2-061 船にはロマンが詰まってるようで
船を作るための魔法を探したものの、ほとんどが宇宙船を作る魔法だったため結構悩んだ。
宇宙船で空を飛ぶことは全然おかしくないけど、この世界の人が見ても何なのか全然分からないだろう。
小舟を飛ばした理由も、最悪見つかったときや停留しておく時に、カモフラージュ出来るように、と思って選んだのだから、大型船になってもその考えは貫きたい。
魔法の検索結果が何順に並んでいるのか分からないけど、後ろの方にようやく探していたタイプの船が見つけられた。
単純に人気がなかったのかも知れない。
結局宇宙船なんだけど、基本動力は魔法で予備や緊急時の動力にソーラーセイルを使ったタイプだ。
ソーラーセイルとは、ソーラーパネルのように恒星からの光やイオンを電気に変換するのではなく、ぶつかる光やイオンをそのまま推力として利用する、宇宙盤帆船で、宇宙ヨットなどと呼ばれる。
この中に、一般的な海を走るのに帆船と似たようなデザインのものがあったので、それを利用させてもらった。
魔法を発動させれば、順番に聞かれたことに答えていくだけで、思った船が自動的に出来上がるという便利さ。
自分で一つずつパーツを作る必要が無いので、とっても楽。
料理で例えるならば、材料を買ってきて自分で全部料理をするのと、デパ地下でコンシェルジュに御飯を買ってきてもらうぐらい違う。
そんなサービス使ったこと無かったけど。
ちなみに魔法の説明に「お隣さんの訪問に最適」って書かれてたんだけど……遥か未来のお隣さんって、隣の惑星なの?
「お姉さまの作る物はいつもキレイですね。お姉さまがキレイだからかしら?」
なんてミレルの冗談を聞きながら、帆の張られていない帆船が訓練場に鎮座した。
と言っても、帆は使う予定がないのでなるべく小さくしたから、木造っぽい巡視艇みたいな雰囲気になったけど。
因みに保険強度的な問題で木造の選択肢はなく、チタン合金を木に見えるように加工してあるようだ。
そして、船底が傷むからなのか、陸上では僅かに浮いているのがデフォらしい。
ところで、それって鎮座って言うのかな?
でも、バランスをとって直立しているように見えるから、座礁している感は少ない。
どちらかというと展示物に見える。
さて、そんな展示された船に、いったいどうやって乗り込むのかと思えば、船体側面の一部が変形して、飛行機のタラップみたいな階段が出来上がった。
「おぉっ、すげーぇ!!」
「すごいです!」
シシイとスヴェトラーナが驚きの声を上げる。
んー、未来的ー!
見た目がアンティークなのに、動きが未来的で面白い。
じゃあ、更に大きな荷物を積むときはどうするのかと思えば、船体後部が揚陸艇のように大きく開いた。
「ぱかー」
「なんて機能的なんですか!」
イノが擬音を発してクタレが興奮気味に食い付いてくる。
馬車が数台並んで通れそうな入口だ。
どこが開くのか分からないぐらいにキレイな曲面だったのに……
なるほど、SFの世界はこうやって毎回物質を作り直して、継ぎ目のない出入り口などを実現させていたのか。
魔石を埋めることなく無く、エアコンや防風壁が使えるのは便利だね。
でも、魔石なら登録者を追加変更すれば誰でも使えるようになるけど、魔石じゃないということは、使える人が魔法使いだけになってしまっただろうね。
厳密に言えば、アーティファクトを持っている人となるんだろう。
つまり、今は僕しか使えないということ。
僕が居ないときに使わなければならなくなった時のことを考えて、誰かにアーティファクトを使えるようになってもらおうかな……
必要になるとしたら、王族を移送するときだよね……そうなると、ミレルやスヴェトラーナじゃダメかな? スヴェトラーナならありか?
いやいや、そもそも他の人が使えるようになるか分からないし、とりあえずこの件は時間のあるときに。
一通り船内の点検をみんなで終えて下船すると、クタレはテンションが限界突破していて、逆にレバンテ様は呆けたようになっていた。
「荷室でも良いので住みたくなるぐらい、快適な空間でしたね!」
とは、もちろんクタレの意見だ。
「兄上の仰った通りだ……」
とブツブツ独り言を繰り出しているのはレバンテ様だ。
評価は人それぞれなのは分かっていたので、今さら気にする必要は無い。
とりあえず、クタレが気に入ってるということは、王族を乗せても問題ないことが保証されたと見て良いだろう。
それなら、第三王子と第三王妃をこちらにご足労願うため、もう一度陛下に話をしないとね。
そう思ってレバンテ様に声を掛けると──
「丘に船があるなど陛下も簡単には信じ難いことですので、わたしが自分で説明に行きます!」
いやいや、あなた国王の弟だよ?
王族の中でもかなり重要な人物だよ?
自分で行くってどうなの?
誰かに伝えさせるとかそういうもんじゃないの?
「いえ、このような大掛かりな大魔法です。わたしから直に魔法の偉容を伝えたいと思います。でなければ伝わりません」
異様の間違いじゃないよね?
レバンテ様が説明してくれるなら、間違いなく陛下も信じてくれるとは思う。
陛下に真実を伝えるのに適任な気はするけど……
でも本当に良いの?
なんて僕が迷っていると、侍女が一人レバンテ様に寄ってきて耳打ちした。
レバンテ様は1度眉を寄せた後、頷いて侍女を下がらせた。
「ブリンダージ卿──もとい、武具商のタムールと行商のガラキが来たようです。陛下の使いでボグコリーナ嬢に会いに来たようです。わたしは陛下のところへ行って参りますので、お相手していて頂けると助かります」
タムールとガラキがレバンテ様のお屋敷に僕を訪ねてきた??
そりゃ、レバンテ様も眉を顰めるよね。
陛下の用命でというところが、レバンテ様を落ち着かせてくれたんだと思うけど。
普通なら失礼なことだと思うんだ。
レバンテ様は丁寧な口調だったけど、有無を言わせない雰囲気だったのが、それを表していると思う。
一つ兄に文句でも直接言ってやろう、という勢いの現れだろう。
そんな理由が出来たなら、直接陛下に話しに行くのも仕方がないか。
僕は大人しく、言われた通りに2人の相手をしておこう。
「御気分を悪くさせてしまってすいません。お二人と良くお話ししておきますので、どうぞおいで下さいませ」
レバンテ様はホッと息を吐いた後、少し話したらすぐに帰ってくると言い置いて、訓練場に回ってきた馬車に乗って出発していった。
侍従ともそんなに言葉を交わしていないのに、いつ馬車を準備したのか。
手際が良くて感心するよね。
暫く訓練場で待っていると、ガラガラと音を立てながら、イケメンを笑顔に染めたタムールと呆れ顔のガラキが入ってきた。
ガラキの反応は分かるけど、タムールは何が嬉しいのか。
「これはまた、お聞きしたいお話が増えましたね」
この人は予想外のことを楽しむきらいがあるから、船を見て楽しんでくれているなら良いことだ。
批判や糾弾されるよりは遥かに良い。
「タムールさん、それよりこの荷物、嬢ちゃんに預けるんやろ?」
ガラガラ音の正体は、ガラキの引いた荷車の音だった。
でも、布が掛けてあるので、何が載っているかは分からない。
台車の通った轍を見るかぎり、かなり重い物が載ってそうだ。
穴熊獣人のガラキでなければ引いてくるのは難しかっただろう。
「そうでした、まずはお話をさせてください」
恭しくお辞儀をしてから、タムールは屋敷を見る。
話をするのに屋敷に入ろうってことかな?
いや、でも、その台車を屋敷には入れられないでしょ?
絨毯とか痛むよ、間違いなく。
だったら……船の中で話をするか。
先程と同じように搬入用の入口を開き始めると、入口が開くのと同じ速度で2人の口が開いていく。
端から見てると面白いね。
さっきは他の人を見てる余裕が無かったけど、みんな口を開いていたのかな?
「荷物ごと中へどうぞ、船内の客室でお話を伺います」
先に立ち直ったのは、ブルブルと思いきり首を振ったガラキだ。
白い毛並みがキラキラと光ってキレイだね。
「いやいや、嬢ちゃん! なんなんでやすかこれは!? 置物じゃないんで??」
僕も同じように思ったけど、乗り口もなければやっぱり置物に見えるのか。
それなら、村の入口に置いといたら名物になりそうだね。
「あなたには興味が尽きませんね」
キラリと光る笑顔を僕に向けるタムール。
いやそんな笑顔を向けられても、僕は嬉しくないけど……ちょっとミレルさん、口元を押さえてニヤつかないの。
「船内にいます──ボグコリーナ」
と書いた立て看板をさっくり地面に刺して、僕は2人を促すようにさっさと乗船をした。
先程内覧したメンバーは、すぐに僕の後に続いて乗り込んで、それに気付いた2人も慌てて乗り込んできた。
さて、2人は陛下に言われて何をしに来たのか、荷物は何なのか、教えてもらいましょう。