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三つの部屋の謎を暴け


「ここがダンジョンのようだね」


 周囲を見渡すと、そこは全面真っ白の真四角の部屋があった。

てっきり、古代の遺跡や人を惑わせる迷宮に行くと考えていたので意外だった。

 こうなってくると、どこからモンスターに襲われても問題ないように身構えているアリスと同じく戦闘を想定していた自分が恥ずかしくなってきた。

 

事前に近場にいたアリスやヒルダだけではなく他の全員がここにいることを考えるならば、何らかの手段でここから脱出するか、壁から扉が開かれそこを探索するというスタイルだろう。


 100人規模の人数がいるので狭いと感じるが、恐らくは一時的なものだし我慢しよう。



 そんな中で、相も変わらず師匠は台の上に立って私たちに声をかけた。


「これよりダンジョン攻略スタートだ。心してかかれよ。

 まずは、そうだな。

 ホルダーカードのミッション欄を見ろ。

 お前らに対して出された指令と、部屋の移動、そしてこの部屋を脱出するための解答欄が存在する。

 回答に間違ったらどうなるかっつう、負け犬に対する気休めなんざしねぇから、心してかかれ」


 それっきり師匠は黙り込んだ。

 これで説明は終わりのようだ。


「オープン」

 

 カードを出すと確かにあった。

 横を見ると二人ともが確認していた。


「それは有と虚のはざま。三つの部屋が生み出す比の先にホルスの右目が待つ。

 正しき道を経て、三つの光の中心を超えろ……。何ですかこれ?」


 そこにはヒルダさんが呼んでくれたような謎の文面と……。


「あれ、アリスは!!」


 気が付けば彼女は消えていた。



 ……え!!


 なにが起きた。

 もしや、ペナルティーがなんなのか分からないのにさっさと回答ボタンを押したのかしら!!

 それだと、もうお手上げなんだけど。


「アリス消えたよね」

「アリスさん消えましたね」


「どうしましょう」

「さて、どうしましょうか」


私の問いにヒルダさんはオウムのように同じ回答を返してくれた。

つまり、何も分かっていないということだ。


「て、まずいじゃん!!」


思わず、一人乗り突っ込みをしてしまあう程度には私は焦っていた。

もっとも……


「グエッ!!」


という、蛙のような悲鳴と……。


「ちょっとエリス、いきなり何するのよ!!」


という、消えたと思っていたアリスが、怒れるアリスとなって再登場したことにさらに混乱してしまったことは予想だにもしていなかった。


「い、一体どこに行ってたのよ」


「ほら、説明の時に他の部屋に行く方法を説明していたでしょう。それを使ったのよ」


「ああ、あれですか。

 そういった話をしていましたね。

 どうですか見て回るというのは」


「アリスが見て回ったし、それよりもどうするかの確認が優先だね。

 一応聞いておきますが、この部屋と違いはあったのかしら」


「せいぜいが大きさぐらいだよ」


「確か三つの部屋が生み出す比って言ってたわね」


「となると、部屋の大きさの違いが答えかも知れません。やはり見て回るべきでは」


「部屋の大きさはここが最大で、大中小って感じだよ」


「そうなると、先に部屋の様子を確認するのはどうですか。

具体的な部屋の様子が分からないことには話が進みません」


「先に問題文よ。

どこに注目するかを明確にしましょう。

それにアリスがぱぱっと確認したし、仲間なんだからそれぐらいの信用はしないとね」


「「エリス(さん)がそういうのなら」」


奇しくも、二人の言葉は全く同じものだった。

 だというのに、どうしようもない違和感を私は感じていた。


 でも、気のせいよね。

 手に持った鉛筆をくるりと回し(本当はシャープペンにしたかったが高かったので鉛筆にした)を指の先でくるりと回し、パッと思いついた問題点を書いていく。



1、有と虚のはざま

2、三つの部屋が生み出す比

3、ホルスの右目

4、三つの光の中心を超えろ


「これが問題文に関する謎。この他にも」



5、なぜ三つも部屋があるのか

6、部屋の大きさの違い

7、解答欄の選択肢


「すいませんが七はどういった意味ですか」


「ミッション欄をよく見てよ。いくつかの選択肢があるでしょ」


 ヒルダさんは慌ててホルダーカードを凝視して、自分の見落としを見つけたようだ。


「確かにありますね。

 35 5√3 74 -45 4分の3 3.94…… 3π 4x 4g 12㎡。

 点でバラバラですね」


「そうよね。まあ、答えに何らかの統一感があればそれはそれで何か裏があるんじゃと思って怖いけどね。

 とりあえず、ここにある中で意味が分かるものあるかしら」


「無論だエリス。

 ありとあらゆる真理を解き明かす我が眼にかかればこの程度のこと造作もない。

 ホルスとは古代エジプトにおいて崇められし神。

ハヤブサの頭を持ち天空をつかさどるという。

 神の存在を矮小な人間が理解しきれぬ故にさまざまな説が存在するが、太陽神ラーの息子と言われているのが有力だ。

 その左目は月を」


「成る程、右目は太陽を象徴しているわけだね」

 

だが、この部屋のどこに太陽に関する謎が隠されているのだ。


「次に、これはあくまで推測ですが、三つの比の先というのは、この部屋ではないですか」


「私もそう思うわ。

 数が共通しているしね。そうなると、部屋の大きさを調べる必要があるわね」


「エリス、メジャーとか持っていないの。

 最悪歩幅で調べることが出来ると思うけど、不確実だし、やっぱり測るものが欲しいよ」


「持っていないわ。

 そうなると、ボタンを押して部屋を見て回りましょう。

 大きさを調べるのは、ヒルダさんにお願いしてもいいかしら。

 一番足長いし、几帳面そうだしね」


「誰かがやらなければならないことですし、構いません」


「私たちは私たちで周囲の様子を見ているわ。

 私たちと同じような観点でこの部屋を調査している人や、チームを作って本気でこのダンジョンを攻略しようとする人たちを。

慎重に協議しているところは○として、帰れないとわかっているのに謎解きよりもとりあえずの突撃をやらかしている組は除外だね。

 ついでに一人を突撃させて様子見を行うところも×だね。

 少ない人数でやっていくんだから協調性がない人はどんどん落としていきましょう。

 覚えていくべき組は、アリスちゃん答えて」


「エッ!! 私!! どんな組を採用するのか決めているならさっさと教えてくれればいいじゃない」


「何言ってるの? あなたも私たちのチームでしょ。あなたが仲間に加えたい人物を答えればいいのよ」


「あ!! そういう質問だったの。ならとりあえず、派手でかっこいい能力を持った人」


 難しい注文は無理そうだ。だったら、自由気ままに気に入った勢力を報告してくれればいいわ。


「どうんな人材を呼び込むかは好きにしていいわ。

これからどうしていくかに関してはあなたが考えたのですから」


「アリスに中に注文はないのかしら」


「なにも」


 最終確認を終えると、私たちはそれぞれに割り振られた役目を果たすべく思い思いの行動をとっていった。

 ヒルダさんは部屋の大きさを計測するために部屋の角から角を進み、アリスは他の勢力に話しかけるものの相手にされず涙目になり、私は時間がないことを察しているので全体を眺めるのに徹した。


 分かったことは当初の予想よりも積極的な行動をしている組が少ないことだ。

 積極的に調査を行っているのは5,6組ぐらいだ。

 その組の構成人数と顔、パッと見た雰囲気をメモに記入した所でヒルダさんがこちらに歩いてきた。

 どうやら、部屋の測量を終えたようだ。

 かかった時間は7,8分ぐらいだから、妥当といえば妥当だろう。


「さてと、アリスを呼びに「エリスに言われた通りに部屋の大きさを調べたわ。

足で調べたからだいたいになるけど、割合は1、1.4、2。

20メートル、28メートル、40メートルです。

 20メートル、40メートルだけだったら、倍になったて法則が見えて楽だったんですが」


「アリスにも説明しないとで二度手間だし合流してから話してくれた方がうれしかったかな」


「あ、ごめんなさい。気が付きませんでした」


 まあ、いいけど。

 それから、別の部屋に飛んだのだが、運の悪いことに行き違い任ったのか3度目に飛んだ部屋でアリスを見つけることになった。


「エ、エリス!! 合流するの速すぎるんじゃないの。今話し込んでいた途中だったのよ。そんなんじゃ情報収集なんて……」


 やっぱり無理だったわね。

 初めから期待なんてしていなかったので構わないけど。


 それから、ヒルダさんから聞いた部屋の大きさについて説明するとメモ用紙を三人の真ん中において推理を再開した。


「さてと、この数式を見て何か分かることはあるかしら?」


 私の問いに二人は無言で首を横に振るうだけだ。


「そうよね。私も分かったことなんてほとんどないわけだし。

 では、何か調べたいこととかないかしら? 

 調査に直接関係ないことでもいいから、やってみたいことでもいいわ」


「そうね、太陽に関すること、もしくはエジプトのファラオに関することでの考察をしましょう」


「三つの部屋の大きさの関係性についてもう少し探るのはどうでしょう」


 アリスが先に反応し、それを無視する形でヒルダが答えた。

 二人は真っ直ぐと私を見ているだけだ。

もう一人に対しては一瞥すらしなかった。


 このチームの問題点はここだね。

 アリスとヒルダさんの間の壁。


「目新しいものではないわね。

 よし、二人でどんなことを探すのか話し合ってね。」

 その間に私は聞き込みをやっておくから」


「「え!!」」


 それだけどビックリした二人に速まったかもと感じてしまった。

 どうか、二人の関係性がうまくいきますようにと神様に……どうしてだろう、急に頭が痛くなってきた。


 まぁ、気にしても仕方ないわね。

 私は後ろに手を振りながらすたすたと歩いて行った。



 どうしよう、気まずい。

 私って、知らない人と話すのが苦手なたちなのよ。それなのに……。


 チラ、……チラ…………チラ。


 一人で淡々と紙に書かれた数式を弄繰り回すヒルダに目を向けること三回。

 向こうから話しかけてくれればいいのにな~、と淡い期待を込めて盗み見ていたんだけど、ばっちりと目が合ってしまったの。


 気まずさからわたしは目をそらしたわ。

 ほんの数秒だし、気が付かれていないはずよね。

 と思ったのだが……。


「ホルスとはエジプトの神という話ですが、それに関する数式はご存じないですか」


「クックック、この我に問いを投げかけるか「あのですね。そのしゃべり方分かりにくいのでやめてくれませんか」


「あ、はい」


 やっぱりこの女苦手だわ。

 そりゃあ、分かりにくいって自覚はあるわ。

 でも、永久凍土みたいに冷え切った眼でバッサリと切り捨てることはないじゃない。


「古代エジプト人、人類の文明の祥地ともいえる四大文明の一つよ。

 エジプトはナイルのたまものとはよく言われているけど、ナイル川の氾濫を巧みに使用した農法を用いたことで大きく栄え、その時代において最も優れた文明を作り上げていったわ」


「そう言った話はよく聞きますね。やっぱり数学の方も進んでいたんですか」


「当たり前よ。

ピラミッドだとかを築き上げるのにどれだけ高度な技術が必要だと思っているのよ」


「それもそうですね」


 あんなにデカイ建物を作れるのだ、技術力なんて語るまでもないわね。


「とはいっても、エジプト数学についてなんか知らないわよ」


「それは私もです。

 というよりも、古代の数学について知っている人物だなんて研究者ぐらいのものです」


 そうよね、知らなくても当然よね。


「まぁ、雑学だとか、都市伝説程度のモノだったら話せるけど、あてにはしないでよ」


「構いません。というか少し見直しました。

 てっきり無鉄砲なだけで何の役にも立たない人物だと思っていたものですから」


「ねえ、言葉の端に一々棘がない」


「気のせいですよ」


 絶対うそよ。

 突っ込んだら話がこじれるからいいけど。


「古代エジプトで数字ということで有名なのはピラミッドよ」


「確かに、色々な謎が隠されているとよく言われますしね」


 まあ、お固そうなこの子だとその程度の知識しかないのか。


「そもそもな話、ピラミッドの建築に様々な数字が隠されていると言われているのはナポレオン、これは師匠ではなくて、フランスの皇帝の方ねが、エジプトへの遠征を行ったのが始まりよ。

 多数の学者を引き連れて古代エジプト文明を徹底的に調査したのよ。

 この時、ピラミッドの中で自分はかのアレクサンドロス大王の生まれ変わりだっていう眉唾物の、明らかに権威づけだろっていう話もあるわ。

 その結果いろいろな説があるわ。

 ピラミッドに円周率が使用されているだとか、形が黄金比だとか、正確の東西南北にもいているだとか、並んでいる形がピタゴラスの三角形になっているとかよ」

「待ってください、今円周率って言いました。確か解答欄にも円周率が」


「本当、もしかして答えに一歩近づいたとか!!」


 今までお堅いとばかり思っていたけど、ヒルダのやつはそんなに嫌なやつではないかもしれないわね。

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