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異世界で美容整形医はじめました  作者: ハツセノアキラ
こうして僕は国王に認められた
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2-046 はじめはただの人のようで


 ざわざわと人の声がそこかしこから聞こえてくる。

 その雑音には、不安が見え隠れしている。


 ここはレムス王国の王城にある謁見の間だ。

 国王に謁見を許された者が、玉座の前に並び、順に話をする場所……だと思ったのだが、今日は少し雰囲気が違うようだ。


 ここに居るのは、皆一様に陛下に呼ばれた方たちだろう。

 見知った顔も幾人かいるが、集まっている中には王族の方が多い。

 今は自分も貴族で、貴族相手に商売しているとは言え、一介の武具屋が呼ばれるような集まりには見えないのだが……

 中には、教会の大司教や異種族の行商人、王都の騎士や名の通った傭兵まで見える。

 身分も職業もちぐはぐで、集まった者の共通点が分からない……

 今日はいったい何が行われるというのか?


 フェルール殿下と会話してみても、待てば分かると意気消沈気味に返されてしまい、話が続かなかった。

 先日お会いしたときは、ボグコリーナ嬢にご執心で意気揚々とされていたのに、随分な落ち込みようである。

 そのことに関係があるのだろうか?

 など邪推しながら、幾人かと商売の話しをしていると、トランペットの音が響き渡った。

 すると、騒がしかった人々の会話が、風が渡るように静まっていった。

 陛下のご入場だ。


 奥の扉が開き、そこから人影が幾つか現れたのを見て、わたしは言葉を失った。

 陛下の後、王妃や王后に続いて、少し間を置いてから、ボグコリーナ嬢が出て来たからだ!

 ど、どういうことだ!?

 これか!? これが殿下が沈んでいらっしゃった理由なのか?!

 まさか……陛下に取られたんじゃ……?


 そんなバカバカしい邪推も、話が進むと雲の彼方に吹き飛んでしまったが。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「皆の者、急な呼び出しにもかかわらずよく集まってくれた」


 陛下の労いを聞く者達は、皆一様に跪いて頭を垂れている。

 商人のガラキもそれに倣っていることから、この国で国王陛下の話しを聞く時の一般的な姿勢であることが伺える。

 許可があるまで頭は上げられないのだろう。

 今のうちに参加者に抜けがないか確認だ。


 王弟のレバンテ様、王子達、その妃達、更にその侍女達、ブリンダージ、ガラキ、シシイとイノ、宿屋の主人、王都の門兵が数人、教会の関係者と大司教ツヴァイ……うん、みんないるね。

 因みに、ミレルとスヴェトラーナは、陛下の侍女に扮して、僕の後ろにいる。


「また、ここ暫く、姿を見せていなかったことで心配をさせたと思う。知らぬ者も居ると思うが、わたしは暫く病気を患っていた」


 ここに居るのは殆どが王族なので、彼らは知っていたようだが、その他の人達からは一瞬動揺の気配が感じられた。

 特に門兵達の動揺は大きそうだった。 


「だが、その事について、今は大事ないことを宣言する。わしと一緒に出て来たことに驚いたと思うが、そこにいるボグコリーナこそが、わしを救ってくれた英雄だ」


「勿体ないお言葉です」


 陛下の紹介に応えて、僕が軽く挨拶をする。

 因みに、陛下とは昨日の夜中に段取りを確認済だ。


 昨日の夜には、足りないピースを集めに行ったり、こっそり陛下の寝室に忍び込んで段取りの打ち合わせをしたりと忙しかった。

 だからこそ、こうして陛下と一緒に謁見の間に入場し、今のような紹介をされたのだ。

 僕という存在の重要性を示してもらうために。

 これから僕が発言することに、誰もが耳を傾けて聞くようにするために。


「ただ……彼女の話では、まだ全てが終わったわけではないようだ。なぜなら、わしが病気になった理由が──毒を盛られたことが原因だからだ!」


 ことさらに大きな声で、陛下は衝撃的な事実を伝えた。

 動揺は先程と比べものにならない。

 王族達もどよめきひそひそと声を上げ始めた。

 だがそれも、陛下が片手を挙げることで、すぐに表面上は落ち着いていった。


「ボグコリーナよ、話してくれるか?」


「はい」


 僕は答えて、全員から見えやすく声が通りやすい位置に移動した。


「皆様、まずは姿勢を楽にして下さい。なぜなら、このお話は長くなるからです。陛下の御身のことをお話しする前に、幾つか話しておくことがあります。わたしの事と、殿下達のことと、この国のことです」


 僕は指を折りながら、丁寧に語りかけていく。

 しかし、陛下や第二第三王子を除いて、訝しげな視線を浴びせてくる。

 今から、陛下を毒殺しようとしたヤツがいる、なんて重要な話しがされると思ったのに、拍子抜けだと言わんばかりだ。


「わたしが証言する以上、まずはわたしが信頼に足る人間かを、皆様に計っていただく必要があると思っています。色々と隠し事をしている身でしたので、このままお話ししては、疑心を抱いていらっしゃる幾人かから、すぐに否定のお言葉を頂戴することになってしまいます。ですから、そのために、まずわたし自身のことをお話ししたいと思います」


 幾らかは今の説明で納得し、幾らかはどうでも良さげな反応だ。

 面識のある人達は、ちょっと前のめり気味なので、少し身を引いた方が良いと思います。

 本当のところ、ここは重要ではないので一気に話してしまいたい。

 どう頑張っても、教会関係者からのバッシングは避けられないだろうけど……

 まあ、謁見の間は『物理防御フィジカルディフェンス』と『静音化(サイレンス)』魔石を作って隔離しているから、彼が増援を呼べるようなことはないし、逃げられることもないのだけど。


「わたしは……いえ──」


 話し始める前に、僕はドレスの肩口を握って、思い切り引っ張った。

 マントを大仰に脱ぐように、ドレスで全員の視線を隠している間に、急いでボグコリーナからボグダンに戻した。

 ただ、村に居たときの格好ではなく、衣裳はこの場に合わせて貴族然とした格好に作り替えてある。

 革や歯車モチーフの金属多めでちょっとスチームパンクっぽいのは、僕の趣味だからスルーして欲しい。


「僕が、プラホヴァ領シエナ村の村長の息子のボグダンです」


 意外にも殆どの人から驚きの声が上がった。


「さっきまで確かに女性だったわ!」


「隠れた時に入れ替わったのか?!」


「いや、そんな時間は無かった!」


「じゃあ、どうやったの……?」


 手品じゃないんよ? トリックを探そうとしないで……

 いち早く声を上げたのは、面識があまりない人達だ。

 簡単には同一人物だとは思ってくれないようだ。

 そして、少し遅れて、我に返った顔見知り達が騒ぎ出した。


「なんと、男だったのか!? 信じられん」


「あんなに美しかったのに、そんなわけない! 嘘だ!!」


「まんまと騙されましたね。天晴れです」


「ボグダンてめー、それなら先に言えよ!」


 第一王子と第二王子とブリーダージか。

 最後の口が悪いのはシシイだな。

 ブリーダージは意外にも受け止めてて、シシイは僕ならやりかねないと思っていそうだ。

 第三王子は……驚きにまだ硬直してるっぽい。


「ボグコリーナ……いや、ボグダンよ。ボグコリーナは我が寝室に入ったときに、侍女が調べたのだ。女の格好をしている男なら、さすがに我が侍女は理由も聞かずに通さぬし、許可を伺いに来る。ボグコリーナが女であることは間違いないのだから、ボグダン、同一人物だというなら、お主が男ではないことになるが?」


 おお! 陛下から冷静なツッコミが入った。

 その通りだ。

 そして王子達よ、あからさまにホッとするんじゃない。

 それは良いとして、このまま陛下のツッコミに弁明しないと、ボグダンを語っている偽物の女性となってしまう。


「それには僕の使える魔法が深く関わっています。恐れながら、ジェラール殿下、『ボグダン』を調査されたときに、魔法の特徴も調べられてますよね?」


「あ、ああ。眉唾も良いところの、有り得ないような噂話ばかりだったが……」


 訝しげに眉を顰めながら、第二王子が言葉を途切れさせる。

 元から、この世界では有り得ないような魔法なのに、噂となれば更に誇張され、人間の所行ではないように伝わっているだろう。

 でも、中にはまともな情報を流す人もいただろうに。


「シエナ村の村長である父や領主であるプラホヴァ第三爵(ポルトカリュー)からは、有力な情報が得られませんでしたか?」


 僕の質問に第二王子が顔を顰める。


「要注意人物である本人に、探っていることを知られる可能性があるところから、直接的に聞くわけにはいかないだろう?」


 なるほど、逃げられたり、自分に不利益な情報をワザと掴ませられるかもしれないものね。


「そうですか。では、その眉唾な噂が、半分ぐらい本当だとしたら、僕がどんな魔法を使うと思いますか?」


「半分?! ボグダンという人物が魔法を使えるようになってから、野菜が豊作になったとか、村に美女が溢れたとか、温泉が湧いたとか、人魚が人に懐いたとか、街道がキレイになったとか、村の半端者が真面目に仕事をするようになったとか、村の設備が充実したとか、恋人が出来たとか、商売が繁盛するようになったとか、魔法が使えるようになったとか、プラホヴァのどら息子が善人になったとか、プラホヴァ卿が派手好きになったとか──関係性すら怪しい訳の分からん噂ばかりだぞ! 1つの系統の魔法に絞れる訳がないだろう!!」


 第二王子が逆ギレしていらっしゃる。

 んー……こうやって聞いてみると、全部僕の関係したことなのは確かだけど、節操ない神社の御利益みたいにバラバラだね。

 元彼のダメ男と縁が切れました、とか加わっても良さそう。

 魔法が使えるようになる、というのは、普通は1種類の魔法だけを使えるようになることを指すのだろう。

 最初から、数種類──正しくは、たぶん数百万種類なんだけど──を使えるようにはならないんだろうね。

 僕の使う魔法が特定できなくて、訳が分からなくなっても仕方がないか。


「ただ、変形魔法という単語は聞いた……本当にそんな魔法が存在するなら、確かに半分ぐらいは説明がつく……だからか! だから、ボグコリーナとボグダンは同一人物なのか!?」


 そういえば、この人は頭の回転が早いんだった。

 変形魔法が実在すると仮定したら、すぐに性別も変えられる可能性に思い至ったんだろう。

 その推測、本当は間違っているけど、今はその答えが欲しかったので、とりあえず正しいことにしておこう。


「お分かり頂けましたか? 僕は容姿も性別も魔法で変えることが出来てしまうのです」


「何だと! そんな魔法があるのか!? 特定の何かに変える魔法ではなく、好きなように変えられるような魔法が!!」


 ある意味、魔法とは数種類のエネルギーを、望む形で取り出しているので、常に変形させていると言っても良いような……いや、今は関係ないので置いておこう。


「そうです」


 僕は答えて、メイクの魔法を発動させた。

 謁見の間が驚嘆と落胆の声で溢れる。

 さて、これで同一人物であることは信じてもらえたとして──


「待って下さい! それはつまり女にも戻れるということですよね?」


 ブリンダージが挙手して質問してきた。

 僕が貴族でもないことが分かったのに、丁寧な口調のままだし。

 律儀な人だ。

 でも、質問はおかしい。

 ちゃんと話を聞いていたの? 僕は男に戻ったのであって、女には成るものなんだけど?

 遺伝子操作とかの話は理解できないだろうし……


「本来持つ性質を変えることも出来ますし、たとえ変えすぎたとしても、最初の状態へと戻すことが出来ます。例えば、ガラキのような異種族にもなれますし、その異種族の女性にもなれます。そして、生き物の場合は何度変化させても、最初の状態へ一気に戻すこともが出来ます」


 少しは本質が分かってもらえるよう、好きに選択できて、元に戻せるという答えにしておいた。


「ふむ、なるほど。それならむしろ嬉しいですね」


 何がだ?

 いや、王子達も、感心したようにブリンダージに視線を送ったり、ガッツポーズを取らないで。

 何となく背筋が寒くなるから。


「であれば、ボグコリーナとして話を続けてくれんか?」


 一番高い場所に座る人から、聞きたくない要望が聞こえた。

 お后様に睨まれてますよ!

 と言っても、この国で一番偉い人からの要望だ……

 同一人物として認識してもらえたなら、どちらの姿でも良いか。

 王子達は同調して頷いてるし!

 折角派手に男に戻ったというのに……

 あえてぶつぶつと不平に口を動かしながら、僕はボグコリーナに姿と声を戻した。


「……続けます。ここからが本題です。僕が変装をして、皆様を騙さなければならなかった理由は、命を狙われているからです」


 また、謁見の間はざわつきが支配しだした。

 どうしても、命が狙われる、という話は、陛下の毒殺未遂事件に繋がって、人々の心を不安にさせるだろう。


「陛下のご下命──正しくはジェラール殿下のご下命で、僕は今日この日に登城しなければならなかった。ですが、王都には命を狙う相手の本部がある。狙われているのを分かっていて、準備なしに敵の本陣に踏み込むのは危険なので、変装して王都へと来たわけで。そして、変装したまま陛下や殿下とお会いして、安全な状況を作り出していただいたわけです。ご下命に応えることと、自分の命を守ることの2つを同時に果たすために、この方法が一番簡単だったため、取らせていただきました。騙してしまった方々には深くお詫び申し上げます」


 実際に僕が守りたいのは、ミレルやスヴェトラーナの安全なんだけど……危険が分かった時点で、帰ってもらったら良かったという意見もあるが、村の教会がちょっかいを掛けてこないとも言い切れないので、傍に置いておく方を選んだ。

 今となっては、これだけ関わらせてしまったシシイやイノも──守る必要がないぐらいに強いけど──守りたいと思うし、巻き込まれただけのブリンダージやガラキも不当な裁きを受けないようにしたい。

 場合によっては、利用されただけの第三王子(偽)も救いたい。

 にのかみのお手伝いであるユタキさんには、守る者を誤るなと諭されたから、抱きかかえられる範囲は見極めるつもりだけど。


「理由は分かった。して、お主の命を狙っているのは誰なのだ?」


 陛下が続きを促してきた。

 これを答えるにあたって、相手を最大限に悪者に引き立てる必要がある。

 それは、自分を信用させるために、自分と比較してより不審な相手を作るためであり、僕の敵を同時にみんなの敵にして、相手を追い詰めるために。

 最初に毒殺未遂の話を陛下にしてもらったのは、そのために布石でもある。


「それは、陛下を毒殺しようとした不届き者と同じ人物です。そうですよね、ツヴァイ大司教?」


 全員の懐疑の眼差しが── 一緒に居る教会関係者の視線すらも──ツヴァイ大司教に集まった。


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