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閑話 別離と恋愛悲劇

まだ閑話は続きます。

 シアノは話を聞いてほしいとお願いした。

 その表情があまりにも真剣なものだからエリンは素直に頷いた。


「なあ、エリン。知ってたか、俺には夢があるんだ」


 シアノはエリンの両腕を握りしめる。


「えっ、何、何。一体どうしちゃったのシアノ」


 エリンは困惑した。

手を放してもらおうとするが、想像以上に強く握られていてできない。

 

「お前はこの国の状況をどう思う。

 この国が正統教会の奴らに占領されたのは、俺らの曽お爺さんの時代だったそうだ。

 それ以来、俺たち正当教会は、奴らの風下に立ってきたんだ」


 そこでシアノはいったん言葉を止めた。

 口に出した宣誓に一切の偽りはない。

 彼が常日頃から感じていた怒りだ。真実以外の何物でもありはしないが、

 

 『この場で語るべきことじゃないな』

 

 ―――エリンにはもっと大切なことを伝えたいのだ。


「理由の一つなんだけど違う。

 さっきとは全く違うことを話すんだがあきれずに聞いてくれよ。

 なぁ、エリン。知っているだろう、俺が体動かすの好きな事」


「ええ、当り前じゃない。そのせいで鬼ごっこの時、何度も、何度も煮え湯を飲まされたわ」


 エリンはふくれっ面で不機嫌ですアピール。

 それが可愛らしくて、気が付いたら頭を優しくなでていた。


 さっきまで戸惑い、手が解かれれば即刻逃げ出そうとしていたのが嘘のように、エリンは何かを期待して目の前の男性を見つめる。


「不思議な物だな。昔はエリンのほうが背が高かったていうのに、今では追い抜いた」


「それはそうでしょうね。あなたは男の子なんだし」


「ああ、そうだろうね。俺も男だ、きっと、身長は伸びるだろう」


「身長自慢がしたいわけ」


 エリンの表情が不機嫌そうなふくれっ面から、能面のような表情に変わった。


「子供のころ、正直言って俺は君を女の子だって意識していなかったな」


「おい、ケンカ売っているなら買うわ」


 エリンはシュッシュッと拳をふるう。

 期限が低下しすぎて一発触発の状態だ。

 失礼なこと言ったら殴るという無言の圧力とこれ以上エリンを苛立たせると話が進められなくなるとの判断からシアノは本題を切り出すことにした。

 

「聞いてくれエリン。俺は騎士になるって決めたんだ。

 俺も男だ。きっと、これからも大きくなる。

 体だけじゃない心も君よりも大きくなる、いやなって見せる。

だから、俺に君を守れせてくれ」


「えっ、それって!?」

 ―――どういう意味なの。

 問いかけは、口付けによって遮られた。


「こういうことだよ、エリン。

 俺と結婚してくれないかな」


エリンの顔は夕焼けのように真っ赤に染まる。

両手をあたふたと動かし何かを言いかけては口をつぐみそれを三度繰り返すと背を向け走り出そうとするがシックに腕をつかまれ逃走は失敗に終わる。

「エリン、まだ答えを聞いていないよ」

「いやいやいや、ちょっとちょっとちょっと待ってください。えっえっえっ、あなた私のことが好きだったの。ごめん今まで気が付かなかったわ。というか本気なの、本気で本気。私なんて作者が初はめ設定だけで登場キャラの回想だけで登場する予定だったけど登場キャラの関係性を補強するのに都合よかったから描写された薄幸系天然ドS美少女なの……」


「エリン、幾らなんでも自分自身に属性つけ過ぎだぞ。料理でトッピングを好きかって頼んだとしても味が混とんとして旨いとは限らないだろ。

 だからお前も属性を少しずつでも減らして……」


 続きは綺麗なアッパーカットによって遮られた。

 そのあまりにもな展開にシアノは打ちひしがれるが、エリンはかえって


「本当に驚いたわ。でもおかげで落ち着けた。

だから、感謝してるわ」


「おい!」


「でもあなたも悪いのよ。いきなりあんなこと言い出すんですもの。

だから、びっくりしてしまったの」


「おい!」


「まさかかあなたが私に対してそんな感情を……」


「おい!」


 三度目の追及。これには流石のエリンも耐えられなくなった。


「ごめんなさい」


 ついにエリンは自分の非を認めた。


「でも懐かしいね。昔はこんな風に遊んでいたな」


「ええ、そうね。でも時は進んでいく私もあなたも昔とは違うわね。

 だから、補修問題。私へのだけどね。

 もう一度同じことを言って、流石にさっきのように取り乱したままだったらかっこ付かないわ」


 二人の仲を祝福するかのように風が凪ぐ。

 新緑の若葉がざわめき、静かな旋律を紡ぎだす。


 だから、二人は物陰にいた人物に気が付かない。

そして、その人物はプロポーズの続きを聞くことがなかった。


「俺と結婚してくれないか、エリン」


「喜んで。ただし、お父さんへの説得はあなたがやってね。

 私そういうチマチマとした行動好きじゃないの」


「ああ、はじめっから君にはそんなこと期待していないからな」


 そして二人の唇がまた触れ合った。

 幸福、そういった感情が胸の内から湧き上がり次の瞬間には苦い、辛苦に満ちた痛みが走る。


「いつも考えていたのよ、結婚するならシアノかシックそのどちらかだって」


 感じていた負い目が表面化していく。

 シアノはシックに何も言わずここに来た。

彼もエリンを愛していると知っていたのに。

 

 シアノの心に針に刺されたような痛みが走った。



 結論から言おう。


「ヘタレ。このヘタレが」


 ありとあらゆる罵詈雑言(バリゾウゴン)がシアノに繰り出されていた。

 その怨念、気が弱い人物ならば精神的に参ってしまっただろう。


シアノはエリンの父、アイザックの説得に失敗した。


 無論、説得は一度や二度ではない。

 最後の方には迷いを振り切ってエリン自身が父の説得に当たったほどだ。

 なのに、アイザックは首を縦に振らなかった。


 そんなこんなで無為に時間を費やしているうちに出発の日がきた。

 

祝いの場だというのにシアノは一言も言葉を発さなかった。

 正当な恨み言を黙って聞く。


 エリンの『父だってわかってくれるはずだわ』という必死の呼びかけもむなしく、自信の夢に向かって前に進むことを選んだ。


 シアノはどうしてもシックを出し抜いたという罪悪感を拭い去ることができなかったのだ。

 だから、強引に迫ることもできなかった―――


『いや違うな』


 その言い訳をシアノ自身が否定した。


『俺はあの言葉、結婚するなら俺かシックそのどちらかに決めていたって言葉があったからこそ動けなかったんだ』

 

 自分自身の親友が同じ女を好いていた。

 これ自体使い古された恋愛悲劇の一環だ。

 しかし、シアノは一つ大きな勘違いをしていた。


 エリンだってバカじゃないってことを。

 

知っていたのだ、ずっと前から。

二人の男の子が自分のことを愛しているのを。

 そのことに負い目を感じていたのだ。


 どちらかの思いを受け入れれば片方を裏切ったことになる。だから、彼かシックどちらかと結婚すると決めていたと言った。が、本心では違った。


『本当はうれしかったの。

 私ね、シアノを愛していたから。

本当は、一緒に行きたかった。

 でも、シアノは一歩踏み出してくれなかったわ』

 

『無理やりにでもシアノの後をついて行ってやろうかとも思った』


 けれど、エリンには父がいた。

 母を失って以来、老け込んでこんな田舎町に隠遁した父が。

 見捨てられなかった。


『付いて行きたい、けど、父を一人にはできないわ』

結局、彼女もまた現実に押し流されたのだ。


『シアノは夢を追って、私は現実から一歩も出るつもりはない。だから、この失恋は必然だわ。

 だから、悲しくなんて……ない!』


 少なくともこの二人の間ではこの考察は正しかった。

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