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Fantasy Dawn!!─魔術探偵ヴリィヴの事件簿─  作者: 質川類
事件0:異世界早々誘拐事件
1/6

ようこそ、「異世界」へ。

 流行りに乗って異世界転生です。

 ですが、自分の趣味をゴテ盛りしました。

 暇潰しに、一興いかがでしょう。

 

 「本当に申し訳ない。この通りじゃ」


 「はぁ·····?」


 無限に広がる大空の真ん中。空中に浮かぶ、僅か3m四方の床の上に置かれた純白の椅子と円卓。

 向かい合うように配置された椅子の上には二人の人物が座っていた。

 一人はポニテを揺らす制服姿の少女、桐生千歳(きりゅうちとせ)

 もう一人は白髭をこれでもかと伸ばした老人。

 

 そう、最早お馴染み。異世界転生の場面であった。

 とにかく、現実味のない空間だ。

 一体ここはどこ、という疑問に答えてもらったところで理解できないのが理解できる。

 そして目の前の老人である。なんかもう近所のお爺ちゃん感満載で威厳などさっぱり感じられないのだが、ここが『異世界転生』であるなら目の前にいるのは『神様』だ。

 果たして彼だけなのか、それとも彼以外にもいるのか。

 一切合切なにもわからない状態で座らされている私は、緊張も疑問も不信感なども通り越して、正直どういう心づもりでここにいればいいのかさっぱり分からなかった。


 「····本当にあるんですね、こんな空間」


 千年が呟くと、老人はオホンと軽く咳払いする。


 「まぁの。神にかかれば彼岸と此岸の間にこうした空間を作り出すことなど造作もないのじゃ」


 「ひがん?しがん?なんですかそれ」


 「まぁ、死んで間もないと言うことじゃよ」


 あ、はい。そうですか。


 じゃない!!


 「いやいや、どう言うことですか!?」


 円卓をぶっ叩いて立ち上がる。

 老人はキョトンと首をかしげた。


 「?何がじゃ?」


 「この状況全てですよ!私死んでるんですか!?」


 「手違いじゃ」


 「納得できるかぁ!!」


 渾身の不満を叩き込み、千歳はずるずると椅子に沈み込む。

 それを眉ひとつ変えずに眺めていた老人は指をパチリと鳴らした。

 千歳と老人の前にコップに入ったお茶が出てくる。氷が浮かぶ麦茶だ。


 「まぁ飲んで落ち着きなされ」


 「嘘だぁ····この年で死んだとか嘘だぁ····!」


 円卓に突っ伏したままの彼女から漏れる泣き言。

 老人は申し訳なさそうに俯くと、白状を始めた。


 「·····あれは悲しい事故じゃった。1256年後の大規模地殻変動を止めるためには、その1256年後までにある程度地殻のガス抜きをしておく必要がある。その為にはまず23年かけてに火山を適宜噴火させ、125年後までに核で地殻に刺激を与えて1256年かけて1256年分の地殻のエネルギーを発散させる必要があったのじゃ。その手始めとしt


 「誰もそんなの聞いてない!!」


 その声に老人は萎縮して「す、すまんな」と謝ると、ぶっちゃける。


 「ま、まぁその、雷を落としたら真下にお主がいた。以上じゃ」


 適当具合と言うか間抜け具合に、千歳は頭を跳ね起こす。


 「ちゃんとチェックして落としてよ!?」


 「ごもっとも仰る通りじゃ誠に申し訳ない」


 頭を下げる老人を見ながら、腹いせに近くの麦茶を飲み干す。ストローなんかまどろっこしいとばかりに床に投げ捨てた。

 なんだろう、ものすごく腹が立ってきた。


 「とりあえず、あなた神様でいいんですよね?」


 「そうじゃな。神じゃ」


 「········本当に?」


 「本当じゃよ。証拠に、ほれ」


 そう言うと、老人はそのシワのよった手で指を弾いた。

 すると突然、カ○ピスのペットボトルが出てくる。

 

 「の?信じてもらえたかのぉ?」


 得意気に威張る神。だが、千歳のテンションはこの上なく沈んでいく。


 「出すもの、なんか、こう俗世過ぎません····?」


 「不満かね」


 「いえ、不満ではないですけど、なんか、うーん····?」


 なんだろうか、この言い表せない残念感。

 しかし、そんなものをほったらかしにして自称神様は得意気に続ける。


 「まぁ、他にも宝物などを取り寄せることもできるし、権限次第では世界をまるごと創造することも可能じゃ。まさに『全知全能』、それが我ら神よ」


 「へー、何でも出来るんですか、へー凄いですね」


 「そうじゃろう、そうじゃろう、もっと誉めてもらっても構わんのだぞ?」


 「なのに私の事は『手違い』で殺したんですねー、凄いですね神様」


 「うがッ!」


 神様が胸を押さえて苦しみ始めた。調子のって鼻を伸ばすからだ。全く。

 いつまでも胸を押さえてくよくよしている神様だが、これだと話が進まない。

 千歳は神様の発作が収まるのを待って口を開いた。

 

 「····私、やっぱり異世界転生とかさせられるんですか?」


 言い当てられ、頭を上げた老人が目を丸くする。


 「よく分かったのぉ」


 「今本屋とかwebに前例が溢れ返ってるから」


 ふむ····つまり『向こう』の連中もインスピレーションの形を借りて既に『噴出』が始まっとると···?

 などとブツブツ呟き始めた老人。


 「あの」


 「はひぃ!?」


 「····話、続けてもらえませんか」


 あ、あぁそうじゃの、そうじゃそうじゃ····。と呟きながら、再び咳払いをひとつ。


 「それでは、まず──」


 「あ、そうだその前に」


 「なんじゃ?」


 千歳は無理なんだろうな、と思いながらもダメ元でお願いしてみることにした。


 「元の世界に戻ることは、出来ますか?」


 それに対する神様の答えは明瞭だった。


 「可能じゃ。じゃが、その場合『輪廻転生』の理に従い、『桐生千歳(キリュウチトセ)』としてではなく、全く別人、それも赤ん坊として転生することになる。無論、お主がお主でおった記憶は全て無くなる。まさしく『新しい生命』として世界のどこかに産み落とされるのじゃ。それでも構わんのなら──そちらにするが?」


 赤ん坊、全く別人として転生。

 その方法なら、元の世界に帰ることができる。

 だが、と。

 そうやって帰って、意味があるのだろうか?

 記憶も失い、人格も、姿形も無かったことになり、全く別人として、全く別の場所に生まれ直す。だがそこに自分を17年育ててくれた親はおらず。

 そして自分の回りにいた友達もいない。

 そんな世界、今の私からすれば、十分に『異世界』であった。

 なら、そんな世界に戻るくらいなら。

 私は、私のままで『次』を見たい。


 「·····分かったわ」


 「ほ?」


 「異世界に転生させて。ファンタジー異世界に、私のままで転生させてください!」


 「よかろう」


 ごほん、と咳払いする。老人は話を続けた。


 「さて、特典の方じゃが····」


 老人が手を伸ばし、水平に振るう。

 それだけで、空中に楔文字のような記号列が浮かび上がる。

 イメージ的にはそう、ゲームに閉じ込められた系アニメのメニュー画面のような。

 

 「与えられる特典は、以上じゃ」


 うん、さっぱり読めないよ。


 「分かっておる。この文字はルーンと言ってな。神台の神々による神聖文字であり、下界ではとうに失われた言語なのじゃ。読めずとも不思議はないし、寧ろ読めた者など····」


 「·········································」


 「すまん。調子に乗ったようじゃ」


 この神、本当に反省しているのだろうか。

 随所随所に現れる神様のこの自慢癖は一体なんなんだろうか?


 「お主に与えられる特典は、『思考界路(アクセス·キャスト)』と『自動翻訳』。『思考界路(アクセス·キャスト)』は相手の魔法を『読み解く』事ができる能力じゃ。そして『自動翻訳』は相手の言葉を自動的に自身の言葉に翻訳でき、逆にそなたが話す言語を向さんに合わせる事ができる。まぁ『英語が日本語に聞こえて、日本語で話したら英語になる』といった具合じゃな」


 『自動翻訳』は便利そうだ、と素直に思った。

 前者の『魔法を読む』だけの役立たず能力と比べ、頭が自動的に吹き変えてくれる、と言うのはコミュニケーションを取る上では非常に有利だ。

 なにせ、英語は苦手。異世界語なんぞ覚えられるか。

 が。問題はもうひとつ。一体なんだこれ。


 「『自動翻訳』は普通に便利そうよね。でも、『思考界路(アクセス·キャスト)』って、結局『読み解く』だけ?ってことは、起きる魔法がなんなのかわかるだけって事よね?····もっと強いの無かったの?」


 「如何な神でもそんな都合のいい魔法なんぞ用意できんわい。そなたへの補償はこれが精一杯じゃ」


 「えー·····」


 ちっとも納得行かなかったが、どうやら神様にも神様の都合、と言うものがあるらしい。

 駄々をこねても出てきそうには無かったので、大人しく引き下がることにした。


 「····じゃあせめて『思考界路《アクセス·キャスト》』の使い方を教えてよ」


 「それはお主が考えよ」


 「え?」


 流石にその一言は想定していなかった。

 え、自分で考えろって、なにそれ?


 「『思考界路《アクセス·キャスト》』は弱くもなれるし、強くもなる。各々のスキルが自分の鍛練で磨かれるのと同じように、この『特典』も磨かれて行くべきじゃ。無論、全属性付与や、因果ねじ曲げなども神の権限を用いれば難しいことはない。····が、そうやって得た結果に何が残る?何が生まれる?ワシは、すでに完成したスキルで、努力もせずに作業的に障害を排する物語に飽きたのじゃよ」

 

 「·····なるほど、それが本音ってわけね」


 「まぁの」 


 さて、シリアスな雰囲気になったところで一言言っておこう。

 

 「神様ってもう相当我が儘ね」


 「面目ない·····」


 神様がしゅんと肩を落とす。

 私の好きだった異世界転生物語。

 夢と自由に溢れた理想郷。

 皆俺TUEEEEEEだとかハーレムとかになってるから、私ももしかしたら逆ハーじみたイケメンルートに入れるかも知れない。

 ·····そんな話を認めないとか言う神様はこの際無視したい。


 「····そろそろ、心づもりは済んだかの」 


 私の夢想が途切れた頃を見計らったかのように老人が口を開く。


 「えぇ。大丈夫よ。やって」


 「よろしい」


 老人が立ち上がり、右手を空に掲げる。

 ──その手には、いつの間にかねじくれた木製の杖が握られていた。

 

 「ゆっくり目を閉じよ」


 目を閉じる。

 バチ、バチバチバチバチバチ!!

 電撃のような衝撃音が響き始める。


 「もうここへ戻ることはない。次に死ねば──そなたという魂は浄化され、無事天へ至る」


 衝撃音と共に、体が重くなってくる。

 溶けていくような──消えていくような。


 「次に目覚めたら、その場所が異世界。強く、そして慎ましく生きられることを願う」


 バチバチバチバチバチ──!


 老人の声を掻き消すように大きくなる衝撃音に飲まれるように──意識は、消えた。






































「はっ!?」


 跳ね起きる。

 目覚めた。目覚めた?目覚めた!

 ぼんやりとする視界に自分の両手を抑える。大丈夫。無傷だ。

 服装は──ブレザーの制服のままだった。

 異世界に行くんだからそこくらい配慮しろよ、とは思うがもう時は既に遅しだ。 

 私は目をつむり、顔を上げる。

 意識が覚醒していくのを感じる。

 耳が復活し、音が甦る。

 人々の喧騒、なにかの噴射音、馬の嘶き。

 ここが、異世界。夢と魔法がひしめくファンタジー世界。

 ようこそ、『異世界』!

 満を持して目を開ける。


 轍の目立つ石畳。

 夜の路地裏を照らす街灯。

 アンティーク調の装飾が目立つアパートメントが作り出す石壁。

 煙突からもくもくと吹き出す煙と、蒸気。


 私は叫んだ。

 心行くまで、そして果てしなきジジィへの怨念を込めて、叫んだ。


話の筋を一部改稿しました。

気に入って頂けたら幸いです。

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