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異世界で美容整形医はじめました  作者: ハツセノアキラ
第一章 こうして僕は領主に認められた
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1-002 村興しと言えば温泉のようで


 僕は猛者を村に集めたいのだと、訳の分からないことを告げてきた村長(おとうさん)は、僕の反応など気にせず話を続けた。


「ミレルちゃんと一緒に住むようになってから、お前は色々なことをしてきた」


 そうですね。ちょうど僕が転生してきてからですね。


「人の命を救ったり、野菜を元気にしたり、美味い料理を作ったり、疲労の回復する水を配ったり、眠らなくなる薬を作ったり、村の若い衆を美男美女をにしたり、堅牢な石の屋敷を建てたり……」


 う、うん……確かに全部僕がしたことのような気がするけど……そんな大層な物じゃなかったりするんだけど?

 疲労の回復する水はたぶんただのレモン水のことだし、眠らなくなる薬ってコーラかコーヒーだし……むしろそこに火事の対処が含まれない方が不思議なんだけど?


「わしはな、これだけヒントをもらって気付いたのだ……お前が村に強い者を呼び込みたいと」


 いや、だから、なぜ、そうなる!?


「強者は常に美男美女を好む。英雄色を好むというやつだな。そして、同時に旨い肉を好む、そうだろう?」


 って言われても、確かにそういう傾向にはあると思うけど……無理がない?


「傷付いてもすぐに回復してもらえる、疲労も眠気も気にせずに行動できる、石造りの堅牢な砦で安全に休むことが出来る。これらで強者を釣ろうと、そう考えているのだろう?」


 そんなことを僕が考えていたのかー 初めて知ったよー

 じゃないよ! そんなこと考えてないよ!

 どこかの不死の王ぐらい、自分のやったことに勝手に意味付けされて困惑してるよ!


 ……ちょっとは考えたよ。

 村の真ん中を通る街道の両端──南北の各詰め所で働く衛士の仕事が大変そうだと思って、彼らの家族のためにも何かしてあげたいなと思っていたよ。

 だから結局、最終的には村長の言うようなことをしたかも知れないけど。

 でも、今までやって来たことが、その為だったわけではないよ!


「行商人のキャラバンが数日内に村を訪れる予定だから、彼らに宣伝を(にな)ってもらおう。美男美女の多い村が強い者を求めている、と。そうすれば、いくらか先にはなるだろうが、我が村を訪れる者も出てくるだろう」


 村長が嬉しそうに話を続ける。


「更に20日も経てば、毎年恒例の領主様が避暑に来られる時期となる。そこで村の状況を見てもらい、兵力の増強を考えてもらおうと思っておる。村の状況や重要性が伝われば取り計らってもらえるやもしれん」


 領主の避暑? そういえば、転生してきてすぐにそんな話をミレルからチラリと聞いたような。

 やっぱり村長としては、周囲環境の不安を取り除きたいみたいだ。最近北の方から流れてきてる狼を不安がってるみたいだし、何かあってからでは遅いから、早く防衛力を高めたいのだろう。更に言うなら、可能なら追い払いたいんだろう。


 村長の独り語りはまだ続く。


「その為に、お前の美容整形と言ったか? それは重要になってくると考えている。ただし、それは貴重すぎる力だ──この世界に一人しかいないのではないかと思えるほどにな。家宝のアーティファクトの力とは言え、結局アーティファクトはお前にしか使えんのだから、同じ事だろう。その力を村の外の者に無償で行うのは抵抗がある。そんなことをしては、世界から治療を受けたい者が殺到してしまう」


 アーティファクトは魔法を使うための道具だ。

 魔道具は魔石に登録された1つの魔法しか使えないのに対して、アーティファクトは知ってる魔法なら大体使えるらしい。アーティファクトにもランクがあって使える使えないがあると聞いたけど……それよりも知識の方が不足していて使えない方が多そうだった。

 だからこそ余計に、魔法を無償で使わないことに関しては僕も同意だ。それはこの世界に来て魔法を使ってすぐに思ったことだ。

 この村の住民全員に対して行うだけでも、充分に大変だと思っているし。そこは『こいつ』の罪滅ぼしだと思ってもちろん受け入れるけど。

 でも、世界各地から人が集まってきては、全員を治療なんて出来ないと思う。


「だから、魔法によって我が村に美男美女が多くなった、ということはあまり広めたくない。何か他の理由を早急に作る必要があると思っておる……」


 うーん……目的は違えど、望むことは同じかな?

 僕としても、奇蹟目当てで図々しくやってくるやつらの相手をするのはイヤだし、本当に困っている人や近しい人たちを幸せにするために魔法を使いたい。

 その為にも偽装は必要だし、場合によっては部外者には対価を払ってもらう必要があると思う。

 転生前の親の例もあるし、僕としては対価をお金にはしたくないけど。


「分かりました。村の置かれている状況から考えて、やはり防衛は強固にした方が良いと思いますし、僕の魔法も隠した方が良いというのは賛成です。ただ、本当に困っている人は助けたいので、条件付きで魔法を使うというのはどうですか?」


「ふむ……確かにな。ただ無下に断るのも間違っているな。村の発展も考えれば……今は村に住んでもらうことを条件にするのが良いのでは無いか? それなら治療を受けたことも広まらないだろう」


 なるほど、確かにデメリットも抑えられる。

 でも、貧しい人にメリットがあって、貴族にメリットが全くないように思うけど、良いのかな?


「貴族には高い報酬を吹っ掛ければ良いのだ。その地位で何でも出来ると思っているヤツなら尚のことな!」


 鼻息荒く村長が答えてくる。

 なんか貴族に恨みでもあるの? 村長も貴族の端くれなのに……その考えには同意できるから良いけど。


「少し話が逸れてきてしまったが、とにかく、ひとまず村が押し出していく方針は、美男美女が居る村であり美男美女になれる村だ。これでお前もやりやすくなるか?」


 んー? ああ。

 以前、上位方針が欲しいって話をしたから、村長はそれを気にして方針を打ち出してくれたのか。

 先細りに不安を感じると言っていたけど、村長の考える村の未来も少し明るくなったかな?


「ということで、美男美女になれる方法を嘘でも良いから考えて、実践して欲しい」


 あ……方針発表からの無茶振り?

 なんだか懐かしさを感じるね……

 といっても、僕の魔法のカモフラージュなんだから、自分の身を守るために積極的に考えていかないとね。

 そのための方針を打ち出してくれたことは、村長に感謝しよう。僕が魔法で無茶なことをしても、誤魔化せる理由が増えたんだから。


「分かりました。何か考えて、実践する前に相談に来ます」


 行動が方針に合っているかは、実践する前に一応確認しておかないと。


「分かった。期待しておるぞ」


 村長からの言葉に、僕は少しだけ達成感を感じた。


 期待している……こんな言葉が『こいつ』に掛けられるとは。

 頭痛のタネでしかなかったバカ息子を、ここまで言ってもらえる程度には出来たわけだ。

 とりあえず、少しは村長の気持ちも救えているらしい。

 それは僕にとっても嬉しいことだ。

 転生する前の父親とは仲が悪かったから……せめてこっちの世界の父親とぐらいは、まともな関係が築けると良いな。


 僕は笑顔で「はい」と答えて村長の家を後にした。



◇◇



 家に戻ってきて昼食を取りながら、村長(おとうさん)に言われたことをミレルに報告する。

 ちなみに、出掛けている間の来客は無かったらしい。基本的にみんな朝から夕方まで畑仕事に出てるから、日が落ちるまでは暇なのだ。


「また……勘違いされてるの?」


 僕の話を聞き終えて、ミレルが楽しそうに問い掛けてきた。

 彼女と僕の間にも、今の関係になるまでに多くの勘違いが有ったことから、僕の真意が周りに伝わらないことを彼女は良く理解してくれている。

 理由は僕が何も説明しないからなんだけど。


「まあね。でも、悪いことじゃないから、お父さんの方針に従うことにするよ」


「ボーグがそれで良いなら、わたしは何も言わないわ。何をするか決めてあるの?」


 ミレルがにこにこと笑顔で聞いてきた。

 僕が村長に従うのが嬉しいのかな? それとも、新しいことが始まるからわくわくしてるのかな?

 僕もミレルが嬉しいならどちらでも良い。


「案は幾つかあるけど、どれが良いのかは迷ってるんだよ」


 ぶっちゃけ、日本で売られていたサプリメントや化粧品、美容効果を謳った器具やサービスなんてこの世界にはないから、どれをやっても少なからず効果があると思う。

 でも、やり過ぎは良くないし……僕が魔法を使い続けないとダメなことでは偽装にならない。


 この世界の美容法はどんなものがあるんだろうか?

 まさか、声のキレイな鳥の糞で洗顔をするとか、人魚の肉を食べれば不老不死になる、とかじゃないよね……?


 考え込む僕をミレルがキラキラした目で見てくる。

 何か期待され過ぎてるような……?


「ミレルはどんなのが良いと思う?」


「え? そうね……わたしはボーグに色んな事をしてもらってるから……」


 はにかみ笑顔でそんなこと言われると僕も照れるんだけど。


「一番良いなって思ってるのは、お風呂かな。お湯に浸かってると身体もキレイになるし、心も落ち着くのよ」


 確かにミレルは毎日、僕が地下室に作ったお風呂を利用している。

 この村にはお風呂が無く、身体を洗う場合は川や湖での水浴びをするんだとか。日々のケアとしては、濡れた布で身体を拭く感じだった。それが嫌で、僕はすぐにお風呂を作ったんだけど。


「お風呂……大浴場……そうなると、やっぱり山奥の村だし温泉かな?」


 温泉で美容効果を謳うのは、日本でも一般的だったし丁度良い。

 山を掘ったら温泉が出た、というのは状況的にはあり得るか? 地熱も無いのに温泉が湧くのは不思議な気もするけど……雨が降る理論も曖昧なこの世界なら大丈夫だろう。

 理由付けも問題ないなら、観光名所としても価値が出そうな温泉案で行こうかな。温泉に入って腰痛や肩凝りが楽になるのは基本だし、みんなの身体の調子が良い理由にも出来る。

 しかし、この世界に温泉ってあるのかな?


「ミレルは温泉って入ったことある?」


「温泉って?」


 この村からほとんど出てないミレルは知らないのかな? それとも言葉の定義が足りないのかな?


「言葉の意味としては温かい泉だけど、確か必ずしも温度が高いわけじゃなかったような? でも、普通は入浴施設をイメージするから……外にある大きなお風呂かな?」


 必ずしも露天風呂ではないけど。


「そんなのがあるの!? 温泉……浸かってみたいなぁ」


 ミレルが夢の温泉に旅立とうとしている。

 海外の温泉は水着を着ての混浴が一般的だと聞いたから、その辺この世界はどうなのか、とか聞きたかったんだけど……知らなさそうだし、色んなエリアを造れば良いか。

 とりあえず、ミレルの案は採用で、他にも数案欲しいな。

 温泉だけで、みんながみんな美男美女になるわけじゃないし。

 後でデボラおばさんや医院で治療した面々に聞いておこう。


「ということで、ミレル。僕はまた午後から出掛けるけど良いかな?」


 村長に温泉案を相談して、問題ないなら造ってしまいたい。


 ミレルが僕の服の裾を摘まんで、上目遣いで唇を尖らす。


「一緒に居たいよ……?」


 ああ、もう! 可愛いな!!

 ミレルが僕を信頼をしてくれるようになった悪魔事件以来、ミレルは長い時間独りで居るのが不安みたいだし……これは連れて行った方が良いね? 良いよね!!


「じゃあ、行き先を玄関に掛けて一緒に行こうか?」


 こんな狭い村だから、緊急の用であれば出掛けた先に来てくれる。


 ミレルが安心した笑顔で嬉しそうに頷いてくれた。

 いつまでもこの笑顔が見られたら良いなぁ。


 フラグみたいなことを思ってしまったけど……純粋にそう思える。



◇◇



 ミレルと一緒に村長(おとうさん)の家に相談に行ってから、僕はすぐに温泉作りを始めることにした。


 温泉に行ったことがある村長からは快諾を得られ、混浴が一般的であることを教えてもらった。村長は裸で入るのが普通だと主張していたけど……やけに興奮していたから……いや、ここは男として何も言わないでおこう。

 気にせず入れる、混浴エリアもあった方が良いのだろう。

 段々畑みたいにして各段で用途を分けたら良いかな?


 温泉を作る場所や規模やエリア分けを、ミレルも一緒に村長と相談して──数分後に、僕は魔法で山肌をがりがり削っていた。

 重機のような音がしないから、がりがり感は少ないけど。


 村長の要望は、村の真ん中にあるシエナ湖が一望できることと、街道から目立つこと。後は大きな特別室が欲しいとか。全て外向けにアピールする為だ。

 そしてミレルの要望は村の人向けの意見で、エリア分けのことが多かった。当たり前だけど女性専用は屋内外共に必須っぽい。女性専用の中でも半個室のような場所も要求された。一人でいたいときもあるよね。


 場所はすぐに決まった。居住区画の山側、更に川が近くにあること、という条件では1カ所しかないのだ。

 こちらの川にも小さい魔石はごろごろ落ちていたので、温泉を維持するための魔道具を作るのに役だってもらおう。


 川の水の一部を山から湧き出た感じにして、少し成分を変えて温度を調整する。それを各エリアに分配して、最後に川に戻す。もちろん周辺の生態系への影響を考慮して、成分と温度の再調整をしてから川に戻す。

 計画としてはこんなところだ。


 ミレルには川で魔石の採取と、街道からの見た目や温泉に入ったときの景色など確認してもらいながら、温泉の建造を進めていった。

 流石に一日では完成しないだろうけど、このペースなら明日には出来上がりそうだ。


 そして日が傾いてきて、今日の作業を終わらせようと思った頃に、空に少しずつ雲が見え始めた。


「雨でも降るのかな?」


 僕の言葉を聞いてミレルも、空を見上げて目を細めている。


「そうみたいね。ようやく降ってくれるのね」


 僕が転生してきてから初めての雨だ。

 ミレルはとても嬉しそうだ。

 村のことを大切に思っているミレルは、日照りが続いていることをずっと気に掛けていた。


 見上げている間に、どんどん黒い雲が増えていく。


「これはすぐに降り出しそうだね。今日は引き上げよう」


 ミレルにそう告げてから、僕は作りかけの温泉が土砂崩れを起こさないように、保護魔法をかけて回る。

 温泉が正常稼働出来るかは確かめておきたいので、湯沸かし用や水質変更用の魔法具を起動しておいた。


 一回りを終えてミレルのところへ帰ってくると、ぽつりと頭に雫が落ちてきた。

 山の天気は変わるのが早いな。


 家に帰り着く頃には激しい雨になり、食事を終えた頃には嵐になっていた。


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