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異世界で美容整形医はじめました  作者: ハツセノアキラ
こうして僕は国王に認められた
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2-050 魔法は証明にならないようで


「ジェラール殿下。僕を王都にお呼びになった理由は、フェルール殿下を治療すること、で問題なかったですか?」


 第三王子越しに第二王子に問い掛ける。

 第三王子の雰囲気に変化がないことから、既に自分がどうなるのか理解しているようだ。

 逆に第二王子が少し狼狽気味に答えた。


「いや、確かに、そのような名目で呼び出したが、そんなことは出来ないだろうと予想した上で、偽魔法使いを裁くための建前だったと、昨日話さなかったか??」


「ですので、僕は断罪されないために、ジェラール殿下の治療を行わねばなりません。違いますか?」


「貴殿が偽魔法使いではないことは既に明白、これ以上は必要ないぞ?」


 そんなに否定すると、後ろめたいことがあるように聞こえてくるよ?

 特にこの場でこれ以上続けると、陛下暗殺に関わったって思われるかも?


「言わずとも分かっている。フェルールもそれで苦しんでいたのをわたしは知っている。ここで貴殿を止める理由は全くないし、むしろ出来るならば苦しみから救ってやって欲しいと思っている」


 うんうん、その弟思いなところは良いと思うよ。

 跡取り争いはしていたけどね。

 王位継承権と取り巻きの利権が関わる限り、仲の良い兄弟だったとしても、周りがそっとしておいてくれなかったんだろうけど。


「オレからも頼む! ボグコリーナ殿が治せるというなら、是非ともフェルールを治療してやってくれ!!」


 あ、空気(だいいちおうじ)居たの?

 2人とも弟思いをアピールしたいの?

 実は、本当は偽者だと知っていたりして?

 ……いや、第二王子が一度止めようとしたところを見ると、偽者であることは知らないのだろう。

 バラしてもらった方が、跡取り争いは有利になるからね。


 本当は仲の良い兄弟、という方を僕も望むよ。


「では、先程と同じように、治療魔法によって、フェルール殿下の傷痕を取り去って、忌まわしい事故の記憶もない、元のお顔に戻します!」


 僕はあえて、高らかに宣言した。


 実際に元に戻すのだから、やましい気持ちは全くないんだけど、間違いなく「僕が別人を創り上げた」と言い掛かりを付けてくる人が出てくるので、予防線として元に戻すことを強調したい。

 治療魔法という性質上、本当に元に戻るだけと考える人の方が多いだろうけど……相手が相手だからね。


 傷を治すのに新しい魔法は必要ない。

 遺伝子情報に基づいて治療する『復元(レストアレーション)』で良い。

 本人の体力を使う必要も無く負担も少ない。

 第三王子に他の問題がないことは『診察記録(カルテ)』で確認済だ。


「殿下……怖いですか?」


「少し……どうなってしまうのか分からないので……」


 少し震えているようだ。

 覚悟を決めたように見えるけど、本人が言うとおり、この先どうなるのか不安で仕方がないだろうね。

 王子になりすましたなんて重罪がバラされようとしているのだから、逃げ出したくて仕方がないかもしれない。

 僕は彼に対しては、酷なことをしていると言えなくもない。

 でも、このまま国王になることの方が酷なのだ。


「陛下が毒で亡くなられていれば、殿下はこのまま、この国の民の命を預かる国王陛下になってしまったかもしれません」


 王子がハッとして、僕の顔を見上げる。

 僕の言いたいことに気付いてくれたみたいだ。


「国王の決断で、この国は動きます。それは簡単に人の命を決めます。時には救い、時には奪います……そしてそれは決断した者の責任です。僕にはとてもそんな重責負えないですよ」


 他の王子達に責任感があるのかは分からない。

 でも、真面目な第三王子なら、分かってくれる気がする。


「ボクは王になることを強く求められて、だから王になろうと思っていました。でも、それは王になることが終着点になってしまっていて、その先は……」


 王子は俯いてしまった。


「ええ。あなたは他の人に比べて、王になることと王子でいることに努力をしたと思います。でも、王族であることの責任は、他の王子達に比べて弱いかもしれません。その覚悟で王になったとき、あなたの頼る相手は、命の責任も一緒に背負ってくれる人ですか?」


 王子の震えが強くなった気がする。

 なってしまったかもしれない未来を想像して不安が増してしまったのか、それとも、大司教のことをあんまり考えたくないのか。


「ボグコリーナ様は、きっと全てお見通しなのでしょう……重荷を取り去るとはそういうことだったのですね……分かりました、治療をお願いいたします」


 王子が頭を下げながら、被っていた仮面を取り去った。

 生々しい傷跡の残る顔が露わになる。

 息を飲む音や、小さな悲鳴が聞こえた。


 僕は王子の顔に手を翳し、言葉は発せずに口だけ動かして、魔法を発動させた。

 すると、瞬きするほどの時間で、あっけなく第三王子の傷跡は治った。

 一瞬前までは、顔がないと言っても良いような状態だったのに……

 治療を施した僕でさえ、何度かまばたきしてしまった。


 何故ならそこには、美少女と間違えるような、美しい顔が出来上がっていたからだ。


 第三王子は、自分顔をペタペタと触っている。

 その仕草が既にかわいいと感じる。


 バカなことに、え? 女の子なの?って思ってしまったぐらいだ。

 いやいや、あり得ない。

 王子でいる以上は、侍女達に着替えさせられるだろうし、お風呂だって一人で入らないだろう。

 紛れもなく男だと思う。

 っていうか、僕は『診察記録(カルテ)』で見てるんだから間違いないって。

 顔立ちが、美少女だったってだけで。


 キョロキョロと周りを見回し始めた第三王子を見て、会場もざわざわし始めた。

 うん、分かる。

 これで冷静でいられる人も少ないだろう。

 ざわめきが強くなっていくので、王子は不安そうな仕草をしている。

 でも、表情はそんなに変わっていない。

 傷に響くから、顔の筋肉をあまり動かさない生活をしていたのかもしれない。


 ああ、しまった!

 僕としたことがケアを忘れていた。

 気付いたらすぐに実行。

 僕は魔法で手鏡を生成して王子に手渡した。


「どうぞ、ご確認ください」


 王子は手鏡を受け取り、自分の顔を映し込む。


「えっ!? これがボクなの?! ボグコリーナ様の趣味が入ってないですか?!」


 王子は驚いて、また顔を触り始めた。

 こら、勝手に変な趣味持ってるみたいなこと言わないで。

 でも、王子自身も信じられないか……

 自分の面影は感じられないのかな?


「この悪魔め!! フェルール殿下のお顔を治療すると称して、自分の顔と同じように好き勝手に作り替えよって!!」


 あ、来ちゃった?

 こんな大変化、大司教が逃すわけないよね。

 というか、大司教も僕が変態的趣味だと主張するのか?

 あくまでも中身が第三王子なのは変わってなくて、僕が変態的な好みの顔を作ったと主張したいところだろう。

 相手が変態的と言えば、味方が作りやすいからね。

 この結果がどう転がっても良いんだけど、無実は主張しておかねば。


「いいえ、僕は治療魔法で元に戻しただけです。元々殿下はこういうお顔だったのです。僕は残念ながら、昔の殿下のお顔を拝見したことがありません。ツヴァイ大司教が、怪我をされる前の殿下のお顔をご存知で、そのように主張されるのでしたら、ここにいらっしゃる殿下は別人だということでしょうか?」


 会場がどよめきに満たされる。


「フェルール殿下が偽者とは何事か!! 貴様、言って良いことと悪いことがあるぞ!!」


 第三王子派閥の貴族から抗議の声が上がる。

 僕に向く視線の感じからして、他の王子や陛下も偽者という言葉は不快に感じているようだ。

 でも、それが真実だもん!

 って、駄々をこねても、土団子が出来るか土埃が舞うだけで、何も解決しない。

 ここは事実を整理すれば良いだけなのだ。


「何度も申しますが、僕は元に戻しただけです。もちろん、怪我をされる前の年齢に戻るという意味合いではないですが、殿下が怪我を負わずに成長なされていた場合のお顔に戻しただけです。それを踏まえた上で──皆さま! 皆さまの認識として、この殿下のお顔が、間違いなくフェルール殿下だと断言できる方はいらっしゃいますか?」


 少し声を張り上げて問い掛けると、謁見の間のざわつきが大きくなった。

 偽物と言えば不敬だけど、本物と言える偽善も居ない。

 でも、この結果は、家族でさえもフェルール殿下の面影が感じられないということ。

 それ即ち、この殿下は偽者ということ。

 でも、偽者であることを認めさせるのは、なかなかに難しい。


「陛下! こういった場合、この国ではどういった審査が行われますか? 顔を判別する方法は御座いませんか?」


「うっ、むぅ……そうだな。このままではわたしも困る。こういうときは、親子並んで確認するのが一番だ。子の顔というのは親の顔に似るものだからな、親子を確認するにはもってこいだ」


 ふむ、やはりそう来るか。

 となると、確実に顔が似ていないことは分かる。

 だから次は、本当に偽者なのか、僕が嘘を吐いているのかの議論になる。


 とりあえず、一つずつステップを進めよう。

 まず、陛下の横へ第三王后と第三王子に並んでもらって、その前に大きな鏡を用意した。

 鏡に驚くのはいつものことなので軽く流して、早速それぞれの顔を見比べてもらった。

 ついで、他の王子達やレバンテ様、謁見の間に呼んでおいた宿屋の主人──トビアスという名で第三王子の昔のお付き──にも見てもらった。

 なにせ、当時の第三王子付きの侍従達は、王子を守れなかったという名目で首にされるか、自主的に辞めたことで、この城には王子の昔の顔を良く知ってる人が少なかったからね。

 恐らく、大司教がバレることを恐れて、第三王子に傍付きを変えさせるように仕向けたのだろう。

 ツラい記憶を思い出すから、とでも言わせておけば、簡単に変えることが出来ただろうね。

 先にシシイからこの話を聞いておいて良かったよ。


 さて、みんなで顔を見比べた結果は──


「フェニーに似て、可愛くて柔らかそうな顔付きではないか……?」


「あなた……!」


「いえいえ、父上! どう見ても違うお顔でしょう。確かに可愛らしいですが、これを似ていると言ってしまえば、女顔なら誰でも良いのか?と怒られてしまいますよ!」


「オレは結構好みだけどな!」


「兄上!!」


 陛下のボケにツッコミを入れる第二王子。

 そこにボケを重ねる第一王子へ、第二王子から冷ややかな眼差しが注がれる。


 今の第三王子は華奢な顔付きなので、武骨な父親とは比べにくい。

 でも、女の子顔になったことで、第三王后(ははおや)との違いがハッキリしてしまった。

 だから、本人達も良く分かっているのだろう。

 どちらの親にも全く似ていないと。

 レバンテ様もトビアスさんも無言を貫いている。

 2人とも、コメントできないということは、似てる点を見付けられていないということだ。


 これで、最初のステップは完了だ。

 次の偽者議論へ進めよう。


「皆さま、やはりフェルール殿下とは認識しづらいお顔、という結論でよろしいですか?」


 煮え切らないというか生ぬるい視線が6対分、僕な方に向いた。

 こんな予想しなかったことに、どう対処して良いのか誰もが迷っているようだ。


「あの……ボクは……」


 この状況にいたたまれなくなってきた第三王子が、消え入りそうな声を上げた。

 しかし、同時に聴衆の中からも声が上がった。


「やはり、お前が偽者をでっち上げようとしているのだろう! 殿下のお顔を勝手に作り替えるなどあまりにも不敬!! お前こそがこの国を転覆させようという大罪人だろう!? その罪を教会に着せようなどと画策して、そんなことをして許されると思うな!!」


 言うまでもなく大司教だ。

 第三王子に証言されるとまずいから、話がそちらに向かないようにしたいのだろう。

 本人の証言が得られない場合、声の大きい方に意見が傾く。

 大きいにはデシベル的な意味もあるし、数が多いという意味もある。


「フェルール殿下も惑わされてはいけませんぞ! あの時、あなた様の治療を行ったのは、確かにわたし共です!! あの忌まわしい事故で受けた痛みは本物です! あなた様こそがフェルール殿下であることは間違いありません!!」


 威勢が良いね。

 勝ちを自分の元に引き上げようと頑張っていらっしゃる。

 それに、第三王子を操るためにしっかり手綱を引こうとしている。

 可哀相に、第三王子が身体を(すく)み上がらせているじゃないか……

 やっぱり縛り付けているくびきは『痛み』か。

 全く、ミレルの時もスヴェトラーナ時もそうだけど、この世は暴力に溢れているね。

 これで、本人に証言をお願いする選択肢は、負担が大きいので選びたくなくなった。

 そうなると、僕の形勢は不利になっちゃうか。

 諦めることはないけれど。


「何度でも申し上げますが、僕は残念なことにフェルール殿下が怪我をされる前のお顔を知りませんので、治療して元に戻しただけなのです。もし、見たことがあったとしても、細部まで再現できるほど最近の記憶ではないでしょう。ですから、どうあっても、元に戻す以外の選択肢は無いのです。少しでも違えば、作り替えたとあなたに指摘されてしまうので。あなたはどうしても、ご自分の仕出かしたことを、隠し通したいようですね? 後には引けないのも分かりますが、早く罪を認めた方が、まだ信頼回復の可能性があったと思うのですが……」


「白々しい! それならお前がフェルール殿下のお顔を作り替えていないという証拠を出してみろ!!」


 僕の感覚では、証拠論に持っていく時点で、やましいところがあると言ってるように聞こえるんだけど……


「このフェルール殿下が偽者という証拠でしょうか?」


「そうだ! 偽者というのなら、本物が居るはずだろう? お前が言うその本物のフェルール殿下を連れて来ればよかろう」


 あーあ、言っちゃったよ。

 ちょっと口角が上がっちゃってるよ?

 大司教はよほど自信満々なご様子で、絶対に本物は見付けられないと思っているようだ。


 確かに、既に死んでいて、焼かれた上で骨も砕かれて土に混ざってる、とかだったら難しかったかもしれない。

 でも、派手にやると怪しまれるから、大司教はそんなことはしていないんだけど。


 僕がここまで、知らないはずの過去を語るのは、僕には保険があるからだ。

 それは──


 その本物の王子を見付けてしまったからだ。


 さあ、そろそろ、本人に登場してもらおう。

 これが、最終証明だ。


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