人質救出作戦(中編1)
戦の喧騒に包まれた地下遺跡も今では静かなものだ。
ここが時間とともに砂に埋もれていくのと同じように、喧噪というのは儚いもので花火のように煌めき一瞬で消え去ってしまう。
シャリイファさんに偵察に出てもら多ために、帰って来るまで動くに動けないのだ。
ファラオと山賊の手がかりがありそうなここを調査していた。
私はたまに立ち止まって、ノートにこれまでの成果を走り書きしながら、大和はガムシャラに調査を続けていた。
「見つけたでござる」
「こちらもよ」
遺跡の外観について説明しよう。
中央には壮麗な、と言えばやや小型だが遺跡が鎮座しており、それを囲む壁は綺麗な六角形に整備されていた。
その一辺一辺にはボタンが隠されており押せば隠し部屋への扉が開かれるそうだ。
―――確か……。
私はシャリイファさんの言葉を思い出した。
「遺跡から見て正面の壁をA。そこから時計回りにBCDEFとする。
一番最初に押すのがA。
その二つ隣が二番目に押すボタン。
三番目に押すボタンが最後に押すボタンである。
これはAの正面以外だ。
FとBではFの方が押す純は後。
FとCの差は4。
Bは四番目以外」
この長々とした説明を聞いたとき、
『ねえ、本当は押す順番を暗記していて私たちを試すためにややこしく言って無いかしら。
ワトソン君なら頭を抱えるわよ」
真面目に、その線を疑った。
「拙者には解けそうにないので謎解きはお願い申す」
「まぁ、出来ないことを無理にしろとは言わないわ」
紙に書こう。
Aが1
EとCが3候補
Aの隣は6ではないのでFとBが6候補。
よって、6はF
FとCの差から、Cは2
Eが消去法で3
Bは4でないので5
Dは4だね。
よって、A、C、E、D、B、Fの順となった。
これを大和に伝えると、手伝えなかったことを気に病んでいたのか小走りでボタンを押してくれた。
すると、地下遺跡の祭壇がぽっかりと、自動ドアのように開いた。
「隠し通路。本当に冒険小説っぽくなってきた」
眼下を魔石で照らす。
これは遺跡に放置されていたものを回収したのだ。
山賊だし、私たちの荷物を問答無用で奪うのかと考えていたが、考えすぎだった。
課金性が低そうだったからかしら、それとも、単純にゲームだから?
本当に不思議だ。
どこまでがゲームでどこまでが現実なのかまったくわからないのだから。
おかげで、私は下着でうろつかなくてもいいんだけどね。
実際、ものすごくうれしい。
もしかして、事情を察して……ないわね。
ハァ……。
考えるだけ無駄だ。
今は眼前に集中。
魔石を用いて下へ下へと進んでいくと、あった。
宝箱が。
「うわ~べただね~」
「本当にべただな」
これ以外に言葉がない。
世界観が古代エジプトなのだ。こういった小道具もそれ相応の物と思ったが、そんなことはなくゲームから飛び出してきたような宝箱だ。
パッと見、危険はなさそうだ。
あるとすれば宝箱がミミックだった場合だけど、手の込んだ場所にある宝箱が外れなんてことはまずないので大丈夫だろう。
「さあ、人生初宝箱と行きましょう」
小走りで宝箱のもとはと向かって、
壁から突き出してきた何かが私を強く握りしめた。
ザラザラとした皮膚に、乾いた包帯、ほのかな薬品臭。
人間とはかけ離れた質感と匂いだというのに、襲撃者は人の形をしていた。
その正体は言うもでもない。
―――ミイラ男だ。
正面の壁が、豆腐のようにぼろぼろと崩れ去っていく。
奇襲のために元々脆く作られていたのか、年月とともに風化したのか、考える意味などどこにもないだろう。
首を強い力で絞められ、脳へと酸素が供給されなくなったことで、顔が赤から青へ変色していく。
「は、はな……」
手を振りほどこうと腕に爪を何度も突きたてるのだが、体重移動が不十分なせいか皮膚に傷をつけることが精いっぱいだ。
私は対応を変えた。
手に持っていた魔石。
光を出すだけで攻撃性は皆無なそれを、後ろへと向けた。
居場所が見えなかったので適当だったが効果が出た。
この時、私の死角で大和の顔に光が当たったそうだ。
それが、奇襲にあい混乱の極致にあった大和の膠着を解いた。
「うをおおおぉぉぉ~~!!」
刀は握らず、腕を組み、アメフトをやるように敵にぶつかっていく。
私も声を聴いて、腕を話そうとさらに力を込めた。
タックルと共にミイラ男は後ろへとふきとんだ。
「……ゲホッ! ゲホッ、ゲホッ!!」
起き上がり追撃を。
実行しようとする意志を体が押しとどめられた。
酸素を獲得しようと体は全身全霊を傾け。
声を出すことすらままならない。
どうにかこうにか声を出せる程度になったころにはミイラ男の方もすっかり体制を整え、こちらへと前進していた。
「こっちが遠距離からチクチクさすから、近づいてきたらお願いね」
「承った」
足遅いし、大丈夫だろう。
ここは初期ダンジョン。
敵のレベルも低い。
派手な魔法やアイテムを使わなくても通常の物理攻撃を連打すれば問題なく倒せるはずだ。
それにこれも試したかったし。
そばにあった石を、パチンコへ装填。
初撃は外れた。
こいつらには恐怖心がないようだ。
遠距離攻撃をしたというのに、向かってくるペースに変化がなかった。
よける動作もしないので、いい的ともいえるが、牽制に一切意味をなさない決死隊ともいえるだろう。
二射目。
今度は問題なく命中した。
が、後ろにのけぞっただけだ。
アンデットだけのことはあった。
手足を引きちぎるくらいしないと動きを阻害するのは無理だね。
三撃。
四撃。
パチンコを引く回数と共に攻撃は精密さを増していく。
五、六と繰り返したころには、距離の関係もあって人体の急所に命中するのだが。
「何なのよ、このタフネスは」
敵には全くこらえた気配がなかった。
魔石を玉にと思ったが、流石にもったいないわね。
パチンコを地面へと投げ捨てた。
緊急時は迷いそうになる選択肢を簡単に手が届かない場所に置く。
これが私が昔からやってきた集中方だ。
それにパチンコでは効果は薄いしね。
プラス、ミイラはもう目の前だ。
すなわち、接近戦の間合い、彼の間合いだ。
―――チェスト~~!!
と、示現流に伝わる掛け声を盛大に叫びながら。
それでいて、これまでのように常にガチガチに体に力を入れるのではなく、刀を振り下ろす瞬間にきちんと脱力して。
掲げた刃には大気が収束し、ミイラ男の首を思いっきり打ち付けた。
「マンガみたいにはいかないのね。日本刀ってよく切れるイメージがあるんだけど。一刀両断手わけにはいかないのね」
「おい!! これは拙者の腕前が未熟だからこの木偶の首を切れなかっただけで、日本刀の切れ味が悪いわけではないのだ!!」
やたら座った眼で反論された。
虎の尾を踏んでしまったらしいね。
「ごめんなさい、ちょっとした感想だったんだけど」
「分かれは言い」
謝罪をすれば許してもらえた。表面上は。
戦いの後だというのに、こちらに目を合わそうともせずにすたすたと前を歩いていく。
「待って、ドロップアイテムの内訳なんだけど……、この古びた包帯と土色の魔石欲しいかしら」
「いらん。拙者には不要なものだ」
だよね。
自分でも何に使うんだこんなものって思ったし。
そんな時だ。
この狙ったとしか思えない、絶妙なタイミングで大和の顔に影が差した。
帰ってきたようだ。
「あっ!!」
この光景を見て、私の頭の中に一つの仮説が浮かんだ。
そういったことだったのか。
「作戦に関してひとつ気が付いたんだけど……」
「今から拙者は修行だ。話しかけてくれるな」
「作戦の成否にも関わるから聞け」
「ムッ!!」
快く話しを聞く気になったようだ。
覚えてろよって顔をしているが、気のせいだろう。
「やっぱりというか、なんというか……、胡散臭い部外者にホイホイついていったのが最大の失敗だね」
一般常識の試験に出てきてもおかしくない社会の法則だ。
「それを言うのならば、シャリイファ殿も相当だがな」
「よね。胡散臭さではどっこいどっこいだ」
―――本当に、世の中はままならないものだ。
「本人の前で陰口とはなかなかに肝が据わっておるな」
「第一のミスはアゲ」
「おい!!」
「ネット掲示板のような口調を使うのだな」
「ああいったサイトの表現て、ノートを書くとき役立つのよ。絵文字とかとくに」
「いかなるものでも、自分のために生かす。勤勉なことだ」
「ん? 二チャンネルって暇つぶしが服着ているような場所でしょ。それを利用してるのに勤勉って」
「おい!!」
「こちらは褒めているのだ、素直に応じろ」
「こちらは自分を責めているの。優しい言葉をかけないで」
「本当にお主は勤勉だ。打ちのめされた状況でも前を向いて、自分のすべきことは何か理解しているな」
「おい!!」
「分からない、分からないわ。私をけなしているの、それとも心の底から讃えているの」
「しいて言うのなら両方だ」
「すごい、答えを言われたのに、何を言ってるのか全く分からないわ」
―――これで仕返しは済んだ。と聞いたらすごく爽やかな笑顔を返された。
―――ウガアァ。とみっともなく頭を掻き毟り、ひざをたたんで小さくなってしまう。
しばらくそうしていたが、いい加減シャリイファさんの相手をしないとね。
「ところで、何か用事でもあるのかしら」
「あるにはあったが、もう半分は解消されたのでこれ以上はいいぞ」
? 一体どういうことよ。
「それで第二の失敗なんだけど、ラムスさんが使っていた情報手段てなんだと思う。
「情報手段? どういう意味だ。鷹でも使ったか」
「実際、電話がないころ新聞社ってハトを使って取材の成果を渡していたそうよ」
間で言った居るようなのに、答えすれすれだ。