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人質救出作戦(前篇)


「捕まってから丸一日。何もすることなくて退屈だったんだ。不謹慎だろうが、君たちが来てうれしいぞ」

「だが、忘れんじゃねえぞ、先に牢に入ったのは俺たちだ、つまり先輩だ。敬意を示せ」

「先に間抜けをさらしただけだろうが」


「「あっ!!」」

 

チンピラ二人が顔を突き合わせてメンチを切る。

 火花が散るような睨み合い、目を先にそらしたのはレットだ。


 地力の差を察したのだ。



 ―――フッ、とティラは自慢げだ。

 意図したものではない。

 勝利したが故に出た気のゆるみ。


 しかし、敗者の目にはそうは映らなかった。


「えめぇ!!」


 思わず、激高し殴り掛かろうとした。


「そこまでだ」

「そこまでよ」


 これにはドライと雪子が止めに入った。


「出あって五秒でケンカとか……。ニン耐を覚えなさいよ」

「今体力を消費しても無駄なだけだぞ。必要な時まで貯金しておくべきだ」


 二人は自チームのバカのために頭を下げた。


「だが……」


『だが、じゃねえんだよ、蒸し返すな』

 まだ、渋るレットに殺人的な視線が突き刺さった。


「これ以上騒動を起こすなら、僕も容赦はしない」


 温厚なメンバーの怒りに凄みを感じた。

レット自身まずいと思ったのだろう。

―――チッ、と舌うち一つ。

 部屋の片隅で横になった。


「ごめんなさい、内のバカが」

「ケンカを売ったのは僕らの方からだよ。謝るのはこっちの方じゃないかな。まあ、丸一日閉じ込められてあいつも気がたってんだよ」

「確かに、ここは汚いですし」


 各陣営の良識派が親しげに会話を交わす。


 けれど、『うわ~、口は笑っているのに目が全然笑ってないよ』

 アリスはそう思った。

表面的には親しげだが、心理的な距離感はバカどもの方がはるかに近いだろう。


「トランプでもどう、暇つぶしにはもってこいよ」


 どうにかしようと思って、アリスは提案した。


「? そのトランプはどうやって手に入れたんですか」

「そんなのポ……」


 ―――ポイント使って勝った。

 言いかけて後悔した。


 ヒルダがとてもいい顔で笑っていたからだ。






 数分後。

『アリスは無駄使いをした悪い子です』

 と、ほっぺに落書きをされたアリスと、ヒルダが掃除していた。

 他のメンバーはトランプに興じているのだが、彼女たちへチラチラと視線をやり、とてもではないがゲームを楽しんでいるようには見えなかった。


「ヒルダ、手伝うよ」


 見かねた雪子が助け舟を出した。


 彼らが閉じ込められているのは古びた一軒家だ。

 人が使用しなくなって久しく、床にはほこりが積もり、ネズミやよく分からない小動物の糞があちらこちらに見えた。


 ドライたち男性陣はどうせ短い間しかここにいないと高をくくっていたからか、掃除をしようと思わなかった。

が、女性陣はこの環境に耐えられなかった。

故に、積りに積もった汚れと格闘を開始した。



 どうにかこうにか、寝床と居間を掃除し終えたところで、

「何だよ。ずいぶんと仲良くなったもんだ」


 扉が開き、声をかけられた。


「詐欺のおかげで、退屈なんだ、何かためになりそうな話をしてくれ」

「おい、一発殴らせろ」


「なら、川のルートの話はどうだ。

仲間から連絡が入った。敵と同志が見つかったそうだ。

 ここから迎えが出発したよ」

「ナイル川を使用したルートもあったんですね」


 暇だから一発芸やって。

 そんな調子だったのに、返答は想像以上だった。


「間は潰せたよな。ティラと雪子、大神官様がお呼びだ」

「忠告しておきますが、雪子さんに手を出したら本気で怒ります」

「いやいや、お前みたいなガキに欲情するやついねえだろうが」


 ―――フン!! 

 雪子の鋭いローキックがレットに直撃した。

 皆は見て見ぬふりをしている。


「でも、エリス、ああ、知らない人もいるか、わたしたちのチームメイトにのしかかられて嬉しそうだったよ」


「何言ってやがんだ」

「そうだ、この人は脚フェチではあるが、ロリコンではないぞ」

「なんといっても、ここにいるレットと胸と足どちらが素晴らしいのかを語り合っていたしな」

「でも、のしかかっていた時は足を絡めるような感じだったよ」



「「「ウワァ~」」」



女性陣が一歩後ろに下がった。


「ち、違うんだ。確かに俺は脚フェチではあるが、ロリコンじゃないんだよ!!」

「ちなみに、のしかかられた時のエリスの足の感触は?」

「細くしなやかでとてもいいものだった」


「この変態!!」

「脚フェチの上にロリコンて、レベルが高いおじさんよね」


「できればお兄さんて呼んでくれよ。オジサン手のは精神的に来るんだ」


「ねえ、聞きました。この人おにいちゃんて呼んでくれって、一体どこまで変態なんでしょう」

「この耳でしっかりと聞いたよ。救いようがない変質者じゃない」


「なあ、俺をいじめて楽しいかよ」


 心底困ったラムスに対して雪子とヒルダは笑いあった。


「「もちろん」」


「なんだよ、お前ら性格が悪すぎるだろ」


性癖が暴露されラムスは涙目になっていた。

それを誤魔化す意味もかねて、本題を口にした。


「ティラと雪子。大神官様がお呼びだ。俺について来いよ」


「分かったぜ」


 怪しい誘いをティラは即答した。


『ちょ、待ってよ』 雪子が静止をかける間もなく、ずんずんと進んでいった。


仕方なく、雪子はとことことついていく。


移動のさなか、周囲の景色を雪子は覚えていった。

ここにいる連中は信用できない。

いざとなれば逃走もありえる。


なので、地理情報は黄金にも等しい価値があった。


『山賊、いや、元は軍人、亡命政権か。

街自体は普通ね。もっとこう、隠れ家だから忍者の隠れ里的な物を想像してたけど』


 わずかな落胆があった。

 ここは日本であったのならばまた違ったと彼女は思ったほどだ。

無論そんなことはないが……。


見たところ山の小さなくぼみに建てられており、周囲には多くの障害物がある。

短時間での逃走は厳しそうだ。


 家々を囲む柵がやたらと堅牢で、物見やぐらすらあった。

軒先には武器が無造作に並べられ、非常時には容赦なくふるわれるだろう


 この監視をどうやって潜り抜けるか。


必死に思考を回していると、ラムスの足が止まった。

 

『まるで神社みたいね』

 外観は全く違う。

共通点を探し出す方が難しいくらいだ。

 だが、空気だ。空気が似ていた。

厳かな、それこそ神聖さというべき、身が引き締まるような雰囲気を目の前の建物は放っていた。


「お前らのボスがここにいるのか」

「そうだ」

「なら挨拶回りだ!」


 大きな声で元気よく。

 ティラは突っ込んでいった。


 幾らなんでも失礼ではと雪子は思ったが、現状この中にいる人物、大神官が敵でしかないことを思い出した。

 多少の無礼は問題ないだろう。

 むしろ問題は……。


「これが多少の無礼かどうかね」

「何か言った」


「いいえ、なにも」


 ロリコン脚フェチを無視して、扉の前で失礼しますと一言。

反射的にお辞儀をしてしまうあたり律儀だった。



 外から見たら、ちょっと立派な家程度だったが内装は絢爛豪華。

何より調度品が良い。

 黄金とまばゆい宝石で彩られた装飾品に、研磨に研磨を重ねられた気品ある(アヌビス)

 墓所から壁ごとかっさらってきたと思われる宗教画。


 どれもこれもが、博物館に飾れば目玉となることだろう。


その中でも、宗教画に雪子は引き付けられた。


「死、蛇、戦い、再生、審判、後何これ」


 優しくなでながら、イメージを口にする。

 なにが書かれているのかさっぱりだが、鮮明なイメージが伝わってきた。

しかし、例外もあった。


『一言で説明するなら、不審者ね』

 手を止めた絵は、白いローブで全身を包み込んだ変人の絵だった。

 知り合いにも、似たような恰好をした人物(エリス)がいるが、同一視するのは流石にかわいそうだ。


「それは死者の書じゃよ。ファラオの死後の世界への旅立ちを助けるための書物じゃ」


 突然かけられた声に雪子はのけぞった。

 老人の後ろではティラが菓子を食べていた。

 どうやら食べ物で籠絡(ろうらく)されたらしい。


「あなたが大神官。ここの頭ね」


 見た感じは温厚なおじいちゃんだ。

 寄る年波に負け、毛髪は白く染まり、顔には多くのしわが刻まれていた。

 だというのに、背筋は真っ直ぐで、目は意思の強さというか、決意というかある種の生命力がみなぎっていた。


「おい雪子。この爺さんいいやつだ。食い物暮れたぞ」


『安い男』

 ―――食べ物で買春されんなと言ってやりたくなった。

 だが、それは後回し。


 見極めなければならない。

 この老人が正義か悪かを。



暗黒のファラオの残虐性を見た。

まぎれもなくやつは悪だ。


 故に、大神官たちには正義がある。

問題は彼らが邪悪の敵であるのか、正義の味方であるのかだ。


 雪子は彼らの行動を思い返した。

ドライたちをだまし討ち、自分たちも無理やり連れてこられた。

これが正義の行いだろうか


自然と表情が硬くなっていく。


「雪子は難しく考えすぎなんだ。

自分の恥部を言いたくないが俺は考えんのが苦手だ。

だがよ、選択肢二つしかねえんだよ」


その迷いをティラは一蹴する。

彼らがとるべき道は二つに一つ、シャリイファか大神官か。

どちらに味方するかだ。


好感度でいえばシャリイファ。

胡散臭さは同じくらい。

心強さはどうだろう……。


 ―――間違いたくない。そんな当たり前の感情が雪子の決断を遅くした。


 差し出された椅子に座り、警戒心を解いたように見せかけるが、態度とは裏腹に、心の壁はより厚くなった。


「俺は勝ちたい、だからこっちにつくんだ」

「今更、動機を言われても……、困るよ」


 てっきり、ティラが大神官と仲良くしてるのは食べ物につられたからだと思っていた。


『そこまで単純な人間いるわけないじゃない』

 最近、ナポレオンに食べ物につられてなついたことを完全に棚上げしつつそう思った。


 しかし、彼にはもっと深い理由があった。


「このままだと負ける

俺の感だと一手足りねえんだ」

「一手足りない? 私たちとエリスたちの間にそこまでの差があるって」


 知能面では向こうが、戦闘能力ではこちらが優勢だ。

 どうして負けると判断したか雪子には分からなかった。


「あいつらはモンスターを問題なく倒せた。

あれがボス以外のここの平均だ。あれじゃあ手こずることはないぜ。

ダンジョンの難易度によっては違っただろうが、ここでは同じルートを歩んでも勝筋は無いんだ。

 俺は誰にも負けたくない、だから、こいつに協力することを決めた」


 雪子は失敗しないことを重視したが、ティラは勝つことを重視した。

 どこまでも真剣に、大胆に、そして自分勝手に勝利を追求していた。

 故に、勝てないことを悟った。


 一方で、勝ち目はあると雪子は考えていた。


 全てのチームを見た。

 戦闘力なら自チームが最強だ。

 しかし、ダンジョンが持つ絶対値を考えれば強さを生かしきれない。

 自チームが一分でモンスターを蹴散らせても、向こうが一分三十秒殲滅できたなら、違いは三十秒だ。


 誤差でしかない、それにティラは気づいた。

 

雪子は思い知った。

 ティラが勝利を目指していることを。

 だからこそ、彼女は決断を下した。


「爺さん、頼みがある。

牢にいる連中。短い時間とはいえ、仲間なんだ。

あいつらに手を出すな」


『まったく、こいつは単純ね』

 バカが突っ走る道に渋々ついていくことを。


 

「いくつかの条件があるぞい」


 底知れない笑みで大神官は応じる。


「第一に、お前さんらの全面的な協力。

 第二に、牢の中のやつらが暴れださないこと。抵抗したなら穏便に事を終わらせるのは無理じゃしな」


「フン? 味方に付くように説得するんじゃないの。やってもいいけど」

「味方の勧誘は自分自身でやる。基本じゃぞい。

 お主らは暴れるなと言ってくれればよい」



 何となしに気持ち悪さを感じたが、杞憂らしい。



「最後に、現在逃亡中のお主らの仲間の情報が欲しい。こちらは捕まえてもよいぞい」


『嫌な爺だ』


 自分の無茶ふりを自覚しているがためにティラは口に出さなかったが、大神官への不信度を跳ね上げた。


「残念だが、行きずりの関係で対した情報はねえぞ」

「だったら、アリスとヒルダに聞いたほうがいいよ。大和は一応身内だけど、今はエリスの指示に従っているんじゃない。きっと、有意義な情報を教えてくれるよ」


 ティラと雪子は横目で互いを見た。

 情報を渡すつもりのない彼と、仲間の価値を証明させて安全を確保しようとした雪子。

 両者の思惑がかみ合わなかった。


「ならば、もう良い。

 シャリイファはわしの弟子じゃ。どんな手を使うのかは想像できるぞい」

要求が断られた以上、埋め合わせをしてもらうぞい」


 断られることは想定済みだったのだろう。

 悪戯が成功した時のようにカカと笑った。


「こっちは檻の中のやつらに手を出すなってだけだぞ。要求は一つだけだ」

「よね。こっちも新しい要求してフェアじゃない」


 首根っこを押さえられてはたまらないと二人は反論する。


「そうかの? 敵対したことを不問とする。

次に、お前さんらの解放。

最後にお前さんらの要求。

三つの貸しがあると思うぞい」


「ちょ……」


 雪子は何かを言いかけて止めた。

『口では勝てそうにない』 と、悟った。


「されで、“最後”の要件は何。多少無茶な条件でもやってやろうってのよ」

「そうじゃの。では保留で」


 雪子の表情がちょっと人には見せられない感じに歪んだ。


「条件の後付けなんて受け入れられない!!」

「ん? お前さんらは儂たちに三つ貸しがあると認めたばかりじゃろうて」


『会話を誘導されてたようね!』

 後悔したがもう遅い。


 雪子の手に握られていた菓子が無残にもつぶれた。


「まったく、つい先ほど行商人から仕入れたばかりじゃというのに」


『あんたらのせいよ』

 大神官の言うことは至極もっともだが、謝る気にはなれなかった



「そもそもの話だ、なんで、俺たちにこだわるんだ」


 どうしてここまで自分たちを優遇するのか、ティラは疑問を抱いた。


「簡単な話じゃ。予言があったのだ」

「予言だ?」

「神官の中には稀にいるのじゃよ。信託の中にお前さんらの存在があったんじゃ。

 ネフレン=カを殺すためにはお前さんたちの協力が必要不可欠じゃとな」


『ゲームにはありがちの設定ね』

 ついでにご都合主義だとも。

 しかし、確固たる理由があってこちらを優遇していることが分かっただけでも進展だ。


「預言によると、お前さんらは栄光と破滅そのどちらかを運んでくるそうじゃ」

「自分に味方する俺たちを栄光を運ぶもの、シャリイファに味方した人物を破滅をもたらすものと定義したわけだ。単純だな。

だが、俺もファラオの悪逆を見た。できるだけのことはしてやるぜ」


『勝手に話を……』

 また、相談もなく話を進められた。

 話し合ったとしても消去法でこの結論になっただろうが。

 なので、弁慶の泣き所に鋭い蹴りを入れるだけで雪子はティラを許した。


 流石に、この煮ても焼いても食えそうにない老人を相手に腹の探り合いをする気になれなかった雪子は事務的な話に終始していく。


 作戦内容は、シャリイファのミイラが聖域に安置されないように妨害と共に、暗黒のファラオを打つためにピラミッドまでとんぼ返り。


 これまでの苦労は何だったんだとも思ってしまうが、終わったことだ。


「それでは、私たちはこれで」


 部屋のがらくた類に興味津々といったティラの首根っこをつかんで家から一歩出た。


 屋敷の外でずっと待っていたラムスが二人を先導し新たな屋敷に案内された。

 恭順の意を示したので、優遇しようという魂胆だろう。


 外見のせいで男女別々でないことが不満ではあったが、それ以外に関しては問題ない。


 激動の一日を過ごしたからか、これ以上動く気にもなれず、それからは屋敷でグータラ過ごした。

 異変が起きたのは黄昏時。


 夕食を食べていた時だ。


「揺れ? 地震か」


「いや、助太刀にござる」




ここだけの話、最後の所で出た瞬間に騒動を起こすか、一端間を置いて騒動を起こすかで迷いました。

前に書いたやつだと結構難易度下がるんですが。

どうして難易度が上がるかの伏線はこの話で振っています。

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