表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で美容整形医はじめました  作者: ハツセノアキラ
こうして僕は国王に認められた
127/157

2-056 少しずつ住民は増えるようで


 防御系の魔法を答えることで、陛下からの尋問も無事クリアできた。

 第二(ジェラール)王子が、僕の開示した魔法以外には、あまり追求してこなかったことが意外だったけど、藪蛇になっても困るので、必要以上のことは喋らずに魔法の話は終わらせた。

 どうせ魔法が使える理由を説明しても分かってもらえないし、科学思考が広まるのは避けたいから、追求されずに助かった。

 どちらかというと、問題は褒美にあった。


 正直、今の僕は魔法で何でも作れてしまうので、欲しいものというのが見当たらない。

 僕が使える魔法では、素材による性能差すらないのだから。

 高級な素材を使ったからといって、品質の良い物が出来上がるわけでもない。

 ぶっちゃけ、ダイヤモンドや貴金属を素材にしても、ゴミや排泄物を素材にしても、全く同じ物が出来上がる。

 何を材料にしたのかを知ってる場合に、気持ちの部分で受け取り方が変わってくるだけだ。

 例えば誰かへのプレゼントを作る場合、ゴミを素材にしたものよりは、貴重な物を素材にしたものをプレゼントした方が、僕も受け取る側も後味が良いということだ。

 それも材料を知らなければ、もしくは無から有を創れば解決する問題だ。

 極術という属性の魔法を使えば、ほぼ無から何でも作れてしまう。

 だから、素材となるものすら、僕は必要としていないのだ。

 極術で創るのが効率が悪かったとしたら、村の開発のために地面なり山なりを削っているのだら、大量に素材は手に入っていると言える。

 なので、人材を提供する陛下の案は、僕が魔法で解決できない点なので、素晴らしい案だった。


 ただ、陛下からの命令で山奥の村送りになるのは可哀相なのと、旧市街の浮浪者達が送られてきても困るので、条件だけ付けさせてもらった。

 ぶっちゃけ、標高の高い山にあるので、村の地下方向へは幾らでも拡張できるから、浮浪者全員送られてきても受け入れられるのだけど。

 食料も意味のわからない量作っちゃったし。

 ただ、そんな大規模な移民を、元から住んでる村民の意見も聞かずに、独断で進めるわけにはいかないので止めておいた。


 陛下の返事から察するに、恐らく監視目的で数名は必ず送られてくるのだろう。

 四六時中付きまとわれたら面倒でしかないけど、潔白を証明するためなら仕方がないと思うことにしよう。

 誰も知らないような、人によっては脅威に感じるような魔法を使うのだから。

 シエナ村で今後どれだけの魔法を使っていくかは、その人達が送られてきてから考えよう。

 要塞と化したシエナ村を見た時点で、帰ってしまうかもしれないしね。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 全ての話し合いを終えて、僕たちはパーティー会場へとやってきていた。

 先日、第三(フェルール)王子が主催したダンスパーティーの会場と同じだ。

 既に謁見の間にいた人たちは全員移動していて、僕たちが最後だったようだ。

 色とりどりの衣裳に着替えて、パーティーが始まる前の歓談と飲み物を楽しんでいるようだった。


 僕の周りには、僕と同じように果実水を持っているミレルとスヴェトラーナがいる。

 2人が美味しいと言ってるのを見ると、さすがに王族のパーティーは良い料理が振る舞われているようだ。

 ダンスパーティーの時は緊張してて、あんまり味わってる余裕が無かったから、今度は食事を楽しみたいと思う。


 そして、蜂蜜酒を持ったシシイと果実水を持ったイノも近くにいる。

 彼女らはまだ、僕達の護衛任務を継続してくれるらしい。

 ぶっちゃけ、(ボグダン)であることが分かったから、護衛が必要ないことには気付いているだろうけど、彼女曰く「依頼料の分は働く」らしい。

 そう言いながら、仕事中にお酒を飲んでるところから、その言葉は建前なのだろう。

 こんな時まで仕事する必要はないと思うから、楽しんでもらえるならそれでいい。


 そしてなぜか、ブリンダージとガラキとトビアスも一緒にいる。

 ブリンダージは、爵位が無くなったから、タムールと名前で呼ばないといけないらしいけど、慣れるまでは時間が掛かりそうだ。

 彼らは彼らで、好きに飲み物を持って歓談している。

 ちらりちらりとこちらを見るということは、僕に関わることを話しているんだろう。

 会話は聞こえるんだけど、あえて意識しないようにしている。

 因みにクタレとレバンテ様は、陛下と一緒に別口で登場する予定だ。


 因みに僕の格好は……陛下の要望でまだボグコリーナとして出席している。

 陛下のその(かたく)なさから、服装倒錯症トランスヴェスティズムでもあるのかと疑ってしまうけど、冴えないおっさんより美人のお姉さんの方が良いという嗜好は分からなくも無い。

 というか、むしろ良く分かる。

 その対象が自分であることに、もんにゃりするだけで……

 さっさと村に帰って元に戻りたいと切実に願います。

 ホントに段々抵抗がなくなっていく自分が怖いので。


 僕たちが軽く喉を湿らせたぐらいで、環境音楽の演奏が終わった。

 そして、場が静まり返ったところで、陛下が2階から登場した。

 仮面を付けて第三王子に扮したクタレも、陛下に続いて登場している。

 少し会場がざわついたけど、理由を察したのか、すぐに場は落ち着きを取り戻した。


「皆の者、此度は心配を掛けた。だがもう大丈夫だ」


 そんな重い言葉から挨拶を始め、陛下は事後処理について決まったことを参加者達に周知していった。

 といっても、この最初の言葉からも分かるように、様々な意味合いを含み、軽率な行動を抑止するための言葉だ。

 この最初の言葉は、陛下自身の体調と派閥争いを表し、国の運営にかかる言葉だ。

 陛下が大変なときに、協力して国を運営するのではなく、派閥争いに興じた王子達と貴族達を戒める言葉であり、同時に自分が健康になったからには、そんな行動は許さないという意味がある。

 ただ、先ほどの、僕から参加者の制限を依頼した謁見の間とは異なり、この会場には楽団や給仕のような事件とは完全に無関係な人たちもいるので、ここで話された内容は外部に漏れやすい。

 そのため、ネガティブなイメージを持たれる話は出来るだけ避けたい。

 必然的に、言えないけど重要なことを伝える必要が出てくる。

 そして、聞く側は、言外の意味を察していなければ、王族の意志に反した行動を起こしてしまうことになりかねない。

 そうやって、あえて意に沿わない者をあぶり出して排斥しているとも言えるけど……

 だからこそ、参加者達は一言一句聞き逃さぬよう、静かにそして真剣に陛下の言葉を聞き入っていた。


「フェルールの禍根を絶つ救いが現れた。一部の者には既に紹介しているが、その者は超一級の治療魔法使いであり、防御魔法の使い手でもある。しばらく静養の必要があり、また心配する者もいるとは思うが、彼の者が治療に当たるため、何の障害もなく安寧が(もたら)されることを約束する。わたしが信頼してフェルールを預ける以上、彼の者が障害と認識したものは、国敵として対応されることも含め、安心して欲しい」


 陛下の一言一句に、傾注している者達からは様々な反応が返るが、異を唱える者は出てこない。

 言外に、かなり厳しい内容が含まれているにもかかわらず、騒がれないところを考えると、陛下の統率力はかなり高いようだ。

 だからこそ、陛下が伏せっている間は、まとまりがなくなっていたとも言えるのだけど。

 これなら、僕も安心して第三(フェルール)王子をシエナ村に置いておけそうだ。


 陛下からの発表は粛々と進み、大司教のことや他の者達の処遇について遠回しに伝えられた。

 具体的に言っていないのに、ブリンダージ(タムール)に対しての視線に侮蔑的な色が強くなったことから、みんなちゃんと理解しているらしい。

 それに、自分たちがその目で見た内容と異なる報告だったのに、疑問も挟まずに受け入れる辺り、社畜より従順だよね。

 正直、庶民から見れば貴族ってのは面倒で高慢に見えるけど、貴族社会ではその能力が無いとなれないのだから、本当にエリートの職業だと思う。

 ちゃんとその能力が無い人は排斥されていっているし。


 一連の話が終わりを迎えて、正式にパーティーが開始された。

 表向きの発表内容が、陛下の快復と第三(フェルール)王子の治療という明るい内容だったため、華やいだ雰囲気でパーティーは進んでいった。

 そんな中僕たちはというと、ダンスの誘いを断るのが面倒になったので、護衛であるシシイとイノを除いた6人でペアを回しながら踊ることにした。

 当たり前だけど、ガラキが一番注目を集めている。

 異種族の中でも獣人の部類に入るだろうガラキは、やはり人間との差が目立つ。

 遺伝子的には、人間の遺伝子に付加遺伝子情報(アドオンゲノム)で他の遺伝子を足してるだけだから、ほぼ人間なんだけど……普通は狸に近い顔の形や全身に生えた白銀の体毛へ、先に視線がいってしまうから、中々気付けないのだろう。

 特に周りに人間しかいないから余計に、人間との差異を見てしまう。

 種々様々な異種族が集まっていれば、逆に共通項を探しただろうけど。


「ガラキはどこでダンスを?」


 ガラキと円舞曲を踊りながら、気になったので聞いてみた。

 魔法補助がある僕たち3人は、どんな楽曲でも教科書のように踊れる。

 女性パートを踊りながら、ダンスを少し知ってる相手なら、自然な合図を入れて相手にリードさせる(・・・)ことも出来てしまう。

 だからといって、全くダンスを知らない相手だと、合図すら通じないし、ステップも知らなければリズムに合わせることは難しくなる。

 だけど、ガラキは、楽しそうに音楽に合わせながら、教科書のようなダンスに沿わせてきている。

 むしろ、周りから見れば、楽しそうにしている分ステップに感情が乗っていて、僕よりガラキの方が上手く見えると思う。


「あっしらのような獣人は動きに敏感ですから、何となく相手がどう動くのか分かるんでさ。相手に合わせて動くのはお手のものですよ。それに、こんな決まりのある踊りじゃねぇですが、村の祭りでも踊りはありやしたから、音に合わせて動くのは好きですぜ。なんせ村に居る間、あっしは踊り相手に事欠きませんでしたから」


 ドヤァって音が聞こえそうなほど、自信満々に胸を反らして答えてくれた。

 そうだった、ガラキは脱け毛が始まるまではリア充だったんだった。

 脱け毛が治ったことで、自信が復活してるようだ。

 もしかしたら、ハゲのままだったら、ガラキはこんなに堂々と楽しそうに踊れていなかったのかもね。


「ガラキが楽しそうで良かったよ」


「そこは、ボグコリーナ様にはいくら感謝してもし足りないぐらいです。これから村でお役に立って、返していきたいと思っていやす」


 あれ? シエナ村に来るのは、ブリンダージ(タムール)だけじゃないの?

 ま、まあ、ガラキは、行商できなくなったから、どこか受け入れてもらえる先を探す必要があるし、知り合いのいるところも良いよね。

 いや、でも、王都の方が卸先は多くない?


「知り合いがいても仕方がないですぜ。あっしの扱ってた商品は仕入れられないのですから。ほぼ一から商売になりやすから、それなら同じ境遇のタムールの旦那が一緒の方が良いってもんですよ。あっしだけじゃなく、トビアスの旦那も一緒に行くことを決めたんでやすよ? さすがにあっしも驚きやした!」


 商人らしく話し上手に、でもステップは滑らかなまま教えてくれた。

 危うく僕のステップの方が止まるところだったよ。

 トビアスさんは事件に関係ないし、事件が解決したからと客が少なくなるなんてことは無いわけだし、村に来る意味がわからないよ!


「それは本人に聞いてみると良いでやす」


 タイミング良く音楽が終わり、ガラキが気持ち良くポーズを決めて話は終了した。

 一度喉を潤しに戻って一曲待てば、次はトビアスさんの番だ。

 彼は元王宮仕えだから、難なくダンスをこなすようだ。

 離れて長くたって忘れている部分もあるのか、少しリードが覚束ないところがあったけど、僕と踊っている以上問題は起こらない。

 それより、今後のことだ。


「ガラキから聞きました。村に来るそうですね?」


「はい。御迷惑でなければ寄せていただこうと思っています」


 お店にいるときより丁寧な口調で、静かに語ってくれた。

 元第三王子付きとして、あの時のまま王子が復活した今、やはり仕えるべきは王子しかいないと思ったらしい。

 再び護衛として側に付くべく、シエナ村へ引っ越ししたいのだとか。

 それを陛下が許してくれるかどうか、まだお伺いは建ててないけど、断られてもとりあえずシエナ村には来たいようだ。

 トビアスさんの眉尻が下がった表情からすると、許可はもらえないと思っているのだろう。


「護衛としてでなくても、殿下のお側には居たいと望んでおります。幸い、宿屋の主人はしておりましたから、これから忙しくなるであろうシエナ村の宿屋でもお手伝いできればと思っております」


 なるほど、すぐに忙しくなるかは別として、村一軒の宿屋では湯治客も捌けないだろう。

 温泉に併設した建屋を旅館にするか建て増して、宿を増やすのは簡単だ。

 問題は宿を商える人が居ないことだから、実に丁度良いとも言える。

 トビアスさんが望んでいるのなら、ウィンウィンの関係かもしれない。


「有難い申し出です。断る理由が御座いません。こちらこそ、よろしくお願いいたします」


 そんな会話をして、ダンスが一巡した頃、再び陛下が注目を集め話を始めた。

 いわゆる、(えん)もたけなわな挨拶というやつだ。

 場が盛り上がっているところ、締めて自由解散ってところかな。

 そろそろ帰らないといけない年齢の人たちもいるし。


 そして挨拶が始まって少しして、何故か僕が呼ばれてしまった。

 始まりの挨拶では呼ばれなかったのに……

 それに陛下は少し酔っている様子だけど……

 はっ! これはもしかして!

 一発芸とかやらさせるやつ?!

 そんなわけないか……


 とりあえず、陛下に呼ばれた以上、侍るほかない。

 僕は注目を集めながら、でも慌てず静かに陛下に近づいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ