2-070-4 情報共有は大事なようで④
「お姉さま、眉間に皺が寄っていらっしゃいますわ」
メイクを施してお嬢様(妹)モードに戻ったミレルが、王都の教会について悩む僕の顔を覗き込んできた。
僕は表情に出やすいらしく、こうやってすぐに心配されてしまう。
あまり心配掛けさせるのは良くないとは思うけど、人にはそれぞれ得意なこと苦手なことがあるからと納得している。
会話がスムーズに進むことが多いし。
「王都の教会がこの後どうなるのか気になっててね……」
「お姉さまを悪魔と愚弄する人達なんですから、気にするようなことではないと思いますが……お姉さまらしいです」
お淑やかにミレルが微笑みを向けてくる。
言ってることは辛辣だけどね。
でも、ミレルの言いたいことも良く分かる。
自分を排除しようしてくる者なんだから、放っておけば良いと。
下手に手を出したら、教徒を洗脳したって言われそうだし……
宗教とは正しさを定義するものだから、彼らの正しさにないことをするとすぐに反発される。
それが教徒の自由意志の範疇だったとしても。
「それなら安全なところに連れて行けば良いと思いますよ? お姉さまがシエナ村の教会を潰さないのであればですが……」
教会を潰すなんて面倒事が起こりそうなこと、僕がするわけないよ。
でもそれをすると、保護したと言ったところで信頼されないだろうけどね。
これまた、洗脳するために連れて行ったのだろうと言われちゃう。
そして、一度僕が引き取った後に、彼女たちを教会に引き渡したら、彼女たちの身に危険が及ぶ可能性が高くなる。
一度でも僕に接触したということで、教会は彼女らを尋問するだろうし、疑いが晴れても監視下に置くだろう。
それじゃなんの意味も無い。
彼女らがこのまま王都にいる未来が心配だから考えているのに、新しい心配の目を増やすなら、何もしない方が良い結果になるかもしれない。
折角のミレルの提案だけど──
「保護するなら、保護した者が自立も含めて安心して暮らせるようになるまで保護したい、とお姉さまは仰っていたように思います」
ん?
ミレルの言葉を聞いて、スヴェトラーナも僕を笑顔で向けてきた。
スヴェトラーナを保護したときに、そんな話をしたような……
つまり、一度保護したなら、教会の総本山が考えを改めるまで保護し続ければ良いと言いたいんだね。
僕が悪魔ではないと理解させるか、悪魔を受け入れさせるか……受け入れさせる方は難しいだろうね。
生理的に嫌いなものは嫌いなままだと思うから。
まあ、どちらもが出来なかったとしても、彼女らに一生シエナ村に住んでもらうことは問題ないだろうから、保護できると言えばできるのか。
それなら陛下に、王都で彼女らが糾弾されたり、生活が難しくなるようなことがあるなら、定期就航させるナーヴフェルマーサ号でシエナ村に届けてもらうようにお願いしよう。
伝えるのは、正式にナーヴフェルマーサ号を進呈する時にで良いかな。
よし、解決策を決めて少し心が楽になった。
身近な人たちに相談して、アドバイスをもらえるのは有難いことだね。
思いを共有することで、また次の課題にぶつかったとき、同じ方向を向いて解決策を導けるようになる。
情報共有というのは大事だね。
2人にお礼を言って頭を撫でたところで、侍従さんが僕たちを呼びに来た。
そろそろ晩御飯が出来る時間のようだ。
侍従さんの仕事とはいえ、いつも呼びに来てもらって有難い話だ。
そういえば、この屋敷で過ごす間、お世話になった侍従さんにお礼をしておきたいと思っていたんだった。
ナーヴフェルマーサ号で恐怖を与えたお詫びも兼ねて。
直接渡しても受け取ってもらえないだろうから、レバンテ様に渡すつもりだけど。
そのためには一つ下準備がいる。
「ご報告、ありがとうございます。ところで、今少しだけお時間よろしいですか?」
返事を返せばすぐに戻って行ってしまう侍従さんを、僕は呼び止めた。
呼び止められるとは思っていなかった侍従さんは一瞬驚いたものの、すぐにいつも通り冷静な答えを返してきた。
「それでしたら、少し晩餐の出来上がりをずらすように言って参ります」
「いえいえ、こことキッチンを往復するほどの時間も掛かりませんよ。少しあなたの身体を調べる魔法を使わせてもらいたいだけです」
「わたくしのですか!? レバンテ様にお仕えできなくなるのでなければ構いませんが……」
なんか自分の身体を抱きしめて恐怖の目を向けられてるんだけど、僕はいったいどんなイメージを持たれているの……?
明確に侍従さんの前で使った魔法って、たぶん船を作る魔法ぐらいなんだけど……サラを移設するときの作業は見られていたかもしれないけど。
もしかして、レバンテ様の付き添いで謁見の間に来てたのかな?
じゃなかったら、レバンテ様が何か余計なことを吹き込んでるに違いない。
いずれにしても、何か恐怖を与えるような魔法を使うつもりはないし、安心して欲しいと思う。