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異世界で美容整形医はじめました  作者: ハツセノアキラ
こうして僕は国王に認められた
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2-013 魔法なら武術修行も時短出来るようで


 護衛関しては、スヴェトラーナ=ツェツィにその役を兼務してもらって、関所を凌ぐことにした。

 スヴェトラーナは、ヤル気満々で元気に承諾してくれた。

 とはいえ、今のままでは、護衛として能力があるのか試されると、簡単に能力がないことがバレて、怪しまれてしまう。

 スヴェトラーナには、早急に護衛の達人となってもらう必要がある。


 いつも身に付けてもらっている魔石セットには、身体強化は元々入れてあるので、武器を振るう意味では問題がない。

 でも、戦闘というのは相手がいて、その相手に対応した動きが必要になってくる。

 スキルみたいな便利機能はこの世界にはないので、簡単に戦闘技術を上げることは出来ない。

 商人のカントさんとも話していたように、武器を持ったからって闘えるわけではないのだ。


 ただ、本当に闘う必要性は今のところ無い。

 にのかみ曰く、宇宙で使う用の魔法が多いのだから、物理防御フィジカルディフェンスだって僕の使うレベルでも小惑星の衝突ぐらいは耐えられると思う。

 そんな魔法を、惑星上で起こる出来事程度で、貫けるとは到底思えない。

 そう言う意味で、戦闘を実際にする必要は無い。


 だから、単純に見た目だけ、見かけだけそれっぽくなれれば良い。


 まずは、視力。

 闘うべき相手の動きに反応するためには、最低でもその動きが見えなければならない。

 これには、視覚強化系のバフ魔法を追加して対応する。

 単純に視力を良くするものから、動きに追従できるよう補助する魔法など、幾つかの魔法を追加した。


 その一つに、閃術『動作補足(モーキャプ)』という人や動物の動きを予測してくれる魔法があった。

 僕の知ってるモーションキャプチャーは、単純に動きをパソコンに取り込むだけだったはずなんだけど……

 そんな必要性もない時代だから、違った用途があったんだろうね。

 おかげで、このバフ魔法を使えば、少なくとも速い動きを目で追えるようにはなる。


 次は反射行動。

 相手の動きを捉えたら、次はそれに対応した動きをしなければならない。

 これは、身体の動きをアシストする操術『身体動作補助アタクシアアジュバント』というバフ魔法があったので、それを追加した。

 たぶん、この魔法は名前から言って、リハビリテーションに使う魔法だったんじゃないかな。

 このバフ魔法によって、意識した動作をアシストしてもらえるので、反応速度が上がってくれるはず。


 だから、最後は、実戦!

 ……は出来ないから、少しだけ身熟しの確認。

 これらの魔法で、相手の攻撃に合わせてそれっぽく動けるか、確認しておきたい。

 慢心して怪我したら困るし、あくまでも振りだけをしてもらいたいと思う。


 まずは自分にも同じ魔法を掛けて、スヴェトラーナに弓を持ってもらった。


「魔法効果がどの程度あるのか確認したいから、まずは僕の足を射てもらえるかな?」


「御主人様……ドレスですけど大丈夫ですか?」


 ……なんか動きにくいと思ったんだ。

 いつもより服が重いし、やけに下向きに引っ張られてる感じがするし……

 いや、でも、これで動けないと王都では困るわけだし……

 悩ましい、あまりにも悩ましい、無駄に悩ましい。


 ドレスの裾を持ち上げて、軽く動いてみる。


「お姉様、可愛いですよ!」


 ミレル=ミリエールがなんかすっごい嬉しそうなんだけど……

 ギャップ萌えの一種かな?

 とりあえず、役割(ロール)を考えたら、微笑みを返すのが妥当だと思う。


「ふあぁ!」


 変な声を出して悶え始めたのでそっとしておこう。

 スヴェトラーナが、ヤレヤレって言いたげな視線を送ってきてるし。


「この服で動けないと意味が無いから、一回やってみようと思う」


「承知しました。では、参ります」


 スヴェトラーナが中々様になった動作で、弓を引き絞る。

 まだ彼女は補助魔法は発動させていないのに、これは本当に経験があるから出来ていることなのだろう。

 彼女は過たずに、僕の指定した場所へ矢を放ってきた。

 基礎ができているなら、きっと大丈夫だ。


 そして僕は、瞬く間に足元へ飛んできた矢を、手で受け止めた。


「ボグダンさん、凄いです!!」


「きゃー! お姉様カッコいいー!」


 驚きで元の喋り方に戻ってしまったスヴェトラーナと、むしろ更に役割にハマっていくミレル。

 驚くと思う。

 飛んできた矢を素手で捕まえるとか、達人にしか出来ない技だろう。

 自分でも、出来てしまったことに驚いている。


「魔法のお陰だよ。こんなにも効果があるとは思わなかったよ」


 飛んでくる矢の軌道がAR表示されたわけじゃなく、もっと感覚的に、ここにこのタイミングで飛んでくる、っていうのが分かった。

 そして、軌道が直感的に理解できるから、対処するのに余裕もあって、身体も強張ることなくスムーズに動かせた。

 バフ魔法ってスゴい。

 ゲームのバフ魔法とはちょっと違うけど。


 もちろん、服や身体に『物理防御フィジカルディフェンス』を張っているから、難なく運動エネルギーを殺せたというのもあるけど。


「補助魔法を切って防御魔法だけにしたから、もう一回同じところに撃ってみて」


「承知しました!」


 決まった型を演じるかのように、スヴェトラーナが同じ動作で弓を射る。

 矢はさっきと同じ場所に一瞬で到達して、僕の着ているドレスに触れて、一瞬空中で静止した後地面に落下した。


「きゃあ! お姉様!!」


 楽しそうに叫び声を上げるミレルは、この際スルーしておこう。


 魔法の補助がなければ、分かっていても全く動けなかった。

 手を出して良いタイミングがまるで分からない。

 風を切って自分目がけて飛んでくる矢に身がすくむ。

 避ける動作すら出来なかった。


 やっぱり防御系は常時発動が必要だね。

 不意打ちで怪我してもらいたくないし。


 今度はスヴェトラーナに同じ体験をしてもらう。

 まずは、アシストオフの状態から。

 でも、僕は弓をまともに使えないので、投石で我慢してもらおう。


 身体強化をかけて、矢と同じぐらいの速度で小さな石を投げる。

 指定した場所に真っ直ぐ石が飛んでいく。

 筋力に余裕があると、コントロールも良くなるらしい。

 そして、スヴェトラーナは少し身動(みじろ)ぎしたところで、彼女の左足に石が当たった。


「いたっ……くないです!」


 一瞬、『物理防御』を張り忘れているのかとビックリしたけど、当たったように見えたからついつい声を上げてしまっただけのようだ。

 因みに、魔石は色を変えてあって、使い分けられるようにしてある。

 なんせ識別を付けないと、僕も分からなくなっちゃうからね。


 次はフルアシスト状態で同じことをする。

 今度は、石がスヴェトラーナに到達したところで、彼女に軽く受け止められた。


「御主人様? 先ほどよりゆっくり飛ばしませんでしたか?」


 さっきと同じように投げたので、それは錯覚だね。

 どこにどんな風に飛んでくることが明確に分かるから、見ている余裕が出来て、ゆっくり飛んできたように見えたんだろう。

 それを客観的に説明するには、第3の観測者──ミレルの証言が必要だ。


「ミレル、どう見えた?」


「え? お姉様がとてもかっこ良く見えたよ??」


 それは聞いてません。

 この格好でカッコいいって言われても……ホントにホントに悩ましい。

 何となく普段より、僕に対して直球な言い方をしてくるような気がするのは、ミレルが言ってた「近付ける」ことの効果なのかな?

 褒め言葉を言うことに、照れが減った気がする。

 その分、ポンコツ度が上がったけど。


 今度は意見を聞くべく、しっかり見ておいてもらって、魔法の効果を確認した。

 ついでに、ミレルにも体験しておいてもらって、万が一の時は使えるように魔石も渡しておいた。


「何だか、自分がスゴくなったって勘違いしてしまいそうです……」


 そう、それが恐いんだよね。

 それと、魔法が無いことに不安を持つようになることも怖い。

 自分の力ではないと、常に言い聞かせておかないと。

 まあ、振りや格好だけだから、そうそう使う場面はないのだろうけど。


 身熟しの確認は、遠距離だけでなく、剣やナイフを使ったり、素手による格闘の動きも確認しておいた。

 そして、どれをやっても、視界に入る範囲の動きには、対応できることが分かった。

 さて、それが分かってしまうと、不安になるのが視覚外からの攻撃。

 死角からの攻撃と言った方が分かりやすいか。


 まあ、まともに受けても怪我はしないんだけど……魔法を使えない人からしたら、むしろそれは異様なことなので、それも防げるようにしたい。

 心配性なだけかも知れないけど。

 少し調べてみよう。


 調べる時間を取るためと、丁度良い時間になってきたので、魔法のテストは一旦終了。

 森へ降下する時に、泉があるのを見たので、少し歩いて泉のほとりでお昼ご飯を食べることにした。


「静かでキレイなところね」


「涼しくて気持ちが良いです」


 2人も気に入ってくれたみたい。

 獣の類いもいないようなので、安心してご飯が食べられそうだ。

 食料や食卓を魔法で準備していると、2人が泉を見てウズウズしてるような気配が伝わってきた。

 泉には何も居なさそうだけど……


「どうかした?」


「泉に入りたいなーって……」


 泳ぎたいって気温でもないし……ああ、水浴び──つまりお風呂か。

 旅に出てから入ってなかったし、確かにそう言われると僕も入りたくなってくる。


「僕がご飯の準備してる間に入っておいで。防御魔法は切るしか無いけど、何があるか分からないから、新しく作った補助魔法は発動させておいてね」


「承知しました!」


 と、嬉しそうに返事するスヴェトラーナに対して、


「お姉様も一緒に入る?」


 事も無げに聞いてくるミレル。

 距離が近付きすぎでしょ……

 見た目に騙されてはいけません、脱いだら変わらず男ですよ?

 もちろん、入りたくないわけじゃないけど。


「ミレル、ちょっと……」


 僕はミレルを手招きして近くに呼ぶと、トテテと小走りに寄ってくる。

 素直で可愛らしいですね。

 お姉ちゃんとしても旦那としても、少し心配になるけど。


 僕は近寄ってきたミレルに手を翳して、魔法を発動させる。

 ついでに、手鏡も魔法で用意しておく。


「はい、メイク落としたから、しっかり顔も洗ってくると良いよ」


「え?」


 目をパチパチとさせながら、ミレルが鏡と僕を交互に見る。

 ミレルの頬が徐々に赤らんでいき、眉尻が情けなく下がっていく。


「み、水浴びしてきます!」


 僕に背中を向けてダッシュで泉へと消えていった。


「ミレルさん、待ってくださ〜い!」


 慌ててスヴェトラーナも追いかけていった。


 メイクとはモードを切り替えるものである。

 なんて、女装趣味の友人が言ってたか……

 見た目が明らかに違う自分になったことで、スイッチを切り替えられるんだとか。

 あと、元から変身願望がある人の方が、より強く現れるとかどうとか、嘘くさいことも言ってたけど。


 恐らくミレルは、その効果が強く現れたんだと思う。

 ミレルには妹が居るから、一度妹になってみたかったのかも知れない。

 だから、メイクを施して妹の役割を与えたことで、なりたい自分になりきっていたのかも。

 メイクを落とせば、そのスイッチも切れたというわけだ。


 人は変わりたい自分に近付けば、簡単に変わるものなのかも知れないね。


 走り去る2人を見送りながら、僕は木の衝立(ついたて)を精製して、彼女たちとの間に立てておく。

 こういうのは、お互い見えない方が安心できるだろう。


「目隠し立てたから、あまり遠くに行かなくて良いよー」


 そう声を掛けて、お昼ご飯の準備に戻った。

 少し手の込んだお昼ご飯を用意して、まだ時間が余ったから、死角に対応する魔法を探してみた。


 視野の拡張というのは難しいようで、単純に視野を拡張してしまうと生活に支障が出そうだった。

 そうなると、別で視野を補えるインターフェースが必要そうで──ああ、なるほど、カメラか。

 分かってみれば簡単なもの、すぐに閃術『全球撮影機(アルファシータ)』という魔法が見つかった。

 何となく、コピー機でも有名な会社が登録しそうな名前だね。


 この魔法、カメラ機能なので『動作補足(モーキャプ)』との相性が抜群らしい。

 投影機器と合わせて、遠隔地にホログラム配信するためにでも使ったのかも知れない。


 実際に試してみると、目に見えない範囲の動きが、感覚的に分かるようになった。

 外付けインターフェースなので、意識したときだけ感じられるみたい。

 アクティブにしていると、目を閉じても知覚できるみたい。

 まるで、武術を極めた者が辿り着く、究極の探知能力──気配察知みたいだね。


 これらの魔法の組合せを使いこなせば、煩わしくない程度に、気配察知を常時発動することも出来そうだ。

 慣らすためにしばらく全力で発動しておこう。


 そう思って、色んな方向の気配を探っていると、2人の居る方向の動きが活発になったと思ったら、


『きぃやぁぁー!!』


 2人の叫び声が聞こえた!!


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