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異世界で美容整形医はじめました  作者: ハツセノアキラ
こうして僕は国王に認められた
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2-054 外部とは友好的に進めたいようで


 一番難しいクタレの処罰やフェルール王子の扱いが大枠で決まったことで、他の協力者の処遇に話は移された。

 基本的には、あの人魚薬に毒性があるなんて誰も知らなかったのだから、周知と取り扱いの制限と罰金刑、それと協力者の移動制限でカタが付いた。

 死刑や肉刑や追放刑じゃなかっただけマシだ、と一般的には受け取れる。

 罰金は、今回の人魚薬騒動で得た売上を、全て国に納めることになった。

 利益からの倍率換算でないところがえげつないけどね……

 後は、一時的に監視を付けたり、国外への移動禁止と領間も移動制限が課されるようだ。

 この中で刑が一番重くなるのは、ブリンダージだ。

 それは同時に、一番罪が重いと判断されたからだ。


 人魚(サラ)の所有者であるレバンテ様は、病気を治すための調査として鱗を提供していただけだ。

 正直、動機はどうであれ、誰も知らない人魚の病気の治し方を、一番知ってそうな人に相談しただけで、被害者と言ってもいい位置づけだ。

 この人が人魚をコレクションに加えなければ、この事件は始まらなかったのだけど……当時はむしろ、人魚薬が欲しいときに入手できる利に目が行って、彼が人魚を捕らえたことを称賛する声の方が多かったらしい。

 立場的なものもあるので、それ以上の追求はなしだった。


 行商人のガラキは、犯人である大司教に直接鱗を渡し、人魚薬をブリンダージに卸すという重要な位置に居たが、対価は効果のない増毛剤だったので、実質的には働き損だ。

 無償で得た鱗を、有償でブリンダージに売っていた利益はあるのだが、ブリンダージに比べれば利益は少なかったようだ。

 ガラキの場合は、利益分を国に納めるだけになるので、損益が出ない計算になり、罰として軽く感じられるという声も上がったが、行商人が移動制限をされれば、これまでとは大きく商売の方法を変えなければならないことで、充分な罰となると判断された。

 その予想は正しく、罰が言い渡されたガラキは、この世の終わりのような顔をしていた。

 狸の顔だけど、意外に分かるものだね。


 ブリンダージは、直接王子に薬を渡すというガラキと同じぐらい重要な立場で、彼は店で横流しするだけだったため、一番利益を得ていたとされた。

 更に言えば、それだけ利益の見込まれる商品で、かつ王族という顧客に売る物なのに、その品質確認を怠たったことが、利益を最優先にした悪行だと捉えられた。

 この世界では、客なんだから誰でも一緒という理論は通じないようだ。身分制度があるんだから分かりきっていたことだけど。

 そして、彼は身分にそぐわない失敗を犯したと見なされ、爵位まで剥奪されるという判決に至った。

 ブリンダージだけ厳しすぎるような気もするんだけど……


 目をやれば、ブリンダージは何の感情も見せない表情で、静かに判決を聞いていた。

 それは余りにも、ガラキの項垂れ方とは対照的だった。

 その態度が陛下や王子も気になったようで、隠し事があるのではないかと訝しがられ、更に追求がなされた。

 でも、ブリンダージの答えは簡潔だった。


「わたしは店を畳んで、シエナ村に移住しようと思っていましたので、それほど気にならなかっただけなのです」


 なんということだ!

 没落貴族が田舎に引っ込むのは、良くあることな気がするけど……なぜシエナ村なの?

 雪が降り始めたら外に出られなくなるような、かなりの田舎らしいよ?

 やけになってない?


「この騒動に巻き込まれたことが分かった時点から、身の振り方を考えていました。ガラキも騒動に巻き込まれていたため、魔法武具に必要な材料が入手できなくなることが予想出来たので、今の店は畳むつもりでした。この後の祝賀会でわたしの処罰も通達されるのでしょう? わたしの顧客は貴族方ですから、わたしのような剥落者から購入することを、控える方も多いでしょう。この先作れなくなるだけでなく、現在作っている物も売れなくなるのです。さっさと在庫品を吐き出す先と、次の商売を考えた方が建設的でしたので」


 消えていくチーズには価値がない、と早々に見切りをつけたということだね。

 なんという前向き思考……

 ちなみに『剥落者』とは、この国の貴族位を落とされた者の蔑称らしい。


「シエナ村なら、在庫の使い道もあるかと思いまして」


 そう付け加えて、ブリンダージは陛下と僕へ意味ありげな視線を送ってきた。

 ん? 何が言いたいのか僕には分からないよ?

 確かに、シエナ村の武装強化に、武具が欲しいとは思っていたけど、武具なら自分で作ってみるのも良いと思ってた。

 だから、武具が欲しいとう要望は、ブリンダージの知らないことだ。


「ふふ……そう言うことか。罰を変えるつもりはないが、シエナ村への移動の許可と、移動費は出そうではないか」


「恐悦至極に存じます」


 陛下とブリンダージは、お互いに安心した笑顔で会話している。

 なにやら目と目で通じ合ってるようだ。

 なんなの?


 陛下にとってメリットを感じられたから、こういう会話になったんだよね……?

 ブリンダージがシエナ村にいることが?

 それとも……

 あ! 魔法武具の在庫の使い道!

 第三王子の護衛が必要だからか!

 長閑(のどか)なシエナ村で、そうそう問題が起きるとは思えないけど、王族がいるとなると護衛も増やさないといけない。

 僕を見る陛下の視線には、シエナ村からも護衛の人員を割け、という意味も含まれている気がする。

 そして、護衛が増えるということは、武具も必要になるということ。

 その武具に、ブリンダージ商会の在庫をあてたら良いということか。


 もしかして、気付いてなかったけど、第三王子がブリンダージ商会やレバンテ様のところに移動するときって、護衛が何人もいたのかな?

 同じ馬車に乗らなかったから、知らなかっただけで。

 ブリンダージは、そういうところをしっかり見ていたのかもしれない。

 転んでもただでは起きない、なんとも(したた)かな人だね。


 ぶっちゃけ、僕が改築している『シエナ要塞』に、護衛が必要とは思えないけど……慢心はいけないし、彼の努力を無駄にさせたくはない。


「それに、色々と気になることがありますからね」


 ブリンダージが僕に視線を向けてくると、陛下の視線も僕の方に向く。

 2人共、苦笑して同時に頷いた。


 いや、なんなんですか?

 まだ魔法を掴んだのと、治療魔法を使ったぐらいで、攻撃魔法とか使ってないんだから、そこまで警戒されることもないと思うんだけど?

 警戒というよりは、憂慮って感じかな。

 なんとなく納得できない視線だよ……

 そんな思いを顔に出したら、誰かに怒られそうだから出さないけど。


「さて、(みな)の判決は落ち着いたので、そろそろ本題に入ろう」


 今この時点で、彼らの判決以上に重要なことは無かったような……

 あっ! 忘れてる人が1人いるね!


「大司教の処遇についてですね?」


「……あれは死罪意外に選択肢がないから、その話ではない」


 陛下から微妙な視線が返された。

 おかしい。

 彼がこの騒動の元凶なんだから、一番重要といえば彼のことだろう。

 そうした方が僕の心が安定することは間違いない。


「待ってください。彼は教会の人間です。罪の内容から言えば確かに死罪しかあり得ませんが、教会の規模を考えると、教会の本部に打診は必要と存じます。下手に処分してから伝えると、異端と言われかねないので……」


 イオン司教の動向を調べたとき、教会の本部は海を渡った先にあると聞いた。

 シシイの話から考えても、複数の国に拠点を持つ宗教で、場合によってはその母体となる宗教国家がある。

 そんな宗教に喧嘩を売って対抗できるほど、レムス王国が大きいのか分からない。

 彼の犯した罪は、あくまでもこの王都という狭い地域で行われたことなのだから、いくら真実を教会本部に伝えたとしても、信頼されずに嘘だと言われてしまったらそれまでだ。


 属地主義的な考え方からすると、この国のルールで裁いても問題はないんだけど……それは国際条約を締結している場合だろう。

 この世界は、そんな平和な世界には見えないんだよね。

 大司教という要職に就く人物を、彼らが悪魔と定義する転生者によって貶められたと主張されたら、僕の言い分を信じたこの国丸ごと、異教の国として責められる未来が、容易に想像できる。

 こういう世界にありがちなのが、何故か宗教国家が強力な軍隊を所有していることだ。

 狂信者って死を恐れないし、自分たちのルール以外に禁忌がないから、何するか分からないんだよね……


 だから、教会から敵視されるのは可能な限り避けたい。

 転生者という僕がいる時点で手遅れなのかもしれないけど……犯人を五体満足で生かしておいて、真摯に真実を伝えて交渉すれば、この国自体は大丈夫だと思う。

 最悪、僕を売りさえすれば、信じてくれると思うし。


 そんな内容を掻い摘まんで説明しても、陛下は首を横に振るだけだった。


「ボグコリーナ嬢の言い分は分かった。だが、国王に手を出した場合、普通はその場で切られるのだぞ? それを其方が助けたから今は牢に入れているが、あれはそこまで恩赦をかける程の者か? それに王国の混乱を静めた其方を、我々が裏切るわけにはいかん」


 相手もそう思ってくれるなら良いんだけどね。

 あと、恩義を感じてくれてるのは嬉しいけど……国全体と僕を比べるのは、僕としては重すぎる恩返しだ。

 過ぎたるは及ばざるがごとし、という言葉をあげたい。

 恩返しのつもりが相手を苦しめる結果を生む、なんて往々にしてあることだけど。

 陛下自身も命を狙われたわけだし、教会と喧嘩するのも止むなしと思っていそうだ。

 むしろ、喧嘩を売られた側と言えなくもない。

 しかも、今回の毒殺未遂事件は、イオン司教と意見が割れたことから考えても、明らかにツヴァイ大司教の独断だ。

 ただ、跡目争いという内乱を防いだのに、外との戦争の火種を起こしていては意味が無い。

 外に喧嘩を売るのは、もう少し落ち着いてからが良いと思う。

 それに今は、もう一つの内乱の危険が残っている。


 陛下には話しておかなければならない「花火」のことだ。


 僕が村で「花火」を打ち上げたときには、王族を含む王都の貴族達が、跡継ぎ争いに躍起になっていたから気付いていないのかもしれないけど、それを『北側』に期待するのは楽観的すぎる。

 そう言う意味では、僕は混乱を静めた人物ではなく、混乱を(もたら)した人物とも言える。

 跡目争いを落ち着いてない上で、別の内乱の危機がある状態で、これ以上不安要素を増やす必要は無いと思う。

 その話をして、教会の話を、()いては恩返しの話も、穏便に進められないかな?


「そのようなことがあったのか……(とこ)に伏しておったから、というのは言い訳にしかならなんな……ジェラール、何か聞いておるか?」


「情報は得ております。プロセルピナ、説明を」


「はい。今から一月ほど前、夏の終わり頃に、北西の方角に光の花が咲いたと報告かありました。ただ、余り長い時間ではなかった上に、光の塊だったため大きさも距離も分からなかったようで、見た者で証言もバラバラでした。ヤミツロ領だった言う者も居れば、プラホヴァ領とも山の向こうとも」


 シシイから聞いた話だと、巷では火の玉と言われていたみたいだったけど、正確に光だけだと判断できたんだね。

 その点は凄いと思う。

 距離は、そもそもの花火を知らないから、推測のしようがなかったのか……

 簡単な方法であれば、花火を知っているならその大きさで距離を測れる。

 でも、爆発や燃焼を利用した花火と、魔法で打ち上げた純粋な光だけの花火では、前者を知ってても後者は分からないかもしれない。

 そして、光と音の伝達速度の差で距離を測る方法は、この科学の発達していない世界で、一般に浸透しているとは思えない。


「それで未だに場所の特定が出来ておりませんでした」


 プロセルピナがそう言って謝罪したけど、陛下は気にしていないようだった。


「良い。2人が分からぬのであれば、この国では他の誰にも分からぬであろう」


 つまり、この2人がこの国での最高の智者らしい。

 いやいや、どう考えても他事で忙しかったから調査してなかったんでしょ?

 と言いたいところだけど、インターネットや電話みたいな通信網がなく、あっても伝書鳩ぐらいだったら、情報収集に掛かる時間は僕が思うより長く必要なのだろう。

 それほど危険は無いと判断したのかな?


「揺れや土埃、それに匂いがなどを感じた証言は得られなかったことから、そこまで危険なものだとは判断しておりませんでした」


 確かに、普通の花火なら、匂いや煙が遠いところまで流れてきたりもするからね。

 逆に花火を知らないからこそ、燃焼や爆発を伴わない現象と、聞き込みから推測しやすかったのかもね。

 王都までは届かないにしても、領都でもその情報が掴めなかったら、危険とは感じないかもしれない。

 でも、それは王都の推測だ。

 現に、ヤミツロ領からは、何か危険な魔法の実験がされていると邪推されていたことを、領主様やコンセルトさんから聞いた。


「ヤミツロ領の方とは見解が違うようですよ? ヤミツロでは北側(ブラツェン領)での軍事行動だと推測してるとか」


 陛下は首を左右に振って頭を押さえながら答えてくれた。


「あそこは、あることないこと言って不安を煽るのが好きだからな……困ったものだ」


「領主がどこの派閥にも属()ていないため、あんな政策や不正をしてしまう程度には追い詰められている領だからな」


 第二王子が補足してくれる。

 つまり、孤立無援なので狼少年になってると……孤立が先か狼少年が先かは分からないけど。

 ヤミツロ領が残念なところは分かってたけど、だとしても、『北側』が王都と同じ見解とは限らないし。

 さっさとこちらから提案してしまおう。


「わたしが起こしてしまった不和の種ですので、説明と現状把握の為にブラツェンを訪問したいと思うのですが?」


「それは願ってもない申し出だ。山向こうとは今もあまり親交がない。一年に一度の領主会議で顔を合わせる程度で、積極的に親交を深める必要が無かったのでな。これからのことを考えると、ボグコリーナ嬢にはブラツェンへ行ってもらった方が良いだろう」


 それならなんで、ひとつの国にしたんだか……対外的な話かな?

 それは良いとして、ひとまず、提案は受け入れられた。

 王都の不安は跡目争いが根底にあって、その上に不安要素が幾つも乗っかったので強まっていただけみたいだから、跡目争いと悪魔事件を解決されたので、花火の件がなくとも終息しそうだ。

 こっちは大丈夫そうだから、次は北の情勢不安解決に集中したいと思う。


「ですから、ブラツェンの状況が分かり不安要素が解消するまで、大司教の処罰は控えて、教会にコンタクトを取るようにして下さると、わたしも憂い無くブラツェンに集中できます」


「ううむ、其方がそこまで言うなら、穏便に進めるようにしよう」


 ようやく了承してもらえた。

 この国のために言ったと思ったのだけど、僕の我が儘認めてもらったみたいになってしまった。

 でも、これも僕には必要なことだから良いんだけど。

 孤児達が安らかに過ごせないと本を読めないのと似たような話で、僕という転生者が原因で宗教戦争が起こっては、僕が平和に暮らすことも叶わない。

 これで穏便に終わってくれれば良いなと思う。


 さて、大司教の扱いも、花火の事後処理も決まったことだし、後は打ち上げパーティーをしたら終わりだね。


「これでようやく、ボグコリーナ嬢の話に移れるな」


 話は終わったはずだったのに、おかしいな。


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