私史上最悪のファースト·コンタクト part.4
おそくなりやした!
やっとこさヴリィヴ(タイトルの名前)登場です!
逃げたい。すごく逃げたい。
この痛い視線から逃れたい。
『₨≈∞₩』の建物の前で立ち尽くす千歳が、遠巻きな好奇の目に晒されている頃。
弾斬りは酒盛りで沸き立つ店内の真ん中を突っ切り、カウンターで受付と向き合っていた。
「賞金首、捕まえてきたぜぇ」
「お疲れさまです。ギルドカードはお持ちですか?」
「ほれよぉ」
懐から皮のカードケースに入った真鍮製のプレートを見せる。
そこには弾斬りの本名と所属ギルド、有効年月日等が彫られていた。
「確認しました。賞金首の名前は····ウィリアム·ウィード。賞金12000ピーク──これでよろしいですね?」
「おう」
弾斬りが受付の確認に対して適当に答えると、どこからともなくぞろぞろ沸いて出た屈強な男達がすっかりノビている風船男を抱えあげてどこかへ連れていく。
それを見送りながら、受付が営業口調を外し、嘆息した。
「これで今週三人目····バウンティハンターに転身ですか、『弾斬り』さん」
「まぁ、んなとこぁねぇ」
「·····正直、これ以上の荒稼ぎは勘弁してほしいものですね。賞金首も警戒度を上げて捕まりにくくなるし、『ギルド』加入組織、事務所の人達もあなた方を目の仇にしている所は少なくないんです」
受付が静かに、しかし鋭く『これ以上好き勝手するな』と釘を指して来るのを、彼は冗談でも聞き流すように切り返した。
「それぁ、犯罪者と警察に言ってもらいてぇもんだなぁ」
「··········」
受付が無言でキーを打つ。
そして気分転換でもするように尋ねてきた。
「それはそうと、賞金首を捕まえるようになってからいつも警察の方に少女を保護している、と聞いたのですが。今回少女はいるんですか?」
「『ギルド』の地獄耳たぁ、はえぇもんだなぁこれが」
受付の疑問に苦笑すると、風船男が連れていかれた方を眺めて言い切った。
「んにゃぁ、いなかったんだなぁ、これが」
「······そうですか」
受付はレジスターが吐き出した領収書を千切り、弾斬りに渡す。
「どうぞ。賞金の小切手です。現金を引き落とす際は銀行にどうぞ」
「おう、あんがとなぁ」
「······またのお越しを、お待ちしております」
ちっともお待ちしてない嫌味たっぷりな挨拶を背中に受けながら、弾斬りは『総合ギルド』を後にした。
★
「遅いです」
「おぉ、律儀に待ってるたぁ珍しいもんで」
「あなたが脅したんでしょう!?」
「まぁそうカッカっするこたぁねぇってなぁ」
店の前で待っていた千歳をからかうと、弾斬りはふと声の調子を変えた。
「んでまぁあれなんだが、ちと聞きてぇこたぁあんだなぁこれが。あんま時間とらせんからよぉ、『ウチ』まで来てくんねぇかぁ」
弾斬りの突然の同行願いに千歳の警戒度はMAXに跳ね上がった。
「·····なんですか、拉致っていかがわしいことするんですか」
「はぁ·····んなもん、する意味あっかぁ?」
弾斬りが呆れてため息混じりにそう言う。
しかし千歳はじりじりと距離を開けた。
「分かりませんよ。私、今のところ最悪人種にしか出会ってませんから····!」
弾斬りはポリポリと自分の頭をニ、三掻くとやがて諦めたように片手をあげて踵を返す。
「わぁったよ。そんなにいやなぁ、無理してついてくるこたぁ、無いわなぁこれは」
歩き出した弾斬りの背中を見て、不安が突然込み上げてくる。
········どうしよう。
正直なところ、さっきの噂といいあの態度といい胡散臭さが全開である。
さっきだって何気なく『さっきと同じ目に遭うぞ』と脅されたし、あの日本刀が生々し過ぎる。それに今の誘いも露骨すぎるほど怪しい。
着いていったらヤバそうな臭いがプンプンするのだ。
だが、同時に思う。
根っからの犯罪者なら、多分群衆はあの風船男と同じことをしていただろう。
要は捕まえて、あの『ギルド』に突き出すのだ。
それをせずに、遠巻きに眺めていたのは彼が『変人』ではあっても犯罪者ではないから。
『総合ギルド』が賞金首の引き渡しに応じたのは、恐らくこの『ギルド』の会員なのだろう。
つまり、彼は少なくともこの街に詳しい。この時代、恐らく警察もあるだろうから駆け込むの手かもしれないが、親もいない。身分も証明できない。出身地も言えず、下手をすれば年齢すら信用してもらえない可能性もある。
そんな状況を警察に説明して起きることはなんだろうか?
問答無用の勾留人生である。そんな夢の無いお話、私は御免だった。
「おいよぉ、どうするよぉ?」
赤いコートの男が振り返り、間延びした声で呼び掛ける。
その目はまるで「来る以外に選択肢があるとでも?」と言っているかのようだった。
「·····着いていくわよ!」
えぇい、どうにでもなれッ!!
★
「ここ·····?」
「そ。ここの二階なんだなぁ、これが」
『レント通り』と書かれた看板を通りすぎ、暫く横長に続く4、5階建てのビル前の歩道を歩いて暫く。『221C』のドアの前で立ち止まると、弾斬りはそう言った。
この辺りは先程の騒がしさから一転。人が住んでるのかすら怪しい程閑散としている。
黒塗りの扉を開けて中へ。
階段を上がり、二階のドアの前に立つと、弾斬りは鍵を取り出した。
ふと、ドアの表札部分に看板がかかっているのが見えたので覗き込むと、こう書かれていた。
『Fantasy Dawn』
アルファベット、である。
今までの判読不能文字ではない、『異世界』に書かれた『こちら』の文字。
なんとなく読んでみた。
「ファンタジー、ダウン····」
ドアを開けようとした弾斬りの動きが止まった。
「············これ、読めんのかぁ?」
「え?う、うんまぁ」
これぐらいなら一応。というニュアンスで答える。
しかし、『Dawn』ってどういう意味だろう。まさか『Down《落下》』の書き間違え、ではないだろう。
弾斬りは「ふーん」と言いながら鍵を捻る。
ドアノブに手を置いたまま、ふと振り返ると、耳打ちするように早口に言った。
「今、こんなかにゃここの所長がいるんだなこれが。で、そいつぁ相当変人なんだが、注意点が一つ。『話を遮られてもキレるな』、わぁったかぁ?」
「え、それどういう──」
「んじゃぁ、行くかいねぇ」
え、ちょっと!?引き留め空しく、弾斬りは扉を押し開ける。
彼も大概人の話を聞かない人間であった。
「よぉ、帰ったぜぇ」
弾斬りが真っ暗に電気の落ちた部屋に向かって、呑気にそう言う。この部屋、人いるの?彼の背中越しに顔を覗かせると、部屋の奥──窓際の大きな執務机の方──から声がした。
「──今回の賞金首は12000ピーク、ミッチェルハウの方まで足を伸ばしたようだね」
椅子を軋ませて、人影が立ち上がる。
弾斬りは真っ暗な部屋に躊躇うことなく足を踏み入れると、電源を探し始める。
「ったぁよぉ、電気くれぇ自分でつけったあ思わねぇのかぁ?」
「思わないね。ぶっちゃけ考え事をするなら光は余計だ。あと弾斬り。いい加減髪を切れ。大してキューティクルも無いのに伸ばしていても見苦しいだけだ」
「うっせぇなぁ。趣味で伸ばしてんだぁ、文句言うんじゃねぇや。それを言うってぇなら、お前もう少しまともな格好しとくべきじゃあねぇかぁね?」
「と言うと?」
「今日は、ちと『大事』なお客を招待したんだ、とな」
弾斬りの指がスイッチに触れる。
その瞬間、天井のシャンデリアに五つの魔方陣が展開し、光の球を作り出した。私の視線が照明に向くと同時に魔法の詳細が、まるで知っているかのように頭に浮かぶ。
照明陣:スイッチに触れると、部屋にいる限り魔力が照明陣に供給され、明かりを点ける効果。
照明に照らされた乱雑な部屋。
荘厳もムードもなにもない半分物置のような部屋。
そんなごみ溜めの汚部屋を一望できる執務机で。
彼は、面白そうに口角をあげ、両手を広げた。
「なるほど、君がその『お客』か。──ようこそ、魔術探偵事務所『fantasy Dawn』へ。僕は所長のヴリィヴ·ホームズだ。君には聞きたいことが二、三ある。座ってくれ」
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