1-011 エルフは知識が豊富だから賢いようで
湯上がりでホットなまま、僕は温泉の救護室に入った。
そこには村長と見たことの無いおじさんが、難しい顔をして頭を悩ませていた。
どうでも良いけど救護室に人が居ないからって、会議室代わりにするのは問題があると思う。
今は受付の近くに休憩室や救護室しか作ってないけど、この温泉でお客さんをもてなしたり、商談する可能性があるなら、小さな会議室や宴会場を作っておいた方が良いかな? そうなると宿泊施設もある方が良いか。
「来たか。少し相談したいことがあってな」
ん? 怒られるわけではなさそうな雰囲気。
となると、シシイのことじゃない……?
「実はな、ルーカス隊長がここに来る途中、不幸にも嵐で街道が損壊するところに遭遇してしまったらしい」
おじさんを紹介することなく、村長は話を始めてしまった。ってことは、昔から知ってる人ってことだよね?
過去に何度もこの村に来ているキャラバンの隊長であれば、何度も会ってるだろうし今さら聞くのも不自然か。
「領主様が来られる時期なので事故に遭われては大変だと思ってな、何とかしたいと考えておったところなのだ」
そう言ってジッと僕を見つめる村長。
つまり、領主が来ないと村の強化の話が出来ないから、僕に街道を直して領主が問題なく来られるようにしろと?
横でルーカス隊長が驚いた表情で、村長に視線を送っている。
「村長? 彼に頼むのですか?」
暗に信頼できるのか聞いている気がする。
過去に『こいつ』と顔見知りで、今の僕を知らないなら、聞きたくなるだろう。
「言いたいことは分かる。わしも色々苦労した……しかし、今は大丈夫だ。詳しくは話せんが、息子はこの温泉造りに大きく貢献したのだ」
「ほほぅ? そうでしたか。この温泉は本当に素晴らしく、他に類を見ない。これほどの設備が、どうやったらこの短期間に出来上がったのか、わたしとしては知りたいところですが……それを成し遂げたのが彼だと言うのであれば、信頼するほか無いですな」
僕の魔法で隠したい部分は、あくまでも治癒系統のはずだから、土木に関わる部分は言っても良いような気がする……2日で完成させたと言っても信じてもらえないだろうけど。
「いずれにしても、簡単に出来るようなことでは無いでしょうから、お手伝いしましょう。今回の旅でうちのキャラバンは山越えせずに領都へ戻ります。ですので、帰りがてら場所の案内と作業を手伝わせて貰えればと思いますが?」
これは善意の言葉なのか? 秘密を知りたいからなのか?
「ルーカス隊長には、この村に来てもらっているだけで充分お世話になっている。温泉も気に入って貰えたようだし、今回は数日間ゆっくりこの村で休んでもらえんか? 恩返しと思ってもらえれば……その間になんとかするので」
この感じからすると、キャラバンの人は善人っぽいな。
そうなると、僕たちで簡単に出来るって言わないと引き下がらないような? 温泉には今後も来たいみたいだし……
村長の方はもっと強かな考えかな?
この村は昔からキャラバンの世話になっていて、村長は恩義を感じていると。それを返せるなら返したいし……その上で、温泉の良さをしっかり知ってもらって、行商に行く先で宣伝してもらいたい。ってところだね。
「いやいや、ここの村人総出で工事しても、数日で終わるもんじゃないでしょう?」
「息子は最近、魔法の才能に目覚めましてな。ちょっと崩れたぐらいなら、魔法でちょちょいと直してしまいよるよ」
「それはそれは大変おめでたいことだと思います。ですが、失礼ですが、最近使い始めた魔法では、それほど熟達していないのではないですか?」
やっぱり、ルーカス隊長は引き下がらない。そして、村長も譲らない。
このままでは、押し問答を続けてしまいそうな感じだ。
僕の魔法を開示してしまえば楽だけど、その噂が広まって面倒なことにしたくない。
これは、難しい……
僕以外に魔法に精通した人が居れば、簡単なのに……??
今なんか、目を回して悶えている変態が、頭を過ぎったような……気のせいか。
「ここに来る途中、立ち往生していた我々を助けて頂いたエルフ殿ほど、魔法が使えるなら分かるのですが……」
気のせいじゃなかった。
ここは、あの変態エルフ師匠を出汁に使って丸く収めてしまおう。そんなスープを使った料理は絶対食べたくないけど。
「そのエルフとは、一緒にこの村まで来られた、ディシプリウス・ティートゥスさんのことですか?」
僕の質問に、隊長は少し驚いた後、訝しげな視線を向けてくる。
あ、これ久し振りの『こいつ』が何言ってんの?って顔だ。
「名前は聞いていないが……今日着いたならそうだと思う」
「先ほどちょうどその方とお話ししてきました。是非とも魔法について話をしたいと仰ってましたから、実地で魔法を使いながら教えてもらうことにします。彼のエルフ殿なら街道も簡単に修復できると思いますので……」
今日会った印象から言うと、ホントに魔法の腕が確かなのか疑問に思うぐらいだけど……少なくともキャラバンを魔法で救ったのは確かみたいなので、信頼してもらうにはちょうど良いだろう。
「ラズバンのところの師匠か。お前がそんなに積極的に魔法を学びに行くとはな……確かにそれは心強い」
僕の提案に、村長が少し遠い目をした後、軽く拳を握った。
僕がエルフ師匠に教えてもらうのは、この世界での魔法の常識だけど。
「それなら……お言葉に甘えさせてもらいます」
渋々頷くルーカス隊長だが──
「温泉は入り放題にしておくので、ゆっくり休んで貰えると有難い」
村長のその言葉に顔を明るくした。
隊長も好き好んで苦労したいわけではなく、温泉で休む方が魅力的なのだろう。
言動に弱きを助けようとする隊長の人柄が良く出ていて、僕としてはとても共感が持てる。
今回は協力してもらうわけにはいかないけど、いずれ商売面では協力してもらいたいな。
隊長に街道の状態を書いた地図をもらって、明日の朝に出掛けることを決めた。
手書きの地図では当てにならないから、出掛けることが増えるなら周辺地図も欲しいところだね。
そんな魔法が無いか調べておこう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「みんな、準備は出来たかな?」
僕は村を南に出てすぐの広場で、目の前に並ぶ面々に声を掛けた。
「はい、問題ないです」
僕の質問に答えてくれたのはミレル。
昨晩、街道の修復に出掛ける旨を彼女に報告すると、一も二も無くついてくると言われた。
これは良い、予想の範囲内だ。ミレルとは昨日別々に行動したから、僕と一緒に居たいオーラが溢れていたし、そんなかわいい嫁さんとは僕も一緒に居たい。彼女が行かないって言っても、ピクニックと称して無理矢理にでも連れて行きたいところだったから。
「一体どんな魔法を使うのかわくわくするな!」
ホントに楽しそうにしてる美青年エルフことエルフ師匠。これも分かる。連れて行かないと色々僕が後で困る。
「師匠、オレも学びたいと思います」
いつもより少し丁寧な言葉遣いのラズバン氏。これも、まあ、分かるよ。師匠が行くなら弟子も行くよね。
「お、おい、ボグダン? これでホントに歩かずに行けるのか?」
地面に精製した石板を触りながら、不安そうにイケ面を歪めて質問をしてくるマリウス。
これは、村長について行くように言われたから来たらしい。相変わらず村長の使いっ走りを続けているようで、村の役に立っているのは何よりだね。
彼の嫁さんは温泉の受付で働いてるわけだし、遊んでるわけにはいかないし。
ここまでは、想像の範囲内のメンバーだ。
「ボーグお兄ちゃんとピクニック〜 美味しいものが食べられるかな〜?」
「うんうん」
食いしん坊発言をするイリーナと、それに対して静かに頷くアナスタシア。
この二人は何で居るのかな?
ラズバン氏が出掛けるから仕方ないのか……?
「モンスターが出たらわたしに任せろ! 叩き斬ってやる!!」
そして、凶悪な笑顔を浮かべるシシイ。
いや、ホントに、君はなんで居るのかな?? すでにミレルからミントティーを渡してもらって飲んでるし、全く僕には訳が分からないよ??
「アナスタシアに誘われたんだ。キャラバンは数日間この村に滞在するらしいし、こんな平和な村で傭兵がやることもないし、寂れている街道とは言えモンスターが出ないわけでもないし、役に立つと思うぞ?」
うん、分かった。暇だからついてきたんだね。
多くて困るものじゃないし、大人数を乗せて浮遊板の実験をするには丁度良いから良しとしようか。
耐荷重はプラチナインゴットで確認済みだけど、多くの人から感想を聞いておいた方が、ストレッチャーを使うときに良いかも知れないからね。
シシイはすでに僕の魔法を知ってるし。問題があるとしたらシシイの処遇だけど……今のところは何も言わないでおこう。
「じゃあ、浮かべるね」
ふわりと浮遊板が宙へと浮かぶ。
マリウスが慌てて、石板に固定させたクッションを掴む。
そのまま高度を上げて森の木々を抜けると、一気に視界が開け、普段目にすることのない上空からのシエナ村が一望できた。
「うわ〜 なんかスゴいね〜!」
まず口を開いたイリーナを代表に、見たことの無い眺めに感動する面々と、
「風を感じないのにどうやって飛んでいるのだ!?」
体験したことの無い魔法に感嘆するエルフ師匠とラズバン氏。
エルフ師匠の認識では、飛ぶためには風がいるっぽい。
マリウスを除いて、飛んでいくことに不安も不満も無さそうなので、僕はゆっくりと浮遊板を前進させた。
目的地は街道の破損箇所。
適当な地図では正直分からないので、実際に見ているエルフ師匠に聞きながら、そちらへ舵を切る。
昨晩中に地図制作の魔法をいくつか見付けたんだけど……行ったことの無い場所の地図を作る魔法は、ちょっと使い勝手が悪そうだったので使っていない。
人工衛星があれば簡単っぽいんだけど、当然のことながらこの星には無いみたい。
自前で探索波を出して地図を作ることも出来るらしいけど、こっちは僕のランクでは使えなかった。
あとは、宇宙空間のどこかに浮遊している観測用ドローンを使って、地図を作ることが出来るらしいんだけど……地図制作に、長くてその星の一日かかるらしく、出来上がる地図は星まるごとの全球図になるらしい。
GPSが無いから現在地が分からないのに、地球儀持ってても使い物にならないだろうから却下した。
ということで、古式ゆかしいマッピング方式で地図を作ることにした。
欠点はもちろん、一度行かないと作れないこと。
なので往きは、エルフ師匠の案内だけが頼りという状況。
僕にとっては不安しかないんだけど……
あまり地面から離れすぎないようにコントロールしながら、風が気持ち良く感じられる程度の速度で山を下りていく。
身体を固定せずに風を感じながら進んでいるので、気持ち的にはクルーザーに乗ってるような感覚だ。潮風じゃないのが残念になってくる。
簡易ではあるけど柵も取り付けたので、人が落ちる心配も無い。
「ボーグゥ〜 風が気持ちいいわ〜 こんなに早く飛べるのね〜」
風に負けないように、いつもより声を張り上げてミレルが感想を伝えてくれる。
曇り無い楽しそうな笑顔がとても眩しいです。ありがとうございます。
ここまで速度が出せるとは思ってなかったので、僕も驚いているけど。
そして、シシイを含む見た目子供達も楽しそうで、僕も嬉しい。
マリウスは高所恐怖症なのかちょっと怖がってるけど、気分が悪いわけでは無さそうなので問題ない。
「それでボーグ殿、これはどんな魔法なのだ? どんな属性なのだ? どうやったら使えるのだ?」
後ろでエルフ師匠が騒いでいるのが問題だ。
そんなに使ってない魔法だから、コントロールに集中させて欲しい。
万が一、落ちたら大変だし。
大体、運動エネルギーの話が通じないから、この魔法の説明は難しすぎる……
「ディティさんは魔法で飛べるんですよね?」
「ああ、風魔法で飛ぶことが出来る」
風魔法って事は……きっと空気に運動エネルギーを与えて動かしてるだろうから、たぶん衝術に分類されるよね? そうなると──
「その魔法は風を自分に当てて浮かせているイメージですか?」
「んー?? そうだな。当てるイメージをするのは間違いない。自分を風の膜で包んでその幕に当てるイメージだ。ただこの魔法の難しいところは、単純に身体の下から上へ向けて風を当てている訳では無いところだな」
なるほど、身体に当てて浮かすのは難しそうだと思ったら、乗り物を空気で作るのか……じゃなくて、その膜も運動エネルギーの伝達をコントロールしてるのだろう、たぶん。
風も空気なんだから、空気の塊に空気をぶつけても上手く行かないだろうからね。よほど密度を上げない限り。そんなに密度上げたら中の人が危険だし。
で、方向が上向きじゃないってことは、風をぶつけたときに揚力を生み出すような──例えば飛行機みたいな形をした膜なんだろうね。
そう考えると、あまりに回りくどくて効率の悪い魔法だな……いや、風をぶつけてって発想で実現しようとするとそうなってしまうんだろうけど。
この世界には他にも、風を噴射するという発想の飛行魔法も有りそうだな……
と言っても、僕が使ってる魔法がどんな作用なのか詳しく書かれていないし、医療関係に進んだ僕の物理知識は高校で止まってるから、本当の意味では理解できないんだろうけど……たぶん、風魔法が、空気に運動エネルギーを与えて動かすように、この魔法は、石板自体に運動エネルギーを与えて動かしてるんだろうね。
エルフ師匠の魔法の常識で説明するなら──
「僕の魔法は、極々小さいけど強い風を狭い範囲に沢山集めて、この石板全体にぶつけているようなイメージです」
石板を微少な範囲で区切って、それらに余すところなく小さな風をぶつければ、石板自体を動かしているのと同じになるはず。微積的に考えれば問題ないはず。
「ふむ……小さい風を当てる……もう一回言ってもらえるか?」
ん? 難しかったかな……?
「小さくて強い風をいっぱい集めて、この石板にぶつけているようなイメージです」
「小さくて強い風を集めて……わたしの魔法と何が違うのかさっぱり分からん……」
え……?
首を傾げて難しい顔をするエルフ師匠。
「集めてしまっては結局大きな強い風と同じなのでは……?」
そうなんだけど……なんと言ったら分かるか……?
「大きな強い風と言うと、嵐の時に吹く風のように大きく広い範囲ではないですか? もっと小さく──言うなれば指先ぐらいの面積で爪の長さぐらいの狭い範囲です」
「それを石板いっぱいに……? 大きな風とどう違うのだ……?」
うーん……風は流れていくものだし、強ければ遠くまで──つまり広く大きな風と一緒になってしまうのかな。
エルフ師匠の得意な風属性で説明したのが悪かったかな……?
「それでしたら、小さな空気の塊を強い力で動かしているのと思ってもらえれば」
「空気の塊をぶつけるような魔法というと、空気槌みたいなものか……それだと吹き飛ばされてしまいそうなのだが……?」
「そうしないために、弱く沢山のハンマーに分割してぶつけてるようなものです」
「それだと、魔法をいくつも発動しなければならないのではないか……??」
なんというか、イメージの連想や応用が利いてないような気がするんだけど……?
そういう分割したイメージを持って、魔法を発動すれば出来ると思う。
「幾つもの小さい空気槌が並んだ状態を、一つの魔法としてイメージすれば可能かと思います」
「幾つもの小さな空気槌……それは大きな一つの空気槌とはどう違うのだ??」
最初の質問に戻ってきた!
エルフ師匠の表情は困惑しきっていて、本当にイメージが出来ていないみたいだ……
質問攻めにしたいんじゃなく、切っ掛けさえ掴めればいいんだろうけど……なんかもう疲れてきた。
エルフって頭良いんだよね?
ぴこーんって頭の上に電球でも灯して、勝手に閃いてくれないかな??
「ボグダン君……非常に言いにくいのだが……」
ラズバン氏が改まって僕に言葉を掛けてくる。
気まずそうな言いにくそうな表情だ。
「エルフというのは知識量が非常に多い。それは人間より遥かに長く生きているため、実際に見聞きしていることが多いからだが……覚えるのが早いとか、要領が良いという意味ではないのだ……むしろ時間がある分人間より急がなくて良いため、目の前にあることをしっかり理解しようとする……」
それって、つまり──
「一回で理解してもらえないことの方が多い」
今、軽く師匠のことをディスった?
ラズバン氏の顔に苦労の痕が滲み出ている気がする。
新しいことは中々覚えられない系何だね……どうしたものかな?
「戦闘に置き換えてしか話せないが、わたしのイメージで良かったら言うぞ?」
シシイが気楽な調子で手を挙げていた。
いつの間にかマリウスを除く他の搭乗者も、僕とエルフ師匠の会話を聞いていたらしく、みんなこちらを見ていた。
折角なのでシシイの意見を聞いてみよう。
「ボーグの言いたいのは、この大剣で斬るのではなく、たくさんの針で刺す攻撃だと聞こえた」
シシイが自分の愛剣を叩きながら説明してくれる。
おお!? 合ってる!!
頭の回転で、エルフがオークに負けてるの??
僕のファンタジー知識と大きく違うんだけど……
言うなれば、頭の悪い眼鏡キャラと頭の良い不良キャラって感じで、違和感がスゴいんだけ!
「それは、どういうことだ? 大剣で敵を倒せたとしても、針では倒せんだろう?」
いや師匠、ちょっとは考えようよ……
「相手を飛ばすことを考えれば良いんだろ? 確かに人間相手にこの大剣を振り回せば、相手は背骨が折れてくの字に曲がって吹き飛んでいくか、真っ二つに斬れて腸とかはみ出させながら上下バラバラに飛ばされるだろう?」
う……なんか表現が生々しいな……
「でも、タワーシールドに針をびっしり付けて、シールドを相手に突き出せば、全身に小さな穴をあけた後、至る処から血を滴らせながら、立ったまま後ろに飛んでいくだろう?」
いや、そんな想像は普通しないよ!
言われたら出来るけど、わざわざ血は滴らせないし!
シシイの横で、イリーナとアナスタシアがこくこく頷いてるんだけど?!
このイメージの差は、世界の差なのか、普段見ているものの差なのかな……
でも、僕の言いたいことには近い気がする。
「大剣とタワーシールド……ふむ……腸と血……」
いや、余計なところ気にしなくて良いから!
それでイメージしやすくなるの??
「これはまた、ボーグ殿には難題をもらってしまったな。ふむ、研究のしがいがありそうだ。わたしなりの答えが出せるよう、とりあえず10年ぐらい考えてみるとしよう」
10年……一つの答えを出すのに10年……気が遠くなるね。
これだと、ラズバン氏の方が早く魔法を使えるようになるんじゃないの……?
「ボグダン君、勘違いしてはいけないよ。魔法を使えるかどうかは、その魔法に対する知識の量で左右されると言われている。魔法について長く考えれば考えるほどに使えるようになる。だから普通は、人間がエルフより早く魔法を使えるようになるなんて事はないのだ。個人差はあれどそれほど大きく変わらない。長い時間掛けて様々な魔法の研究が出来るエルフの方が、人間に比べて遥かに魔法を使うのに向いている。その知識を分けてもらって少し早く習得できることはあるが……君は特別なのだよ」
あー……これは科学に基づく考え方と、魔法に基づく考え方の差なのか……
もしかして、どこかにいる魔法ランク認定者が、魔法を長く考えたことに対する温情として、科学知識が身に付いて無くても魔法を使えるようにしてくれてるのでは……?
そんな疑いが出て来てしまうよ。
とりあえず、今日も僕の中で、また一つエルフのイメージが壊れたのだった。
早く街道を直して村に帰ろう。
そして温泉に入ろう……




