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異世界で美容整形医はじめました  作者: ハツセノアキラ
こうして僕は国王に認められた
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2-012 強い力は畏怖嫌厭の対象のようで

2019.05.23

修正しました。


「え? あれ? なんとなく、すがすがしい気持ちだけど……何の話してたんだっけ? 転生者の話だったような?」


 にのかみに記憶を消された白鶴が、少しだけ混乱しているようだ。

 にのかみと白鶴どちらもが、にのかみに会った記憶は無い方が良いと望んだんだから、そのことには触れ無いでおこう。


「そうそう、君も僕も転生者で、僕に会ったから君は別の世界線に行くって話をしていたんだよ。それはどうしてかな?」


「ああ、確かにそんな話だったね。それは、キミがこの世界を変えてしまうからだよ。キミは自分や仲間を守ろうとするから、教会を壊すことになる」


 厳しい視線だけど、責めてはいない口調で、白鶴は僕に告げた。

 まるで確定事項のように。


 僕が教会を潰す?

 何でまたそんな考えになるのかな……

 僕は闘いたいとか思ってないのに?


「この世界の教会の教義は、転生者を悪魔と定義しているからだよ」


 イヤな予感が的中した気分だ。

 何度も何度も悪魔の話は出て来て、豹変した人間を悪魔憑きと定義しているのは分かっていた。

 ストレスで暴れ出した人間を、手に負えない場合は悪魔憑きとして殺すことがあることも聞いていた。

 人の最上位の変化、現実的に起こり得ないような事象、本当に人間が替わってしまった場合、それは悪魔憑きではなく、悪魔になったと定義されているということか。


「それだけじゃなくて、転生者は必ず大きな力を持っているからなんだ。人の範疇なら悪魔憑きで済むんだよ。でも、転生者は必ず人の範疇を越えてこの世界にやって来る」


 転生者特典のことか。

 まず死なないことが尋常ではない。

 そして、戦っても尋常じゃない力で、相手を圧倒できるだろう。

 敵対した相手からは、悪魔と定義されてもおかしくない程度には異常だと思う。

 教会の教義は、転生者が現れることを前提として、作られていて、転生者を排除することが目的になっているということか。


 なら、白鶴も安全ではないということなのに、教会がなくなることを嫌っているように聞こえたのはなぜだろう?


「ボクは知りたいことがあるから。そのためには教会が必要なんだ。だから、次の転生で、ボクは教会の残る世界線へ移動することになる」


 そう言って、白鶴は空を見上げた。

 過酷な環境に身を置いて、それでも知りたいことがある。

 きっとそれは、神様のこと。

 さながら、修行僧のような心理だね。


 というか、転生って何回も出来るの?

 選ばれる確率が物凄く低そうなことを、転生の女神様が仰っていたような……

 あ、白鶴はハッキングして無理矢理アクセスしてるんだった。

 それが一度ではないと言うことなのか……


「同じ年齢にしか転生できないみたいだから、毎年歳をとる前に転生してるんだ。知りたいことを知るまで生きていられるように」


 任意に転生システムにアクセスできるなら、そんな方法でずっと生きていられるのか!

 いや、まあ、一年に一回死んでるんだけどね……

 システムの脆弱性を突いた利用方法だね。

 さすが白鶴、神様のシステムをハッキングするだけのことはある。


「過酷な状況にしか転生できないから、この転生って、ボクのためにあるんじゃないかって思えるぐらいぴったりだと思ってるんだ」


 過酷な状況に身を置くことを、嬉しそうに熱弁する白鶴。


「その方が、ボクの信じる神様により一層近付ける気がするからね」


 にのかみと似たところがあるから、信じる神様ってにのかみの言ってる本物の神様と一緒なんだろう。

 転生者を排斥したい教会が残っている世界線に転生したいって希望も含めて、やっぱりただのドM教な気がするんだけど……


「話が済んだなら、ボクは宿屋に戻るけど?」


 待って待って、もう少し教会の事を知ってるなら教えて欲しいんだけど。


「確か、このレムス王国の教会総本部って、王都にあるんだよね?」


 後ろを振り返って、僕と白鶴の話に置いて行かれていたミレルに話を振る。


「ええ、そうよ。イオン司教が行ってると思うけど……」


 イオン司教……そう言えば、シエナ村の修道院の偉いさんが王都にいるんだった。

 シスターのアレシアさんから、手紙が返ってこないから心配だと聞いていた……けど……


 なぜ、イオン司教は王都に行った?

 イオン司教とアレシアさんは、どんな内容の手紙をやり取りをしていた?

 知らないうちに、僕が村でやっていたことが、教会に流れていたのか……!

 温泉の話や花火の話ぐらいは、大きな出来事だから手紙で報告していてもおかしくない。

 教会に、僕が転生者であることが、バレている!


「ボーグ……大丈夫?」


 知らない間に顔が強張っていたようだ。

 心配そうに覗き込んでくるミレルの頭を撫でてから、白鶴との会話に戻る。


「教会に転生者であることがバレているみたいだ。このまま王都に行くのは危険だよね?」


「うーん……最悪、罠かもしれないね。キミが国王から呼ばれたってのは聞いたけど、国と教会が繋がってる可能性はあると思うよ。アルバトレ教がこの国の国教になってないことを考えると、繋がりは薄そうだけど……この国では王都が、一番教会の力が強い地域なのは間違いないよ」


 いずれにしても、このまま行くのは危険か……

 魔法があるから死ぬことは無いと思うけど、ミレルやスヴェトラーナを危険にさらしてしまう可能性があるのは避けたい。


「でも、国王からの召喚を無視出来ないし……」


 悩み始めた僕を見て、ミレルが同じように悩み始める。


「ボーグが悪魔だと思うなんてどうかしてると思うけど、教会は何を考えてるのか分からないところがあるのも確かで危険だわ。だから、どうにか教会にバレずに王都に入る方法は無いかしら?」


 なるほど、とりあえず容姿や名前を偽って、王様に会ってからバラせば……偽ったことは王子の治療を成功させてチャラにして貰うか。

 何となく余計なトラブルの元を作ってないかな?


「大きなトラブルを回避するためなんだよ。それなら、その王子に取り入って城に招いて貰えば良いんじゃない? となると──」


 そこまで提案してから、白鶴がニヤリと笑う。

 背筋がぞわりとする視線がこちらに向いている。


「女装しかないね! その王子が求婚したくなるぐらいの美人に変装すれば良いと思うよ?」


 いや、待て!

 なんで、そうなるんだ!

 他にも変装の方向性は幾らでもあるだろう?

 王子自身に化ける方法だってあるでしょ!


「バレたときに余計なトラブルを避ける為だよ。勝手に求婚されて王城に呼ばれただけなら、言い訳のしようも有るけど、誰かに変装したんじゃ何か罪を着せられるかも知れないし。名案だと思う! 彼女達もそう思うよね?」


 彼女達──白鶴の視線の先にいるミレルとスヴェトラーナは……首を縦に振っている!?

 なぜ、そこで、肯定するのかな??

 旦那様が女装して何か嬉しいことあるのかな?


「えっと……キレイなボーグも見てみたいし……」


 口篭りながら、もごもごとミレルが答える。


「一番意表を突ける良い案だと思います!」


 スヴェトラーナは手をあげて、賛成意見を述べている。

 理解できる会話になったからって、そういう方向で積極的に参加しなくて良いよ?

 意表を突けるのは確かだけど……

 ミレルも、スヴェトラーナが賛成して、なんか嬉しそうだし?!


「人の可能性を広げるためにも、神様はやっておけって言うと思うよ?」


 いや、白鶴の信じる神って、ドM教でしょ?

 僕はそんなに自分を貶めたくないんだけど?

 確かに一生することがなさそうな方向性だから、可能性は間違いなく広がると思うけど……その可能性を広げる必要ってある?


「他に良い案があるならそれでもいいけど?」


 じっとりとした瞳で僕を見つめてくる白鶴と、期待に満ちた眼差しの他2人。

 なぜ? そして、何に期待してるの?


「確かに僕なら、整形魔法で作ることは出来る……でも、完璧に今の顔に戻す自信がないから、出来ればやりたくないんだよね」


 と、明確に拒否したい旨を伝えてみる。

 伝えることが大事だからね。

 その結果、採用されるかは知らないけど。


「顔はメイクで何とかなるよ。そんなメイクがキミの知ってる世界にはあったよね?」


 話を聞くと、白鶴はどうやら、同じ地球の同じ世代の人ようだ。

 確かに身近にも一人いた。

 女装が趣味の友人が。

 そのメイク術が凄かったのも知ってるよ。


「その技を僕は持ってないけど?」


「大丈夫、そんな魔法もあるから。服に擦れても、汗をかいても、水がかかっても絶対に落ちない、でもクレンジングオイルならスルリと落ちるって便利なヤツが。この世界の魔法技術もメイク技術も高くないからバレないよ」


 なんでそんなこと知ってるの……

 にのかみが、白鶴はこの世界に詳しい、と言ってた部分ってここ?!

 それなら永遠に聞かない方が幸せだったのでは?

 どんどん堀を埋められて行ってるんだけどー


「ボーグがイヤなら良いんだけど……女性に変装してくれたら、わたしもボーグに近付きやすいなって思うのよ……」


 恥ずかしそうに、ミレルがそんなことを(のたま)う。

 そう言わずに、今のままでも近付いてくれたら良いんだよ?

 男にベッタリするのに抵抗があるのか、人前で男女がベタベタしているのが世間的に宜しくないのかな。

 とりあえず、女装すればミレルとの距離が縮まるなら、一考の価値が出てくるような……


「彼女がそう言ってるんだから、1回やってみたら良いんじゃない? その結果で決めたらどうかな?」


 素直なミレルの反応で決めるのも悪くないか。

 白鶴がニヤニヤしているのが頂けないけど、見た目が悪ければ諦めるだろうし。


 辞書さんサーチディクショナリーで魔法を検索してみれば、確かに白鶴が言ったとおりの魔法が見つかった。

 白鶴が作った魔法じゃなかろうな……

 しかも、顔を整形する系統の魔法よりランクが低い。

 なるほど、整形魔法が使えない人が利用する魔法だったって事かな?


「ささっ、魔法も見付かったなら、魔女っ子に変身する気持ちでやっちゃいなよ」


 そんなノリノリでやらないから!

 こういう魔法は、基本的に出来上がりを想像しながら発動すれば、勝手に結果を返してくれるから──


 祈るように、析術『最早造形化粧(フェイクフェイス)』を発動させた。

 魔法は一瞬で結果を反映する。


 しまった、先に鏡を作っておけば良かったな。

 何となく、面の皮が一枚厚くなったような感覚なんだけど……


 周りに視線を送ると、ミレルとスヴェトラーナは、僕の顔を凝視して絶句している。

 この反応から既にヤバい。

 そして、元凶の白鶴は──突然爆笑しだした!!

 完全にバカにしてるだろ、コイツは……


 やっぱり、男臭い顔の『こいつ』である僕が、女装するとか無理があったんだよ。


「あははははは! ウケる!! ここで別れてしまうから、結末が見届けられないのが残念だよ!!」


 絶対面白がって提案しただけだろ。

 まあ、それで笑って貰えるなら、ある意味成功だし、この案は無しに出来るから良いと思うんだけど。


「鏡見て見なよ。これは本当に求婚されるしかないよ?」


 は? 何を言ってるんだ?

 そんなこと言って、余りにも残念だから笑ってるんじゃないの?


 魔法で鏡を精製して、自分の顔を写す。

 映る前についつい目を閉じてしまうのはご愛嬌。

 あんなに笑われたら、見るのが恐いからね……


「ボーグ? 怖がらなくても大丈夫よ?」


 ミレルが震える声でそう告げる。

 どっちの意味で大丈夫なんだろう?

 迷っていても仕方がないので、意を決して、ゆっくりと目を開く。


 すると鏡には、少しキツい印象だけど、女優並みにキレイな顔が映っていた!


 この世界に来てから、何人かイケメンにしたり美人にしたり──容姿を大きく変化させる整形をしたけど、自分の顔が突然変化すると、流石に驚くね。


「決まりだね」


 ドヤ顔で自信満々に告げてくる白鶴。

 いや、まだ決まってないからね。


「これなら、王女様でも求婚してくると思います!」


 誇らしげに間違った方向から褒めてくるスヴェトラーナ。

 それは元の顔の時に言ってもらった方が、嬉しいヤツだからね。


「ボーグ、キレイよ」


 ウットリとした瞳で僕を見つめてくるミレル。

 嬉しくないわけじゃないんだけど、複雑な思いだねこれは。

 ただ、ミレルに言われると良いような気がしてくる。

 確かにバレることは無さそうだし、転生者を悪魔と決めつけてる教会に見付かって、闘うような事態に陥るよりは、面倒事は少なくなるかな……


 って言っても、白鶴の予想でもにのかみの予想でも、僕は最終的に教会を壊すことになるみたいだけど。

 進んで人殺しをするつもりはないし、宗教関係者の思想を変えるのは、大変だからしないと思うんだけど。

 そんなこと、僕がするかな……?

 単純に建物を壊すという意味なら、あり得るかも知れない。


「良い提案も出来て採用されたみたいだから、ボクはそろそろ宿に戻ろうかと思うけど?」


 は? あの宿に戻るの?

 限りなく黒に近いグレーな宿だよ?

 僕たちはこのまま次の街に向かうつもりだけど……


「ボク自身が犯罪に巻き込まれようが、ボクにはどうでも良いって言ったでしょ? だから、戻るよ」


 やっぱりここでお別れなわけか。

 それを本人が望むのに、僕が邪魔するわけにはいかない。


 もう少し白鶴から、この世界の魔法のことや、魔物のことについて聞いてから、僕達は白鶴と別れて南の関所に向けて街を旅立った。


◇◆


 浮上船をゆっくり飛ばしながら、髪型や服装を顔に合わせて整える。

 そして、女3人旅を偽装すべく、役割(ロール)を決めていく。

 プラホヴァ領に住んでいるやんごとなき貴族で、今回は王都観光に来たと言うことに。

 ミレルは妹、スヴェトラーナは侍女という設定にして、それぞれに合った服装に変更した。

 ミレルは教会に顔がバレているので、僕と同じ魔法でメイクを施した。

 元が可愛いから、これ以上なく可愛くなるね。


 ミレルが赤面してそっぽを向いて、スヴェトラーナは状況変化の連続に疲れたのか、座席に突っ伏してしまった。


 呼び名も、ミレルからは僕をお姉様と呼ぶようにしてもらって、スヴェトラーナからは僕とミレルをお嬢様と呼ぶようにしてもらった。

 念のため、ミレルはミリエール、スヴェトラーナも愛称っぽくツェツィと呼ぶようにした。


 役割(ロール)が決まり、腹ごしらえもしたところで、南の関所が見えてきた。

 まだ幾つか課題は残っている。

 歩いて旅をしているところと、護衛がいないところだ。

 それらの問題をクリアするべく、僕は街道から少し離れた大きな森へと、浮上船を降下させた。

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