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異世界で美容整形医はじめました  作者: ハツセノアキラ
序章 こうして僕は異世界で美容整形医になった
26/157

026 人の恋愛を見ていると感化されるみたいで

良いサブタイトルが思い付かない!




 夜中に突然来訪したマリウスは、酷く焦っていた。

 扉越しに言葉を掛けてもらちが開かないので、マリウスに入って落ち着いてもらうために、僕は扉を開いた。 


 でも、開いた瞬間、顔を合わせたらマリウスに腕を掴まれ連れ出された。


「のんびりしてる余裕がねぇんだ、とにかく来てくれ」


 引っ張りながら走り出すマリウス。

 かなり逼迫している状態らしい。


 ミレルに出掛けてくる旨を告げようと振り返ると、ミレルも走ってついてきていた。

 目が合うと僕が何かを言う前に彼女が先に口を開いた。


「わたしも行きます」


 女性の手を借りないといけない場面もあるだろうし、ついてきてくれるなら有難いけど……

 せめて余計な疲れが出ないようにと、ミレルに断ってから身体化学強化(ケミカルブースト)を掛けておいた。

 ミレルも最初は変化に戸惑ったみたいだけど、すぐに慣れて走りに余裕が出てきた。

 これなら村外れまで走っても大丈夫だろう。



◇◇◇



 マリウスの案内でダマリスの寝室に連れて来られた。

 ダマリスはベッドに寝かされ浅い呼吸をしながら、苦しそうに顔を顰めていた。


「何があったんだ?」


 僕はマリウスに問い掛けながらダマリスに近付く。

 流石のダマリスもこの状態では、僕が近付いても何も言ってこなかった。

 誰が来ているのか認識できているかも怪しいほど苦しそうだ。

 手首に触れてみると少し熱い。


「分からねぇ……今日の夜に様子を見に来たら外で倒れてたんだ……その時からこんな調子だ」


 少ししょんぼりとマリウスが発見時の様子を教えてくれる。


「何度か見に来ていたのか?」


「それがよ……例の火事の手伝いで夜まで来られなかったんだ……」


 悔しそうに答えるマリウス。

 そう言えば彼は片付けを手伝わされてたんだった。

 火事の時は持ちつ持たれつで村八分になってても協力し合うのが僕の知ってる日本の村ルールだけど、ここでも同じなのかも知れない。

 そうなるとほぼ丸一日見ていなかったってことか。

 でも、食べなかったからと言ってこうはならないだろうし……


「吐いたりとかしてなかったか?」


「裏の甕の周りが汚れてたから、たぶん吐いたとは思う」


 水か……?

 マリウスが火事の後片付けを手伝ってたとすると、約二日前の水になるのか。

 川から汲んで使うから殺菌処理とかされてないし……

 あれ……? スポドリはどうなった?


「僕の準備したものはどうなってた?」


「それが……全く手をつけて無くてよ……近くにあった古い食材を食べた跡があってよぅ……」


 心配が増すのか喋るにつれてだんだんマリウスの声が弱々しくなっていく。

 どれだけ腹が減っても僕の用意した物は口にしたくなかったと。古い食材に比べて美味しそうな匂いがすると思うのに、すごい意地だな。

 昨日彼女の髪の毛の間から垣間見た目からすると、死んでも良いと思ってた気がするし……

 その結果、傷んだ食品を食べて食中毒になってしまった。

 ろくに補給していない状態で嘔吐や下痢になってしまったら、脱水状態からの発熱になってもおかしくないか。


 不用意に治療(ヒーリング)を掛けなくて良かった。

 治療は無償の回復魔法じゃないっぽいから、体力の無い状態で使うのは避けたい。使うとしたら復元(リザベーション)にしないと。


「状況は分かった。治療しよう」


 とりあえず毒物中和(デトクサフィ)を発動させて様子を見る。

 身体に害を及ぼす物を無害な物に変えてくれる魔法っぽいので、食中毒はこの魔法で何とかなりそうだ。

 でも、食中毒を取り除いても、失った水分や体力が戻るわけでもないので、次の治療が必要だ。

 ここだと後のケアがすぐに出来ないから、カモフラ小屋で治療して、そのままそこで休んでもらうか。

 あそこにはベッドが無いけど……魔法で作ってしまえば良いから何とかなる。


「ここではケアがし(にく)いから僕の家に運ぶけど良いかな?」


 マリウスがブンブンと全力で首を縦に振って肯定する。

 本人の了解が取れないけど、保護者的なマリウスが承諾したから良しとしよう。

 運ぶのにせめてストレッチャーが欲しいところだけど……無い物ねだりだし、あったとしても舗装されていない道からの振動を抑えられるとは思えない。それなら背負った方がマシだろう。

 浮かせて運ぶ魔法ならありそうだけど……探すのに余計な時間が掛かってしまっても困るからそれは今度にしよう。


 身体化学強化を自分に掛けてダマリスを背中に担ぎ上げる。

 身体が密着すると背中に感じる柔らかさ……そう言えばダマリスはグラドル並みの体型だったんだった。

 これは、すばら……雑念は追い出して、必要な魔法をさっさと使おう。

 だからミレルさんそんなに睨まないで。


「小屋の方を使うから、ミレルとマリウスは先に行って片付けておいてもらえるかな?」


「分かったわ」


「え、オレは……ちょっ! オレはダマリスと〜……」


 文句か言おうとするマリウスをミレルが強引に引き摺って行った。


 マリウスの体格はガッシリしているので、少なく見積もっても70kgぐらいはありそうなんだけど?

 あー……身体化学強化が続いてるのか。切りたいときに切れないと困るし、また時間のあるときに効果時間を調べておかないとな。


 さて、それより僕はダマリスを何とかしないと。

 さっきに比べて少し落ち着いてるみたいだけど、やはり脱水状態なのは変わらない。

 まずは水分補給なので、運びながら点滴を始めることにしよう。

 そのままの名前の統術『点滴ドリップインフュージョン』という魔法があるのは確認済みだ。

 この魔法、輸液の種類を用途に合わせて選択できる優れもの。魔法って便利だね。


 背負ったまま血圧と脈拍の確認をしてから、最適な輸液を選択して点滴魔法を発動する。

 早く治療したくても治療できないのが点滴のもどかしいところ。

 続けておけば次第に良くはなると思うので、あとはなるべく揺らさないように、でもなるべく早く家まで運ぶことに集中しよう。


「ま……り……ぅ…………」


 耳元でダマリスの消え入りそうな声が聞こえる。

 どうやらマリウスの名前を呼んでいるようだ。

 マリウスが運んでいると思ってるならその方が良いだろうし、言葉は返さないでおこう。


 しかし結局ここも両想いか……

 『こいつ』の所為でこの二人も(こじ)れてしまったのかな……



◇◇



 カモフラ小屋に着いたら思ったより片付いていたのでびっくりした。

 簡易ベッドが出来上がってるし、なぜか桶や(たらい)にお湯や水が用意されていた。

 お産ではないんだけど……

 魔女は診療や治療の際にこういった準備を要求するのかな? 何に使うのか今度見てみたい。


 準備してもらったことにお礼を言いながら、ダマリスを簡易ベッドに寝かせる。

 寝るためのベッドとしては硬いけど、診療ベッドとしては作業がしやすくて助かる。


 とりあえず、空気操作(エアコントロール)で外からの風を遮断し、室内を病人が快適に過ごせる温度と湿度に調整する。

 それから、点滴は続けながら改めてダマリスの状態を確認する。

 毒物中和と点滴のおかげでだいぶ落ち着いたようで、呼吸も落ち着いてきて顔色も良くなってきた。

 点滴さえ続けていれば朝には回復するかもしれない。

 ずっとついておくわけにもいかないから、後で点滴用の魔道具を作ってしまおう。

 食中毒の方はもう問題なさそうだ。


 さて、問題は傷跡除去の方だ。

 状態を確認したときにダマリスの顔を見たけど……正直、女の子でこれは本当に可哀想だと思うほどだった。

 簡潔に表すなら、テーマパークの日本風お化け屋敷に出て来そうな形状……そう、もはや容貌でなく形状と表現したくなる。戦場帰りの漫画家が描いた墓場の妖怪ぐらい。

 これが『こいつ』のしたことだと思うと、ホントに申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 なので、ついつい手を合わせて拝んでしまった。

 死ぬわけじゃないのに縁起でも無いね。


「マリウス、彼女の傷跡も治してしまうから、どう治すか君の指示をもらおうと思う。良いかな?」


 本人には聞けないし、僕には彼女の元の顔が想像も出来ないから。

 だから、長く見てきているマリウスが適任だろう。


「え? オレが? そういうのはあまり得意じゃないんだが……」


「良いんだ。彼女の赦してくれそうな状態にしたいけど今は彼女には聞けない。だから、次にそれを分かっていそうな君に頼みたい。本人が見て不満が出るようなら後で治すから」


 ダマリスには治療させてもらえないぐらいに拒否されてるから、この機会を逃したくない。

 自分勝手な理由かも知れないけど、『こいつ』の所為で死んでもいいと思ってしまうほどに彼女が歪められてしまったのなら、それを取り除いてしまいたい。彼女が死にたいと思うような理由は消してしまわないと救えないと思うから。


「……分かった」


 静かに頷くマリウス。

 マリウスは少し緊張していそうだ。

 頑張れマリウス、これは君の依頼でもあるんだ。

 彼はジッとダマリスの顔を見て、思い出すように集中を始めてくれた。


 僕も、睡眠を欲する脳にもう少しだからと囁いて、集中力を高め、マリウスの時と同じように、まずダマリスに復元の魔法を使用した。



◇◇



「もうちょい、目を丸くして吊り目に」


 そんなマリウスの指示を受けながら、僕はダマリスの治療を続けていた。

 治療している間にダマリスの容態はかなり安定して、今は静かな寝息を立てている。

 そんな寝ている女性の顔を深夜に3人で覗き込んでいる様は、端から見れば悪戯をしているようにしか見えないだろう。

 実際、ダマリスは起きてから自分の顔を見たら驚くことは容易に予想できるから、マジックで悪戯書きしてるのと変わらない気がしてくる。


 でも、僕としては真剣だ。

 マリウスの指示を忠実に再現するために四苦八苦している。

 理想の完成形が横にあれば楽なんだけど……


 ただ、魔法の機能にはもの凄く助けられている。

 魔法の便利なところは、今の寝ている状態以外も見られるところだと思う。

 マリウスの歯を調整したときもそうだったけど、目の場合も目を開けてみたらどうなるか?とか、細めたときにどうなるか?をAR表示して見える化出来る。

 自然な顔が作りやすいのは非常に有難い。


 不思議な力でマリウスの考えをそのまま転写できれば言うことは無いんだけど……さすがにそれは望み過ぎだろう。

 魔法使用者が理解して想像しながら操作する必要があるのはさすがにどうしようもない。

 何か補助的なものはあるかもしれないけど。


 そこから、細かな調整が1時間ほど続いて、手術はようやく完了した。

 マリウスもかなり気を遣ってダマリスの顔を再現してくれたみたいで、出来上がったときには出来栄えに感動して、「そうこれだよ」とか「これならこいつも」とか呟きながらひたすら首を縦に振る頷きマシーンになっていた。

 とりあえずマリウスが納得してくれて良かった。


 後は本人に明日の朝にでも確認してもらうだけだ。

 かなり顔色も良くなったし点滴の魔石をセットしておけば朝には元気になっているだろう。

 魔法で少しベッドにクッションを足してから、今日は解散にした。


 今日はもうホントに眠い。


 戻ってすぐに寝よう。



◇◇◇



 今日は仮眠はとったものの、火事から村長との対談へ続いて、その上ダマリスの治療まですることになるとは。

 さすがに疲れた……


 家に戻って僕はすぐにソファへと倒れ込んだ。

 するとミレルがコップを二つ持ってきて僕の隣に座り、こちらを向いてコップを差し出して来た。


「お疲れさま。晩御飯の後に入れてくれた飲み物を一緒に飲みましょ?」


 そう言えばミレルが安眠ドリンクを飲んでる途中でマリウスが来たんだった。

 ゆったりした時間を過ごした方が睡眠の質は良くなるはずだし、ミレルが望むなら応えよう。

 それに僕も少しリラックスして気持ちを落ち着かせたい。


 僕は座り直してから、すぐに魔法で安眠ドリンクを精製する。


 ミレルがもう一度「お疲れさま」と言って乾杯してきた。

 僕も同じように「お疲れさま」と答えてコップを当てる。

 お酒でも飲みたい気分だけど……睡眠の質が悪くなるので、それは今じゃない。

 お酒は食事をしながらか、食後にゆっくりしているときかな。


 そんなことを考えながらコップを呷る。

 グレープフルーツ風味のスッキリした甘味で、薄めに味付けされているので口に残る感じも無い。こういう飲み物はやっぱりよく考えられてるな。

 リラックス効果が謳われているテアニンが入っているので、プラシーボ効果かもかも知れないけど気分が落ち着いてくる。

 元々の睡眠不足と相まってすぐに眠たくなってきた。


 肩に掛かる少しの重みが支えとして丁度良く、このまま座ってても眠ってしまいそうだ……




◇◇◇




 良い匂いに鼻腔をくすぐられ、僕の意識はゆっくりと浮上してきた。

 このまま眠れそうだ、と思った瞬間にはもう寝ていたとか、よほど疲れていたんだろう。

 睡眠時間は足りてないからまだ眠いけど。


 この匂いはパンの焼ける匂いかな?

 デボラおばさんが来て朝食の準備をしてくれているんだろう。


 まだ眠気を訴える重いまぶたを少し持ち上げて、目に光を取り入れて脳の覚醒を促す。

 ソファの背もたれに載せていた頭を少し持ち上げて……左肩に掛かる重さに気付く。

 寝る前に支えとして丁度良いなと思ったものだ。

 頭をゆっくり回して重さの正体を確かめると、そこにミレルの頭があった。


 僕は何度も瞬きをして目の前の光景を確かめ、これが現実であると認識する。


 近い!

 ミレルが近い!


 僕は驚いて身体を強張らせてしまった。


「うぅん……」


 動きに反応して耳元で囁かれる甘い声。

 ミレルの頭が少し動き、柔らかな薄い茶色の髪が僕の肩をくすぐる。


 無防備な寝顔が……とても可愛くて……

 僕はもう一度ソファの背もたれに頭を返した。


 どうしたものか……


 現実を認識して徐々に鼓動が早くなっていく。


 これは、なんの鼓動なんだか……気付かないふりをした方が、後々楽なんだろうか?

 最近立て続けに両想いのすれ違いを見て感化されたか?

 ミレルは僕のことを赦したとしても、そんな仲になりたいとは思わないだろうに。

 とは言え──


 僕はもう一度頭を持ち上げて、ミレルの寝顔を確かめる。


 その無防備な頬に触れてみたいと思う気持ち、その髪に触れてみたいと思う気持ち。

 確かに僕の中にある。


 こんなに可愛いと知ってしまったら、仕方ないか。

 可愛いと認識したなら好きと思うのは自然なこと。

 だから、想いは認識して淡く仄かに散らしておこう。

 緩く、寝起きの微睡み程度にだけ、意識しておこう。

 こういうのは蓋をしたら失敗するだけだから。

 昔好きだった子が大人になったらいつの間にか結婚していた、ぐらいの感覚で。


 僕はそう決心して、心を落ち着かせるために僕は細く静かに息を吐き出した。


 そして気付いてしまった。

 僕たちに毛布が掛けられていることに。


 誰が……って、聞くまでも無いか。

 デボラおばさん以外にいないな。

 あの笑顔で毛布を掛けたに違いない。

 とはいえ、これも優しさなのは確か。

 デボラおばさんにも感謝しておこう。

 そして、スマホがこの世界に無いことにも感謝しておこう。

 有ったら絶対写真撮られてる。


 おかげでいくらか落ち着いた。

 すると丁度、ミレルがむにゃむにゃ言いながら目を擦りだした。

 そして開いたミレルの目と僕の目が合う。


「おはよう」


「ん〜……?」


 目は開いたもののまだ覚醒していないのか、ぼんやりと僕の顔を眺めてくるミレル。


 そんなに見られると勘違いしちゃうから、早く起きて欲しいです……


 そして手を僕の方へと伸ばし、僕の頬に指先が軽く触れて……ミレルは固まった。


 さっきの僕と同じように目を何度も瞬かせて、彼女は目の前にある現実の理解に努めている。


「おはよう」


 僕は自称爽やかな笑顔を作って、もう一度ミレルに朝の挨拶をする。


「お、は……ょ……ぅ……」


 ミレルは顔を真っ赤にしながら立ち上がって、ススススーと静かに後ろに下がっていく。

 毛布が落ちてぱさりと音を立てた。


 僕も立ち上がって毛布を拾いながら、ミレルにもう一度笑顔を向ける。


「寝ぼけてるみたいだから、顔を洗っておいで」


 極力マイナスの印象にならないように努めないと。ミレルに最悪の目覚めで一日を始めて欲しくは無いからね。


「ぇ……ぁ……うん……」


 そう言い残してミレルは勝手口の方へと早足で歩いていった。


 大丈夫かな……?

 まだ睡眠は足りないだろうけど、昨日より顔色が良かったから大丈夫だろう。


 僕は立ち上がってキッチンへと向かい、デボラおばさんに挨拶をしてから朝食の準備を始めた。


 ミレルが帰ってきてから、僕らは少し遅めになってしまった朝食を頂いた。

 今日のパンにはジャムが添えられていた。

 どうやら、近所の人からもらったらしい。

 アプリコットのような甘酸っぱいジャムは、デボラおばさんのパンに良く合っていた。


 こんなモーニングセットが出るカフェで朝からゆっくりしたいね。

 ああ、ホイップミルクがたっぷり入ったラテが飲みたくなってきた。

 そんな魔法もまた今度探そう。


 朝食を食べていると控えめなノックの音が響いた。

 デボラおばさんが扉を開けに行くと、小さな来訪者が元気に声を上げた。


「おはようです!」


「あらあら、イリーナちゃん、今日はランプ工房の方は良いの?」


「今日はお休みの日なのです〜 なので、お礼を持ってきたのです!」


 そう言ってイリーナは持っていた包みをデボラおばさんに渡す。

 僕の方へと振り返るデボラおばさん。


「ラズバンさんのところで料理を振る舞ったので、そのお礼みたいです」


 そう言いながら僕は小さな来客を家に招き入れる。

 ちなみにイリーナからもらった似顔絵は実験室に飾ってある。


「今僕らは朝ご飯を食べてるところなんだ、イリーナも食べるかい?」


「お肉?!」


 肉好きだな。


「ごめんねお肉じゃないんだ。パンだけど美味しいよ?」


 僕はテーブルから一切れのパンを取り、ジャムを塗ってからイリーナに差し出す。

 イリーナは不思議そうにジャムを眺めながら、僕の手に乗ったパンの匂いを嗅ぎ始めた。


 犬──イリーナは色素が薄めなのでサモエドの子犬みたいだ。


 イリーナは匂いに負けて、僕の手からパンをつまみ上げて口に放り込んだ。

 パンをもぐもぐと咀嚼するイリーナ。


「美味しいです!」


 目をキラキラさせて喜んでくれる。きっと尻尾もパタパタと振っていることだろう。


「デボラおばさん、すいませんがもう少しパンとジャムを持ってきてもらえますか?」


「はいはい、ただいま準備しますよ」


 デボラおばさんが返事をしながら、テーブルの上に手土産を置いてから、パタパタとキッチンへと向かっていった。


「開けて良いかな?」


「どうぞです〜」


 イリーナはミレルに引いてもらった席に座りながら、分かっているのか分かっていないの軽い答えを返してくれる。


 手土産を(くる)んでいた布を(ほど)くと、中から木のボトルが現れた。


「これは?」


「おじさんからお兄ちゃんへお礼だって。お師匠が作ってたお酒だとか〜」


 おじちゃんはラズバン氏のことかな。今更だけどどういう関係なんだろう……それはまた聞くことにして。

 お礼って、属性の話をした方のお礼だったのか……てっきり燻製肉の方かと。

 お師匠の……ということは──エルフのお酒!

 言われてみればなんかとてもレアものな匂いがする!! 気のせいか……?

 でも、人の来ない村なんだから、外の物が希少なのは間違いない。


「なんだか良い物を頂いてしまった気がする……帰ったらまたお礼に行くって伝えておいてくれるかな?」


 お礼ラリーが終わらない予感……


「分かったです〜」


 そんな感じで僕たちは小さい客人を一人加えて朝食を再開した。

 程なくしてイリーナがパンを平らげてしまったので朝食は終了を迎えた。


 食事も落ち着いたのでそろそろダマリスの様子を見に行こうかと思った頃、玄関の扉がまたノックされた。

 今度は少し乱暴に。


 今日は来客が多い日なのかな……?


 デボラおばさんは朝食の片付けをしているので、僕が玄関を開ける。


 扉を開けた先の光景に僕は絶句した。


 外には女性が10人近くずらりと並んでいて、一様にみんな僕を睨んでいた。


 ホントに来客が多いようで……


「ボグダン、分かっていますわね?」


 一番近くに立っていた威圧感のある女性が、警戒感を出しながら厳しい口調で告げた。


 なんだかヤバい気がする……






修羅場ですね……



まとめ

1.たぶんマリウスとダマリスは両想い。

2.マリウスの指示の元、ダマリスの傷跡の治療を行った。

3.ボーグはミレルを好きになり始めているが、『こいつ』である以上はどうせ振られるので、振られた片想い程度に思っている。

4.アプリコットっぽいジャム旨い。

5.イリーナはサモエドっぽい。


登場魔法

1.統術『点滴ドリップインフュージョン

2.統術『空気操作(エアコントロール)



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