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異世界で美容整形医はじめました  作者: ハツセノアキラ
こうして僕は国王に認められた
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2-055 国王の保身


「では、其方の能力の話だ。幾つか見た中でも、特異な能力ばかりだ。まず、治療の魔法。これだけで充分凄いのだが、分かりやすいので置いておこう。それより、姿形が変えられる能力と魔法を掴む能力だ。これらは何か特殊な能力なのか? 生まれつき持っているとか、突然使えるようになったとか……」


 陛下が真面目な声色で、僕の目を見て問い掛けてきた。

 治療意外は魔法と思ってないということは、魔族であることを疑っているのだろうか……


 この世界の特殊な能力は、異種族のものも魔族のものも含めて、全て魔法によるものであることが、僕には分かっている。

 それは遺伝子に組み込まれた魔法だから、遺伝子の研究もなされていないこの世界では、魔法と気付くことが出来ないんだと思う。

 だから、生まれながらに持っていて、意識せずに使うことが出来る、あるいは、意識せずに使ってしまう魔法を、その生物特有の能力と彼らは思っているのだろう。

 それなら、遺伝子の改良を行わなくとも、魔石に込めた魔法を自動発動型にして、身体に埋め込んでしまえば、これはもうこの世界の概念では能力と言えるかもしれない。

 そういう考え方を持てば、僕の使っている魔石の一部は、能力として説明できるけど……あまり意味ないよね。

 シシイの話を聞く限りは、特殊な魔法を能力と説明して自分が魔族だと言うより、自分は人間だと言った方が受け入れてもらいやすそうだ。

 だったら、素直に『あの人』の名前を借りて、深追いされるのを回避しよう。


「それらは全て魔法によるものです。理由は良く分かりませんが、わたしはいつの間にか様々な魔法が使えるようになっていたのです。ディシプリウス・ティートゥス様も驚いていました」


 理由の部分は明確だけど誤魔化して、有名人の名前を出して少し意識誘導させてもらおう。


「かの英雄が驚かれるほどとは……」


「あの方がご存知ないほどの現象であれば、我々には知りようもありませんな」


 案の定すぐに食い付いてくれた。

 そして、人あらざる者を出すことで、人知を超えた領域と解釈してくれる。

 こういうとき、あの人は色々なところで役に立ってくれる。

 そして変態的だから、利用しても良いかなと思わせてくれるところが、更に優秀だね。

 魔法に関する情報が積極的に入ってくるように、ワザとやってるんじゃないよね……

 また、ディティさんには、感謝を込めて手土産でも持っていきたい。


 理由の説明が必要なくなったので、後は少し手の内を明かして安心してもらうのが良いかな?

 バレている魔法と、自分の身を守るための魔法については、全て話してしまおう。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 なんなのだ此奴(こやつ)は……

 見た目を変える魔法というものは、存在しないわけではない。

 ジェラールが言っていたように、蛙やオコジョやスライムに変える魔法は、お伽話のような口伝レベルでは伝わっている。

 ただ、これらは、親が子供に言い聞かせるために使うような言い回しで使われることが多く、かく言うわたしも、乳母などから言われたことがあった。

 その話方がおどろおどろしく、夜も眠れぬほど恐怖したものだった。

 だが、あくまでも子供を怖がらせるために使われる、実在が不確かなものばかりで、実際に使える者というのは聞いたことがなかった。


 しかし、フェルールは教会の手によってスライムにされていた。

 この魔法の出所は、教会に確認しておかねばならぬな。

 彼奴(あやつ)を短絡的に死罪にして良いことなどないのかもしれぬな。

 とはいえ、わたしとフェルール、この国に関わる命を二代にわたって狙ったとあっては、死罪以外有り得ぬのも確かなのだが……それは強硬に主張すれば良いだけだろう。


 話は逸れたが、スライムにする魔法が実在することは、フェルールが変身させられていたことから分かった。

 だが、それはスライムのような知能の低い単純な生物にする魔法だ。

 人間のように複雑な生物に戻す話など、聞いたことがなかった。

 いや、正確に言うなら、これもお伽話にはある。

 愛する者の力でとか、ドラゴンが住むような危険な山に自生する木の実を食べさせてとか……誰かが使う魔法によるものではなく、どちらかというと奇蹟に近いものだった。

 それを魔法で実現してしまうとは……

 これだけ高度な魔法が使えるという事は、逆に知能の低い生物変えるのは簡単に出来てしまうのであろう。

 敵に回したくないものよ。

 もちろん、我らを救った此奴(ボグコリーナ)を我らが裏切ることはできんが、敵に回すぐらいなら、暗殺でも考えた方が安心できるというものだ……


 そのような打算があって、王命としてボグコリーナの魔法について詳しく語らせたのだが……わたしの中では、好きにさせるしか無いという結論に至ってしまった。

 それは、暗殺を企てたところで、ボグコリーナが死ぬことは無いからだ。


「既に知っている者がいる魔法の説明からさせて頂きます。まずは『物理防御フィジカルディフェンス』です」


 ボグコリーナが、ヴィクトールと『厄嵐』という二つ名持ちの傭兵を呼んで、魔法の実演を始めた。

 ボグコリーナの前にヴィクトール、後ろに厄嵐を立たせて、武器を構えさせた。

 ヴィクトールと厄嵐、共に両手剣を持っている。

 両手剣はその重さ故に、金属鎧を纏っていても打撃によるダメージが残る武器である。

 まともに受ければ、鎧を着ていない人間など一溜まりもない。


「真っ二つにするつもりで全力で打ち込んでください。シシイは分かってると思うから、先に動いてあげて」


 正面のヴィクトールは、防具もなく構えてもいないボグコリーナに対して、攻撃することを躊躇っていたが、厄嵐は全く迷うことなく、ボグコリーナの後ろからその細い首を目がけて、全力で両手剣を振るった。

 まるで斬首刑を執行するような光景だ。

 そのような光景を、何人が目を逸らさずに直視できていただろうか。


 わたしは国王という立場上、幾度となく首を()ねられる光景は見てきた。

 だから、目を逸らすことはなかった。

 確かに厄嵐の太刀筋は、その首を刎ねるのに最適と言える弧を描き、余すところなく力が乗っていた。

 ボグコリーナの首が刎ねられるのは、わたしの目には間違いないものと映っていた。


 それ故に驚愕した。

 厄嵐の振るった刃は、まるで予め寸止めをする予定だったかのように、ピタリとその首筋に刃が当たって止まっていた。

 ボグコリーナはピクリとも動いていない。

 振るわれた両手剣が巻き起こした風すらも、全く受けていないようだった。


 どういうことだ……


 厄嵐は、慣れた手つきで両手剣を引き戻し、今度は脛に向かって振り下ろしていた。

 結果は同じだった。


 まるで、全ての剣戟が、見えない壁に当たって──いや、弾かれたわけではないから、見えない手に受け止められたかのようだ……


 その光景を見て、ヴィクトールも半信半疑ながらに剣を振るった。

 1度目は弱く。

 確実に受け止められることを体感してからは、どんどんその技の精度を上げて、急所を狙っていった。

 切り上げ、切り下ろし、時には突きを交えながら……

 しかしながら、一度とてボグコリーナに触れることはなく、次第に2人の息が上がってきたのを見て、ボグコリーナが声を掛けた。


「この魔法は、わたしに向かってくる『物理的な』力が全て無力化されます。これには、高所からの落下のような、自然力も含まれます。崖上から転落しても無傷でいられます。因みに、意識のあるなしに関わらず常時発動させておくことができますので、寝ている間に何か起こっても同じです。そして、魔法が途切れるようなこともありません」


 既に暗殺の可能性も考慮済みと言いたいのか……それとも、その意図もないのか……

 しかし、驚異的としか言いようがない。

 こんな魔法があれば、魔法使いを前線に送り込むだけで、剣士や騎士を無力化できてしまう。

 どちらかというと、魔法使いは後衛で、前衛に守られながら威力が高く広範囲を攻撃できる魔法を放つものだと思っておったが……

 現に、そんな魔法使いが居たという話は聞いたことがない。


 この魔法ひとつでも、常識を覆すようなものである。

 にもかかわらず、ボグコリーナは幾つもの魔法を説明していった。


 火も効かず、雷も効かず、毒や酸も効かず、氷漬けにしても死なず、縛り首にしても水中に沈めても死なず、餓死もしないとか……

 本人の言葉で言うなら『何も持たずに深淵に放り込まれても死なない』のだと。

 しかしながら、あくまでもこれらは魔法によるもので、魔法を使わなければ普通の人間と同じだという。

 そう言いながら、ボグコリーナは魔法を使わない状態にして、ナイフを指に当てて血を流して見せていた。


 人間か……

 魔族でもなく異種族でもなく、ただの人間の魔法使いだと。

 『ただの』ではないと思うが……


 しかし、魔法というのは幾つもの同時に発動することは出来ないはず。

 その辺りをジェラールが指摘しても、これらの魔法を統合した『船外活動服(フォーゼスーツ)』なる魔法があるとか。

 試しに、剣で斬りつけると同時に松明を近付けてみても、表情は何も変わらず服さえ燃えなかった。

 そのあとも、ジェラールの提案で幾つか実験を行った。


 そんな生物がいてたまるかと疑いたくなる程の防御能力だが、確かに目の前で実演された。

 これが幻術のような魔法だというなら、まだ救いはあるのだが……こちらの用意した物を、ヴィクトールやジェラールが使って試しているのだ。

 本当に何も効かないということだろう。


 強固な鱗を持つ異種族にリザードマンがいるが、その鱗によって両手剣ぐらいは防げたとしても、酸や毒が効かないわけではない。

 実体のない死霊系──例えばレイスのような存在ならば、確かに酸や毒や剣は通じぬが、今度は炎や雷は通じるだろう。

 ボグコリーナの見せた条件に当てはまるような存在は、ドラゴンのような生態系の頂点に立つ生物しか思いつかない。

 しかし、ドラゴンという生物は、その巨体や鱗があるからこそ防げたり耐えられたりするのであって、人の形では無理があろう。

 ボグコリーナが我が寝室を訪れた際には、例外なく身体検査が行われ、その身体に触れている。

 しかし、異常の報告は上がってきていない。

 つまり、魔族である可能性は捨てられないが、身体は間違いなく人間のそれと変わらないということだ。

 人であるが故に、エルフのように長命でないことだけが救いかも知れ……姿形を若く出来るなら、それこそ永遠に生きられるのではないだろうか?

 超越した魔法使いとは、完璧な生物なのではなかろうか……


 そんな人間が、敵に回ったら、果たしてどうなるだろうか……ゾッとしない。

 ボグコリーナの不興を買った場合、たった一人でもこの国を滅ぼしかねない。

 国王という立場にあるため、自分のなけなしのプライドを守るために、ボグコリーナを一介の貴族として扱うのが本当に妥当であろうか……?

 むしろ、国を守るために頭を下げてでも敵に回らないことを願わねばならないのでは?

 そんなことを考えてしまうほどに、恐ろしい人物であろう。


「ところで、褒美の話がまだであったな。何か欲しいものはあるか?」


 懐柔策に走ってしまうわたしを、誰も憐れとは言わないだろう。

 わたしの言葉に、ボグコリーナは首を傾げて遠くを見つめ始めた。

 美しい艶のある髪が、サラリと肩から流れ、触れれば折れてしまいそうな細い首が露わになった。

 守りたくなるような美しさを秘めながら、実は男であり、先程見たように、守る必要が無いほどに何物も寄せ付けない。

 その存在こそが矛盾だと言いたくなってくる。

 それにより得体の知れなさが強調されるのだが、不思議と不安感は感じられず、むしろその超常的な存在感が神々しく感じてしまう。

 これを同じ人間と定義して良いのだろうか……

 確かに、教会の者どもが『悪魔』と言い出したくなる理由も分かるが……だが、文献で知る悪魔とは異なるような。


 ややあってから、ボグコリーナが口を開いた。


「これといって何も必要としていません」


 欲しいと思わないですらない、必要としていないという強い否定か。

 金も地位も望まないというのか……?

 あんな山奥の田舎暮らしで、満足しているというのだろうか……

 それとも受け取ることを面倒だと感じているのだろうか。

 最初に感じたボグコリーナの性格なら、遠慮でもしていそうだな……


「遠慮などせずとも良いぞ? 国を救った英雄になら、金貨でも白金貨でも、いくらでも出せるというものだ。なんなら、橙爵(ポルトカリュー)ぐらいまで上げて、もっと裕福な土地を与えても良いぐらいなのだぞ?」


 息子達は爵位の話に渋面を作っているようだが、気にするようなことではない。

 どうせ派閥争いの火種になりそうだ、とでも思っておるのだろう。

 望まれるなら与えねば、あとが怖い。

 しかしながら、ボグコリーナは表情を曇らせて、困った顔をした。


「シエナ村が気に入っているので、他に移るつもりはありませんし、村長以上になりたいわけでもないので、爵位も必要としていません。村長も父に継ぐように言われれば継ぐつもりですが、成りたいと思っているわけではありません……」


「では、其方(そなた)は何がしたいのだ? シエナ村で何をして生活していくのだ? それに役に立つものや、必要なものを褒美とするならどうだ?」


 これは純粋な興味だ。

 この超常的な魔法を使うボグコリーナという存在が、何をしたいと思っているのか知りたかった。

 国でも、それこそ世界すらも手に入れられる程の力を持っていると思わせる、その力を何に使うのか。

 そう思っている時点で、既にわたしは呑まれていたのだろう。


「わたしはシエナ村で『異世界美容整形医』というものを始めているのです。名前の通り、色々なものを美しく整える仕事です」


 名前の通り……?

 初めて聞いた職業で良く分からぬ。


「その仕事を始めてから、具体的に何をしてきたのだ?」


「村の人達を美男美女にしたり、美味しい料理を考えたり、温泉を作ったり、山道を整えたりと……色々なことをしています」


 やっていることに統一感がないような……

 規模もバラバラで、対象もバラバラ。

 小さな村だから、一人が様々なことをせねばならん事情もあるのかもしれんな。

 便利屋のようなものだろうか?

 いや、妙な名前がついてはいるが、村の開発を行っているという共通点があるな。

 なぜ新しい職業という形態を取ったのかは不明だが、次期村長として親の仕事を手伝っているのは間違いないようだ。

 それならば、ちょうど良い褒美を出すことも出来るだろう。


「それなら、人手が必要となるのではないか? 村の整備なら男か? 料理なら女か?」


 ボグコリーナは長い睫毛をパシパシと(しばたた)かせて、答えに迷っているようだ。

 少しは興味のあることを提案できたようだな。


 ボグコリーナは顎に手を添えて少し考えていたが、すぐに口を開いた。


「それなら必要としています。男女どちらでも問題ありません。山奥の村なので生活は不自由ですが、もし来たいという方がいらっしゃいましたらお願いします。人数に制限はありませんし、村の運営を手伝っていただける方なら大歓迎です」


 誰もがその言葉に頷いてしてしまいそうな、裏表を感じさせない控えめな提案と笑顔だ。

 しかし、普通に裏はあるだろう。

 英雄というなら、褒美に優秀な人材を寄越せということだろうか?

 いやしかし、寒村だから来ることを期待していないのは間違いなさそうだ。

 褒美を断ろうとしたことから考えて、断らずに受け取らないで済む理由を見つけた、というところか。

 褒美の押し売りは迷惑と知るべきか……

 いや、ここは、少人数なら受け入れられると取るべきだな。


「よし、其方の要望通り、無理強いをせずに希望者を募るとしよう。余り多くの者は集まらないやも知れぬが、それでも其方に惹かれて行きたいと申し出る者は居ると思う。期待していてくれ」


 そうよな。

 男女2人ずつ、家令が務まる者、側仕えが出来る者、それに農務省と財務省から誰か見繕って送り込もう。

 村の発展に役に立つ者を送り出せば、友好的な関係は築けるだろう。

 監視するようなことになれば気分を害するだろうから、そのような意図が一切ないことを、送り出す者にもしっかりと申しつけておこう。

 まずは敵対しないこと、それ以上は追々。

 人を超越する者に対して欲を持って接すれば、必ず痛い目を見る、世の中はそういうものだ。

 なるほど、それなら、『悪魔』と言えなくも無いか。

 どうやら、教会の者には自制心というものが足りないようだな。


 なれば、尚のこと、ボグコリーナの言を信じて、辛抱強く教会とは交渉することとしよう。


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