2-069-3 水が合えば新しい環境もすぐに受け入れられるようで③
水面から顔を出すと、すぐに3つの声が降ってきた。
2人はスヴェトラーナとクタレとして、もう一人は……侍女さん達の案内を終えたミレルだ。
「ボーグ、案内を終えたわ。彼女たちも少しゆっくり出来そうって言ってた」
「それは良かった。じゃあ、その間に僕の用事は終わらせてしまおう」
「無理はしないでね」
嫁さんの心配が心に染みます。
そうだね、急いでるのはお客様を迎える準備だけだから、後回しに出来ることはしないでおこう。
「ボグダンさん、お疲れ様です!」
「うん、ありがとう。スヴェトラーナもクタレの案内ご苦労様」
労うと「えへへ」と笑みが返ってくる。
仕事ができてとても嬉しいらしい。
うん、楽しんで仕事出来ることは良いことだ。
「ボグコリーナ様は水中でも息が出来るのですか!?」
クタレがここに来てからは、それほど長い時間沈んでいたわけでも無いはずなんだけど……3分ぐらい?
「それだけ長く潜っていたのに、息ひとつ乱れていませんから……」
確かに。
僕が潜水の名手でなく、3分も呼吸を止めてたら、多少は荒くなっても良さそうだ。
きっと潜水の名手なんだよ。
なんてことはもちろん言わず、魔法であることを説明しておいた。
「そんなことも出来るのですね! 多種多様な属性の魔法を使える方をお見かけしたことがありませんでしたから、とても驚いています!!」
あー……うん……属性ね……
生産系魔法だけなら、性能的にはおかしくとも、系統としては1種類だったのかな……?
そもそも、属性の概念が違い過ぎるから良く分からない……
僕の知ってる正しい属性の中にも、『統術』なんて複合感丸出しな属性もあるのに、その上でこの世界のローカル属性に変換して考えないといけないとか、僕にはムリ。
魔法を使っても気にしなくて良いこの村に住む相手には、もう気にせず魔法を使うから。
元から上手く気を遣えてなかったとも言えるけど。
魔法の話はよそう。
会話が噛み合わなさすぎて、ドツボとか沼とか闇にはまる未来しか見えないから。
「キシラは見なかったかな? ここに一緒に住むことになるから、サラを紹介しておきたいんだけど」
「途中で見掛けましたから、わたしが呼んできます!」
と元気に宣言して、スヴェトラーナが嬉しそうに駆けだしていった。
あ! 温泉で走るのは危ないよ!
簡単に滑って転ぶからね。
補助魔法のあるスヴェトラーナは転けないだろうし、転けても防御魔法で怪我しないだろうけど。
あの様子だと、すぐに見つけて帰ってくるだろう。
じゃあその間に──
「第三王子殿下も水中散歩されますか?」
「気を抜いてるときに、ボグコリーナ様にそんな風に言われるとくすぐったいです……人が居ないときはクタレと呼んで、丁寧に話すのもやめてもらえると嬉しいです」
ここは外からも見える場所だから、気を遣ったつもりだったんだけど……逆に嫌がられてしまった。
視界内に人が居ないし、気配も感じないのだから、余計な配慮だったかもしれない。
村で住むようになったら、王子をすることもなくなるだろうし。
「分かりました。じゃあ、クタレも水中散歩してみる?」
「そんな体験、この国では誰もしたことないと思います!! 喜んでご一緒させて頂きます!!」
喜んでもらえるのは嬉しいことだね。
ただ、ミレルとスヴェトラーナとダマリスは水中活動してるけどね……彼にとってはカウント外の人間だろうから、言わない方が花だね。
ということで、さくっと魔法を掛けていざ水中へ。
「あの……魔法を掛けていただけませんと、ボクは水中で息が出来ません……」
さっさと水中へダイブインしたミレルと違って、クタレがしょんぼりしている。
確かに、魔法が掛かけられたかなんて、体調変化やエフェクトが無ければ、掛けられた本人は分からないよね……
人に掛ける場合は分かりやすく、掛かったと認識させる必要があるんだった。
というかミレル、僕が魔法掛けてなかったら溺れてるよ?
「そんなのボーグの目を見てれば分かるわよ」
ミレルがくすりと笑った。
はい、ありがとうございます、一緒に住んでて魔法を掛けられ慣れてると実感させてもらえます。
「それにわたしには魔石もあるし」
そんな魔石渡したかな……
ああ、ネブン事件の時渡した魔石群なら宇宙空間で生きられるぐらいなのだから、水中で呼吸するぐらいは簡単か。
ミレルって僕が渡した全部の魔石覚えてるのかな……
渡した本人は覚えてないんだけど。
なんていちゃいちゃしてるとクタレが泣いちゃいそうだから、もう一度分かりやすいように魔法を掛けた。
「空気変換!」
ついでに、顔から首までをキラキラ光らせて明示した。
これで迷いなく泳げるはず!
「ボク、泳げないんでした……」
カナヅチなんかーい。