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水浴び


「……ヒャッ、つ、つめたい、つめたいです。それに……ふ、服が浮き出て恥ずかしいです」


「確かに、ちょっとエロいわね」


 水につかったせいかヒルダさんの蕾のような肢体が服の上からでもくっきりと確認できた。


「ど、どうして……こんな恥ずかしいことを……。ぜ、全身がべとべとして気持ち悪いです」


 総意って内股をもじもじさせる姿は非常にいじらしかった。


「やっぱり全裸でやったほうが良かったんじゃないの」


「だ、ダメです。い、幾ら同性といっても…………そんな恥ずかしいこと」


 羞恥に悶えるヒルダさん。

私のアリスの目が欲情からギラリと光った。


「良いではないか、良いではないかぁ~」

「ここは裸の付き合いをしましょう。大丈夫私たち女の子同士だから」


両者ともに指をウキウキとくねらせ白い柔肌が透けて見える少女へと飛びかかった。

 傍から見て、私たちの行動は変質者以外の何物でもなかった。


「い、いやぁ~、誰か、誰かぁ! 助けてください。このままだと犯されてしまいます!」


虚空へとのばされた腕はどこかに届くことはなく、やがて諦めたのでしょう。助けを呼ぶ気力も失い、幼女二人にされるがままにされてしまった。


「く、殺せ。こんな辱めを受けるくらいならば死を選ぶ」


「死なないでよ。なんで単なる水浴びでそんな悲壮な覚悟を決めちゃうのよ!!」


 ヒルダさんが奇妙な声を挙げていたせいで誤解されたかもしれないが、今やっているのはただの水浴びだ。

やましい所など一切存在しないのだ。

ドン!!


ヒルダさんの体調不良は外の気温に対処するために魔力を使いすぎたから起こった。

だったら体を冷やせということで、遺跡の地下の湧水で水浴びをしようという話になった。


問題となったのが、一番水浴びが必要なヒルダさんの貞操観念だ。

シスターをはじめとした聖職者は身の潔癖性を求められるという。

彼女もその例に一切漏れることはなく、身持ちが硬かった。

女同士なのに服を脱ぐのを拒んだのだ。

気持ちはわかるのだが、正直めんどくさかった!


「……はぁ、はぁ……ひどいです」


 けど、一つだけ言わせてほしいわ。

 頬を上気させ上目使いでこちらをにらんでくる女の子を可愛いと思うのは間違いではなかったと!

 なんて素敵なのよ!


 写真に残したい。

クソ、どうしてカメラを買っておかなかった!



そんな後悔は一端おいといて、水浴びを終えた後はエネルギー補給に適した非常食。チョコレートや飴。ついでに缶詰をついばんでいるとヒルダさんの顔色は良くなってきた。


途中がっつきすぎてはいたのは皆が見なかったことにした。

突っ込んでもいいことなんて何一つないしね。


「体調はどうかしら。正直体温や脈拍を測りたいところだけど、そんな気が利いたものないしね」


「だいぶましになりました。バッタみたいに飛んだり跳ねたりはできませんが、アリのようにせっせと働くことはできそうです」


「運動は無理だけど日常生活はどうにかってことかしら。

 正直言うと、さっさとここから出たいんだけど、その前にいくつか解決しときたいことがあるわね。

 ズバリ、ログアウト不可の条件てなんだと思う。

 これが分からない限り作戦なんかたてられないしね。

 あ! そうそう、今ログアウト出来るわよね」


「できます。

 そうですね、考えられるとすれば体温、脈拍……精神状態ですね」


 思いついた順に言っているのだろう。

 確証はないがやってみよう。


「走るのは好きかしら、アリス」


「ヘッ!!」


 こうして私たちはランニングをすることになった。


「な、何でアリスがこんなことしないといけないのよ」


「ごめんごめん。一人でも多くのデータが欲しくてね」


同じ時間走っても種族差が出たのか私は軽く頬を上気させた時、アリスは息切れしていた。


この状態でログアウトを試してもらうと当然不可。

 私は可能。


「これはログアウトの条件って脈拍説が有力だね、他にも血圧だとか発刊だとかが関係しているかもしれないけど。

 わるいけど、ログアウトボタンを押し続けて、可能になった時の脈拍を記憶してくれないかしら」


「あの、そもそも私時計持っていないんだけど、impossibleだよ」


「あっ!」


 そういえば時計も買っていなかった。


 そういった次第で脈拍でのログアウト不可実験をするのは次回のログイン時となったのだが、そこで判明したのは個人によってログアウト時の脈拍が異なっていたことだ。

 もしかしたら各種族ごとに異なるのかもしれないが。

 血圧説も、各人の脈拍が一定数以上の数値をたたき出した時にログアウト不能となったために否定された。



「後、これを暗記しておいて」


 渡したのは魔道書だ。

 といっても、前世で見聞きした詩歌が書かれたものにすぎないが。

 この世界では前の世界での歌が魔法の発動媒体となっているのよ。


「そう言えば魔道書を購入していましたね」

「え! 魔法。 すごい! わたしが魔法を使えるようになるの」


 魔法というフレーズは甘い蜜のように人を引き付ける魅力があるらしく、普段冷静そのもののヒルダさんもワクワクを隠しきれていなかった。


「好きなページを破いて持っていってね。

一ページにつき一つの呪文って形式になっているみたいだから」


「そのいいんですか。破いてしまって」


「汚さなかったり、クシャクシャにしなければいいわ。

 こんな品物よりもあなたたちが成長してくれる方がうれしいしね」


 当初から破いてもいいと考えていたのは黙っておこう。

 この書物は非常に高価だ。

ポイント消費のほとんどがこれに起因するくらいには。

どうすればポイントを回収できるかと考えた結果、最終的には貸し出しをするつもりだ。その時、現在のABC、あいうえお順では不便なので魔法が持つ効果順に並び替える予定なので破ることに関しては躊躇する理由がなかった。

 遅いか速いかの違いだ。


「いいの、やたぁ~!」

「大丈夫なんですか」


 心配しなくてもいいのに。


「後で弁償だとか、やっぱり新品にして返せだとか、与えた分の対価を返せと言って無理難題を吹かけたりとかないですよね」


「ないから、単なる考えすぎだよ」


「ほんとう?」


「実はねずみ講だとかで、千切り取ったページを一定額以上で売りさばかないとペナルティーがあるとかは……」


「ないから、考えすぎだよ!

 あなたはどれだけ疑り深いのよ」


 こいつ、絶対昔悪徳商法にだまされた経験があるわ。


「あと、あと。ここから出て集合する時に一人だけ取り残されたり、外に出たときに……」


「ねえ、あなたたち、私のことを便利な相談役かなんかだと考えてないかしら」


 会話の流れが日常生活の不安にまで飛び火した。


「「ないから、単なる考えすぎよ(です)」」


「腹立つ、私の自意識過剰だってことは十分理解してるけど、なんか腹立つ!」


 こいつら、私をからかって楽しんでるわ!



「それじゃあ、これでお別れだね。私は危険がないか点検してから出るわ」


 二人は異論をはさまなかった。


「それじゃあ、また会いましょう」

「さようなら」


 二人がいなくなると、遺跡の入口へと向かう。

 他チームに給水場を使わせるわけにはいかないのだ。

 扉が閉まっているカバーストーリーは砂嵐がこちらに迫ってきたでいいかしら。


 扉を閉め、ログアウト。

 そこで必要なのがアイテム整理。


 本音を言うと、手に入れたアイテムを自由に外に持ち出したいのだが。きっと、拳銃をはじめとしたオーパーツの影響だね。

 見る目がある人物が見たら社会そのものが変化するかもしれないし。

 故に、特定の品物の持ち出しには多くのポイントが必要だ。

 

 検閲というか、アイテムの持ち出し制限もその一環だろう。

 もっとも、必要なものは食料と衣服、あと数冊の本くらいなので、検閲に引っかかるものなどないので無意味な心配だ。



「ぶっちゃけ帰りたくないわね」


 24時間ここで過ごそうかしら。

 はたして、たまにエンカントするであろうと魔物と追跡してくるであろう人間、どちらの危険度の方が高いのかしら。


「仕方ない、帰りましょう」


 たっぷり30秒。

 考えた末に沿う選択した。


 どちらも不確定要素が多すぎるのが一つ。

 一応帰ると二人に宣言してしまったのがもう一つの理由だ。


 意地張ったことに少し後悔してるけどね。




 

 私は今、エリスに分けてもらった穀物を自分が住んでいる教会の玄関にこっそりとおいています。

義賊みたいに。

 もっとも、犯罪行為なんて一切行っていませんが。


 それどころか、自身の持ち物を一切の私心を捨ててみんなに平等に分け与えています。


 願わくば、この穏やかな日常がこれからも続きますように。


 おっ! 夜食用のチョコバーの破片が袋の上に!


 キリスト教でも、今私が信仰しているユースティティア様の教義でも暴食は大罪。

つまり、チョコバーのような誘惑を皆に教えないのはベルゼブブの誘惑から皆を守るうえでとっても重要だわ。

なので、隠し持っている分を他のみんなに教えられません。


しかし、暴食に囚われない食事というものは日々を生きる糧になる、パンと葡萄酒は救世主そのものだから。


 分けてもらった食料は質素な暮らしならば、一週間は持ちますね。


 それを気前よく、平等公平に放出することには快感すら感じてしまいます。



 とはいっても、全校には時として代償が付きまといます。

ソロリ、ソロリと足を進めます。


 ごめんなさい、シスター、急にいなくなったりして。


 広間には40を過ぎたおばちゃんがねむっています。

 きっと、一向に帰らない私を待っていたのでしょう。


 ここではろうそくも薪も貴重な資源。

 身体能力の高さから夜目が聞く私なら大丈夫だが、そうでない彼女には夜更かしするという行為もさぞ大変だったでしょう。


 ごめんなさい。


 書置きくらい残しておけばよかったわ。

 失敗です。


 ダンジョンに向かわないという選択肢はないけれど。

 皆の食料を確保するのに必要不可欠ですし。


 どうすればシスターに心配をかけずに長時間外出できるのでしょう。

 長期間外に出ていても怪しまれない仕事はないですかねぇ。

 もっとも、仕事を代行してくれる相棒が必要ですが。

はぁ。


 とりあえず、今日はいつの間にか紛れ込んで、見逃していただけなのでは作戦に出ましょう。

それとも帰れなかったのは迷子作戦がいいでしょうか。


分かっています。これは単なる問題の先延ばしだと。


 きっと、シスターを起こすのが正解でしょうが、起こられるのが怖い。

それに施しに感づかれれば面白くありません。

 

 ゆえの忍び歩きなのですが、その涙ぐましい努力もすぎに終わってしまいます。


「ニャ~」


 足元に感じた柔らかい感触。

すり寄ってきた小さな生き物に私は動きを止めざるを得ません。

畜生!


「こんな所でこんな時間に何をしているの」


 この後、私はシスターにこっぴどく叱られました。




 ここは学校。

 前世の牢獄のような思い出を感じてしまい、あまりここが好きになれない。


 ここは学術の街であり、暴力の街。

 狂気と理性。

 文明と魔法が高度に融合を果たした常人には理解しがたい無謀の神が作ったと言われる箱庭。


 わたしは目をつむる。

 ここには見たくもないもがあまりにも多すぎるから。


 テクテクと路地を歩いていくと悲鳴のようなものが聞こえるの。

 一度誰かに悲鳴のことを聞いたけど、知らないと答えてくれたね。


 それが嘘か本当か私にはわからない。


 堂々と大道りで黒い獣が人を襲うところを見たことがあるんだけど、襲われたほうは食われる瞬間まで何が起きたのかを理解していなかったから。


 認識疎外の力が働いていて、わたしがそれに対する抵抗力を持っているから見えただけなのかな。


 ここにはすべてがそろっている、食料も住処もお金も。

 けれど、それ以上の、もっと大切な、そう、真実というか真理というか人間の根幹にあるであろう正義というべき指標が狂っているの。


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