2-070-3 情報共有は大事なようで③
赤い鳩を飛ばしてから、程なくして陛下からお声が掛かった。
入室の許可と、そろそろ帰るから準備するようにとのことだった。
驚いている様子はなかったから、赤い鳩のことはスルーしてくれたのだろう。
すぐ侍女さん達はきびきびと動き出し、帰り支度はあっと言う間に整った。
もちろん、タムールやシシイも、陛下の準備が整うまでに呼んできてある。
「くれぐれも頼んだぞ」
陛下が村長に声を掛けるなか、僕たちはナーヴフェルマーサ号に乗り込んだ。
帰りの目的地設定は時間が掛かるかと思ったけど、離着陸したところは目的地としてナビに登録されるらしく、すぐに設定も終わった。
「ナーヴフェルマーサ号発進!!」
来たときと同様に出発の宣言して、美しき船は音もなく空へと飛び立った。
飛び立つ直後に下を見れば、お父さんは恭しく頭を下げて見送っていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
あっと言う間にレバンテ様のお屋敷に到着したら、すぐに解散となった。
陛下はもちろん暇ではないので、船を降りてすぐに──
「なかなか良い息抜きとなった。また行きたいものだ」
お褒めの言葉と共に、侍女さんを連れてお城へ帰っていった。
「またとない貴重な体験をさせて頂き感謝の極みです」
「あの温泉はほんとに良いところでやすな。早く店を片付けてすぐに向かいたいでやす!」
タムールとガラキも温泉が気に入ったのか、意気揚々とお店の片付けに戻っていった。
あの感じなら、冬になるまでにシエナ村に越してきそうだ。
シシイとイノは、どうやら僕らと一緒に帰るつもりのようで、レバンテ様のお屋敷にとどまった。
「当屋敷で食事を用意いたしますので、出来るまで暫くごゆっくりお寛ぎください」
客室に通された後、侍従さんからそう告げられた。
僕としても挨拶回りしたいところは、呼び出されたり来てくれたりして大体済んでいるから、しばらく寛いでいたいと思う。
ソファに身体を預けて天井を見上げてみれば、頭に過るのは今後のことだ。
残りの挨拶回りは──第一王子と第二王子は面倒そうなので陛下に任せたいし、プラホヴァ領主様の王都のお屋敷は、最初に行かないことを連絡していたから、村に帰ってからプラホヴァ様に挨拶すれば問題無さそうだ。
王子一行がシエナ村に住むことになったことも、早く耳に入れておかないといけないだろうし、帰ったらすぐにプラホヴァ様のところに行こう。
後、王都で気になるところと言えば、教会ぐらいなんだけど……行ったら怖がられそうだから、止めておこうと思う。
ただ、教会に関して気掛かりはある。
教会は、王都支部のトップが反逆罪で捕まり、同時に支援してくれていたであろう第三王子との繋がりがなくなった。
これから先、陛下が教会の総本山に話を通して、その話に決着が付けば、良くて存続を許されて次の司教が送られてくるけど、悪ければ潰れることになる。
潰れた場合、大司教以外の人達は、他領もしくは他国に引き上げるのか、教徒を辞める必要が出てくる。
でも彼女らはまだ良くて、更に生活が厳しくなるのは孤児達だ。
子供達だけでまた旧市街に逆戻りとなっては酷だろう。
たとえ、教会の存続が許されたとしても、先細りの未来しかない。
国から睨まれて貴族からの心象が悪くなったということは、資金面でも活動面でも大幅に制限がかかることになる。
お布施や寄付は集まらないし、同様のことが起こらないように国の監視下に置かれることになる。
立地も、大司教の行ったクタレを使った成り代わりによって大通りに教会を構えられたのだから、立ち退かざるを得なくなるだろう。
悪事を働いた者を排除したから一件落着、というのはその事件そのものが片付いただけで、その事件による影響が全て丸く収まったわけではない。
この事件に直接関与したほとんどの人は、あの謁見の間で明確にして、それぞれに沙汰が下されたけど、他に関与した人がいなかったかは調べられていない。
この国の警察機構がしっかりしているなら、今頃調べているところだろうけど……
少なくとも一人、教会関係者で重要な人物に話を聞けていない。
罪を犯した者が野放しになっている可能性がある。
でも逆に、今後、無関係だった人達が、謂われ無い罪で被害を被る可能性もある。
僕は今それに気付いたのだから、見過ごすのも寝覚めが悪い。
かといって、僕が直接何かをするのは、教会の人達にとって良い結果にならない気がするし。
それなら、陛下に進言して便宜を図ってもらうのが良いんだろうけど……何が妥当かすぐに結論が出ない。
教会を潰すことになったら、ただの孤児院として国に運営してもらうとか?
うーん……何が最善なのだろう……