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異世界で美容整形医はじめました  作者: ハツセノアキラ
こうして僕は国王に認められた
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2-049 悩みとは孤独にさせるようで


「それに誰かが嘘を吐いているかも知れないではないか?! なぜ彼らの言葉を信じられる!」


 大司教が、まだ騒いでいる。

 往生際の悪い。

 気持ち良く罪を認めて、大往生してくれないかな?


 でも、彼の言うことも一理ある。

 それぞれ、何のためにやっていたのか分からないので、説得力に欠けるところがあるのだ。

 仕方がないので、もう少し彼らに語ってもらおう。

 第三王子が偽者という秘密も含めて。

 ただ、共犯者じゃない人達にとっては、ただの公開処刑みたいになっちゃう……なので、それなりに見返りは用意しよう。


「では、この騒動に関して、まず自発的に、嘘や隠し事があったら申し出てください」


 関係した人達に問い掛けてみるも反応は薄い。

 といっても、後ろめたい隠し事があるのは、第三王子とガラキぐらいだろうけど。

 わざわざ自発的にって言ったんだから、この後は強制的に(あば)かれるってことなんだけど……


「一つよろしいですか?」


 ブリンダージが手を挙げたので、とりあえず先を促した。

 彼は隠し事らしい隠し事がないけど……

 隠し事が無いから、潔白を宣言したいのかな?


「わたしは今回の人魚薬を、一度大丈夫だったからと言って、詳しく確認もせずに、仕入れたものをそのまま流していました。その点はわたしの落ち度だったと思います」


 なるほど、そういうことか。

 言い出しづらいはずの自分の悪かったと思えるところさらけ出して、信頼を得ようというんだね。

 良いと思います。

 心無いヤジは飛んでくるけど、とりあえずスルーして。


「一度大丈夫だった、というのはどういう意味ですか?」


「しばらく定期的に、人魚薬をフェルール殿下にお渡ししていますが、それが始まるより前に一度だけ、薬を探しているという兵士に、ガラキから仕入れた人魚薬を渡したことがありました」


 ブリンダージはそのまま過去の出来事を語ってくれた。

 その時に第三王子と知り合って、懇意にするようになった。

 そして、しばらく経ってから、再び薬を所望されたので、同じようにガラキから仕入れて、それから定期的に渡すようになったと。

 この最初の一回で効果が実証されたと思ったので、以降は信頼して、そのまま横流し……は悪い意味なので、縦流しかな……とにかく渡すようになったと。

 王家との繋がりを維持したいため続けていたとも言ってくれた。


 話が終わると、またしても、ブリンダージを快く思わない貴族から、罪を問う声が上がった。

 品質の確認をしなかったことは確かに落ち度だけど、それ以外は商人として別に間違っていないと思う。

 そして、その隠しておいても良い内面も公言したことで、逆に感心している人達もいる。

 ブリンダージを責めるのは、彼の商売が上手く行ってることを、妬んだり邪魔だと思っているから。

 この機会を利用して排除しておきたいのだろう。

 その罪を判断をするのは僕じゃない。

 ちらりと陛下に視線を送れば、眉間に皺を寄せて悩んでいるようだった。

 ブリンダージは、真っ直ぐ僕を見たままだ。


 さて、この場合「その落ち度に気付けたかどうか」を争点にするのが基本かな?

 いや討論するつもりは全くないんだけど。


「ブリンダージ様は、その薬が異質な物になっていることに気付いていましたか?」


「見比べたわけでもなく、同じような白い粉なので分からなかったと思います。ただ、ガラキから受け取った時の形態には違いがありました。1回目は鱗のまま、2回目以降は既に粉になっていました」


 これは気付くのが難しいね……その程度の差異を覚えているだけでも、凄いことだと思うよ。

 こういう問題があるからこそ、魔女という専門家が薬を扱っているんだろうね。

 でも、たとえ法規制したところで、劇的な効果のある薬や依存性のある薬は、闇取引が行われるものだからね。

 麻薬は最たる例だけど、転生前の日本で、処方薬がフリマアプリで売られてしまっていたのも同じだろう。

 最終的にそれはオウンリスク──本人が背負うべき責任や負担になる。

 今回の場合は結局……信頼できる人に任せたはずが、陰謀の入り込む余地を作ってしまったわけだ。

 故意に毒を盛った人たちを除けば、最終的には、毒見を省略させた陛下の責任ってことかな?

 それを判断するのも僕じゃない。

 僕は大司教を追い詰めるために、今必要な情報を整理するだけ。

 そして、協力者には礼を送るだけ。


「ブリンダージ様、よく話してくれました。専門外のことは一朝一夕に出来ることではないですから、そういった問題も生まれます。ただ、依頼があったなら応えるのも商人の務め。あなたは、たまたま入手出来るルートがあったから、依頼に応えて商品を卸しただけに過ぎません。そして、今一番問題なのは、故意に毒物を混ぜたかどうかです。今正直にお話しして頂いたことにより、その点であなたが無実であることが分かりました。あなたの証言は調査の進展を助けることになるでしょう。お手数ですが、こちらまでご足労願えますか?」


 僕の言葉に、聴衆から驚きの声が上がったものの、ブリンダージは気にせず前に進み出てきた。

 そして、彼が前に来たとき、僕は懐から金貨を取り出した。


 商人の原資は売れる商品とお金だ。

 お金があれば商品を仕入れる事が出来る、売れる商品があればお金に出来る。

 これを繰り返すことで、商人は利を得るものだ。

 今回の騒動でブリンダージに付いてしまったマイナスイメージは、この仕入れか販売の邪魔をするかもしれない。

 その不利益を帳消しにする為に、金貨という原資を礼として選んだ。

 他にも、準備が簡単だという理由があるけど。


「こちらはお礼です。どうぞお受け取り下さい」


 金貨を見てブリンダージは苦笑いを浮かべた。

 彼の表情が意味するところは分からないが、僕もただ迷惑料を払うつもりで呼んだわけではない。

 他の人の口を軽くする狙いがあってのことだ。

 特にガラキは食い付いてきそうだから。


「それは必要ありません。この見返りよりも、あなたに興味が湧きましたので」


 男だってバラしたのに、まだ言うのかこのキザ男は。

 そういう気持ちはサッサと捨てて欲しいんだけど?


「突然やって来たあなたが、なぜここまで知っているのか……それを礼として教えて頂ければと」


 ああ、そっち!

 そんなところで言葉を切ったら勘違いするだろ!

 ブリンダージめ、楽しそうに笑って……こいつ、ワザとやりやがったな!


「手のひらの上で踊っているだけなのもつまらないので。それに、あなたは揶揄い甲斐がありそうなので」


 他には聞こえないように、ブリンダージは付け足して、キラリと光るような笑顔を僕に向ける。

 何だかな……

 まあ、だからこそ、理由を知りたいってことね。


「分かりました、この一件が片付いたら、必ずお話しします」


 どこまで話すかは別だけど。

 ブリンダージは一応納得して、元の場所に戻っていった。

 場所は決まってないから、ここに居ても良かったのに……階級による言外のルールが存在してるのかな。


 さて、じゃあ次の人だ。

 視線をガラキに送れば──


「あっしは……どうしても……治したいことがあって、あいつの言葉に(そそのか)されて……」


 消え入りそうな声で呟いた。

 それでもやっぱり話しにくい内容だよね。

 うーん……話してもらうにはどうしたら良いか……

 とりあえず、僕にだけ分かるように話してもらえば良いかな?

 公言したという事実は一緒だし。


「ガラキさん、皆さんに聞かれるのはつらいのでしたら、あなたの国の言葉で話して頂ければ。僕は理解できますので」


 そう言った瞬間に、頭の中で魔法発動アナウンスが流れた。

 ガラキが話そうとしたらもう発動するとか……この世界の魔法って、相手の思考も読んでるの?


「嬢ちゃん、あっしの言葉がわかるんでやすか?」


 正直、僕の耳には、喋り方すら同じに聞こえてるから、言語が変わったかが全く分からないんだけど……

 周りの訝しげな視線を見る限り、穴熊獣人語になったのだろう。

 僕の言葉はこの国の言葉で伝えてよ?


「はい、分かります。喋ることは出来ませんが理解は出来ます」


 ガラキの目が潤んでいくんだけど、言葉が分かるってそんなに感動すること?

 ガラキからすれば、異種族ばかりの国で、異種族の言葉を話していたのだから、まるで遠い土地で同郷に会ったような感慨があるのかもしれない。


「嬢ちゃん! あっしは! あっしは!! 悩みがあって! それをあいつは、解決できると話を持ち掛けられて! だから、手伝ってしまったんでやす!!」


 ガラキは、自種族語で話せることで、気持ちが急いて上手く話せないようだった。

 いや、もしかしたら、久し振りに話す自種族語に、舌がついていってないのかもしれない。


「悩みとは、身体のことですよね?」


 ガラキの悩みについて、明言は避けながら解きほぐしていくと、彼は息せき切ったように話してくれた。

 だから、僕は、周りに聞かせる意味も含めて、相槌を打ちながら、ひとつずつゆっくりと話を紐解いていった。


 ガラキの育った故郷では、彼の種族は茶色い毛をしていたらしい。

 でもその中で、ガラキは白い毛を持って産まれてきた。

 いわるゆアルビノだ。

 穴熊獣人は、白い毛の穴熊を神と崇めているらしく、彼はまるで神の子のように扱われ、ちやほやされたらしい。

 だから、女性の穴熊獣人からもモテて、それは楽しい日々を過ごしていたとか。

 うん、正直、それは、爆発したら良いような話だ。


 でも、あるときから、彼の身体に異変が起き始めた。

 そう、脱け毛だ。

 今の彼を見て思った以上に、同族は彼の脱け毛に厳しかった。

 なぜなら、神の贈り物である白い毛が、老化による脱毛より遥かに早い時期に抜け始めてしまったことで、彼に何か問題があった──神を怒らせるようなことをしたと思われてしまったらしい。

 本人も訳が分からず、責められ蔑まれ……故郷を追われたようだ。

 特殊な出生で人生が狂わされたってのは、なんかシシイと似ているね。

 ああ、だからこそ、言葉の分かる人と話すのが、感動するようなことだったのかもね。


 ガラキは最初はちやほやされていただけに、その冷遇はツラかったと思う。

 どちらも同族が勝手にしたことで、本人は望んで得た身体ではないだろうけど。

 だからこそ、その不条理によってやるせなさは募って、その弱みをつけ込まれたということ。

 あの旧市街の教会で、ガラキの受け取っていたのは、毛生え薬だったと。

 薬は、異種族に比べて身体の弱い人間の方が、より詳しく必要としていて、だからこそ、人間の言葉に騙されたということかな。

 といっても、人間には効くけど、異種族には効かなかったってだけで、完全に騙されたと言い切れないのかもしれないけどね。

 それが余計に悪質とも言える。


「話してくれてありがとうございます。ガラキさんもこちらに来て頂けますか?」


 ガラキは素直に従って、僕の目の前までやって来た。

 目が赤いのは、穴熊獣人の特徴だったということにしておこう。


「悩みは弱みであり、付け入れられる隙となってしまいます。ですから、僕がその悩みを取り除いて差し上げます。ただ、元に戻すことしか出来ないので、今の話が嘘だったらどうなるか分かりませんので覚悟してください」


 ガラキは一瞬たじろいだけど、すぐに力強く頷いた。

 嘘は無いらしい。

 さて、あまり時間も掛けられないし、さっさと脱毛の原因を特定して治してしまおう。


 ガラキが近付いてくる時点で、『診察記録(カルテ)』を発動してある。

 『診察記録(カルテ)』によると、原因は遺伝子的な疾患のようだ。

 遺伝子的な発現と言う意味で、アルビノと関係があるのかもしれない。

 それでも、この世界の魔法は、性別や種族だけを変えられるレベルなのだから、アルビノはそのままでハゲだけ治せてしまう。

 その解は、治療魔法を検索したときに既に見付けてある。

 最高ランクの析術『遺伝子治療ジェネティックトリートメント』だ。

 治療と称しているが、その実、疾患でなくても変更が出来る。

 いや、出来てしまうと言った方が、治療系魔法のランクが低いはずなのに、この魔法は最高ランクの理由が分かる。

 選択を誤れば、予想だにしない結果になるからだろう。

 恐らく、『診察記録(カルテ)』や『身体精密検査カラダスキャン』のような魔法と合わせて使うことが前提なんだと思う。


 どうせ、僕がどんな魔法を使ったかなんて誰にも分からないのだから、気にせず治療してしまおう。

 ただ、元に戻したという名目で。


 僕が魔法を発動すると、みるみるうちにガラキの毛並みが整っていき、艶やかで輝かしい白穴熊の姿が帰ってきた。

 聴衆からも息を飲む音が聞こえる。

 確かにこれだけ美しく、そしてカッコ良ければ、神様として崇めたくもなる。


「あぁ……あっしの身体が……」


 ガラキは身を震わせて感動し、涙すら流している。


「ありがとうごぜぇやす……ありがとうごぜぇやす……」


 時代劇の農民みたいに何度もお礼を言うガラキに、部屋の端で休んでいるよう促した。

 まだ夢見心地なのか、たどたどしい足取りの彼を、僕の後ろに控えていたスヴェトラーナが、サポートして連れいった。

 彼女の侍女としての成長を感じるね。


 さて、思った以上に時間を取ってしまったけど、ガラキの献身によって、僕の魔法で「元に戻せること」を喧伝できた。

 これからする治療で曝かれる真実を、信じる人も出てくるだろう。

 さあ、本番といこう。


 第三王子へ視線を送ると、感情を閉ざした瞳で応えてきた。


「フェルール殿下、あなたが犯した『罪』の重荷を取り去りたいと思います。こちらへご足労願えますか?」


 一瞬、王子の瞳が揺らいだように見えた。

 しかし、すぐに第三王后(ははおや)が前に出て視線を遮ってしまった。


「フェルールにどんな罪があるというのですか! 万が一! それがあったとしても! それはあなたが裁くことではありません!!」


 話をちゃんと聞いて欲しいな。

 でも、気持ちは分かる。

 今までの流れで、確実に秘密を曝かれると肌で感じているのだろう。

 秘密でなくても曝かれるというのは、とても不安なこと。

 つい保守的に反発してしまうのも、仕方がない。

 そんなところに、大切な家族を出したくないのは親心だと思う。

 でも……自分も騙されていて、同じことが言えるだろうか?

 相手が偽物でも、愛は本物という可能性はあるかもね。

 ただ、その重荷、これからも第三王子が耐えられるかは……本人に聞くべきだろう。

 うーん、王子がそこまで大切に思われているのなら、無理に壊したくなくなるよね……


「仰るとおり、僕には決して裁けません。でもここは断頭台ではありませんよ? 僕はただ、その重荷を取り去っているだけです。その重荷の苦しさは、本人にしか分かりません。そして、その重さを、知らぬ者が勝手に決め付けてはいけません。殿下が必要とするならば、僕は応えるだけです」


 僕は第三王后を通して、第三王子を真っ直ぐ見つめる。


「……母上……申し訳ありません」


 王子が言葉少なに背後から謝った。

 王后が振り返ると、王子が優しく王后を横に押した。

 通せという意味だ。

 ただならぬ雰囲気を感じてか、王后は無言で一歩下がった。

 王子が真っ直ぐに僕を見上げながら、開いた道をゆっくりと進んできた。

 その瞳に閉ざされた感じは無い。

 そこにあるのは、覚悟だけだった。


 それならば、僕は応えるだけ。

 全ての悪は、仕組んだ者へ返るように。

 巻き込まれた者が救われるように。


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