に返事をくれた。

 これで、懸念事項は一つ解決できそうだ。


 僕はカバンからペンとメモを取り出して、要件をまとめたメモと、プラホヴァ家に渡す用の手紙を、用意してスヴェトラーナに手渡して、中身を確認してもらった。


「これでよろしいのですか……?」


 メモを読んで、不思議そうに僕を見上げてくるスヴェトラーナ。

 スヴェトラーナの基準では、違和感がある指示だったんだろう。

 注意事項も沢山書いたからそこは仕方がない。

 でも、色んな理由でメモ通りにしてもらった方が、話が早く進むんだ。


「間違いがあると困りますので、細かく指示を書きました。細かすぎるように思うかも知れませんが、その紙に書いてある通りにして下さい」


「分かりました」


 うん、素直で宜しい。


 僕たちの用事は済んだので、しばらくお茶をしながら、ブリンダージのおもてなしを受けていると、近くで馬車が止まった音が聞こえた。

 暫くすると、コンセルトさんみたいな執事風の男性が、部屋に入ってきた。


「ご用意できましたので、こちらへどうぞ」


 執事に促され、馬車へと誘導される僕たち。

 それを見送るためについてくるブリンダージ。


 いろいろ気になる部分はあるヤツだけど、ブリンダージはそれほど悪いヤツには思えなかったしお礼は言っておいた方が良いだろう。


「ありがとうございました。また、珍しい商品を拝見させてもらいに来ます」


 結局、他の魔法剣をじっくり見る暇は無かったし、他にも魔法具もいくつかあるっぽかったから、見に来たい気持ちは本当だ。


「これはこれは……お待ちしております」


 ブリンダージは、僕の言葉に意外そうな表情を返した後、素の笑顔でそう言った。


 やっぱり、素の性格に難があったとしても、こいつはモテると思う。

 ターゲットが僕になって、他の子が(たぶら)かされずに良かったよ。

 ミレルの反応次第では、ショックを受けたかもね。

 起こっていないことを想像して、ショックを受けるのもバカバカしい。

 まあ、ミレル以外の恋愛をとやかく言うつもりは無いけど。


 そんなイケメン頭取に、見送られて、僕はブリンダージ商店を後にした。

 さて、これからどんな場所に連れて行かれるのか……

 いきなり王宮、とかだったら楽で良いんだけど。

 まだ第三王子と決まったわけでもないんだよなと、心を(いさ)めるのだった。



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