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異世界で美容整形医はじめました  作者: ハツセノアキラ
序章 こうして僕は異世界で美容整形医になった
20/157

020 それぞれの予想

※予想に反してマリウスとデボラおばさんとシスターアレシア視点です。




 オレの名はマリウス。

 生まれてこの方良いこと何てした事ねぇ、そんなチンケなヤツだ。

 小さい村に生まれたことをつまらなく思い、ガキの時に荒れて以来そのまま悪いことを続けてきた。

 年の近かったボグダンとは良く(つる)んでいた。ダビドも年が近く仲良かったが、正直者で悪いことが出来ねぇヤツだから、ボグダンと居ることの方が多かった。

 オレも(わる)だと思ったがボグダンほどじゃなかった。

 村長の息子という一応貴族の端くれであるのを良いことに、偉いヤツには逆らえねぇようなやつから巻き上げるわ暴力を振るうわ犯すわ……上には上が居ると思った。

 これも生まれの差かと嘆いたこともあったが、それでもオレが同じ生まれでそこまで出来ていたかは疑問だったから、オレはあいつを認めていた。


 ガキの頃は隣の家の不細工な女、ダマリスを一緒に良くからかっていたが、女に興味を持ちだしてからはあいつは見向きもしなかった。

 オレはよしみでたまに話をするぐらいだったが、嫌われ者のオレに寄ってくるような女はいねぇから、唯一話をする女だった。

 だからなのか、オレは気に掛けてるわけでも無かったはずなのに、あいつがダマリスを殴ったときにキレちまった……で、もちろん惨敗。

 それから顎が歪んじまったのか、喋りにくくなった。

 でも、だからこそ、オレはあいつを許せた。

 中途半端に手加減するようなヤツじゃないから。

 完璧に非道だから。

 そんなヤツだからオレは一緒に居られたわけだし。


 なのに、魔法を使えるようになって人に褒められるようなことをしていると聞いたときは耳を疑った。


 ありえねぇ……


 だから、直接確かめに行った。

 あいつのツラを拝みに行った。


 じゃあ、なんだ……腑抜けたツラをしてやがる。

 あの何者も寄せ付けない狼のような吊り目はどうしたんだ! 犬みてぇに垂れ下がっちまってるじゃねぇか!


 オレは気付いたら、ダマリスを治療しろって叫んでいた。

 あんな腑抜けに何か出来るわけがねぇ。わけがねぇが、許しておけなかった。


 なのにあいつはまずは自分の顔を見ろって言ってきやがった。

 あいつの入っていった小屋には、村長の家でも見たことの無いようなキレイな鏡が置いてあった。

 その鏡に映った醜い顔──オレの顔だ。

 歪んでるとは思ったがこんなに酷いとは……ダマリスのことを言ってられねぇぐらいだった。


 そしてあいつは治したいかと聞いてきた。オレの顔を。

 なんつーか、その、なんだ……治るなら治してぇな。

 突拍子もないことを聞くから素直に答えちまったじゃねーか!

 オレの情けない姿でも見てぇのかと思ったけどよ……あいつは……あいつは……


 何でも無いことのように治しちまった!

 一瞬で歯も頬も戻って、その上元の顔よりキレイにしちまいやがった!


 いや、そりゃ、オレもかっこ良くはなりたいと思ってたよ……なれるわけねぇって思ってたけどよ。顔より気持ちだって思ってたよ。

 でも、こんな簡単にキマるなら、それも良いよな……


 そう言うことか!

 オレの顔から治してダマリスに信じてもらえってことか。

 確かに今まであいつのやって来たことを考えたらダマリスは信じねぇな。

 おし! 本気で治療したいという気持ちは確かに伝わったぜ!

 他のヤツには言うなって、ダマリスを優先する気だな。それなら分かる。

 この村で一番の不細工はダマリスだ。

 それで宣伝しようってんだな。

 あのダマリスが美人になったなんて聞いた日にゃ村中大騒ぎだ。

 それまで内緒にして、キレイになったダマリスをみんなに見せて一気に広めようって事か。


 怪我が治せてその上キレイに出来るって、そりゃ間違いなく村のためになるだろ。

 こんなの知れたら外から村にやってくるヤツも多くなる。

 人が来れば儲かる。そんなの誰でも分かることだ。

 あいつのことだ、王子からでも治療費をふんだくって、村に持って帰ってくる気なんだろう。

 なんだかんだ言ってこの村から出て行って無いとこを見ると、あいつもあれでいてこの村が好きなんだろう。


 あいつは極端なヤツだ。

 決めたことを貫くだけで、(わる)の時は悪いことをしてただけの話だ。

 今度は村のためと思ったから、村が良くなることを何でもしまくろうってことだな。

 芯が変わらねぇなら、オレは協力を惜しまねぇぜ!


 ダマリスはあれから村の隅に家を移して、家から出て来ねぇ。

 オレが見に行かなきゃろくに飯も喰いやしねぇ。

 いつ死んでもおかしくなかったけど、これでようやくダマリスもまともな生活が出来るようになるだろう。

 早く言ってやらねぇと。


 そう思ってオレはダマリスの家までの道を急いだ。





◆◆◆◆





「肥ったかしら……?」


 これも全て坊ちゃんの所為だわぁ。

 まだ数日だけど、その数日が衝撃的なのよねぇ。

 この年だと身体が付いていかないわ、残念ねぇ……


 坊ちゃんが妙にしおらしくなったと思ったら、あれよあれよと事が進んじゃって……ミレルちゃんと一緒に住んだと思ったら魔法を使えるようになって畑の野菜が元気になって脱穀がいつもより早く終わって……目まぐるしいったらありゃしないわぁ。

 噂話が尽きないからわたしは嬉しいのだけどねぇ〜


 それで、坊ちゃんが、まさか晩御飯を手伝ってくれるなんて思ってなかったから、また驚いちゃったわ。

 それもそれも、物凄く美味しいの!

 坊ちゃんは水で焼くとか良く分からないことを言ってたけど、その焼いただけの物がとてもとても美味しいのよぉ!


 それだけじゃないのよぉ!

 スープも美味しくなったのよ!

 坊ちゃんが水に魔法を掛けてくれたらしいのだけど、その水を使って作ったスープが複雑な味がしてとってもとっても美味しいの。


 それでそれで、パンも美味しくなったのよぉ!!

 わたしの毎日焼くパンが!!

 これも坊ちゃんの魔法なのよ!!

 スープのとはまた違う水を作ってくれてそれ使ったら、なんと!!

 パサパサのモソモソだったパンが、ふわふわしっとり少し甘いパンになったのよ!!

 まるで白パンみたいに!!


 このパンはご近所さんにも配ってたから、ご近所さんにも新しい美味しいパン配ったのよ。

 じゃあ、まだ一日しか経ってないのに、もうすごい評判で……わたし嬉しいわぁ!!


 もう、坊ちゃんの焼くお肉やお魚とスープだけでも食べ過ぎと思ったのに、更にパンまで美味しくなっちゃったら、肥るに決まってるじゃないのよぉぉぉ!!!


 肥って困るような生活をしてるわけじゃないけどねぇ。

 坊ちゃんはこんなことして何をするつもりなのかしら……


 あ!

 そうだわ!

 そうよそうよ!

 きっとそうね!

 坊ちゃんは村に食事処を作る気なんだわ!!


 せっかく使えるようになった水魔法を治療魔法じゃなくてわざわざ料理の為に使い出したんだもの!

 きっとそうだわ!!


 食事処を村の名物にして、村の作物を美味しく食べてもらって、村の宣伝をするつもりなんだわぁ!!

 そのために野菜も元気にしたのね!

 美味しい料理を作る坊ちゃんのしたことだもの、きっと今年のお野菜は美味しいくなるわぁ!


 それならわたしもきっとパンを作ってお手伝いが出来るわ。

 こうしてられないわ!

 坊ちゃんが本格的に食事処を始めるときに準備万端で臨めるように、わたしもしっかり働かないとぉ!!

 動けそうなお友達に声を掛けて一緒に考えましょ〜


 小さい子供が村から少なくなってきてなんだかみんなの明るさが減っていたけど、今のわたしは妙にウキウキするわぁ!!

 みんなに広めてみんなに明るくなってもらって、こんな田舎の村でもまだまだ楽しめるって思ってもらわないと!!


 でもでも、外の人なんて来るのかしら??

 行商人が月に一度来るぐらいで他の人なんて滅多に見ないのよ??


 それもきっと坊ちゃんには何か考えがあるんだわ!!


 なんだか楽しくなってきたわ〜





◆◆◆◆





 わたしは最近ウキウキしています。

 それを自覚して諌めているつもりですが、どうしてもそのことを考えてしまいます。

 ミレルさんのことを。


 これは恋というものでしょうか?


 そんな……シスターの身でありながらそんな……


「院長、シスターアリシアがまたうねうねしてますよー」


 レキサンドラがまた何か言ってますね。

 とりあえず拳骨を落としておきましょう。


「いたぁーぃ! 何するんですかー?」


 そんな非難がましい目で見てもダメです。


「シスター見習いとして節度を持った言葉遣いをといつも注意しているじゃないですか! うねうねとかイヤらしいことを言ってはダメです!」


 そうです、ここは修道院ですもの、禁欲の教えをしっかり守らねばなりません。


「アリシアさんのことを言っただけじゃ無いですかー アリシアさんのイヤらしいは範囲が広すぎますよぅー」


「ここは修道院です。欲に対しては厳しいぐらいで丁度良いのですよ」


 そうなので。そうなのですが、最近は──ミレルさんが聖女様だと分かってから、どうしても彼女のことを考えてしまいます。

 ミレルさんのした蘇生はテレジア様の偉業と同じなんですもの。過去にどのぐらいの事例があるのかは分かりませんが、どうしてもわたしはミレルさんにテレジア様を重ねて見てしまいます。

 テレジア様はとても敬虔なアルバトレ教の信者で、その偉業から女性でありながら枢機卿にまでなられたお方。

 もし……もし、ミレルさんが……と思うとわたしはソワソワしてしまいます。


「シスターアレシア。みっともないですよ。少し奥に行きましょうか」


 突然わたしは背中から厳しい口調で窘められました。


「イ、イオン司教! い、いつの間に……」


「レキサンドラに呼ばれたので来たのですよ」


 モヤモヤとしていて気付かなかっただけのようです。

 司教はこのシエナ修道院の院長を務める40才の男性です。真面目で敬虔な方で、数年内には大司教になられるのではないかと、わたしは予想しています。

 未熟なシスターのわたしとは比べものにならないくらい落ち着いていらっしゃいます。

 折角ですのでこの機会に相談してみましょう。


 奥の聖堂でわたしはまずイオン司教が話を始めるのを待ちます。


「アリシア、またミレルさんのことを考えていましたね?」


「はい。申し訳ありません」


 司教は軽く息を吐いて首を左右に振ります。


「あなたは1つのことに囚われすぎています。彼女が聖女である可能性は大いにあります。でもまだ、決まったわけではありません」


「はい。確かにそう伺いました。ですか、彼女の行った蘇生はやはり奇蹟だと思うのです」


 わたしはここを譲るわけにはいきません。

 教会では『聖女』というものは認定されるものなのです。教会によって──教皇によって認められた者が聖女と呼ばれるのです。


「そうかも知れません。でも、彼女はアルバトレ教の敬虔な信者ではありません。確かに真面目で働き者ですが、教会への信仰心を持っているようには思えません」


 そうなのです。彼女がアルバトレ教に足繁く通う敬虔な女性であったなら、この話はすぐに領都や王都の教会へ伝えられ協議されたことでしょう。

 でも、彼女は違ったのです。

 だから、教会はまだ静観することにしています。


 その偉業は何も変わらないのに。


「シスターアレシア。あなたは教会外の聖女についての話を聞いたことはありますか?」


「いえ、ありません。教会が認めていないものは聖女ではないから、教会外の聖女はいないのではないのですか?」


 イオン司教は渋面を作ってわたしの言葉に首を振ります。


「そうですね、これは少しややこしい話です。なんと言いましょうか……聖女という言葉は世の中に浸透しています。聖女と聞いて信者でない方も、信者と似たようなイメージを持つでしょう?」


「はい。優しく清らかなる女性で、いつも正しく、弱きを助ける者というイメージを持つことが多いと思います」


「そうです。教会が認めようが認めまいが民は聖女を望むのです。ただ、そう言う民衆の中の聖女には『正しく聖女でない者』もいます」


 正しく聖女じゃない? 周りから認められる聖女なのに?


「そのように騙る者や、最初は聖女だったかもしれませんが後にそうで無くなった者です。その者達は往々にして……」


 イオン司教が一度息を整えます。

 何でしょうか、勿体ぶって。言いにくいことのように見えますが……


「往々にして悪魔や魔王を産みます」


 背中がザワリとしました。

 まるでその言葉で今ここに悪魔が湧いたように。


 わたしは周囲を見回してしまいました。


「大丈夫ですよ、今ここに居るわけではないですから。この『産む』が何を指すのかはその時々で異なります。実際に聖女の子供が悪魔であった場合や、聖女の近くに悪魔が居たという意味の場合も、本人が実は悪魔であった場合もあります。敬虔な信者で聖女と言われるような方は、大抵シスターになりますから子を産むことはありませんし、周りは我々のような信者ですから悪魔も居ないとすぐに分かります。なので教会は比較的速く認定できるのですが……」


「そう言うことですか……司教の仰りたいことは良く分かりました」


 イオン司教は満足そうに頷いて優しい笑顔を浮かべました。


「そうですか、分かって頂けましたか。では、シスターアレシアにひとつ役を与えます」


 わたしは首を傾げてしまいました。

 てっきりまた、ミレルさんが聖女の可能性があることを公言しないように言われるのかと思ったのですが。


「ミレルさんが聖女かを見極めてください。男性のわたしがミレルさんを目で追っていては、よからぬ想像をする者もいるでしょうから」


 これは……すなわち悪魔が近くに居ないか?子を産む兆候はないか?監視せよということでしょうね。


「そうですね、軽いものでも犯罪を犯す者が近くに居ないか? 本人がそのようなことをしないか? が見極める点となるでしょう。()()や窃盗などは当然のことながら、悪評を立てることや嘘をつくことなども問題となるでしょう」


「……分かりました。ミレルさんの噂なども集めるようにします」


 少し気が進みません。

 人を疑うなんて……しかもこっそり監視するだなんて。

 でも、彼女の近くにはボグダンが居ます。

 疑わない方がおかしい相手です。


 仕方がありません、これも教会の務めです。

 わたしは嘘をつけませんし誤魔化すのも得意ではありませんから、ミレルさんには明日にでもこのことをお話ししておきましょう。


 ミレルさんならきっと大丈夫です。







今までないことが起こり始めると、人は勝手に都合の良いように解釈していくものです。そして、色んなところで色んな勘違いが起こっていくと、本人達をよそにきな臭い話も出て来ますよねー



まとめ

1.マリウスはボーグの治療でイケメンになった。

2.マリウスはボーグが村興しのために美人量産計画を進めていると思っている。そのためにまずダマリスを美人にすると思っている。

3.デボラおばさんはボーグが村興しのために食事処を作って美味しい料理と食材を名産にすると思っている。

4.民間の聖女は悪魔や魔王を『産む』と教会では言われている。

5.アレシアはミレル(というかボーグ)の監視を行う予定。


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