序
ジリ、ジリ、ジリ……
微かに音を鳴らし、蛍光灯が点滅している。
その両端は黒ずんでおり、もう寿命のようだ。時折、数十秒間連続して灯ることもあるが、その光は弱々しく、蛇の腹のように細かく波を打っている。
消える。また点く。
男はその様子を見上げて苦々しく舌打ちをすると、おもむろに立ち上がった。
広さ四十平米ほどの家具の少ない部屋。白木色のフローリングの上を素足で歩き、廊下に近い壁に埋め込まれたクローゼットの扉を開く。
そこにはボール紙に包まれた大小様々な蛍光灯が幾本も並んでいた。
男は中位の長さのそれを迷わず抜き取り、次いで、部屋の中央の灯りを消した。微かな音も消える。
机の前から細身のスツールを運び出し、乗り、慣れた手付きで蛍光灯を取り換える。再び灯りを点すと、室内は白く輝いた。
男は自身の作業が適切に完了したことを確かめるように、部屋の隅々を眺め、何度も頷き、ひとしきり納得すると、再び机の前に腰を下ろした。
全ては、真白に染まっていた。
――まるで、蝶がとまったみたい
――詩的だね
――ねえ、これは幸せ?
――分からない。君は?